同情心の無い、安倍一族

敗戦後最悪という日韓関係だが、彼我のよって立つところはあまりに違う。この違いが不毛な議論の繰り替えしの基調にある。韓国の人たちは、日本の植民地時代の歴史の実相に誠実に向き合い、日本の人たちは、敗戦後の一部を切り取って議論を混乱させている。議論の出発点が違うのだから、その議論の交差点で交通整理することも難しい。
特に、安倍晋三総理&麻生太郎副総理兼財務相の悪の枢軸は、徴用工強制労働問題の当事者として、決して自らを反省しようとしない。日本の裁判所でさえ、徴用工への強制労働や賃金未払いを認めている。また、国際人権法でも、植民地時代の賠償については、幅広く認められている。ドイツはもちろん、カナダや米国が日系人強制収容に対して、謝罪をし、賠償を行ったのも、こういう国際的なスタンダードに則っているからだ。安倍一族が「韓国は国際違反」と叫ぶほど「日本てダメじゃん!」という評価が広がっていく。


万歳が作ったナショナリズム
 日韓隔てる無意識の優越感
2019年11月25日:朝日新聞

 スポーツで日本代表の活躍に一喜一憂し、歴史認識問題で海外から批判されると、少なからぬ人々が自分のプライドまで傷つけられたように感じて憤る――。私たちの自我は、自分でも意識できないほど深く「国」と結びつき、私たちの言動に強い影響を与える。「ナショナリズム」と呼ばれるこの現象は、いつ生まれ、私たちをどこに導くのか。

国民国家、個人のアイデンティティーを独占

 自国への強い思い入れは、国家間のあつれきや衝突を生み、日韓関係悪化の一因にもなっている。『ナショナリズムの受け止め方』などの著書がある塩川伸明・東京大名誉教授(政治学)は「人間はさまざまな集団に対して自らのアイデンティティーを感じているが、近代社会では国民国家がそれを独占しやすい。戦争などの非常時には、家族さえ国家の背景に退いてしまう」と指摘する。
 確かに私たちの多くにとって「自分は日本人」というのは疑う余地がなく、遠い先祖もそうだったと思いがちだ。
 けれども、過去数十年の研究によれば、私たちの実感とは逆に、日本を含む世界中の人々が自国への強い帰属意識を持つようになったのは、近代化が進んだ18世紀後半から20世紀にかけてのことで、人為的に作られた面も大きいとされる。
 福沢諭吉は1875(明治8)年、著書「文明論之(の)概略」で「日本には政府ありて国民(ネーション)なし」と喝破した。「学問のすすめ」でも、少数のエリート層を除く人民の大多数が、国のことに無関心な「客分」のままであれば、外国と戦争が起きても戦うどころか逃げ出しかねないと危惧している。

「客分」の大衆を「国民」にしたイベント

 明治維新まで自らの身分や土地に縛られ、政治への関与も禁じられていた「客分」の大衆が、どのようにして「本国のためを思うこと我が家を思うがごとし」(「学問のすすめ」)である「国民」へと変容していったのか。
 歴史学者の牧原憲夫はその過程を「万歳の誕生」という面から分析している。「万歳!」の慣習は江戸時代にはなく、初めて公に行われたのは1889年の大日本帝国憲法発布時のことだ。森有礼(ありのり)文部相の肝いりで、帝国大学生5千人が「天皇陛下万歳、万歳、万々歳」と唱和した。1894年に日清戦争が始まると各地で戦勝祝賀会があり、人々は日の丸の旗が掲げられる中、万歳を唱えながら、通りを練り歩いた。
 戦勝に酔い、「万歳」を唱えることで、見知らぬ者同士の間に一瞬で連帯感が生まれた。人々は「祖国」という共同性を実感し、「国民」が生まれた。
 国民的なイベントで人々が国旗を掲げ、みんなで国歌を歌うことの重要性を指摘するのは、『想像の共同体』などの著書があるナショナリズムの研究者ベネディクト・アンダーソンだ。一人ひとりがその場で味わう一体感に加え、「国内の各地で今、他にも多くの人々が同じ旗を掲げ、同じ歌を歌っている」と想像することで、国レベルでの一体感が生じるからだ。「万歳」は言わば、最も短い国歌の役割を果たしたと言える。
 「客分」を「国のために戦う兵士」へと変えたのも万歳だった。当時、陸軍に召集された農民の手記によれば、東京から広島に向かう列車の中で兵士らは意気消沈していたが、各駅で人々から「万歳!」の斉唱を受けて歓待されることで、次第に「敵愾心(てきがいしん)」を募らせ、自らも万歳を唱えるようになったという。
 「万歳」は今も生きている。今月9日、天皇陛下即位を祝う「国民祭典」の祝賀式典では約3万人が集う中、少なくとも16回、「天皇陛下万歳、万歳、万歳」が繰り返され、話題となった。先月22日の国の行事「即位礼正殿(せいでん)の儀」でも、安倍晋三首相の万歳三唱に参列者が続いた。
 アンダーソンは新聞の果たした役割も重視する。毎日、自分が日常的に使う言葉で書かれた新聞を読み「自分の身近ではないが、国にとって重要な問題」を同時に知る。それを反復することで国内の人々の間に「同じ時間・空間・できごとを共有している」一体感が育まれたという。

ナショナリズムと資本主義、車の両輪で発展

 ナショナリズムは、近代資本主義国家の成り立ちにも、様々な影響を与えている。
 民主主義の促進もその一つだ。自由民権運動を主導した板垣退助らは、明治7年に出した「民撰(みんせん)議院設立建白書」で、議会設立の目的として人民に「天下と憂楽を共にする」ナショナリズムを持たせることを挙げた。日本の民族主義・右翼の源流とされる玄洋社を率いた頭山満も自由民権運動に熱心に取り組んだ。背景には「天皇の下で国民はみな平等」という「一君万民」の思想があった。
 平等主義はナショナリズムの特徴の一つだ。社会学者の大澤真幸さんによれば、ナショナリズムの特徴は「我々国民」とそれ以外の国の人々を区別する特殊主義と、「身内の国民はみな平等」という普遍主義の共存にある。身分制の廃止や人権の確立、普通選挙制、教育の機会平等は、ナショナリズムが持つ「国内普遍主義」の現れといえる。
 ナショナリズムは産業化にも貢献した。ナショナリズム研究でアンダーソンと並び称せられるアーネスト・ゲルナーの説だ。身分制が廃止され、職業選択や移動の自由が確立することで初めて、新たな産業に必要な人材を広く集められるようになった。マニュアルを読んで機械を動かしたり、複雑なお金の流れを管理したりできる人を大量育成するには、公教育の普及が不可欠だった。ナショナリズムと資本主義は車の両輪のように発展してきた。

「無意識の強がり」が生む過剰さ

 一方、昭和期のナショナリズムの異様な高まりは、軍部の台頭を許し、日本が戦争に突入する要因となった。近年もナショナリズムが高揚している。どう考えたらいいのか。塩川名誉教授は「近年の高揚は伝統的なナショナリズムとは性質が大きく異なる」と指摘する。
 20年以上も続く経済停滞、格差の拡大、少子高齢化の急激な進行で、多くの日本人が先の見えない不安におびえ、自信喪失に陥っている。しかし、多くの人々は国力の低下を認めようとせず、逆に無意識のうちに強がってみせる。「日本はすごい」と強調するテレビ番組や、韓国に対する優越性を過剰なまでに主張する人々が絶えないのは、その現れだ。
 こうしたナショナリズムを落ち着かせるには、経済を立て直し、人々の生活を安定させるのが有効なはずだが、経済のグローバル化が進み、国の経済政策が力を失いつつある中では、それも難しい。
 塩川名誉教授は言う。「ナショナリズムには、スポーツの代表をみんなで応援する無邪気な面と、臨界点を越えると誰にも抑えられず、どんどん過激化していく恐ろしい面が同居している。日韓の対立もそうなる危険がないとは言えない」(太田啓之)


