政治ナッシングが、全体主義の温床

国会は国権の最高機関の、はずだ。しかし、まるで独裁者のように振る舞う首相は国会を蔑ろにして顧みない。
このような、民主主義の根幹にかかわるシステム無視は、国民の政治ナッシングの気分を生み、全体主義の温床をつくり上げている。麻生太郎が言ったように「ナチスから学べ」を実践しているのが「アベ政治」ということだ。


臨時国会が閉会 長期政権のひずみ一段と
2019年12月10日:毎日新聞

 「桜を見る会」をめぐる疑惑に揺れた臨時国会が、きのう閉会した。
 異例と言える野党の会期延長要求を、与党が拒んだのは、疑惑の早期幕引きを安倍晋三首相や自民党が狙ったからにほかならない。
 しかも安倍首相は、閉会に伴う記者会見の冒頭、この問題に一切触れず、記者の質問にも従来の説明を繰り返すだけだった。これで納得しろと言う方が無理だ。
 この問題は、政府側がその場しのぎの説明を続けた結果、かえって矛盾が次々と広がり、疑問は何一つ解消されていないのが実態だ。
 自民党は今後、国会で政府側に説明させる約束をした。ならば、明確な閉会中審査の形で、安倍首相が出席する衆参両院の予算委員会を早急に開くべきである。
 今国会では日米貿易協定や、なお改善されない日韓関係をはじめ、もっと議論が必要だったのは確かだ。
 ただし「桜を見る会」に時間が費やされたのは、首相や与党に大きな責任がある。首相自身が内閣府に厳しい調査を命じ、予算委で説明することもしなかったからである。
 そもそも税金を使った政府行事の公正さが疑われる問題だ。民主政治の基本を軽んじる首相や自民党の姿勢は理解しがたい。
 都合の悪い公文書はすぐに廃棄してしまう現政権の悪弊と言うべき問題も改めて浮き彫りになった。
 菅義偉官房長官は招待者名簿を記録した電子データに関し、今年5月に国会で資料要求があった時点ではバックアップデータが残っていたことを認めた。しかし、このデータは公文書ではなく、資料要求に応じる必要はなかったと言い出す始末だ。
 今回の疑惑は共産党が独自調査で掘り起こし、他野党も共同歩調を取って追及した。大学入学共通テストで予定されていた英語民間検定試験の導入を延期する流れを作った点も含め、野党が行政監視について一定の役割を果たしたと評価していい。
 今国会中には、自民党の菅原一秀氏が経済産業相を、河井克行氏が法相を相次ぎ辞任した。ともに政治とカネの疑惑が問われたにもかかわらず、その後、約束していた説明をしていない点も看過できない。
 長期政権のおごりやひずみは一段と深刻になったと言うべきである。



「説明責任果たせ」
国会閉会、開き直る政権に怒りの声
2019年12月9日:朝日新聞

 「桜を見る会」の真相にベールがかぶせられたまま、臨時国会が9日閉会した。公私混同が疑われる問題について、公文書が捨てられ、にもかかわらず「今後とも丁寧な説明をさせていただきたい」(菅義偉官房長官)と開きなおる――。モリカケ問題から繰り返される光景に、市民から憤りの声があがった。
 「すべてを明らかに」。東京・永田町の官邸前には9日夜、30人ほどが集まり、抗議活動をした。
 川崎市の会社員伊藤真由美さん(42)は「税金の私物化が目に余る。首相の国会答弁を聞いても、説明責任を果たしているとは到底言えない」と語った。
 東京都練馬区の放課後等デイサービス職員、守屋真実さん(61)は、野党議員から開示請求があった当日、内閣府の名簿が廃棄されていたことについて「政権のモラルの無さと、良心を失ってしまったかのような官僚の対応、それらを許してしまっている国民の無気力さが残念」と話した。
 菅官房長官は当初「首相枠、政治枠という特別なものはありません」と、事実と異なる説明をしていた。11月中旬、安倍晋三首相は桜を見る会について「国会から求められれば、説明責任を果たすのは当然」と語った。しかし与党は予算委員会の開催要求に応じず、国会規則を無視した。
 法学者や政治学者らで作る「立憲デモクラシーの会」は9日会見し、こうした姿勢が「社会に絶望とシニシズム(冷笑主義)をもたらしている」(西谷修・東京外語大名誉教授)と懸念した。「正論を積み重ねてもダメだと無感覚になっていく」
 石川健治・東大教授(憲法)は「いつまで桜を見る会の問題を取り上げているのかという声が出てくるかもしれない。だがこれ以上本質的な問題はない」と話した。「公開性は統治システムの大前提。名簿廃棄などの隠蔽(いんぺい)で、統治システムが日々毀損(きそん)されている」と批判した。
 国会の外では、国内外のメディアなどが加盟する日本記者クラブが10月以降、安倍首相に年内の会見開催を求めている。
 1969年のクラブ発足以降、年1度ほど首相会見を求めてきた。福田赳夫、中曽根康弘両氏は最多で4回ずつ実施。先日、在任最長記録を更新した安倍首相は2007年と13年に会見したが、その後6年7カ月にわたって求めに応じないのは歴代最長だという。
 官邸側からは「時間がとれない」と回答が保留されているという。同クラブの土生(はぶ)修一専務理事は「ぜひ応じてほしい」と話す。



(社説)
臨時国会閉幕 政権の専横を忘れまい
2019年12月10日:朝日新聞

 説明責任を顧みず、論戦から逃げ回る。安倍政権の立法府軽視も極まった観がある。
 臨時国会が閉幕した。野党は「桜を見る会」をめぐる一連の問題を究明するため、会期を40日間延長する動議を提出したが、与党の反対で否決された。
 政治の公平・公正に対する信頼は政策遂行の基礎である。税金で賄われる公的行事を、安倍首相が私物化していたのではないかという疑念を放置したまま、先に進むことはできない。
 首相は本会議などで一方的に弁明することはあったが、一問一答で詰められる委員会質疑に応じることは最後までなかった。参院予算委員会で、自民党出身の委員長が提案した首相抜きでの質疑すら、与党の反対で実現しなかった。異様なまでの論戦回避である。
 この問題の影に隠れた格好になっているが、初入閣から2カ月もたたないうちに辞任に追い込まれた菅原一秀経済産業相、河井克行法相の説明責任と首相の任命責任も、いまだ果たされていない。
 菅原氏には地元の有権者に公職選挙法が禁じる寄付をした疑いが、河井氏には自民党参院議員でもある妻の陣営の選挙違反の疑いが指摘され、国会で野党の追及を受ける矢先に辞表を提出した。その際、両氏とも、「今後、説明責任を果たしていきたい」と述べたが、1カ月以上たった今も、空手形のままである。首相や自民党執行部が、両氏に対し説明責任を果たすよう求めた形跡もない。
 政権にとって都合の悪いデータを国会に出し渋るのも、この政権の常套(じょうとう)手段だ。日米貿易協定の承認手続きは臨時国会最大の焦点だったが、野党が求めた経済効果の試算などは示されず、検討に必要な情報が十分にそろっていたとは言いがたい。成果を急ぐトランプ政権に配慮した来年1月1日発効ありきの審議だったというほかない。
 年間を通してみても、国会をないがしろにする安倍政権の専横ぶりは際立っていた。
 1月に始まった通常国会では、19年度予算が成立してしまうと、行政監視の主舞台でもある予算委の開催に応じず、国会の規則に基づく野党の要求も無視した。夏の参院選をにらんだ失点回避の思惑は明白だった。参院選後も、野党による臨時国会の早期召集要求は店晒(たなざら)しにされた。党首討論は今年は6月の1回きりだ。
 国会を閉じ、年が改まれば、一連の問題も忘れられる――。首相はそう高をくくっているのかもしれない。しかし、政治権力が国民への説明を放棄した先に待っているのは、民主主義の土台の崩壊である。



