体裁だけでも“民主主義国家”のうちに…

昔、どこかの作家が、「桜の木の下には死体が埋まっている」と書いた。中学生の時に、国語の先生から聞いたのだろうか?それ以来、桜をみると、桜の木の下には何が埋まっているのだろうと想像してしまう。
ABEくんが見ていた桜の木の下には巨大な虚無が埋まっているように思えて仕方がない。その虚無がこの国を飲み込もうとしている。これはミヒャエルエンデの“モモ”からの拝借。
今、目の前には人類文明の危機ともいえる課題が山積していて、まさに政治が問われているというのに、この国の政治は空虚でうつろだ。
政治がやるべきことをやらず、やってはいけないことをやり続け、ことが露見すると、それを糊塗してごまかそうとする。これでは国が亡ぶと考えるのは、チョッと右翼っぽいが、かつての青年将校たちも似たような焦燥の中でクーデターを起こしたのだろう。
いま、蹶起する右翼政治家も、青年将校もいないようだが、その気分は、珍妙な正義感という歪な個々人の心情へと沈殿しているように見える。焦燥の向かうベクトルが、どうにも方角違いで、結局、腐敗したABE権力を利することになっている。
気分は「いまこそ、日本自民よ、蹶起せよ!」だが、「蹶起」しなくても、ABEを倒す方法はイロイロとある。
一応、民主主義国家の看板と体裁だけはとっているのだから…。


熱血!与良政談
逃げ切らせないために=与良正男
2019年12月11日:毎日新聞

 臨時国会が終わってしまった。
 野党が求めた会期の延長を、自民党が拒んだのは、言うまでもなく「桜を見る会」疑惑を早く幕引きしたいからだ。安倍晋三首相も「年が明ければ国民は忘れる」と高をくくっているようである。
 だが、首相を守るため官僚がその場しのぎの説明を繰り返すたびに論理が破綻していく日々を見ていると、実際には、政権は相当ガタがきていると見た方がいい。
 大切なのはこのまま「逃げ切り」をさせないことだ。そのためにどうするか。いくつか考えたい。
 まず私たちマスコミが、なおしつこく報じていくことだ。今回も「野党の追及も手詰まりで、どっちもどっち」と思考停止したような報道がある。国会閉会を受けた安倍首相の記者会見でも、内閣記者会に所属する記者らの質問は、この疑惑に関して二の矢も継げず、全く手ぬるかった。これでは官邸の思うがままだ。
 一方、野党は与党を巻き込む戦略が必要だ。私も個々の議員と話してみると自民、公明党にも安倍首相(妻昭恵氏の行動を含めて)にうんざりしている議員は少なくない。先週も書いたように菅義偉官房長官も首相をかばうのにヘトヘトになっているように見える。
 内閣不信任案も出せば出したで「単なるセレモニー」と言われるのがオチだ。与党から造反者が出ない限り、実際には緊張感のある不信任案とはならない。
 そして、実はこれが一番効き目が大きいのだが、やはり大事なのは世論だ。最近の世論調査ではさすがに安倍内閣の支持率は低下しているが、引き続き下落が続くようだと、間違いなく自民党や公明党議員はあわて出すだろう。
 自分の選挙が危なくなると思えば、首相に何らモノを言えない状況が変わるかもしれない。世論が全てだとは思わないが、よりましな政治にするため、政治家に変化をうながしていくのは国民だ。
 改めて書いておく。今回は税金を使った政府行事を首相らが事実上の選挙活動に利用していた疑いが濃厚な問題だ。税金を払っているのは首相の支持者だけではないのだ。公正さという民主政治の根本が揺らぐ危機的な状況だ。
 長く政治取材をしてきたが、これほど権力の私物化が目立ち、その自覚さえ乏しい内閣は見たことがない。私たちはそれに慣れっこになったり、あきらめたりしていてはいけない。(専門編集委員)