川崎のヘイト禁止条例
 罰則の基準をより明確に
2019年11月26日:毎日新聞

 市内の公共の場所でのヘイトスピーチを罰則付きで禁止する条例案を川崎市がまとめた。開会中の市議会で可決されれば、刑事罰を科す全国初のケースとなる。
 ヘイトスピーチの解消に向けた取り組みを進める対策法が2016年に施行された。しかし、禁止規定や罰則はなく、実効性に疑問を示す見方があった。大阪市や東京都が条例を定めたが、罰則は設けていない。
 川崎市の条例案は処罰の対象として、外国出身者や子孫に対するヘイトスピーチのパターンを示した。
 居住地域からの退去や「生命、身体、自由、名誉、財産」への危害を扇動・告知することが対象になる。人以外のものに例えるなど、著しい侮辱も加えている。
 これらに該当した人には市長がやめるよう勧告し、6カ月以内に繰り返せば、命令を出す。それに反し3回目になれば、氏名を公表し捜査機関に刑事告発する。裁判で有罪になれば最高50万円の罰金が科される。
 川崎市には在日コリアンが多く暮らす地域があり、激しいヘイトデモが繰り返されてきた経緯がある。
 市は全国に先駆けて昨年、ヘイトスピーチを行う恐れがあれば、公的施設の利用を制限するガイドラインを施行した。条例案もそうした規制の流れに位置づけられ、成立すれば一定の抑止効果が期待できる。
 ただ、具体的にどんな言動が処罰対象に当たるかの認定は難しい。条例案は市長の勧告や命令、刑事告発に当たって、学識者でつくる審査会の意見を聞くことにした。審査基準の公平性を保つ運用が欠かせない。
 憲法が保障する表現の自由との兼ね合いで、懸念の声もある。公権力の行使が適切に行われるよう、市議会では罰則の適用対象をより明確にしていくような議論が求められる。
 出自という本人にはどうにもならない点を捉えて特定の人種や民族の尊厳を傷つけ、社会的少数者を攻撃するヘイトスピーチは許されない。
 デモは減少傾向にあるものの、インターネット上のヘイトスピーチは後を絶たない。法務局が削除要請を行うほか、大阪市は投稿者名を公表するなどしている。
 だが、対策は追いついていない。根絶に向けて、実効性のある取り組みを検討し続けるべきだ。


日本のみなさん平等に接して、話して
 私たちは同じ人間
2019年11月15日:朝日新聞

 外国人抜きでは成り立たなくなった日本社会。たどたどしい日本語はさほど珍しくなくなった。外国人との共生が叫ばれる中、日本語を学ぶことについて考えた。

あこがれの国でがんばりましょう 技能実習生 ナンダ・モウさん

 日本は技術が進んでいる、あこがれの国でした。日本語の勉強を始めたのは、ミャンマーの大学を卒業した次の年、2015年です。日本に行って、農業をしている親に仕送りして、親孝行するためでした。
 ミャンマーにある技能実習生の送り出し機関での勉強。「あいうえお」、あいさつなどの丸覚えから始めました。村にいるまわりの女性とは違う生き方をしたいと思い、必死に勉強しました。アニメの「アルプスの少女ハイジ」を何度も見ました。
 助詞については、日本語とミャンマー語はほぼ同じなので、大丈夫。たいへんだったのはカタカナ。外国から来た単語がカタカナになるのに戸惑いました。敬語も難しい。目上の人に会った時、どう言えば良かったのか迷うこと、いっぱいあります。漢字は、ひたすら読み書き練習です。
 職場にはミャンマーの実習生がたくさんいますが、社長から「日本語を上手になってもらいたいからミャンマー語は禁止」と言われています。
 来たばかりのときは、日本人スタッフに話しかけることが出来ませんでした。だんだん親しくなって、話しかけることが出来るようになりました。作業をしていて手があいたわずかな時間でも、分からないことを聞きます。みなさん親切に教えてくれます。
 でも、会社の外で日本人に話しかけることは、まずありません。女の子なら話しかけてもいいかな、とも思いますが、男の子は怖くてダメです。今年の2月には大阪、京都、奈良を観光しました。大阪のタクシー運転手さんは親切で、イヤな顔をせず、いろいろ説明してくれました。
 言葉が分からないと気持ちは通じないと思います。だから、日本語を勉強し、日本語能力試験を受けてきました。17年の2月に日本で働きはじめ、その年の12月にはN2(日常会話と新聞の記事がある程度分かるレベル)に合格しました。
 今年の12月にはいちばん難しいN1の試験があります。これまで2回連続で落ちましたが、社長に「合格すれば、就労ビザを取りやすくなる」と励まされています。仕事が終わったら寮で3時間、勉強しています。アニメ「君の名は。」を何度も何度も、見ています。
 来年、技能実習ビザの期限が来てミャンマーに帰りますが、また日本で働きたい。将来はミャンマー人のサポートや通訳をする仕事をしたい。
 日本にいる実習生のみなさん。がんばれば報われる日が来ると信じて日本語、がんばりましょう。日本のみなさん、外国人をあまり好きじゃない方がいるかもしれませんが、同じ人間です。だから、話しかけてください。平等に接してください。(聞き手 編集委員・中島隆)
     ◇
 ナンダ・モウさん 1993年生まれ。2017年に埼玉県越谷市にある総菜会社「クリタエイムデリカ」に入社。

異文化の大変さ、わかってあげよう
 ARC東京日本語学校校長 遠藤由美子さん

 国内外で日本語学校など日本語を教える場所が急増しています。政府の留学生や労働者の受け入れ拡大方針もあって、日本語教師を目指す日本人も増えています。
 外国で助けてもらったので恩返しをしたい、定年後の第二の人生で社会貢献がしたい……志望動機は、十人十色です。なかには、「日本語だから誰でも簡単に教えられる」と思っている志望者もいますが、これは誤解です。
 私は30年以上にわたって、日本人の日本語教師を育てたり、外国人留学生に日本語を教えたりしています。多くの日本語学習の問題集も著しましたが、いつも日本語教育の難しさを感じています。
 「私は日本人です」と「私が日本人です」の違いや、「鍋は食べられない」のに、なぜ「鍋を食べる」と言ってしまうのか、説明できるでしょうか?
 日本人が自然にできる助詞や表現の使い分けを外国人に理解してもらい、使いこなせるように教えるのは並大抵ではないのです。
 多国籍化が進む学び手の母語の理解も必要です。例えば、ドイツ人は「若い(WAKAI)」を「ばかい」と発音しがちです。ドイツ語では、Wをヴと発音する、という知識があれば間違いの理由が分かります。
 日本語の語彙(ごい)の多さも、難しい要因の一つです。英語の「I(アイ)」は、日本語だと「俺」「僕」「あたい」「わが輩」などいろいろです。英語の日常会話で使われる語彙は1万語なのに対し、日本語は3万~5万語ともいわれます。
 日本語学校に求められるのは日本語指導はもちろん、外国人が日本という異文化の中で生活する大変さを理解し、支援することです。
 私たちの学校では留学生を2年間みっちり指導し、日本の大学や大学院、企業に合格できる日本語能力を身につけさせています。入学前にはスタッフが現地の保護者と面談し、授業料の支払いや仕送りの意向も確認します。バイトをせずに授業に集中できる環境を確保するためです。
 来日後は、もしバイトをするなら週28時間を超えたら違法だと教え、バイト先についての細かい聞き取りもします。体調が悪くなったのが学外だったとしても病院に連れて行くなど、生活全体を支援しています。私たちは留学生の人生に責任を負っていると考えるからです。
 留学生が学校にきちんと籍を置いているのか、私たち学校の「管理」が問われています。さらに学校は法律を守るのはもちろん、留学生の人権や自主性を尊重しなくてはなりません。そして、留学生が、この日本社会で自己実現ができるよう導かなくてはなりません。私は業界全体でその責を負いたいと思います。(聞き手 編集委員・中島隆)
     ◇
 遠藤由美子さん 1958年生まれ、86年開校、各種学校化などを経て現在。2万人を超える留学生と日本語教師を育ててきた。