【主張】
臨時国会閉幕 役割果たしたとは言えぬ
2019年12月10日:産経新聞

 臨時国会が終わった。帝国議会から国会へ衣替えして200回の節目だったが、国会本来の役割を十分果たせたと言えないのは残念である。
 日米貿易協定をめぐっては、活発な論戦もあった。大学入試共通テストの議論は英語民間検定試験導入の見送りにつながった。だが、それで満足してもらっては困る。
 即位の礼と大嘗祭(だいじょうさい)がつつがなく執り行われたのを機に、皇位の安定継承策の本格論議に備えて、国会議員一人一人が皇室の歴史伝統に関する知見を蓄える機会を持つべきだった。
 国会は、日本の進むべき道を討議し、独立と平和、繁栄に資する責任を負う。にもかかわらず目をそらしている課題がたくさんあった。その筆頭が中国問題だ。
 ウイグル族などへの中国の人権弾圧は深刻だ。香港の人々は中国が国際約束である「一国二制度」を破っていると抗議している。米議会は香港を支援する香港人権民主法を成立させた。ウイグル人権法も成立間近だ。
 隣国日本の国会は決議ひとつしていない。弾圧の最高責任者である習近平中国国家主席を国賓に招くことに疑問を呈した党は見当たらない。国際環境を激変させた米中新冷戦を踏まえ、日本がどう行動すべきか正面から論じないのも極めて危ういことである。
 北朝鮮の核・ミサイルや拉致問題、中東をめぐるエネルギー安全保障も、もっと真剣に論じられるべきだった。衆参の憲法審査会の機能不全は本当に情けない。
 国会召集の直前に消費税率が10%へ引き上げられた。野党は7月の参院選で増税に反対したが、引き上げの影響やポイント還元、軽減税率の在り方について存分に質(ただ)したとは言えなかった。
 安倍晋三首相は在任記録が最長になったが、政権のゆるみが目立った。不祥事で重要閣僚2人が辞任した。説明責任が今も果たされていないのはどうしたことか。
 立憲民主党など野党4党は「桜を見る会」の問題追及のため40日間の会期延長を求めた。与党は災害、景気対応の補正予算案、令和2年度予算案の編成を急ぐとして拒んだ。内閣府による招待者名簿破棄などがあり、首相や政府側の説明は十分ではなかった。問題がないというなら今からでも遅くない。全てを明らかにして新年を迎えればいい。



松尾貴史のちょっと違和感
「桜を見る会」疑惑
 安倍政権こそ「悪夢」そのもの
2019年12月8日:毎日新聞


 総理大臣主催の「桜を見る会」の疑惑は、安倍晋三氏のもくろみとは裏腹に、一向に収束する兆しを見せない。違法薬物所持による芸能人の逮捕でニュースや情報番組は一斉にそちらに傾くと思いきや、まさかの検査陰性という事態になって材料が乏しくなったのか、あるいはそれが追い付かないほど次から次へウソと新たな疑惑が浮かび上がってきて、この騒ぎは来年まで尾を引きそうだ。
 それも、この案件は関係者が安倍夫妻、副総理、官房長官、内閣府、自民党関係者、安倍晋三後援会、ホテルニューオータニ、そして招待客の1万8000人というおびただしさなので、ウソで蓋(ふた)をしようとすればするほど、つじつまの合わないところが出てきて疑惑が数珠つなぎに引っ張り出される構造になっている。
 森友学園や加計学園の疑惑は何となくほとぼりが冷めているだけなので、もしこの桜を見る会についてのスキャンダルが長引けば、さらに政権の体質自体が問題であることがどんどん顕在化して、ダメージは大きくなっていくだろう。
 それでなくとも、書類がない、あってもノリ弁的な黒塗り、覚えがない、官僚も無理なへりくつでかばう、データの復元はできない、公私の混同と、「モリカケ」を再び想起させる記号が目白押しで、自ら火に油を注いでいる感もある。
 サークルの和を乱さない新人記者の多い、いわゆる「ぶら下がり」の取材には答える格好を見せ、発言の隙(すき)を野党の議員に突かれることのない本会議では官僚の書いた文面を読み上げて説明したふりをしているけれども、記者会見で老練な記者たちの鋭い質問に答える自信もなければ、予算委員会に出て野党の追及を受けて立つ度胸もない。
 共産党の田村智子参院議員の追及が始まってから、現時点まで安倍氏は予算委員会の審議に応じていない。忙しいのかと思いきや、アイドルグループとの面談は「律義」にやっている。この人の優先順位はいったいどこにあるのだろうか。
 本会議での発言の中に、疑問を感じた人も多いようだ。名簿を管理する内閣府の電子データの取り扱いについて、サーバーでデータを保存する「シンクライアント方式」を採用しているから、「復元は不可能」だと言うのだ。この「言い訳」を誰が考えたのかはわからないが、多くのIT関係者は、「逆に復元できないように完全にデータを消し去ることの方が難しい」と言っている。それこそ、電気ドリルでハードディスクを破壊した「小渕(優子衆院議員)方式」を採用しないと無理なのだ。
 横にそれるが、安倍氏が「サーバー」ではなく「サーバ」と尻を伸ばさずに「コーラ」と同じように最初の文字を高く発音する頭高のアクセントで読んでいたことに苦笑させてもらった。おそらく安倍氏は、サーバーが何かをわかっておらず、官僚が「サーバ」と習慣的な表記をしていたので、文字通り読んでしまったのだろうと思う。
 ウソの上塗りを続けると、さらに大きなウソや滑稽(こっけい)な言い訳を繰り出さざるを得なくなる。しかし、ここまでくると見苦しく人ごとながら恥ずかしい。
 そして、おなじみ「困ったときの民主党」も持ち出していた。鳩山由紀夫総理の時も桜を見る会をやっていたということらしい。もし私物化し、反社会的勢力や問題のある人物を呼び、後援会で取りまとめ、資料の隠蔽(いんぺい)などをやっていたのなら、一緒に責任を追及すればいいだけのことだ。日本を良き方向にかじ取りをして浮揚させてくれていればまだマシだけれど、7年間もほしいままにやらかしておいて、「悪夢のような民主党政権」はもう使えないだろう。あの頃より何を良くしてくれましたか。私にとっては「悪夢そのものの安倍政権」である。