「戦争は地獄の縮図」
 ノーベル平和賞のエチオピア首相
2019年12月10日:朝日新聞

 エチオピアのアビー首相に10日、ノーベル平和賞が贈られた。エリトリアとの国境紛争を終わらせたことが評価された。アビー氏は授賞式で、「戦争を美化し、ロマンチックなものにしようとする人がいるが、戦争は関わる人全員にとって地獄の縮図だ」と演説し、平和の大切さを語った。
 エチオピアでは1998年に始まったエリトリアとの武力衝突で、約10万人が犠牲になった。軍人出身のアビー氏が2018年に首相に就任すると、エリトリアを訪問。イサイアス大統領と約20年ぶりとなる歴史的な会談を実現させ、和平合意を結んだ。エリトリアとジブチの国交正常化や、不安定な情勢が続く南スーダンなどの周辺国の緊張緩和にも取り組んできた。
 ただ、80を超える民族が共存するエチオピアでは、民族間の対立が根深く、政情不安への懸念は深刻だ。内政では難題が山積したままで、政治手腕が未知数な状態での受賞になった形だ。今回の授賞式では、アビー氏側の意向で通例となっている授賞式前日の会見も行われなかった。

アビー氏に「期待してたが」

 エチオピアの首都アディスアベバから北に600キロ以上離れたザランベサ。20年にわたって対立し、緊張関係が続いていた隣国エリトリアとの国境の街だ。
 家畜が道を悠々と歩くのどかな雰囲気だが、民家に交じって崩れかけの建物が残っていた。住民は「エリトリア軍によって破壊された」と言った。
 アビー氏が主導した和平によって、昨年9月に両国の国境の往来が再開された。アビー氏は授賞式で、「両国民の進歩と繁栄のために、和解することを決断した」と語った。
 和平合意当時、ザランベサの住民たちの期待は膨らんだ。無職のハフトーン・アスケドさん(45)は20年ぶりに隣国に入り、鶏や卵を売る仕事を始めた。「私たちはずっと平和を願っていた。国は違っても思いは同じ。エリトリアにいる親戚にも会えた」
 だが、3カ月後、「治安の悪化」などを理由に両国の陸路の国境は再び閉じられた。今は空路だけの往来しかできない。アビー氏の側近は「国境沿いに適正な入国管理ができるようになれば、陸路での往来を再開する」と説明するが、見通しは立たない。アスケドさんは「もう1年近く国境は閉鎖されたまま。最初はアビー氏に期待していたのだが」と語った。

政治犯ら解放「アビー氏に感謝」

 ノーベル委員会が紛争解決に加えてアビー氏の功績と評価したのが、政治犯の釈放やメディア検閲の廃止だ。前政権時代に拘束され、計約6年も獄中生活を送ったダルシーマ・ソーリさん(52)もアビー政権下で釈放された。
 ソーリさんは、「アビー氏には感謝している」と話す。ただ、「釈放後も多くの人に仕事はなく、拷問で心身が傷ついたままだ。彼らが不満をためこめば、アビー氏に敵対する可能性がある。政府による補償金が必要だ」と警鐘を鳴らす。
 ジャーナリストのソーリさんは、反政府の記事で民衆を扇動したなどとして過去3度、拘束された。当時、最大民族のオロモなどの若者たちは、少数派民族ティグレが占めた政権運営に反発。反政府運動を起こした。政権はこうした動きを弾圧し、メディア関係者も拘束した。
 ソーリさんが2012年に拘束された時は、3畳ほどの部屋に3、4人で収容され、銃や靴で口元を殴打され、歯が10本抜けた。尋問中に爪をはがされ、左足には今も当時の傷痕が残る。電気は付いておらず、食事も満足に与えられなかった。
 政権による激しい弾圧にもかかわらず、反政府運動の波は収まらなかった。当時のハイレマリアム首相は2018年2月、責任を取って辞任。2カ月後、混乱を抑えるために父親がオロモ出身のイスラム教徒、母親がアムハラ出身のキリスト教徒出身のアビー氏が首相に選ばれた。
 アビー氏は就任後、数千人にも及ぶオロモ民族などの政治犯らを釈放し、前政権による弾圧も謝罪した。だが、民族融和はほど遠い。今年6月には軍兵士によるクーデター未遂が発生。アビー氏によって釈放された人物の関与が指摘されている。また、10月下旬にはアビー氏に反発する勢力が暴動を起こし、治安部隊などと衝突。約90人が死亡した。
 来年5月にはアビー氏が首相になって初の総選挙を控える中、各民族で主導権を巡る争いが続く。アビー氏は「自由で公正な選挙を行う」と誓う一方、これまで連立を組んでいたオロモやアムハラ民族主体の党などを統一して「エチオピア繁栄党」を結成。結束力を保とうとしているが、ティグレ民族主体の党は加わらなかった。アビー氏は「過激主義や分裂の道は避けるべきだ」と強調するが、エチオピア北部ティグレ州の政治評論家ムルワーク・キダネマリアム氏(64)は「アビー氏は口では融和や連携を説くが、自身の出身であるオロモやアムハラ民族ばかりを重視し、ティグレの政治家らを政権の中枢から追い出してきた。民族間の対立が進めば、エチオピアは簡単に崩壊してしまう恐れがある」と警告した。(ザランベサ=石原孝)
     ◇
〈エチオピアの歴史とアビー首相〉
1993年   エリトリアがエチオピアから独立
 98年   国境線などをめぐりエリトリアとの武力紛争始まる
2018年4月 アビー氏が首相に
   7月 エリトリアのイサイアス大統領と会談。国境紛争の終結で合意
 19年12月 アビー氏がノーベル平和賞を受賞