やさしさだけでは、深みなくなる 日本語学者 金田一秀穂さん

 最近は、「やさしい日本語」が注目されています。
 東京五輪を前に急増する訪日観光客や在留労働者向けに使いましょうと自治体などが呼びかけています。
 ことばの大きな役割は情報伝達ということです。今、日本には日本語を母語としない多くの人々が暮らしていますが、全員が日本語を十分に使えるわけではありません。「やさしい日本語」がその真価を発揮するのは、地震や台風といった災害時です。
 日本は災害大国で、外国人はどこにいても被災者になる可能性があります。阪神淡路大震災や東日本大震災では、多くの外国人が亡くなり、避難所で日本語が理解できず、苦労した人もいました。災害時の言葉は人命に直結するからこそ「やさしい日本語」が求められるのです。
 ただ、日本語をやさしくするのは容易ではありません。80年代に当時の国立国語研究所の野元菊雄所長が、外国人向けに「簡約日本語」を提唱したことがありますが、一般の人たちからの評判がやたら悪く、普及しませんでした。
 外国人が増えれば、状況は変わるかもしれません。私が働く学校のアジアや欧米の留学生たちの共通語はすでに「やさしい日本語」です。共通の言葉が日本語だからです。そこから私たちが思いもよらなかった新しい表現が生まれ、日本語の潜在能力を引き出す可能性があります。
 言葉とは、常に移り変わりゆくものです。時代によってその意味や使い方が変わることは避けられません。例えば、「はずい(恥ずかしい)」「キモい(気持ち悪い)」といった短縮言葉が生まれたのは、情報伝達の効率化が一因とされます。
 「食べさせていただきます」や「コンビニさん」といった過度な言葉の「丁寧化」が最近目立つのは、円滑な人間関係を維持するための知恵ではないかと感じます。こうした変化は、言葉が「生きている」証拠といえます。
 日本語の「やさしさ」や「わかりやすさ」の追求もこうした変化の一環ですが、私は疑問を感じます。「ワンフレーズ政治」と言われた小泉純一郎首相の頃から政治家の言葉は、やさしくなり、分かりやすくなりましたが、思考の深みはなくなりました。
 言葉は、通じればいいというコミュニケーションの道具である以前に、私たちが考えたり、感じたり、判断したりするための道具です。多くの語彙(ごい)、複雑な言葉があるからこそ、すぐれた政治や哲学を作り出すことができるのです。
 難しい言葉は敬遠し、ただ「やさしさ」を目指す。こんな「やさしい」日本語が広がってしまうと、日本人の思考力や感受性がおそろしく粗雑で雑駁(ざっぱく)なものになってしまうでしょう。(聞き手・諏訪和仁)
     ◇
 金田一秀穂さん 1953年生まれ。杏林大学教授。国内外で日本語を教え、テレビにも出演。「おとなの日本語」など著書多数。



「日本に要求するように
反省しないなら自己都合の言い訳」
ベトナム虐殺を問う笠デモ
2019年11月25日:ハンギョレ新聞

韓国軍のベトナム民間人虐殺の国家責任を問う初の集会 
「戦争の弊害と実情を誰よりもよく知る韓国も反省すべき」 
12歳「自分と同じ年頃の子らが虐殺された歴史、悲しい 
政府が真実を明らかにしてほしい」
23日、ソウル中区のファイナンシャルセンター前で行われた
「ベトナム民間人虐殺、いま国家の責任を問う」の参加者たちが、大統領府に向かって立ち
「私たちは真実を望んでいます」と叫んでいる。ベトナム式の笠「ノンラー」に
51年前に虐殺された被害者の名前が書かれている//ハンギョレ新聞社

 23日午後、ソウル中区のファイナンシャルセンター前の歩道。ベトナム式の笠を指す「ノンラー」60個が並んで置かれた。ノンラーにはバン・ティ・ノン、レェ・ティ・ソ、グエン・ティ・フィ、グエン・クイ、カオ・ティ・サック、バン・スエンなどの名前が記されている。彼らは皆1968年にベトナムのハミ村で韓国軍によって虐殺された民間人だ。「広場の空間を被害者に渡したいと思います。一度もこの場に立つ機会がなかった人々、私たちが忘れていた人々、大韓民国が忘れた人々の時間が、この場で私たちと共にすることを願います」。ベトナム戦争での韓国軍民間人虐殺問題を広める団体「蓮の花の下」のシン・ミンジュ代表がこう述べると、40人あまりの参加者は、ようやく広場に立ったノンラーの上の名前に向けて黙祷した。
 「蓮の花の下」と韓ベ平和財団など16団体が開いた「ベトナム民間人虐殺、いま、国家の責任を問う」文化祭の一場面だ。彼らはこの場で、ベトナムでの民間人虐殺に対する国家の責任を問う初めての集会を開き、韓国政府のベトナム民間人虐殺被害者に対する謝罪と賠償▽韓国政府のベトナム民間人虐殺問題に対する真相究明の施行▽ベトナムのフォンニィ・フォンニャット村民間人虐殺に対する国家情報院の調査文書公開▽すべての一般教科書にベトナム民間人虐殺問題を追加記載などの措置を求めた。市民たちは「私たちは真実を求める」「民間人虐殺、国家が責任を取れ」「国情院は情報公開を迅速に施行せよ」などスローガンを叫んだ。
23日、ソウル中区のファイナンシャルセンター前で行われた「ベトナム民間人虐殺、
いま国家の責任を問う」の参加者たちが地面に置いた「ノンラー」に書かれた
ベトナム戦争民間人虐殺被害者の名前に向けて黙祷している//ハンギョレ新聞社