「桜を見る会」問題の急先鋒・田村智子議員
「首相はもう逃げきれない」
2019年12月9日:AERA

 国会で「桜を見る会」を巡る疑惑追及の中心となっている田村智子参院議員(54)。11月8日の参院予算委員会で質問し、議論の火ぶたを切った。AERA 2019年12月16日号では、田村議員に話を聞いた。
*  *  *
 政権寄りのメディアやネット上では「この程度の問題をいつまで取り上げるのか」といった論調もあるが、田村氏はそれを明確に否定する。

「桜を見る会は、事実上の有権者買収です。私たち議員が誰一人として有権者のみなさんに無料で飲み食いをさせないのは、直近に選挙があろうがあるまいが、公職選挙法に触れると思っているからです。それをやってしまった菅原一秀前経済産業大臣は辞任に追い込まれました。それぐらい大変な問題です。じゃあポケットマネーならダメで、税金を使えば許されるのか。私は2日の本会議で『事実上の買収だ』と指摘しましたが、総理は何も言わなかった。議事録削除を要請してくるかと思ったんですけどね」

 ことあるごとにヤジを飛ばす安倍首相の沈黙は、後ろめたさの表れにも見える。

 もう一つの焦点が、桜を見る会の前日に、東京都内のホテルニューオータニで開かれた「前夜祭」だ。会費はわずか5千円。しかも、政治資金収支報告書に収支が記録されていない。

「説明の抜け道を作るため、安倍総理側はホテルと相当綿密な打ち合わせをしているようですが、それでもボロは出てきます。少なくとも、政治資金規正法上はもう『アウト』だと思います。さらに、即位の一連の行事の後、総理主催のパーティーが随意契約でニューオータニに決まっていた。ホテルが見返りを期待して大幅な値引きをして、総理が何かをやったとなれば、贈収賄になる可能性もある」

 まさにやりたい放題。田村氏はこう指摘する。

「安倍総理が図に乗ったんでしょうね。総理は自分の応援団が本当に好きで、大切にする人。まさにこれが、政治の私物化。モリカケ問題と全く同じ構図です。長期政権の弊害もある。安倍政権の7年間で、公文書が隠され、改ざんされ、廃棄されてきました。官僚の答弁は総理をかばうために矛盾に矛盾を重ね、自民党の中からは総理をかばう声しか出てこない。安倍総理がこうだと言ったら、その方向で政治が進んでいく。政権に逆らった元文部科学次官の前川喜平さんがどうなったかを見ろと。自分のクビをかけて戦える官僚は、そうはいませんから」

 ただ、森友学園や加計学園を巡る問題では、数多くの疑惑を残したまま、野党は政権を退陣に追い込めなかった。今度も同様に、「逃げ切り」を許してしまうのではないか。

「あまりにひどい国会答弁に、あまりにひどい資料隠し。このままでは民主主義が崩壊していく危機感があります。終わりにしてはダメ。実態を詰め切りたい。桜を見る会の真相究明のために立ち上げていた野党の『追及チーム』を11月下旬に『追及本部』に格上げし、人数を70人超にして態勢を強化しています。私は、事務局長代行です」

 国会は9日に会期末を迎え、疑惑追及の舞台は年明けの通常国会へと移る。

「今国会は終わりますが、年明けには安倍総理が出席する予算委員会がある。そこで一問一答を重ねたら、逃げ切れないと思います。もし質問に答えられなかったら、それはもう『辞めろ』という話になるでしょう。説明するといいながら、説明できないわけですから」

 ところで、田村氏自身は、桜を見る会に出席したことはあるのか。

「国会議員には毎年、招待状が来ます。だけど会が開催される4月は法案審議でむちゃくちゃ忙しいし、まして安倍総理の招待で桜を見に行きたいかと言われれば、行く気になれませんね(笑)」

(編集部・野村昌二)

※AERA 2019年12月16日号より抜粋

「名簿はありますよ」
「桜を見る会」疑惑を追及する
田村智子議員が断言する理由

 国会で「桜を見る会」を巡る疑惑追及の中心となっている田村智子参院議員。疑惑にどう気付いたのか。逃げ切りを図る政権を、どう攻めるのか。AERA 2019年12月16日号では、田村議員に話を聞いた。

*  *  *
「桜を見る会」の問題で、安倍首相を追及する急先鋒に立つ共産党の田村智子参議院議員(54)。11月8日の参院予算委員会で質問し、議論の火ぶたを切った。田村氏自身、「ここまで大きな問題になるとは想定外」と語るが、原動力になったのは政権への怒りだという。

「元々は、予算を無視するやり方が怒りの出発点なんです。同じ内閣府の予算で、性暴力被害の相談を一元的に受け付ける『ワンストップ支援センター』の運営費が、2018年度は予算不足という理由で計8千万円削減されました。なのに、桜を見る会だけは総理の行事だからと、来年度予算は約5729万円と今年度予算約1767万円の3倍。納得できないですよね」

 国民の不信感を一気に高めたのが、野党からの資料請求があった1時間後に、内閣府が出席者の名簿を廃棄したことだ。名簿は、本当に「もうない」のか。

「ありますよ。各省庁の推薦者名簿が保存されているのに、内閣官房の『総理・長官等の推薦者』『与党による推薦者』の名簿だけが廃棄されたというんですが、例えば元国会議員は毎年ではなく年をずらして招待しており、その管理のためにも名簿は必要です。破棄したのが事実なら、安倍政権のもとで、内閣府と内閣官房は、公文書のまともな取り扱いさえできない行政府になり果てた、ということになります。やましいところがないなら、総理の責任で電子データを復元させ、全ての名簿を明らかにすべきです」

 11月25日の参院行政監視委員会では、高齢者相手のマルチ商法で行政指導を受けた「ジャパンライフ」の元会長に招待状が送られていたことも指摘した。焦点となったのが、受付票に記されていた「60」という番号。総理の推薦枠である可能性が高いことがわかったのだ。
「『60』の意味に気づいた時は鳥肌が立ちました。元々、この招待状はわが党の大門実紀史(みきし)議員に消費者庁の職員から内部告発の文書として送られてきたものです。名簿と招待状の番号が符合すると気づいたのは11月22日金曜日の夜。20番台は公務員、50番台は功績功労者という具合に最初の2ケタは属性を示している、と。翌土曜日に、予算委員会の理事懇談会に各省庁からの推薦名簿がドサッと提出されていると知って、秘書に確認のお願いをしたところ、その日のうちに秘書から『60が総理だと証明できそうです』というメールが、選挙の応援で高知にいた私に来ました。日曜日に参議院議員会館のこの部屋で資料をつくり、翌25日の質問に備えました」

 ただ安倍首相は質問に対し、元会長を招待したかどうかを明らかにしなかった。田村氏は、

「安倍総理は、元会長個人に関する情報のため『回答を差し控える』と答弁を拒否しましたが、元会長は、その招待状をチラシに載せて顧客を勧誘し、それで多くの被害者が出ています。個人情報でも何でもありません」と憤る。