[大弦小弦]
生活と地球環境つなげる絵本
「買いものは投票なんだ」
2019年12月7日:沖縄タイムス

 国連が策定し貧困や飢餓撲滅などを掲げたSDGs(持続可能な開発目標)という言葉を今年、見聞きしたという人は多いのではないか。残念ながら新語・流行語大賞の候補に入らなかったのは国内の関心の低さも関係しているのかもしれない
▼達成に向けて、何からどう始めたらいいのだろうか。私たちの生活と地球の問題のつながりを書いた話題の絵本「買いものは投票なんだ」の著者で、社会活動家の藤原ひろのぶさん(39)の講演での言葉は明快だった
▼多くの失敗を経験しながら、現在はアフリカのギニア共和国で製氷工場を経営し食の安全性の向上に取り組み、バングラデシュのスラム街では子どもたちに食事や学校へ行く支援をする
▼気候問題も紛争も貧困も根本は無関心から生じていると指摘する。「おかしい」と分かっていても「仕方ない」に変換する大人が多く、「思考を変え、行動を」と促す
▼世の中の多くの問題と私たちの日々の選択がつながっていると気づくことが大事だと説く。買い物もその一つ。牛肉を食べるのを減らしてみよう、プラスチック製品を使うのを減らそうなどちょっとしたことだ
▼一人一人が当事者で「できることはたくさんある」と訴える。小さな変化の積み重ねが地球と、子どもたちの未来を守ることにつながる。関心を持ち、行動しよう。(石川亮太)



厚労省専門家委「人の受精卵への実施 歯止めを」
ゲノム編集に危惧と期待
疾病・病状でも意見割れ「推進」「慎重」色分けできず
2019年12月8日:東京新聞・ニュースの追跡

 厚生労働省の専門家委員会が今月4日、遺伝子を自在に改編する「ゲノム編集」を人間の受精卵に施し、子宮に戻して子供を誕生させることについて、法規制を含めて歯止めを設けるよう求める報告を大筋でまとめた。安全面や倫理面の問題がぬぐえないためだが、遺伝性の難病の原因や仕組みの解明につながる技術としての期待感も根強い。賛否で割り切れず、もどかしさを抱く担当者もいる。  (中沢佳子)