 「蓮の花の下」などの説明を総合すると、1964年から始まった韓国軍のベトナム派兵は、クアンナム省とクアンガイ省、ビンディン省とフーイエン省、カインホア省などの村で、9千人を超えるベトナム民間人虐殺被害者を作った。この問題は1999年、『ハンギョレ21』を通じて韓国社会で公論化され、その後始まった「ごめんなさいベトナム」運動が20周年を迎えた。当時、『ハンギョレ21』の記者として記事を作成したコ・ギョンテ22世紀メディア代表は「ベトナム戦争での民間人虐殺に対する態度を見ると、韓国は『慰安婦』問題を否定する日本を非難する立場ではないかもしれない。韓国政府が日本政府のようにならないようにしてほしい」と語った。ベトナム戦争での民間人虐殺事件が初めて国内に知られた1999年に生まれたキム・ナム「蓮の花の下」運営委員は「1999年に生まれ20歳の青年になったが、いまだに政府は証拠資料がないということを盾に民間人虐殺の言及を避けている。歴代大統領も『遺憾だ』『悲劇的だ』という言葉から前に進めていない」と指摘した。
 ベトナムのフォンニィ・フォンニャット村の民間人虐殺に対する調査文書を公開していない国情院に対する批判も続いた。民主社会のための弁護士会(民弁)のイム・ジェソン弁護士は「1968年2月12日、ベトナムのフォンニィ・フォンニャット村で青龍部隊が作戦を展開して、70人以上の民間人が死亡した。2016年に国情院に当該資料を公開するよう情報公開請求を行った」とし、「昨年7月に裁判所が関連文書を公開するように判決を下したが、国情院は依然として公開を拒否している。公開拒否の論理として『ベトナムの被害者が告訴する際の韓国政府の対応戦略がまだない』という理由を挙げている。被害者の観点の論理はない」と述べた。
 ベトナム戦争での民間人虐殺問題が教育課程でちゃんと扱われていないという指摘も出た。「蓮の花の下」の活動家のキム・ジニョン氏は「2016年、6種の国定教科書のうち5種がベトナム民間人虐殺を言及したが、生徒たちは(ベトナム戦争を)経済発展に寄与した戦争だと学んでいるのが現実」だとし、「米国は、教科書でソンミ村ミライ集落虐殺(1968年、米軍がベトナムで行った大規模な民間人虐殺)など米国の過ちも扱っている。生徒たちは韓国の過ちの問題についても一緒に知りたい」と話した。キム・ミンチェさん(13)も自由発言で「学校で韓国の発展だけを教わるのではなく、つらい歴史も一緒に学びたい」と語った。
23日、ソウル中区のファイナンシャルセンター前で行われた「ベトナム民間人虐殺、
いま国家の責任を問う」の参加者のうちの1人が「ベトナム国民に謝罪します。
私たちが謝ります」と書かれたプラカードを持っている//ハンギョレ新聞社

 参加者たちは口を揃えて政府の積極的な真相究明を要求した。チュン・ジュホ君(12)は「友達とベトナム民間人虐殺について討論しながら、僕たちと同じ年頃の子らが虐殺されたのを見て、本当に悲しかった」とし、「政府は被害者遺族たちに謝罪すべきで、真実をまず明らかにする努力をしなければならないと思う」と話した。イ・ヘジョンさん(35)は「政府の透明な認定が必要だ。韓国人ほど戦争の弊害と実情をよく知る人がいるだろうか。日本に要求するのとは違ってベトナムに対しては何の反省もしないのは、自分の都合のいい言い訳」と述べた。
 一方、文化祭が行われている間、太極旗と星条旗を掲げた一部の老人たちが発言者と参加者を指差したり、警察に抗議することも起こった。イ・ジウさん(20)は「集会を開くたびに海兵隊の帽子をかぶった人たちに何か言われる。あなた方が過ちを犯したのではなく、あなた方も国家暴力に動員された被害者だと言いたい」と話した。
文・写真 チョン・グァンジュン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )



韓日の法律家団体
 徴用問題の解決求め共同宣言
2019年11月20日:朝鮮日報

【ソウル聯合ニュース】韓国と日本の法律家団体は20日、ソウルと東京でそれぞれ記者会見を開き、両国政府と日本企業に対して日本による植民地時代の強制徴用問題の解決を求める「強制動員問題に関する韓日法律家による共同宣言」を発表した。

 両国の法律家団体は共同宣言で、強制徴用被害者個人の損害賠償請求権が消滅していないことは韓国大法院(最高裁)の判決だけでなく、2007年の日本の最高裁判決と日本政府が表明した立場から確認できると説明。韓国大法院判決は被害者の権利を確認し、被害を回復するために導かれた結論であり、尊重しなければならないと強調した。
 また、日本製鉄や三菱重工業など大法院判決で賠償を命じられた日本企業は被害者の権利回復のために判決を受け入れるべきであり、日本政府は判決受け入れを妨害してはならないとした上で、韓日両政府と被告の日本企業は強制徴用被害者の名誉と権利の回復のため、必要かつ可能な措置を迅速に取らなければならないと主張した。
 韓国の弁護士団体「民主社会のための弁護士会(民弁)」の金鎬チョル(キム・ホチョル)会長は「安倍晋三首相と日本政府は韓日法律家の法と良心に基づく度重なる助言に耳を傾け、人権を踏みにじられた被害者の無念を晴らし、韓日両国と北東アジア、世界平和の道へ進まなければならない」と強調した。
 ソウルで行われた会見には日本メディアも多数出席し、共同宣言に高い関心を示した。日本の記者が「日本企業は賠償以外に謝罪も行うべきだとする原告(強制徴用被害者)もいることについてどのように考えるか」と質問すると、金氏は「謝罪と金銭的賠償の二つは、国際人権法の原則と前例にのっとっても極めて当然の要求であり権利だ」と述べた。
 共同宣言には韓国と日本の10以上の法律家団体が参加した。「法律専門家として共通して持つ法的認識と解釈に基づき、強制動員問題の真の解決に向けて方向性を共有する」という基調の下、数カ月の議論の末に共同宣言を完成させた。
 韓国大法院は昨年、1965年の韓日請求権協定により強制徴用被害者の損害賠償請求権は消滅していないとの判断を示し、日本企業に賠償を命じた判決を確定した。しかし、日本企業は賠償を履行しておらず、日本政府も韓日請求権協定で個人の損害賠償請求権が消滅したとする立場を維持している。



GSOMIA破局回避
 米圧力で譲歩し合い「土壇場の延期」
2019年11月22日:朝鮮日報

【ソウル聯合ニュース】破局寸前だった韓日関係が22日、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効期限まであと約6時間を残し、終了から一転、維持されることになった。

 韓国はGSOMIAの終了を「条件付き延期」、日本は輸出規制問題の解決に向け韓国と対話に乗り出すことを発表した。これで両国は関係悪化の発端となった日本の輸出規制問題を前向きに解決していくとの大枠で合意し、対話を通じて問題を解決できる最小限の時間を稼いだ。ただ、こうした措置が日本の輸出規制撤回につながるためには、これからの交渉が一層重要になったとの分析だ。
 韓国政府の今回事実上の延長を決めたのは、輸出規制問題で日本政府の態度変化の兆しがあったと判断したからだ。
 「日本の態度変化なしにはGSOMIAの終了が避けられない」との立場を示してきた文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、日本の態度に対し、ある程度前向きに評価したとも言える。
 実際に日本の発表には「懸案解決に寄与できるよう、課長級の準備会議を経て局長級の対話を行い、両国の輸出管理を相互確認する」「韓日間の健全な輸出業績の蓄積および韓国側の適正な輸出管理運用のため、(規制品目と関連した)再検討が可能となる」などの内容が盛り込まれたと、青瓦台(大統領府)側は伝えた。
 青瓦台高官は「(半導体生産に使用される材料)3品目の場合、輸出管理運用を再検討できるようになり、ひいては輸出管理政策の対話を通じ、ホワイト国への復帰も議論できるようになった」と述べた。つまり、対話を通じ、3品目の輸出規制問題や輸出管理の優遇対象国「グループA(旧ホワイト国)」から韓国を除外した問題を元の状態に戻す可能性が出てきたとの説明だ。
 このように日本が態度を変えたのは、米国の外交圧力が作用したとの分析だ。韓米日の安保協力を懸念した米国は韓国と日本に対し圧力をかけ、ぎりぎりのタイミングで韓日両国が譲歩し合い、当面失効を回避する結果をもたらした。 