「60」が総理推薦枠だと、別の問題も浮かび上がるという。

「私が確認したところ、60番台は4900番まであります。招待状をもらった人が、ネットにも上げています。だから、菅官房長官の『総理からの推薦は約1千人』という国会答弁もウソになるんです。また菅長官は昭恵夫人からの推薦があったことも認めており、そこからおかしな人たちが招待されたのではないか、ということにもつながっていきます」

 田村氏の言う「おかしな人」は元会長だけではない。桜を見る会には「反社会的勢力」とみられる人物が出席し、菅官房長官と写真におさまっていたことも分かった。菅官房長官は「結果的に入っていたんだろう」と認めた。吉本興業では、芸人が反社会的勢力と関係したことで長期の謹慎処分となっている。

「菅さんは『反社会的勢力の定義は一義的に定まっていない』などと言ってますけど、何を言ってるんだと思いますよね。『犯罪白書』にしっかり定義は書かれています。そんな人たちにどうして総理主催の公的行事招待状が行くのか。名簿が廃棄されたから事実確認さえできない、では許されないですよ」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2019年12月16日号より抜粋



安倍首相「憲法改正、
必ずや私の手で成し遂げたい」
2019年12月9日:ニューズウィーク

安倍晋三首相は9日、臨時国会の閉会を受けて記者会見し、憲法改正について、たやすい道ではないが、必ずや私の手で成し遂げたいと強い決意を示した。

国民の信問うべき時来たら、解散総選挙に躊躇ない

安倍首相は最近の世論調査でも改正議論を行うべきとの回答が多数を占めているとして「国民的関心は高まりつつある」と指摘。「国会議員として国民的意識の高まりを無視することはできない」と述べ、「憲法改正は決してたやすい道ではないが、必ずや私の手で成し遂げていきたい」と改めて意欲を示した。
また、解散・総選挙の可能性については「参議院で約束したことを実行しなければいけないということで頭がいっぱいで、そのことに集中している」としながらも「国民生活に直結するような大きな政策については国民の信を問うべきだ」とも指摘。「国民の信を問うべき時が来たと考えれば、解散・総選挙を断行することに躊躇はない」と語った。

中国とは様々な懸案、「主張すべきはしっかり主張」

安倍首相主催の「桜を見る会」をめぐっては、安倍首相の後援会関係者らが多数招待されていたことから、税金の私物化との批判も出た。
これについて安倍首相は「公費を使う以上、これまでの運用を大いに反省し、来年度の開催を中止するとともに、今後は私自身の責任において招待基準の明確化や招待プロセスの透明化を検討する。予算や招待人数も含めて全般的な見直しを幅広く意見を聞きながら行っていく」と語った。
一方、来春に予定されている中国の習近平国家主席の国賓としての来日については「日中両国はアジアや世界の平和・安定・繁栄にともに大きな責任を有している」として「責任を果たすべきとの認識を習近平主席と共有し、責任を果たすとの意識を明確に示していくことが、アジアや国際社会からも求められている」とその意義を説明した。たた、両国の間には様々な懸案もあるとして「引き続き主張すべきはしっかりと主張し、中国の前向きな対応を強く求めていく」とも強調した。
イランのロウハニ大統領の来日に関しては「現在、調整中」と述べるにとどめた。
*内容を追加しました。
(志田義寧 編集:内田慎一)



桜を見る会の説明は2分…
 安倍首相の説明責任、どこへ
2019年12月10日:朝日新聞

 9日に閉会した臨時国会は、閣僚の連続辞任や、安倍晋三首相の公私混同が指摘された「桜を見る会」の問題など、2カ月余りの会期で不祥事や疑念が続発した。だが、与党は野党が求めた事実解明のための審議などに十分応じず、政権への打撃回避を優先した。
 9日夜、首相官邸であった記者会見。臨時国会で浮上した疑念に対する首相の説明は、それまで述べてきた内容をなぞる素っ気ないものだった。
 記者団が「桜を見る会は、後半国会の大きな焦点となった。野党は税金の私物化だと批判を強めている」と質問すると、首相は手元のメモに目を落としながら語った。「長年の慣行のなかで行われてきたところだが、招待者の基準があいまいであり、結果として招待者の数がふくれ上がってしまった」
 約30分の会見のうち、桜を見る会についての説明は約2分。幹事社による質問に1回答えただけだった。朝日新聞の記者は手を上げ続けたが指名されなかった。
 首相は会見で「国民の皆様から、様々なご批判があることは十分に承知をしております」とも述べた。だが、国会では最後まで、野党などが指摘した疑念に具体的に答えなかった。
 同会をめぐっては、11月8日の参院予算委員会で共産党が、首相が地元有権者を多数招待しているなどと公私混同ぶりを追及した。さらに、会の前日に首相の後援会が都内で開いた夕食会をめぐる会計処理のあり方や、反社会的勢力とみられる人物の出席、オーナー商法で行政指導を受けていたジャパンライフの元会長が招待されたことなど、疑念が次々と噴出した。
 野党は、首相の妻昭恵氏が招待者の推薦に関わっていたのではないかとも指摘。立憲民主党や共産党などは追及チームを結成して、政府に招待者名簿などを提出するよう求めた。だが、内閣府は紙の名簿はシュレッダーで廃棄し、電子データも削除済みだと説明。招待者がどのように選ばれたかなど、実態は不透明なまま推移した。

「年が明けたら雰囲気は変わる」

 野党は首相に直接ただす必要があるとして、参院規則に基づき、首相出席の予算委員会の開会を求める要求書を金子原二郎・予算委員長(自民党)に提出したが、与党はこれを拒否。11月8日の参院予算委以降、首相は国会で一問一答形式の質疑に応じなかった。
 この問題で連日、記者の追及を受けた菅義偉官房長官は12月9日の記者会見で、「納得されていない方がたくさんおり、私どもの説明の仕方が足りないのだろうとも思う」と口にした。一方、記者団から「一連の疑惑について調査はするのか」と問われると、「疑惑というのはよく分からないが、質問には丁寧にお答えさせていただく」と明確な回答を避けた。
 官邸幹部は「桜を見る会の問題は、資料を出せば野党やマスコミに突っ込まれるだけだ」と漏らす。「総理は十分ご説明、ご答弁なさっておると思います」。自民党の二階俊博幹事長は9日の会見でそう語った。
 政権内には、国会での追及をしのいだとして一服感が漂う。首相に近いベテランは「年が明けたら雰囲気は変わる」。首相は同日、国会内であった党役員会で党幹部を前にこう語った。「国会も閉じ、みなさんともしばらくお会いできないので名残惜しいです」。出席者によると、首相は上機嫌だったという。(安倍龍太郎)