 ゲノム編集は、「生命の設計図」と言われる遺伝子の人為的な操作だ。特定の遺伝子を狙って切りとるなどし、「設計図」を書き換える。新たな形や性質を与えたり、病因を取り除いたりでき、農水産物の品種改良で利用が広がっている。
 ただ、受精卵の改変は、望みの能力や容姿を持つ「デザイナーベビー」の誕生につながりかねない。日本でも、ゲノム編集した受精卵を子宮に戻すことは指針で禁じてきた。ところが昨年、中国の研究者がゲノム編集した受精卵を使い、双子を誕生させたことを公表。世界的に批判を浴びた。日本国内でも指針だけでは不十分と、法的な規制を求める声が髙まった。
 政府の生命倫理専門調査会は今年4月、ゲノム編集の受精卵について、遺伝性や先天性の病気のしくみを調べる基礎研究に限って容認したものの、子宮に戻して子供を誕生させる行為は法規制するよう促す報告書をまとめた。
 それを受け、医療現場での規制を議論してきた厚労省の専門家委員会でも、法規制の必要という意見でおおむね一致した。一方で、ゲノム編集は遺伝性の難病の仕組みの解明や、新たな治療、薬の開発につながる可能性も指摘。将来的に認められるかどうか、今後の社会情勢も踏まえて引き続き検討するという。
 医療ジャーナリストの油井香代子さんは「(医療現場での)ゲノム編集の利用は、まだ安全性が確立されていない。現状で技術だけが突っ走ることになってしまっては危険だ」と語る。
 もともと日本は、こと生殖補助医療に関して、技術の活用に歯止めをかける傾向が強いという。「指針では禁じるが、法では縛らないのがこれまでのやり方。ある程度時間がたった段階で、海外の動向や社会の意識、受け入れ環境などの変化をみながら、促進の方向に舵を切ってきた。ただ、今回は遺伝子に関わることなので、法規制に踏み込む可能性はある」
 とはいえ、ゲノム編集によって、受精卵の段階で遺伝子の異常を修復すれば生まれる子の病気を防げるのでは、との期待は根強い。油井さんもすんなりいかないと見ており「治療の進展に期待する患者もいる。今後、いろんな『綱引き』があるのでは」という。
 実際、さまざまな難病や慢性疾病などの患者団体や家族会が加盟する一般社団法人「日本難病・疾病団体協議会」(東京都豊島区)の森幸子代表理事は「有効な治療法が確立していない疾病の患者には、新たな治療が見込めるのなら、できるだけ早く進めてほしいと期待をかける人も多い。でも、実際に子どもを誕生させた場合、将来にどんな影響があるか心配。今の段階では慎重にならざるを得ない」と打ち明ける。
 協議会の中でも賛否はさざまだといい、森さんの胸のうちも複雑だ。
 「当事者の私たちそれぞれがこの問題を学び、どうするべきか考えている。抱えている疾病や病状によっても意見は違う。単純に『推進』『慎重』と色分けできるものじゃないんですよね…」



安倍政権、際立つ国会軽視の姿勢
 三つの「ない」が象徴
2019年12月11日:朝日新聞

 議論するための委員会を開かない、やりとりを深めるための資料を示さない、疑惑を向けられた政治家が国会に出てこない――。9日に閉幕した臨時国会は、三つの「ない」に象徴される安倍政権の立法府軽視の姿勢が、際立った。
 まずは「開かない」。
 野党は11月22日、「桜を見る会」をめぐり、安倍晋三首相に直接問いただすため、参院規則に基づき、首相出席での予算委員会開催を求めた。規則は委員の3分の1以上の求めで、委員会を開かなければならないと定める。その1週間前、首相は記者団に「国会から求められれば、説明責任を果たすのは当然」と語ったばかりだった。
 だが、首相入りの予算委を求める野党と、与党の協議は難航。金子原二郎・参院予算委員長(自民)が12月3日、首相が出席しない形の開催を提案。野党は受け入れる姿勢を見せたが、与党は拒否した。参院自民幹部は菅義偉官房長官への配慮があったと明かす。「菅氏が『出る』と言ったら開いたかもしれない。菅氏も首相と同じで、桜ばかり国会で聞かれたくない」
 首相も菅氏も守りたい与党の対応で、衆参の予算委は開かれないままだった。立憲民主党の蓮舫副代表は4日、「規則を堂々と破るものだ」と批判した。
 桜を見る会でも、招待者名簿を「廃棄した」と言ったり、個人情報を理由に答弁を控えたりする「示さない」例が相次いだが、政権は、最重要課題と位置づけた日米貿易協定でも資料公表を拒み続けた。
 政府は9月の日米首脳会談で、自動車に追加関税を課さないとトランプ米大統領に口頭で確認した、と説明。野党は会談の議事録提出を求めたが、与党は「外交記録を出せるわけがない」(自民幹部)と応じなかった。国民民主党の玉木雄一郎代表は「納得できない。追加関税の可能性が残っている」と反発した。自動車関税が撤廃されない前提での経済効果試算の要求もあったが、示されなかった。
 「出てこない」のは10月下旬に連続辞任した菅原一秀前経済産業相と河井克行前法相。辞任時に「今後、説明責任を果たしたい」と強調し、首相も参院予算委で「自ら説明責任を果たしていくものと考えている」と話したが、2人は本会議を欠席し続け、公の場で説明していない。法相辞任の引き金は河井氏の妻、案里参院議員(自民)陣営の公職選挙法違反疑惑で、案里氏も欠席を続ける。
 国会閉幕の翌日、公務員や国会議員の冬のボーナスが発表された。在職期間が足りないなどの理由で菅原、河井両氏には閣僚分103万円は支払われなかったが、国会議員としてのボーナスは満額の324万円。7月に初当選した案里氏は194万円だった。(永田大、鬼原民幸、豊岡亮)