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は日本の態度変化に加え、GSOMIAの終了が韓日関係や韓米関係に及ぼす影響などを複合的に考えて決定を下したとみられる。
 文大統領としては米国からの圧力が相当な負担となった。一部では韓日のあつれきが韓米同盟にまで悪影響を及ぼすとの懸念も出ていた。
 このような状況で文大統領も韓日関係改善のきっかけを用意しようと努力する姿勢を示していた。今月4日に東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席するため訪問したタイ・バンコクで、ASEANプラス3(韓中日)首脳会議前に安倍晋三首相と11分間歓談したことも、その一環と受け止められる。
 したがって今回、GSOMIA終了の条件付き延期を決定したことで、堅固な韓米日の安保協力を維持するだけでなく、韓日関係の正常化の出発点になり得るとの期待も高まっている。
 12月に予定された韓中日首脳会談で文大統領と安倍首相による首脳会談も実現可能という見方も出ている。
 野党側を中心に提起された「韓米関係の悪化」に対する懸念を払拭(ふっしょく)する効果も予想される。
 ただ、韓日両国が解決しなければならない難題は多く残されているとの指摘もある。あつれきの根本的な原因の一つである強制徴用問題については、今回の外交ルートによる協議では議論されなかったという。
 また輸出規制問題についても、「対話の余地」が生じたものの、実際に輸出規制が撤回され、日本が輸出管理の優遇対象国「グループA(旧ホワイト国)」に韓国を再び入れるまでには、多くの過程が残っているとの指摘もある。
 この過程で議論が進展しなければ、GSOMIA終了が再び持ち上がる可能性もある。青瓦台(大統領府)関係者も「日本の輸出規制問題を解決するための協議が進行される間、暫定的にGSOMIA終了を停止するもの」とし、「われわれはこの文書(GSOMIA終了通知)の効力をいつでも再び発生させる権限を持っている」と強調した。
 青瓦台の姜琪正(カン・ギジョン)政務首席秘書官は、「GSOMIAの破棄撤回」などを求め、青瓦台前でハンガーストライキを続けている最大野党「自由韓国党」の黄教安(ファン・ギョアン)代表のもとを訪れた席で、「(日本と)対話してうまくいかないようであれば、GSOMIAを終了する」とし、「GSOMIA終了のカードは依然としてわれわれが持つ交渉カード」との認識を示した。
 与党関係者は「文大統領のこの日の決定は韓日関係の破局を防ぎ、関係正常化の道を進むための度量が大きい決定」とし、「韓国政府が誠意を見せただけに、次は日本が輸出規制を撤回するなど肯定的な回答をする番」と話した。



論点 日韓GSOMIA失効か
2019年11月20日:毎日新聞

 日本と韓国が防衛上の機密情報を交換するため2016年11月に結んだ軍事情報包括保護協定(GSOMIA、ジーソミア)が23日午前に失効する可能性が高まっている。韓国が延長を望まないためだ。失効すれば、北東アジアの安全保障環境に影響を及ぼす可能性が高く、日米両政府は協定継続を求めている。3人の識者に問題点を聞いた。

「韓国に利益なし」は誤解 道下徳成・政策研究大学院大副学長

道下徳成・政策研究大学院大副学長

 北朝鮮の脅威から韓国を守るシステムには、米韓同盟、日米同盟と、それを支える日本の重要影響事態法、事態対処法制などがある。日本が巨額の費用を投じて整備を進めるミサイル防衛(MD)システムも韓国の安全保障に貢献している。MDは一義的には日本国民の生命や財産を守るものだが、在日米軍も守る。朝鮮半島有事の際に、米軍が安心して日本の基地を使える態勢を日本が作っている。日米同盟は日本のためだけではなく、韓国の防衛にも大きく貢献している。
 そうした中、利益を得る立場にある韓国が「GSOMIAは不要」と言うのはおかしい。安全保障面から出た発想ではなく、内政の論理から導かれた産物だと思う。
 韓国にはGSOMIAは「韓国の方が多く日本に情報を与えているだけでメリットがない」という誤解がある。それは違う。北朝鮮が日本列島をまたぐような長距離弾道ミサイルを保有するようになったことで、日本でしか収集できない情報が非常に増えている。韓国でも専門家はこれを理解しているが「日本の肩を持っている」との批判を浴びかねないため、口に出しにくい事情がある。
 日本以上に協定破棄を嫌がっているのは米国だ。米国は日本と違い、前線で韓国とともに防衛の任に当たる。命がけで韓国を守ろうとしている。それにもかかわらず、米軍の安全を脅かすようなことを、守られる方の韓国が言い出すことに怒っている。
 さらに言えば、当局者は口に出さないが、トランプ米大統領がGSOMIA破棄をきっかけに在韓米軍撤退を再び言い出しかねないとの懸念もある。韓国の現政権の中にも、韓国における米国の影響力を下げたいと思う人が実は居る。GSOMIA失効は、予想もしなかった大きなマイナス効果をもたらす可能性がある。
 韓国がこうした行動を取る背景には「力をつけてきた」という自信があるためだとの見方もできる。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2018年の国防費は日本が世界9位、韓国は10位だ。過去10年で日本の国防費は2・3%の微増だが、韓国は28%増だ。国内総生産(GDP)に占める割合は日本が0・9%、韓国は2・6%もある。これはすごいことだ。1960~70年代は北朝鮮の軍事力が韓国をはるかに上回っていた。皮肉半分に言えば、韓国は自分の防衛態勢を弱めることができるほどになった。
 GSOMIA失効により短期的に得をするのは北朝鮮と中国だろう。米国の韓国への関与が弱くなると想定され、韓国の立場が極めて弱くなるためだ。
 このため韓国がぎりぎりの場面で延長を受け入れる可能性はまだ残る。喜ばしい事態だが、日本は政治的に厳しい立場に追い込まれかねない。韓国は「米韓同盟を守るために決断した」と日本を批判しながら継続を選択する可能性がある。そうなれば米国は「韓国は理性的な判断をした」と評価し、「日本は何をするのか」と対応を求めてくるかもしれない。日本はうまく立ち回る必要がありそうだ。【聞き手・会川晴之】

北朝鮮・中露に付け入る隙
 池田徳宏・元海上自衛隊呉地方総監(海将)














池田徳宏・元海上自衛隊呉地方総監(海将)

 自衛官の現役時代に弾道ミサイル対応の検討や対処に関わってきたが、日韓GSOMIAが失効しても、北朝鮮の弾道ミサイル発射に対する自衛隊の初動にはあまり影響は出てこない。
 弾道ミサイルの発射は、最初に米国の早期警戒衛星が熱源を探知する。情報はリアルタイムで日本に伝わる仕組みだ。それを受け、海上自衛隊のイージス艦と航空自衛隊のレーダーサイトがミサイルを探知して追尾。弾道の軌道を解析して着弾地点を割り出す。短時間でこの一連の作業をする。
 距離的に北朝鮮に近い韓国が、日本より早く発射を探知しても、それを自動的に日本に知らせる仕組みはない。韓国のイージス艦がミサイルを探知しても、日本のイージス艦などとネットワークでつながっていないためだ。日韓両国は瞬時に情報を伝えることはしていない。日本は、自分の国はできるだけ自分で守れるように装備を導入し、足りないところは米国からの情報で補っている。このため、北朝鮮の弾道ミサイル発射直後は、韓国の情報がなくてもこれまで通りの対応ができるだろう。
 GSOMIAは情報交換のルールを定めたものだ。もらった情報は第三国に渡さないこと、目的外に使用しないことを約束することで、締結国間の信頼関係が向上する意味がある。GSOMIAがあれば、閉まっていた蛇口が完全に開くと捉えられがちだが、そうではない。これまでも日韓は情報交換をしてきており、GSOMIAの締結でさらに信頼が高まったことで、より蛇口が開いたと考えるのが正しい。北朝鮮の弾道ミサイルへの初動対応以外では、核・ミサイルの開発状況に関する情報など韓国が独自に入手したものが、日本にとっても有効となるかもしれない。
 韓国も、失効の影響は戦術的分野ではあまりないとみられる。確かに、韓国から遠く離れて飛んでいく弾道ミサイルの軌道情報は、韓国では得られない。それは地球が丸いためだ。レーダーの水平線から外れた位置の状況は把握できない。北朝鮮は、韓国のレーダーでは捕捉が難しい最後の段階で、変則的な軌道を描くロシアの「イスカンデル」と外見が似ているとの指摘がある短距離弾道ミサイルを発射し始めている。今後は複数の弾頭を搭載しそれぞれの弾頭で別々の目標を攻撃する「多弾頭再突入体(MIRV)」や、大気圏に再突入する際に敵の迎撃弾をかわす軌道修正のできる「機動式再突入体(MARV)」あるいは「極超音速滑空体(HGV)」を搭載した弾道ミサイルを保有することも予想される。その際、韓国がその軌道や能力を分析したいと思ったら、日本とではなく米国との情報交換を考えればよい。
 失効のデメリットは日米韓の連携が崩れたと見えてしまうことだ。日米韓は東アジアの平和と安定に努力するという方向性のもと、防衛交流や共同訓練をしてきた。その流れの中で、GSOMIAを締結すればより連携が強固になるとして結んだ。日米韓に対抗してきた北朝鮮や中国、ロシアに付け入る隙(すき)を与えかねない。【聞き手・町田徳丈】