「改憲進める機会」のはずが…

 野党は、予算委開催も40日の会期延長も与党側に蹴られたが、会期末の提出が半ば慣例ともなっている内閣不信任案を見送った。代わりに与党側から引き出したのは、「桜を見る会」を議論するための内閣委員会理事会の年内開催だった。
 立憲民主党の安住淳国会対策委員長は「様々な疑問が越年になる。反復・継続をしていかなければならない」と追及を続けることを宣言。理事会は原則非公開で、首相や官房長官も出席しないが、来年1月に開会する通常国会につなげる足がかりの意味合いがある。自民党幹部は「そのくらいやらせればいい」と余裕を見せるが、衆参で圧倒的数を持つ与党でも、世論の反発の中では強気一辺倒ではいられない立場がにじむ。
 政府・自民は臨時国会を、首相が旗を振る憲法改正へ向けた動きを進めるための機会と位置づけ、1月1日の発効をめざす日米貿易協定の承認案など議案を絞り込み、「安全運転」で臨んだ。だが、直面したのは議案以外の問題だった。
 「安定と挑戦の内閣」と宣言し、首相が9月11日の内閣改造で起用したのは菅原一秀前経済産業相と河井克行前法相。2人は10月下旬、公職選挙法違反などをめぐる疑惑を受けて、1週間の間に相次ぎ辞任した。
 さらに、大学入学共通テストで活用される英語民間試験では、首相側近の萩生田光一文部科学相が「身の丈に合わせてがんばって」と発言。教育格差を容認するかのような言葉に批判が広がり、すぐに撤回に追い込まれた。発言を機に制度の不備にも注目が集まり、土壇場で導入延期を決断せざるを得なかった。
型通りの答弁に終始、党内に不満も
 一連の問題は、疑惑解明や判断の説明に積極的に乗り出さない首相の姿勢も浮き彫りにした。
 首相は2閣僚が辞任した際、「自ら責任を果たしていくものと考えている」と語った。だが、2人は本会議を欠席し続け、国会の場で説明をすることはなかった。任命責任を問われた首相自身も衆参予算委で「任命した者として責任を痛感している」と答弁書を読むだけ。党内からも「公の場に出席して、説明をすることがふさわしい」(鈴木俊一総務会長)といった声も上がるが、党総裁として説明実現へ動くこともなかった。
 英語民間試験でも、首相は延期を「萩生田大臣の判断」と繰り返し、「身の丈」発言でも、萩生田氏は大臣として「適材」との立場を変えなかった。
 ただ、報道各社の世論調査では内閣支持率が減少傾向で、党内には先行きへの不安も見え隠れする。
 中堅議員の一人は最近、地元有権者に「なぜ安倍さんはちゃんと説明しないのか」と声をかけられるようになったという。
 石破茂・元幹事長は9日、自身の派閥会合で、支持者の「怒り」に触れながら、こうあいさつした。
 「第1次安倍政権や麻生政権の時と感じがやや似ている。世の中と永田町が乖離(かいり)したときが一番怖い」(永田大、清宮涼)


クローズアップ
臨時国会閉会 説明避ける最長政権
 桜を見る会「私物化」
2019年12月10日:毎日新聞

国会が閉会し、衆院本会議場を後にする議員ら=9日午後、長谷川直亮撮影

臨時国会は9日に閉会したが、「桜を見る会」を巡り、多くの疑惑は未解明のままだ。安倍晋三首相は「公的行事の私物化」などの批判への説明責任を果たしていない。2閣僚が辞任した「政治とカネ」の問題も疑問は解消されず、「最長政権」のおごりと緩みが目立っている。


 首相は9日の約33分の記者会見のうち、冒頭約13分を臨時国会の成果の説明に費やした。実際の質疑応答は約20分で、桜を見る会に関する質問には正面から答えようとはしなかった。内閣府が廃棄した招待者名簿について、記者から「首相自ら名簿のデータなどを探し出すよう指示する考えはないか」と問われたが、「データ復元も不可能との報告を受けた」と国会で答弁した内容を繰り返すだけだった。
 この問題は11月8日の参院予算委員会で共産党が取り上げ、後半国会の最大のテーマに浮上した。公金で開催される桜を見る会に、首相の後援会関係者が多数参加したことに対し「公的行事の私物化」と批判が広がった。会の前日に東京都内の高級ホテルで開かれた首相後援会主催の「前夜祭」も、会費が1人5000円と通常価格より安く「首相側が費用を補塡(ほてん)したのでは」と野党が追及。首相本人を直撃する問題に発展した。
 予算委では「招待者の取りまとめには関与していない」と答弁した首相だが、20日の参院本会議では「事務所から相談を受ければ、推薦者について意見を言うこともあった」と修正。内閣府・内閣官房による最終的な決定には関与していないと強調したが、野党から「虚偽答弁だ」と批判が上がった。前夜祭の会費が安いと問題視されたことへの説明も、「大多数が当該ホテルの宿泊者」(11月15日、記者団に)から、「2015年は大多数の参加者の宿泊先が夕食会場と同一ではなくなった」(20日、参院本会議)と変遷し、不透明さを増した。
 野党側は「首相にしか説明できない問題が多々ある」と、一問一答形式で追及できる予算委員会の集中審議開催を何度も求めたが与党は「本会議で説明している」と拒否。問題の表面化後に首相が国会で答弁したのは再質問が制限される本会議での2回のみ。立憲民主党の安住淳国対委員長は9日、記者団に「首相隠し国会だった」と、説明に後ろ向きな与党を非難した。
 会の招待者は第2次安倍内閣以降、大幅に増え、首相や自民党議員らによる「推薦枠」があることも判明。今年の「首相枠」は妻昭恵氏分も含め約1000人だった。記録が残る各省庁の推薦人数はほぼ横ばいのため、増加分は首相も含めた「政治枠」の可能性が高い。消費者庁の行政処分を受けた「ジャパンライフ」の元会長が首相枠で招待された疑惑も指摘された。首相は2日の参院本会議で「個人に関する情報で、招待されたかも含めて回答を控える」と明らかにしなかった。
 首相は、招待者名簿は「廃棄」、前夜祭の明細書も「そういったものはない」と強調。証拠となる記録は「ない」と繰り返し、幕引きを図る姿勢に終始した。【宮原健太】

2閣僚辞任、身の丈発言 待機組・側近起用裏目に

 長期政権の負の側面は、「桜を見る会」を巡る問題の他にも「政治とカネ」での2閣僚辞任や大学入学共通テストを巡る迷走にもみられた。
 内閣改造から1カ月半後の10月25日、経済産業相だった菅原一秀氏が、31日には法相だった河井克行氏がいずれも「政治とカネ」に絡んで辞任に追い込まれた。「元々問題があると言われていた人が入閣し、表に出たということだ」。自民党のベテラン議員は、そう突き放す。国会閉会に当たって記者会見した公明党の山口那津男代表は「閣僚を辞めたからといって説明責任が直ちに消えるというものではない」と述べ、両氏に苦言を呈した。
 今国会では召集日(10月4日)からわずか3週間あまりで2閣僚が辞任する事態となったが、実は2012年12月発足の第2次内閣は、14年9月の内閣改造まで閣僚のスキャンダルもなく、「政権の骨格」として今も留任し続ける菅義偉官房長官、麻生太郎副総理兼財務相を含め、「同じ顔ぶれの内閣」としても戦後最長を記録している。
 だが、求心力の維持には党内各派閥への配慮が不可欠だ。これが、15年9月の自民党総裁再選、さらに党規約を改正した上での18年9月の3選につながってもいる。その結果、衆院当選5回以上、参院当選3回以上で閣僚経験のない「入閣待機組」の処遇に徐々に力を入れ始める。昨年10月の内閣改造では12人、今年9月には菅氏に近い菅原、河井両氏を含め過去最多の13人を初入閣させた。開会直前には「初入閣の人たちは危ないのでは」(若手議員)と不安視する声が上がっており、裏目に出た格好だ。
 政権の長期化によって側近の不用意な発言も目につくようになった。大学入学共通テストは、首相側近の下村博文選対委員長が文部科学相時代に主導した。しかし、共通テストの柱の一つである英語の民間試験活用に関し、やはり側近で初入閣の萩生田光一文科相が10月24日のテレビ番組で、金銭的・地理的に不公平が生じるとの懸念に「自分の身の丈に合わせて勝負してもらえれば」と発言。受験生らの猛反発を受け、萩生田氏は11月1日に見直し公表を迫られた。首相側近が付けた道筋を側近が止めるという皮肉な結果となった。下村氏や萩生田氏は過去にも憲法改正を巡る発言で野党側の反発を招いている。
 第1次政権は側近重用が批判を浴びた。第2次内閣は全体のバランスを取って船出したものの、長期化によって「やっぱり『お友達内閣』だった」(閣僚経験者)ことが浮き彫りになった。【竹内望】