専門家「英首相に似ている」

 日本と同じ議院内閣制の英国の政治に詳しい高安健将・成蹊大教授(比較政治学)は「英国のジョンソン首相も公の場での説明を嫌がる。避ける、ずらす、答えない、という姿は安倍首相に似ている」と語る。
 ジョンソン首相がEU離脱協定案の国会承認を急いだ際、与党の保守党からも慎重論が出て立ち往生した経緯を踏まえ、「与党議員であっても、政府に説明責任を果たさせるため造反した」と解説。政府に同調するばかりの日本の与党も国会の役割と尊厳を守るために一定の厳しい姿勢を持つ必要があると指摘し、「国権の最高機関の一員として誇りを持つべきだ。国会議員には採決要員以外の存在意義がある」と述べた。


水説 桜の下のデータ主権=古賀攻
2019年12月11日:毎日新聞
 <sui-setsu>

 令和日本の耳目を集める桜スキャンダルは、やはり政権の手前勝手な公文書管理に行き着いた。
 4月13日に催された「桜を見る会」の招待者名簿を、内閣府は野党から資料請求があった当日の5月9日にシュレッダーにかけていた。神業のような一致だ。
 ただ、内閣府は今年1月から情報管理のシステムを「シンクライアント方式」に切り替えている。職員の端末では薄い(thin)処理にとどめ、データをサーバーに送って保存するやり方だ。
 このサーバーにはバックアップが取られていた。つまり紙の名簿が裁断され、電子データが消去されても、バックアップのデータは「最大8週間残る」という。
 ならば野党の請求を受けてバックアップから呼び出せたことになる。ところが、菅義偉官房長官は「組織共用性を欠く」という理由でバックアップデータは公文書にあらずとの見解を導き出した。
 これは受け入れられない。
 民主政治は、国民が自分の代表として国会議員を選び、議員の多数派から選ばれた首相が内閣を組織して官僚を動かす、という「委任の連鎖」で成り立っている。
 招待者名簿は、連鎖の最前線にいる政府職員が税金を原資として作成したものだ。それがどんな形態であれ、大もとの所有者が誰かといえば、連鎖の出発点にいる国民にほかならない。
 現に残っているのに、職員が共有しないと決めたから公文書ではなくなったというのは、データの由来に無知か、ねじ曲げているかのどちらかだろう。桜の木の下には国民の「データ主権」がある。
 内閣府は名簿の保存期間を「1年未満」にしていた。担当課は「発送業務という使用目的を終えれば大量の個人情報を不用意に抱えるのは好ましくない」と説明する。しかし、長期保存している他省庁もあるから説得力に欠ける。
 「保存1年未満」の要件とは何か。モリカケ問題を受け政府が2年前に文書管理のガイドラインを改定した時からあいまいさが指摘されていた。今回、見事に「抜け穴」が証明されたことになる。
 データに対する主権の概念は、デジタル技術によって膨大なデータを集めて収益に変える企業と利用者の関係でも用いられるようになった。利用者は無料でサービスを受けているように見えて、実はデータという対価を払っている。
 ここで情報への主権が尊重されないと、思わぬ不利益を被る。身近なところでは「リクナビ」問題が典型だろう。私たちはデータへの主権意識を強めるべき時代に入っている。(専門編集委員)