韓国には元々重荷だった
 趙成烈・韓国国家安保戦略研究院諮問研究委員

趙成烈・韓国国家安保戦略研究院諮問研究委員

 日本の輸出規制強化措置がなかったら、GSOMIAは自動延長されていただろう。韓国内では、議論すらなかったからだ。出発点は日本企業に対し強制動員被害者に慰謝料として賠償を命じた昨年10月の韓国最高裁判決だったかもしれない。だが、日本が輸出規制強化措置を導入したことは、韓国では半導体産業を潰しにきたと受け止められた。日本が規制強化の理由に「安全保障上の懸念」を挙げたこともあり、これを機にGSOMIA破棄が対抗カードとして浮上した。
 韓国政府には、四つのシナリオがあった。日米韓の情報共有に関する取り決め(TISA)を含め(1)GSOMIAもTISAも破棄(2)GSOMIAのみ破棄(3)GSOMIAを維持し、情報共有を停止(4)現状維持――だ。このうち、(1)を選ばなかったのは、米国との関係を考慮したからだ。韓国政府も、日米韓の安保協力の必要性は認めている。TISAを通じた情報共有は今後も有効であり、日米韓の協力に大きな影響はないだろう。
 破棄を宣言した背景には、そもそもGSOMIAが重荷だったこともある。日米韓の地域同盟の足がかりとなりうる協定だからだ。米韓・日米同盟により韓国と日本がそれぞれ米国とつながる「ハブ・アンド・スポーク」体制がある。それに比べ、現在、日米豪印が推進する「インド太平洋戦略」は、中国をけん制する意味合いが強い。北朝鮮との統一問題を抱える韓国としては、朝鮮戦争の当事者である中国との関係を考慮せざるを得ない。インド太平洋戦略自体に反対はしないが、中国を念頭に「敵対同盟」を作る構想には参加できないというのが韓国政府の基本的な立場だ。
 また、インド太平洋戦略では、米韓同盟が日米同盟の下に位置づけられる危険性もあり、一層慎重にならざるを得ない。くしくも日本では2015年に集団的自衛権の行使容認を含めた安全保障関連法が成立、16年に施行された。日韓間の軍事協力が強化されれば、朝鮮半島有事の際に日本の介入を許すことになるという懸念もある。私はそもそもGSOMIAは締結すべきではなかった協定だと思う。
 日本の輸出規制強化措置は、GSOMIAを破棄する理由を探していた韓国に機会を与えた形になった。この措置への対抗カードとして切られた以上、日本の態度が変わらない限り韓国政府が方針転換する大義名分がない。世論調査でも破棄が支持されており、来年4月には総選挙が控えている。ロウソク集会で誕生した文在寅(ムンジェイン)大統領は、たとえトランプ米大統領が電話したとしても、延長にかじを切れないだろう。
 現在の日韓関係は、今まで水面下にあった問題がすべて噴出した状態にある。それを解決できれば、日韓間の障害は何もなくなる。北朝鮮の非核化を通じた平和プロセスが進展すれば、米韓同盟が果たす役割は変化するし、弱体化する。「米国がいない東アジア」を考えた時、現時点では難しくても、日本と韓国は安保面も含めて協力するしかなくなる。今、まさに両国関係は分岐点にさしかかっている。【聞き手・渋江千春】

米は協定維持を要請

 GSOMIAは、国や機関同士で軍事上の機密情報を提供し合う際、第三国への漏えいを防ぐために結ぶ協定。日本は米国や北大西洋条約機構(NATO)のほか、韓国とも2016年11月23日に締結した。効力は1年で、90日前に終了の意思をどちらかが書面で伝えない限り自動更新される。協定維持を望むエスパー米国防長官は、17日にバンコクで開かれた日米韓防衛相会談で「北朝鮮や中国を利することになる」と韓国に再考を促している。

ご意見、ご感想をお寄せください。
〒100-8051毎日新聞「オピニオン」係 opinion@mainichi.co.jp

 ■人物略歴
道下徳成(みちした・なるしげ)氏
 1965年生まれ。国家安全保障局顧問、米ウィルソンセンターのグローバルフェロー。専門は日本の防衛・外交政策。安全保障論。米ジョンズ・ホプキンズ大博士。著書に「北朝鮮瀬戸際外交の歴史」。

 ■人物略歴
池田徳宏(いけだ・とくひろ)氏
 1958年静岡市生まれ。防衛大卒、81年に海上自衛隊入隊。「やまゆき」艦長や海上幕僚監部防衛部長、護衛艦隊司令官、佐世保地方総監などを歴任し、2016年に退官。

 ■人物略歴
趙成烈(チョ・ソンリョル)氏
 1958年生まれ。韓国・成均館大博士(政治外交学)。韓国国際政治学会の副会長などを歴任。青瓦台(大統領府)国家安保室政策諮問委員会の委員を務める。



日韓情報協定の維持
 最悪の事態は回避された
2019年11月23日:毎日新聞

 日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効という最悪の事態は、土壇場で回避された。両国の貿易に関する協議を行うことでも合意した。
 協定が破棄された場合は日米韓3カ国に不協和音が広がり、地域の不安定化を招くことが懸念されていた。日韓の安保協力の枠組みがひとまず維持されたことに安堵(あんど)する。
 韓国政府は協定終了の通告を停止するとともに、輸出規制に関する協議が行われている限り、世界貿易機関(WTO)への提訴も停止すると発表した。協議により輸出規制が撤回されれば、正式に協定を延長するという理屈である。
 日韓の間でどこまで折り合いがついたのかは定かでない。それでも合意に至ったのは、両国とも米国にらみの側面が大きい。
 韓国は今年8月に協定の破棄を日本に通告したものの、日本が韓国への輸出規制を見直すなら再考するという立場に転じた。同盟国の米国が、北朝鮮や中国を利するとして破棄に強く反対したためだ。
 最近、北朝鮮は日韓両国を射程に入れる短・中距離弾道ミサイルの発射を重ねている。日米韓のミサイル防衛システムをかいくぐる新兵器も開発している模様だ。
 米朝協議の行方は不透明感を増している。一方的に期限を年内と区切った北朝鮮は、米韓合同軍事演習の延期を決めた米国に中止を求めるなど要求水準を上げている。
 日米韓が連携を強めて対応すべき局面である。感情的な対立により、
地域の緊張を高めてはならない。
 日本側も、輸出規制によって韓国が予想以上に反発したうえ、米国から憂慮を伝えられて対立の出口が見えない状況だった。
 ただし、訪日韓国人客が激減するなど民間交流は細り、双方の世論は悪化し続けている。ただちに関係が改善するとの見方は早計だろう。
 関係悪化の根源である元徴用工問題をめぐり、解決に向けたさまざまなアイデアが韓国側から出ている。双方とも、日本企業の資産売却だけは防がなければならないという認識で一致している。
 今回の合意を機に、少しずつ信頼回復に向けた歩みを進めていく必要がある。