臨時国会閉会
名簿廃棄、公文書管理の指針違反
公文書ガイドライン改定を審議した
三宅弘弁護士に聞く
2019年12月10日:毎日新聞

 桜を見る会の招待者名簿の廃棄を巡っては、公文書管理のあり方そのものが問われている。そもそも、名簿の保存期間が「1年未満」とされていることが問題だ。公文書管理法によって定められている行政文書の管理に関するガイドラインでは、「意思決定過程や事務、事業の実績の合理的な跡付けや検証に必要となる」文書は、保存期間が「1年以上」とされている。これに該当しない場合のみ、保存期間を「1年未満」にできる。招待者名簿は桜を見る会に誰が何人参加したのかを検証するのに不可欠で、予算執行にも大きく関わる重要な文書だ。
 政府は名簿が「1年未満」に該当するとして廃棄したことについて、「個人情報を含んだ膨大な量の文書を適切に管理するため」と説明するが、ガイドラインの趣旨に反している。個人情報が含まれていることは仮に非公開の理由になったとしても、廃棄の理由にはならない。
 名簿が野党から資料要求された時点では原本として残っていたにもかかわらず、直後にシュレッダーで廃棄されたこと、廃棄後もバックアップデータがあり復元できたのに、復元どころか説明さえしなかったことも問題だ。資料要求があったら「1年以上」の保存にすべきで、すぐに資料を確かめて廃棄を止めなければならない。それができていない段階で、公文書の管理は十分ではない。政府にとって不都合な文書の廃棄は森友・加計学園問題でも指摘されたが、教訓が生かされていない。情報隠しの体質を改善する必要があるだろう。【聞き手・宮原健太】



安倍改憲の現在地/上
議論進まず目標修正
 「2年のうちに国民投票」
2019年12月7日:毎日新聞

 「改憲機運が高まるような環境を作らなければならない」。安倍晋三首相は2日、東京・大塚の護国寺で行われた中曽根康弘元首相の通夜へ参列した後、伊吹文明元衆院議長らと会食し、晩年まで改憲を訴えた中曽根氏の思い出を交えながら語り合った。「首相の改憲への思いは全く衰えていない」。周辺は断言する。
 首相は2017年5月に「20年新憲法施行」を表明。今年5月も「その気持ちに変わりはない」と意欲を示した。だが、国会での議論は進まず、10月10日の衆院予算委員会で「私が述べた通りになるとは毛頭思っていない」と後退。「桜を見る会」で野党の反発も強まった。首相は「20年施行」を断念し、時間をかけて野党の協力を得る戦略に転換した。
 「2年のうちに改憲発議と国民投票までいければいい」。首相は周辺にこう語る。首相の自民党総裁任期満了は21年9月。それまでに憲法改正案の発議と国民投票実施を目指す目標に下方修正した。
 側近は「首相は来年の東京五輪後の勇退も意識していたが、今は改憲の道筋をつけるため任期いっぱいまで続ける気持ちに傾いている」と明かす。7月の参院選に合わせた衆参同日選を見送ったのも、改憲案の発議に必要な改憲勢力3分の2以上の議席を衆院で確保し続けるためだ。
 改憲にこだわるのは、祖父の岸信介元首相の遺志を継ぎ、政治的遺産(レガシー)を残すためだ。「岸信介証言録」で、岸氏は今後の課題として憲法改正と北方領土返還を挙げた。ロシアの態度硬化で領土問題の解決が遠のく中、首相は改憲への思いを強めたようだ。自民党幹部は「改憲議論が進まなければ(総裁)4選を目指すと言い出しかねない。辞められる環境を作ってあげないといけない」と語る。
 ただ、首相は第1次内閣時に「自衛軍」を明記する05年の自民党新憲法草案を主張。第2次内閣発足後は改憲手続きを定めた憲法96条改正を掲げ、反発を受けると緊急事態条項創設を訴えた。17年5月以降は自衛隊明記を掲げる。度重なる変節に野党の不信感は募っている。目標を下方修正し野党の協力を模索する首相だが、道筋はまだ見えない。
首相の野党攻撃、裏目に
 「議論が進んでよかった」。先月27日夜、首相は首相公邸で、自民党の下村博文選対委員長、稲田朋美幹事長代行ら側近に笑顔を見せた。翌日の衆院憲法審査会で、欧州視察報告をテーマに臨時国会で3回目となる自由討議を開催することが決まり、首相は満足そうな表情を浮かべた。
 だが、今国会成立を目指した国民投票法改正案の採決は見送られ、昨年の通常国会以降、5国会にわたって継続審議となる。来年の通常国会で成立しなければ、改憲の本格議論はずれ込み、首相の任期中の国民投票も困難になりかねない。「20年施行」を下方修正した首相だが、スケジュールはなおタイトだ。
 改憲議論の停滞の要因は首相にもある。7月の参院選で「未来に向かって憲法を議論する政党を選ぶのか、責任を放棄して議論すらしない政党を選ぶのか」と繰り返し野党を攻撃。選挙後は改憲勢力で3分の2以上の議席は確保できなかったにもかかわらず「国民の審判は下った」と改正案の審議を促した。
 これに野党は「改正案の採決に応じれば、自民党は改憲の本格議論を強硬に進めかねない」と警戒。態度を硬化させた。

 議論が停滞する中、首相は「ポスト安倍」候補者にも改憲の「踏み絵」を踏ませた。9月の自民党役員人事では改憲に意欲を示した岸田文雄政調会長の求めを踏まえ、幹事長起用を一時は検討した。古賀誠名誉会長が自衛隊明記に反対を表明するなど改憲慎重派が多い岸田派を率いる岸田氏。希望はかなわず留任となったが、改憲をテーマにした「地方政調会」を各地で開催。首相の期待に応えようと躍起だ。党内では「首相は改憲路線を継承する人材を後継に選ぶだろう」との見方が広がる。
      ◇
 臨時国会は国民投票法改正案の採決が行われないまま9日までの会期を終える。改憲を巡る首相や各党の「現在地」と今後を探る。