「桜」問題 「真相隠したまま」国会閉幕
 学者や市民団体、政権対応を批判
2019年12月10日 朝刊

与党の政治のあり方について語る東大の石川健治教授(左)。右は法大の山口二郎教授

 安倍晋三首相の地元支援者の数百人規模での参加やマルチ商法を展開・破綻した「ジャパンライフ」元会長の招待など、「桜を見る会」を巡る疑惑への不信が拭えぬまま、九日に臨時国会が閉会した。国会周辺では、市民団体による院内集会や抗議行動、有識者の記者会見などが行われ、「首相が招待者名簿を公開しないのは不適切なことを行っていると自白するようなものだ」といった批判が噴出した。 (比護正史、望月衣塑子)
 憲法学者や政治学者らのグループ「立憲デモクラシーの会」は九日夕、東京都千代田区の衆院第二議員会館で記者会見し、桜を見る会の問題を巡る説明拒否など、議会政治が崩壊している現状を訴えた。
 出席したのは、東京外語大の西谷修名誉教授、法政大法学部の山口二郎教授、東京大法学部の石川健治教授ら五人。
 西谷名誉教授は、桜を見る会の問題について「政府がやったことはすべて隠し、証拠も全部消し、これ以上議論させないと国会を閉じ、それが通ってしまった。それでは『社会はこういうものだ』となっていく」と危機感をあらわにした。
 山口教授は「桜を見る会の招待者名簿を公開しさえすれば安倍首相の潔白が立証できるのに、一切しないのは不適切なことを行っていると自白するようなものだ」と述べた。
 石川教授は「桜を見る会の問題は、いずれは『いつまでやっているのだ』という声が高まるのは間違いない。しかし、いつまで追及してもいい。これ以上、本質的な問題がどこにあるのか」と強調した。
 同会館ではこの日、政治資金規正法違反などの疑いで、安倍首相を東京地検特捜部に刑事告発した市民団体「税金私物化を許さない市民の会」も集会を開き、市民ら約五十人が参加した。
 告発人の一人で講談師の神田香織さんは「政府はお正月で(国民は)忘れてくれると思っているのかもしれないが、桜が咲く時期が近づけば、国民はまたこの疑惑を必ず思い出す」と訴えた。
 集会に来ていた新宿区の無職田牧文代さん(60)は「国会閉会で終わりではなく、真実を明らかにするまで一市民として政治を注視し続けたい」と決意を示した。
 午後七時からは、首相官邸前で市民らの抗議行動があった。港区の無職片岡洋子さん(77)は「招待者名簿のバックアップデータはあるはず。シュレッダーで廃棄したのは証拠隠滅で許されない」と話した。

首相官邸前で桜を見る会に対する安倍首相の対応に抗議の声を上げる人たち
=いずれも9日、東京・永田町で



記者の目
看過できぬ奈良県政治意識調査
危険な「監視社会」の影
=加藤佑輔(奈良支局)
2019年12月11日:毎日新聞

自宅に届いた調査票を手にする奈良県生駒市の自営業男性。「自治体による思想調査だ」と批判する
=同市内で2019年11月14日、加藤佑輔撮影

 奈良県が今秋、県内の有権者2000人を対象に実施した「政治意識調査」で、政治思想・信条に深く関わる質問を多数出して批判が起きている。県は「結果は個人が特定されない形で統計処理するので問題ない」と主張している。しかしこれを黙認すれば権力者が市民を監視する危険な社会につながりかねない。県は回収したデータを破棄し、調査が妥当だったかを検証すべきだ。
 「個人情報と家族にも明かさないような投票行動がひも付けられてしまうと考えると恐ろしかった」。実際に調査票が自宅に届いた同県生駒市の自営業の男性(47)は、そう口にした。