琉球人遺骨返還訴訟「研究者の執念 ゾッとする」
今も沖縄は植民地なのか
京都大反論「盗掘・違法ではない」
2019年11月24日:東京新聞・こちら特報部

 約90年前、京都帝国大(現在の京都大)の人類学者が沖縄県今帰仁村の古墓「百按司墓」を訪れ、多数の人骨を持ち去った。15世紀に琉球王国を築いた第一尚氏にまつわる墓とみられ、同大に返還を拒まれた子孫らが「遺骨を返せ」と提訴している。訴えの根本には、今の沖縄と本土の関係にもつながる植民地主義や差別への憤りがある。なぜ遺骨は戻らないのか。                (安藤恭子)

今月上旬、苔むした緑の森の中にある「百按司募」へ向かった。ごつごつした岩がむき出しの崖に沿い、横穴の地形を生かした墓が点在する。その一つを岸壁の間からのぞくと、無数に散らばる青白い骨が見えた。別の墓の奥には、黒々と光る複数の骨つぼが並ぶ。
 沖縄で遺骨は「骨神」と呼ばれ、死者を大切にする文化と信仰がある。
 「この高井岸壁に足をかけ、何回も、何回も乗り越え、親族の了解も得ずに、祖先の骨を奪っていった研究者がいる。その執念と倫理観の欠如を想像するとゾッとする」。第一尚氏の子孫で原告の一人。玉城毅さん(69)=うるま市=は憤りを隠さない。
 百按司墓は、遺体を地上に安置して骨化させる「風葬墓」の様式を取る。「按司」は琉球王国時代の地方豪族を表し、数多くの按司の墓という意味だ。一帯は60以上の古墓が集中し、「今帰仁上り(ぬない)」と呼ばれる巡礼の対象とされてきた。
 1929年、京都帝国大助教授だった金関丈夫氏(故人)が研究目的で、百按司墓など沖縄の各所から人骨を持ち出した。金関氏が著した「琉球民族誌」(法政大学出版局)によれば、当時の墓の様子について「白骨累累として充満」「多くは完全骨で、一見はなはだ質が良い」と記録。地元巡査や校長の同行を得て、2日間の作業で12箱分の骨を運び出し「百按司募を採集し尽くした」とある。
 これらの人骨が京都大に保管され続けている事実を2017年、地元紙の「琉球新報」が報じると、研究者や市民から、保管状況の確認や返還を求める動きが相次いだ。しかし、京大に「個別の問い合わせには応じない」などと拒まれたとし、玉城さんら5人は昨年12月、京都地裁に提訴した。
 訴状では、子孫の了承を得ない遺骨の持ち出しを「盗掘」と主張。憲法が保障する信教の自由や、遺骨返還を求める権利を認める「先住民族の権利に関する国連宣言」(07年)に基づき、京大が保管するとみられる26体の遺骨の返還を求めている。
 玉城さんは祖先に呼ばれたような感覚があって、10年ほど前から百按司墓に立ち寄っては手を合わせてきた。「研究者は墓も骨もモノとしか見ていない。骨のない墓を拝んできた私たちはいったい何だったのか」
 京大側は訴訟で、金関氏は県庁や警察を通して収集手続きを行っており「盗掘ではない」と主張。憲法に人骨の返還請求権は規定されておらず、国連宣言も「原告らの返還請求権を基礎づけるものではない」として、法的根拠とならないとの認識を示した。
 原告らに遺骨の所有権があるという訴えについても、「百按司墓は久しく祭祀継承者が絶えていた。原告らが祭祀継承者である根拠が不明」と否定し、人骨の人物特定や原告らとのつながりを立証するよう求めている。京大が人骨を保管する行為についても「何らの違法もない」とする。
 「こちら特報部」は京大広報課に保管状況や今後の研究目的を質問したが、期限内に回答はなかった。

デスクメモ
 以前、沖縄戦や空襲の犠牲者で遺族らに戻っていない遺骨の保健施設を取材した。遺体が見つからず、お墓が空っぽという人たちに出会ったからだが、引き取り手を探している施設もあれば、放置されたような所もあった。遺族にとって本当に大切な存在であることを知ってほしい。        (本)

本土の差別問う
不平等な関係 基地と同じ
アイヌ遺骨北大は返還 子孫ら「霊魂に平安与えたい」

 第一尚氏の子孫で原告の亀谷正子さん(75)=うるま市=は憤る。「ヤマト(本土)には、基地反対の民意を否定され続けたうえ、先祖の骨まで返してもらえない。子孫である証拠を出せと言われても、家計譜は太平洋戦争の沖縄戦で焼かれてしまった。私たちを門前払いして返さないというのは、差別にほかならない。今も沖縄は植民地ですか」
 原告団長で石垣島生まれの龍谷大教授、松島泰勝さん(58)は「辺野古新基地建設を巡る反発を背景に沖縄の自己決定権を問い直す流れがあった」と訴訟の背景を語る。
 1879年に日本が琉球王国を併合した後、琉球の文化や言語は禁じられ、皇民として同化政策が進められた。「百按司墓で遺族の了承を得ずに遺骨を集めた過程は、植民地下での不平等な関係だからこそできた」と松島さんは語る。
 収集の目的は、本土とその周辺の琉球やアイヌの民族が同じルーツにあるか確かめることで、日本統治の正当性・優位性を理由づけることだったとみる。訴訟には、日本による植民地支配と構造的差別を問う思いが、込められている。
 本土でも訴訟を支える動きが広がっている。関東の会が9月に発足し、支援組織は沖縄、大阪、奈良、滋賀の計5カ所となった。関東の会では沖縄の歴史を学ぶツアーなどを計画する。父親が那覇市出身という事務局の与儀睦さん(60)は「今も遺骨を返さないというのは、植民地主義に基づく差別が続く表れ。憤りの一方で、本土で生まれ育った一人として責任も感じる」と複雑だ。
 同じように研究目的で集められたアイヌ民族の遺骨は、訴訟による和解を経て、北海道大などから返還されてきている。頑なに見える京大の対応の理由について、松島さんは京大の「清野コレクション」の存在を挙げる。京都帝大で金関氏を指導していた清野謙次教授(故人)が収集した、国内外約1500人の人骨資料のことだ。「沖縄に返せば、他の地域からも遺骨返還の要望が相次ぐ。コレクションのステータスが下がる」。ゲノム(全遺伝情報)研究の進歩で、人骨の研究価値が高まっていることもあるという。
 清野コレクションを巡っては、別の研究者が1933~35年に奄美群島(鹿児島県)から持ち出した260体の遺骨についても、返還や保管状況の確認を求める運動が起きている。京大は今月19日付の文書で「2024年度末を目標に資料の全容把握を目指す」などとし、現状で応じていない。奄美大島に住むライターの原井一郎さん(70)は「死者と共に折々を過ごす奄美の精神風土や文化を破壊する行為。沖縄と連帯していく」と述べる。
 対照的なのが、日本統治下の台湾に転勤した金関氏が、沖縄の遺骨を持ち込んだ台湾大(旧台北帝国大)の対応だ。百按司墓の33体を含む63体の遺骨が3月、沖縄県埋蔵文化財センター(西原町)に返還された。ただ、原告らが百按司墓への「再風葬」を求めているのに対し、県と今帰仁村の両教委、台湾大は昨年「永続的な保存」で合意している。
 浜口寿夫・県文化財課長は「百按司墓の人骨は県民にとっても貴重な学術資料。被葬者もはっきりせず、将来的には村施設ができるまで県が保管し、百按司墓の解明にもつなげたい」と再風葬を否定する。松島さんは「研究目的を完全に否定するものではない。琉球人が静かに手を合わせられる状況に戻すため、話し合いたい」と述べる。
 遺骨返還問題の根底にあるのは、今の本土と沖縄の関係にも通じる「問答無用の考え方」と松島さんは話す。「先祖の遺骨を返してほしいというのは、人間として当然の願い、慰霊の対象として尊重しない研究者と、私たち琉球人との隔たりは大きい。遺骨が今後、DNA調査で破壊されるようなことがないよう、私たちのやり方で葬り、マブイ(霊魂)に平安を与えたい。