安倍改憲の現在地/中
「旗振り役」失言で失速
 側近重用、自民内に反発
2019年12月8日:毎日新聞


 自民党本部6階で10月1日に開かれた党総務会。古屋圭司元拉致問題担当相が声を荒らげた。
 「LGBTなど性的少数者について、理解もせずに発言するのはやめていただきたい」
 怒りの矛先は同席していた下村博文選対委員長。古屋氏が問題視したのは、9月の富山市の講演で「同性婚も改憲議論の対象になる」との発言だ。婚姻は両性の合意で成立すると定める憲法24条の改正に言及したもので、党内で現行の婚姻制度を維持しながら性的少数者への理解を促進する法案作成を進める古屋氏の怒りを買った。「あくまで議論のテーマになり得るという意味だ」。下村氏は釈明に追われた。
 停滞する改憲議論の加速化を目指し、昨年9月に自民党総裁3選を果たした安倍晋三首相は、党憲法改正推進本部長に側近の下村氏を充てた。下村氏は衆院憲法審査会幹事も兼任し国会で憲法議論を加速させる「旗振り役」を担う予定だった。
 ところが下村氏は昨年11月、憲法審の早期開催に応じない野党を「職場放棄」と指摘。野党の反発を招き、憲法審の幹事に加え委員も外された。今年4月には、首相側近の萩生田光一幹事長代行(当時)がインターネット番組で「少しワイルドな憲法審査を進めていかないといけない」と審議を強行するとも受け止められかねない発言を行った。度重なる側近の失言は改憲議論が進まないことへの首相のいらだちを反映したものだが、野党に憲法議論に応じない格好の「口実」を与えた。
 側近重用が裏目に出た首相は9月の党役員人事で方針を転換。下村氏の後任の憲法改正推進本部長に調整型の細田博之元官房長官を再登板させ、事務総長に岸田派の根本匠前厚生労働相、事務局長に石破派の山下貴司元法相を据え、強硬イメージの強い「安倍色」を薄めた。だが、衆院憲法審の新藤義孝筆頭幹事ら現場も反発を強める野党への配慮に腐心し、結局、国民投票法改正案はたなざらしの状態が続く。自民党ベテラン議員は不満を漏らす。
 「首相に近いからといって、憲法に詳しくない人ばかりが起用されてきた。これではいつまでたっても進まない」
首相も前のめり発言
 「自衛隊は憲法学者の8割が違憲の疑いがあると言っている。論争に終止符を打つために、憲法に自衛隊を明記する」。2日の自民党役員会で、新たに製作された憲法改正に関する安倍晋三首相の約7分半のビデオメッセージが流れた。憲法への自衛隊明記の必要性を訴えることに大半の時間が割かれたが、その思いの強さが改憲議論の停滞を招く一因となっている。


 首相が自衛隊明記を掲げたのは2017年5月。改憲派集会にビデオメッセージを寄せ「9条1項、2項を残しつつ自衛隊を明文で書き込むという考え方は国民的な議論に値する」と表明した。1項(戦争放棄)と2項(戦力不保持)を維持したうえで自衛隊の存在を別に明記し、9条改正に慎重な公明党などを取り込む「苦肉の策」とも言える。
 だが、自民党は12年に「国防軍」の保持を明記した憲法改正草案を決定した。首相の唐突な表明に党内で反発が広がる中、党憲法改正推進本部は18年3月、首相の案に沿って自衛隊明記案をとりまとめたが、石破茂元幹事長をはじめ不満は今もくすぶる。先月28日の衆院憲法審査会では、国民民主党の玉木雄一郎代表が「石破氏も稲田朋美幹事長代行も、本当は思うところは違うのではないか」と揺さぶりをかけた。
 一方、推進本部の自衛隊明記案は当初は「必要最小限度の実力組織」の文言が盛り込まれていたが、保守系議員の反発により「必要な自衛の措置」との表現に変更した。集団的自衛権行使の全面容認に余地を残す内容となり、公明党にも警戒感が広がった。
 推進本部はあくまでも自衛隊明記案を「たたき台」と釈明。首相も「自衛隊の任務や権限は変わらない」と繰り返すが、自民党の閣僚経験者は打ち明ける。「党内だって、自衛隊明記が本当に必要だと思っている人はそんなにいない。やるなら後からでいい」

安倍改憲の現在地 /下
野党取り込み難しく
 「大連立」ついえ、敵失期待
2019年12月10日:毎日新聞

 安倍政権幹部は今年8月、国民民主党の玉木雄一郎代表に「大連立」を打診した。「自民党、公明党、国民民主党で大連立政権を組めないか」。憲法改正に向けた多数派工作が狙いだった。7月の参院選で自民、公明、日本維新の会の「改憲勢力」が、参院で改憲発議に必要な「3分の2」議席を割っていた。仲介した亀井静香元金融担当相は「安倍晋三首相も了承していた」と明かす。

 首相は、保守政党を旗印とし、改憲の議論には前向きな国民に狙いを定めた。野党の中で、改憲に前向きな維新だけでなく、国民も取り込めれば、改憲論議が加速できるとの思惑からだ。
 だが、首相の期待はついえる。国民は「自民に協力しても、利用されるだけ。強い野党を作る」と要請を拒否し、護憲派が多数を占める立憲民主党との統一会派を選択した。立憲、国民、共産、社民の野党4党は次期衆院選での「共闘」を見据え、「自民党の改憲4項目に反対」というラインで足並みをそろえた。首相が狙う「野党の取り込み」は難しさを増している。
 ただ、国民、立憲が抱える根源的な問題は解消されていない。旧民主党は護憲派と改憲推進派の両方の議員を抱え、憲法改正という基本政策で党方針が定まらないことがアキレスけんとなっていた。同党の流れをくむ国民、立憲の両党も同じだ。
 国民は10月の党憲法調査会で、自民党の改憲4項目には反対する一方で、「憲法の議論は積極的に行う」との方針を確認。とはいえ、党内の主張は一枚岩とはいえないのが実情だ。立憲は、山尾志桜里氏が11月7日の衆院憲法審査会で「手続き(国民投票法改正案)の議論が終わらない限り、一切憲法の中身に入らないのはおかしい」と改憲に前向きな姿勢を示し、党内外に波紋を広げた。続く14日の憲法審で、維新の馬場伸幸幹事長が山尾氏の意見について「党を背負っての発言なのか。見解を」とただした。立憲の山花郁夫・野党筆頭幹事は「個人としての発言と認識している」と釈明に追われた。
 立憲は今月6日、国民、社民党などに合流を呼びかけた。仮に合流が実現しても、内部に護憲派と改憲派を抱える構造は変わらない。護憲政党として長い歴史を持つ社民党まで加われば、規模は拡大しても不安定さが増す懸念はくすぶる。自民党関係者からは「憲法審査会での改憲議論が進めば、野党の足並みの乱れが露呈する可能性がある」と期待する声も漏れる。