「副作用」への想像力欠ける

 10月18日、自宅のポストに県市町村振興課の名で封筒が届いており、開けると「2019年奈良県内における政治意識調査」というタイトルの緑色の調査票(全18ページ)が封入されていた。住んでいる市町村に加え、今春の知事選や県議選、7月の参院選での投票先、安倍晋三首相や荒井正吾知事、大阪維新の会、「大阪都構想」などの好感度を問う質問――。男性は「自治体をかたった別の組織の調査では」と疑った。
 調査票の表紙には、「県の投票率の向上をはじめとした県の地方政治の活性化につなげるために実施する」と書いてあった。だが、肝心の中身は奈良県政に関する質問は少なく、大阪府の地域政党についての質問など選挙で意思表示できない内容が多数含まれており、違和感を覚えたという。万が一情報が流出すれば、一部の政治団体や政治家に恣意(しい)的に利用されるのではとも頭に浮かんだ。
 その日のうちに妻に調査票のことを相談すると、「自治体の調査としておかしいのではないか」と自分と同じ反応だった。その後、県への不信感から返送はしていないという。男性は「無記名とはいえ、あまりに思想・信条を掘り下げる質問が多い。言ってみれば『思想調査』であり、民主主義国家としてはあり得ない」と批判する。
 県によると、調査は10~11月にかけて、各市町村の選挙人名簿から無作為に抽出した県内の18歳以上の男女2000人を対象に実施。10月16日に質問票を郵送して11月8日まで無記名で回答を求め、約850人から返信があった。質問は全36項目。ここ5年の経験を尋ねる設問では、「県内の地方議員に手紙を書いたり、電話をしたりする」「デモや集会に参加する」「請願書に署名する」などの項目もあった。調査結果は集計、分析の上で来年3月に公表予定で、費用は約700万円だった。
 政治家や政党への好感度を県が公表することで県民の世論を誘導する恐れもある。それが特定の選挙の前であるなら、有権者の投票行動にも影響を及ぼし、選挙結果を左右しかねない。税金の使途としてふさわしいとは思えない。
 質問は県の依頼で、政治や行政が専門の大学教授ら7人が作成した。メンバーの大阪大大学院法学研究科の北村亘教授(行政学)は取材に「奈良県民の中で大阪府民に近い意見を持つ有権者、いわゆる『奈良府民』が奈良県の政治や行政をどのように評価しているのか、どのような投票行動をしているかなどを調査したかった」と説明する。
 調査が実施されるまでの経緯には二つの問題があると思う。一つは、学術的にどんなに意義がある調査だとしても、行政機関が実施した場合どのような副作用があるのか専門家が想像できなかったこと。もう一つは、県が問題となる質問について事前に一切チェックしていなかったことだ。
 自治体が意識調査でここまで思想・信条に関わる質問を出すのは異例だ。石川県では2013年に有権者1000人を対象に「政治・選挙に関する意識調査」を実施したが、投票先や政治信条に関わる質問は尋ねていない。石川県の担当者は「投票先を尋ねることは、憲法が定める『投票の秘密』に反する。人口が少ない地域の場合、誰がどの候補者に投票したか分かる可能性もある」と指摘する。

適切かどうか判断は住民が

 毎日新聞の報道などで質問内容が公になり、批判の声が上がる中でも奈良県は「問題ない」の一点張りだ。荒井知事は11月20日の定例記者会見で「聞いちゃいけないことって世の中にあるのか」とまで言う。
 佐藤卓己・京都大大学院教授(メディア史)は「公的資金を利用した調査に外部から疑義の声が上がっている以上、妥当性について自ら検討することが必要」と指摘する。個人が特定されない調査なので問題ないとする県の主張については、「特定されないのは社会調査の大前提で、今回の内容への疑念とは次元が異なる。論点のすり替えに聞こえる」と話す。
 今回と同じような調査が他の自治体に広まらないか危惧する。調査が適切か判断するのは民意であり、行政ではない。批判に真摯(しんし)に耳を傾けようとしない知事や県の職員に、行政マンとしての誇りや良心はあるのだろうか。もう一度胸に手を当てて考えてほしい。