公明、慎重な議論求める

 臨時国会終盤の11月27日、東京都内のホテルで公明党の山口那津男代表が講演した。「憲法は国会で発議するほど議論が熟していない。論点も磨かれていない。安倍(晋三)さんの胸の内はわからないが、期限を切ってやるものじゃない。国民が納得することが大事だ」。話題が憲法改正に及ぶと、山口氏は突き放すように語った。
 憲法改正について、党内で最も慎重派と目されているのが山口氏だ。周辺は「『憲法改正は不要』が山口氏の持論だ」と解説する。
 公明党は必要な条項を加える「加憲」の立場を取り、憲法改正に前向きな「改憲勢力」に数えられるが、改憲の「中身」に踏み込んで議論することには慎重だ。安倍首相が意欲を示す憲法への自衛隊明記は、支持母体・創価学会の抵抗感が強く、「今はもう無理だ」(公明党幹部)との見方が強い。
 同党議員の記憶に刻まれているのが、首相の意向を受け2014~15年、集団的自衛権行使容認を閣議決定し、安全保障関連法を成立させた経験だ。自公両党の協議は激論となり、「平和の党」を掲げる公明党にとっては「連立離脱」もよぎった末に受け入れた苦渋の決断だったが、支持者の批判が相次ぎ離党者も出た。
 こうした不満に加え、支持者の高齢化も響き、17年の前回衆院選では6議席の減少。今年の参院選でも目標議席はクリアしたものの、比例代表の得票数は前回16年より100万票以上減らした。次期衆院選は失地回復が最重要課題で、改憲論議が本格化して支持者の反発を招く事態は避けたいのが本音だ。
 「巨象(自民党)が一度走り出したら止められなくなる」(党幹部)。公明党が描く最悪のシナリオは、自民党が強引に憲法論議を進め、国会発議へ強行突破を図ることだ。そうなれば今度こそ「連立離脱もやむなし」(党関係者)の状況に追い込まれる可能性もある。
 このため、臨時国会で自民党内に国民投票法改正案の採決強行を求める声が上がると、「強行は認めない」と即座に火消しに回った。公明党は野党が求めるCM規制の議論先行を容認する方針に転換。改憲議論の進展を望まない点では野党と一致する。党関係者は「21年9月までの首相の自民党総裁任期中の改憲は、時間的にもう無理だろう」と期待も込めて語った。(遠藤修平、村尾哲、竹内望、東久保逸夫、野間口陽が担当しました)



(社説)
26兆経済対策 必要性と効果の精査を
2019年12月7日:朝日新聞

 大型の経済対策が、なぜ、いま必要なのか。それぞれの政策に緊急性があるのか。費用に見合う効果が期待できるのか。
 こうした疑問への十分な説明もないまま、安倍政権が、事業規模で26兆円の「安心と成長の未来を拓(ひら)く総合経済対策」を決めた。
 「災害からの復旧・復興」「経済の下ぶれリスクを乗り越える支援」「未来への投資と東京五輪後の対策」の三つを柱とする。国と地方を合わせた財政支出は13・2兆円で、「これまでのアベノミクスの成果を前進・加速させる」という。
 政府は、足元の国内総生産(GDP)は「過去最大規模に達し」、10月の消費税増税の影響は「全体として前回ほどではない」との認識を示す。ただ、「海外を要因とした先行きリスクが視界に入りつつある」として、対策は「設備投資や個人消費が下押しされないための万全の対応」との位置づけだ。
 だが、そもそも海外リスクによってどの程度の内需の落ち込みが予想されるのかを、政府は示していない。財政支出によって、将来の成長をどう生み出すのかも、不確かだ。
 際だつのは、規模へのこだわりだ。自民党は「財政の制約で実行のタイミングを逸してはならない」と強調した。首相も「人材への投資や研究開発も、次の世代に残るものだ」として、赤字国債の発行もいとわない姿勢をみせた。
 35ページにわたり記された政策には、次々世代の通信技術となるポスト5Gへの投資や就職氷河期世代への就業支援などに加え、「ラグビーができるスポーツ施設整備」「レジ袋有料化に向けた理解促進事業」なども並ぶ。規模優先で、あれもこれも詰め込んだ結果だろう。
 政権が意義を訴える政策の一つに、小中学校へパソコンやタブレットを1人1台ずつ配る事業がある。経済財政諮問会議で首相が「1人1台は当然ということを、国家意思として明確に示すことが重要」と述べて、対策入りが確定した。総額で4千億円以上を投じ、2023年度までに約900万人の児童・生徒すべての分を配る。
 何を学び、どう子どもの成長につなげるのか。ほかの政策よりも教育現場で優先すべき課題なのか。指導する教員は確保できるのか。ここでも、納得のいく説明は聞こえてこない。
 対策の表題には「安心と成長の未来」とあるが、その道筋はかすんでいる。
 いまからでも遅くはない。それぞれの政策の必要性と効果を精査し、問題があれば見直し、中止も考えるべきだ。実行ありきで突き進んではならない。



【主張】経済対策 効果を吟味し具体化図れ
2019年12月7日:産経新聞

 政府が自然災害や景気の下振れリスクなどに備えるための経済対策を閣議決定した。事業規模は約26兆円で、13・2兆円の財政措置を講じる。平成28年の経済対策(約28兆円)に匹敵する大規模な対策である。
 安倍晋三首相は「令和最初の経済対策にふさわしい力強い政策パッケージ」と語った。これにより実質国内総生産(GDP)が1・4%ほど高まるという触れ込みだ。
 台風19号など深刻な被害をもたらす異常気象が頻発し、防災や減災の取り組みは急務である。米中摩擦などで海外経済が悪化する懸念はなお強く、企業業績にも負の影響を及ぼしつつある。
 だから積極的な財政出動が必要と判断したのだろうが、重要なのは、いかに対策の効果を高められるかだ。予算のばらまきに終わらせず、災害や景気低迷を乗り越えられる強い経済を実現したい。そのためにも個々の施策の費用対効果を厳しく吟味し、対策の具体化を図らなければならない。
 経済対策には、堤防強化など治水のための公共事業が重点的に盛り込まれたほか、就職氷河期世代の支援策や、第5世代(5G)移動通信システムの普及後を見据えた基盤強化なども入った。
 当面の景気をてこ入れするだけでなく、東京五輪後を見据えて経済活力を維持する狙いもあり、国の支出は令和元年度補正予算と2年度当初予算で手当てする。
 国民の安全を守るため緊急性の高い災害対策に万全を期すのは当然である。景気への目配りも必要だ。ただ、大規模な財政出動が必要なほど経済が悪化しているかどうかは冷静にみておきたい。
 消費税増税に台風の影響が重なり、10月の消費支出は5%以上も落ち込んだ。これが長引くようでは経済が失速しかねないが、今も政府が「景気は緩やかに回復している」という判断を維持していることを忘れてはならない。
 安倍首相が対策の策定を指示した後、与党から10兆円規模の財政出動を求める声が相次いだ。その結果、まず金額ありきの対策になったことは否定できまい。
 中小企業支援や地方創生関連などでは各省庁が似たような狙いの施策を盛り込んだ。対策の名を借りて不急の施策をもぐり込ませたのなら、水ぶくれといわれても仕方がない。その点を政府は厳しく認識しておくべきである。

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