反社会的勢力、第1次安倍政権で「定義」
今回は「その時々で変化」
 ネットで疑問の声噴出
毎日新聞2019年12月10日

第1次安倍政権が策定した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」の中に記された
「反社会的勢力」の定義

 「反社会的勢力」(反社)とは何か。もう我々には分からなくなってしまった。なぜなら安倍晋三政権が10日、反社は「その時々の社会情勢に応じて変化し得るもので、定義は困難」との答弁書を決めてしまったのだ。もちろん、ネット上では疑問の声の嵐が吹きすさぶ。【吉井理記/統合デジタル取材センター】

きっかけは菅官房長官の発言?

記者会見で安倍晋三首相主催の「桜を見る会」を巡る問題について質問に答える菅義偉官房長官
=首相官邸で2019年11月27日、川田雅浩撮影

 「まさか、こんなものが出てくるとは……。驚きの一言です」
 この政府答弁書を引き出すきっかけになった初鹿明博衆院議員(立憲民主党)が首を振る。

政府が初鹿明博衆院議員に送ってきた答弁書。「あらかじめ反社会的勢力を定義することは困難」
という「珍解釈」を披露した(マーカーによる傍線は記者によるもの)=吉井理記撮影

 どういうことか。
 初鹿議員が政府に書面質問(質問主意書)を提出したのが先月29日。
 「例の『桜を見る会』で、菅義偉官房長官が、反社とされる人物と写真を撮っていた疑いが浮上しました。菅氏は『反社(とは何か)の定義は定まっていない』(11月27日の記者会見)と述べ、追及をかわそうとした。ところが……」

2007年、安倍首相主宰の閣僚会議で「定義」されていた

 実は第1次安倍政権時の2007年6月、首相主宰の「犯罪対策閣僚会議」がまとめた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」で、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人である『反社会的勢力』」と明記していたのだ。
 この指針をきっかけに、経済界や銀行、証券業界などが「反社の排除」を打ち出した歴史がある。例えば、雇用契約などで、従業員に「私は反社ではありません」といった誓約書を提出させるようになったし、経団連が作った「『企業行動憲章』実行の手引き」(17年版)では、反社との付き合いの根絶などに触れた「第9章」の中で、この指針が「参考」として挙げられているほどである。

「定義は困難」

 「だから企業は暴力団や総会屋などと付き合ったり、利益供与をしたりしないよう、努力してきたわけです。でも、菅さんは『定義は定まっていない』と言い出した。これまでの企業努力や警察の取り締まりを無にしかねない発言です。だから11月29日、質問主意書で改めて『反社とは何か』『07年指針の定義は変わったのか』という観点から質問したんですが……」
 その答えが10日に閣議決定した答弁書だ。安倍政権は反社を「その形態が多様であり、また、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難である」と説明している。

「警察はどう捜査するの?」

 「こんな答えはありません。では民間企業はどうやって、顧客や取引先が反社かどうかを判断しろというのか。これまでの取引先が、今日から突然反社となり、批判されることになりかねません。警察だって、取り締まり対象がこんなあやふやなら困るでしょう」と初鹿氏。
 ネットでも疑問の声が噴出。ツイッターでは、吉本興業所属の芸人が、反社とされる人物が開いたパーティーに呼ばれた問題に触れ「定義がないなら『吉本問題』もない」、あるいは「これまでの官公庁の反社との対峙(たいじ)を打ち壊す閣議決定。すごいね」「定義できないものを警察はどうやって捜査、逮捕できんの?」といった投稿が相次いだ。

「ムキ」になったのか?

 初鹿氏は言う。
 「それほどの大きな問題です。だから、せめて07年指針に沿った答弁をしてくるかと思ったら、菅さんの会見に沿ったような答弁書を出してきた。間違いがあれば、素直に正したり、修正したりすればいいのに、それをしない。ムキになる。安倍政権の特徴です。今回もそういうことではないでしょうか。国民はたまったもんじゃありませんが」

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