松尾貴史のちょっと違和感
ローマ教皇来日
 安倍氏よ、「誠実な人になりなさい」
2019年12月1日:毎日新聞

 フランシスコ・ローマ教皇が来日した。つい最近まで、多くのマスコミは「法王」と言っていたのに、この来日をきっかけにしたかのごとく「教皇」に改めたようだ。ずっと、「法王」は仏教をイメージしてしまうので少なからず違和感を覚えていたが、ようやくすっきりした。
 「最新鋭の強力な兵器を作りながら、なぜ平和について提案できるだろうか。差別と憎悪の演説で自分を正当化しながら、どうやって平和を語るのだろうか」「武力は膨大な出費を要し、連帯を推し進める企画や有益な作業が滞り、民の心を台無しにする」という素晴らしい問いかけを残した。
 もちろん、このメッセージは、全くの正反対のことをやり続ける日本の為政者へ向けたものであることは疑いようがないだろう。しかし、その人物には全くもってぬかにくぎ、のれんに腕押しの状態だったようだ。世界で唯一核兵器の惨禍を経験しながらも、核兵器禁止条約にすら署名しない国の首相だが、なんと今回の来日で教皇と会談までしている。乱暴な言い方だが、「どの面下げて」という印象しかない。
 そして、「日本とバチカンは、平和・核なき世界の実現・貧困の撲滅・人権・環境などを重視するパートナー」と語った。「騙(かた)った」というべきか。どの口がこれを言ったのだろう。よくこれだけ調子の良い驚がくのデタラメが言えたものだ。いや、決して「日本」と「安倍晋三」はイコールではないので、最後にこう補足すれば、デタラメにはならない。「ですが、私は逆行させています」と。
 教皇を相手に「パートナー」呼ばわりするのは不遜な印象も受ける。尊大な物言いには慣れっこになってはいるが、さらに驚いたのは、カトリック信者である麻生太郎財務相を「あなたと同じフランシスコの洗礼名を持っている」と紹介した。「セクハラという犯罪はない」と放言したり、公文書の改ざんや隠蔽(いんぺい)の責任も取らなかったりと、害毒しか振りまかない恥ずかしい人物と「名が同じ」と言ってはあまりに非礼ではないか。
 しかし、自分の財産をすべて貧しい民に分け与えて、生涯弱い者とともにあったアッシジの聖人の名前が麻生氏に付けられているとは、これほどの皮肉も珍しい。
 さらには、「桜を見る会」と同じく「有名人」と並ぶ写真は拡散したいようで、公式のツイッターで官邸スタッフが「本日、安倍総理はフランシスコ・ローマ教皇を官邸にお迎えし、会談に臨みました」と写真付きで投稿した。そこでは、ローマ教皇のアカウントを併記するつもりで全く別人のアカウントを掲載してしまい、翌日削除して再投稿していた。間違いは誰にでもあるけれども、チェックや推敲(すいこう)はしないのか。どれほどの意識で投稿されたかを察する現象だろう。
 ローマ教皇の来日でのスピーチやその他の発言は、安倍政権の姿勢とは正反対でぶつかるものだということは明白だが、それを踏まえて教皇の「どれほど複雑な状況であろうとも、自分の行動は公正で人間的であるように。言葉や行動が偽りや欺まんであることが多い現代において、特に必要とされる、誠実な人になりなさい」という言葉を振り返ると、安倍氏やその所業をかばうための隠蔽、改ざん、うその上塗りを重ねる人々に、あまりにも「どんぴしゃり」の符合で、ただ恥ずかしくなるばかりだ。
 日本でのカトリック信者は44万人というから、人口比0・3%だろうか。その国でこれだけの注目度だということは、被爆地からのローマ教皇のメッセージは世界からも注目されただろう。ついでに、それに対する政治家の大うそすらも。



日本に石炭火力廃止促す
 国連報告書 温暖化「破壊的」警告
2019年11月27日:東京新聞

仙台港で運転中の石炭火力発電所=仙台市宮城野区で

 世界の温室効果ガス排出が今のペースで続けば、今世紀末の気温が産業革命前と比べ最大3.9度上がり「破壊的な影響」が生じるとの報告書を国連環境計画(UNEP)が26日、公表した。パリ協定が努力目標に掲げる1.5度の上昇幅に抑えるには「今は年に1.5%ほど増えている排出量を年7.6%ずつ減らす必要がある」と指摘し、社会や経済の在り方の転換を求めた。
 主な国ごとに有効な対策を示し、日本には二酸化炭素(CO2)排出が多い石炭火力発電所の新設をやめ、既存のものは段階的に廃止する計画の策定を促した。企業などのCO2排出量に応じて課金する制度の強化も必要だとした。
 来年に本格始動するパリ協定は、温暖化の深刻な被害を避けるため産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目指す。気温は既に1度程度上がったとみられる。
 報告書は、人の活動による2018年の世界の排出量は553億トン(CO2換算)で過去最高だったと推定。このままでは今世紀末に気温が3.4~3.9度上がり、パリ協定に基づく各国の削減目標を達成しても3.2度の上昇になるとした。
 上昇を1.5度に抑えるには30年の排出量を今の目標より320億トン減らす必要があり、実現のため毎年7.6%の排出削減が求められると分析した。2度未満を目指す場合でも、毎年2.7%の削減が必要としている。具体的な削減策として、再生可能エネルギーの拡大、省エネの強化、電気自動車の普及などを挙げた。
 20カ国・地域(G20)で世界の全排出の約8割を占めるため、率先した対策強化が必要だとも指摘している。




熱血!与良政談
改憲に見る首相の私情=与良正男
2019年11月27日:毎日新聞

 「桜を見る会」の公費私物化疑惑が一段と深まる中で、憲法改正の前提となる国民投票法改正案の今国会成立は見送られる公算が大きいという。これで安倍晋三首相の自民党総裁任期中の改憲は難しくなったという見方もある。
 ところが、そうなると今度は「首相は苦境を脱するため、またぞろ早期の衆院解散・総選挙に踏み切るのではないか」といった話に政界の関心は向かいがちだ。
 その前に改めて考えてみたい。なぜ首相は改憲にこだわるのか。その理由についてだ。
 数年前、自民党の幹部から「首相は後継に谷垣禎一氏を考えている」と聞いたことがある。党総裁経験者の谷垣氏を幹事長に起用する異例の人事を首相がした頃だ。
 タカ派の安倍首相が改憲を主導するのは野党の反発が強いと首相本人も承知している。自らの手で改憲したいのはやまやまだが、仮にできなければ、自分の後は、ハト派と目される谷垣氏が進めた方が野党も乗りやすくなる。
 そのくらいの計算は安倍首相にもある――。そんな解説だった。
 その後、谷垣氏は自転車事故で政界を引退し、この話は立ち消えになった。だが当時、半信半疑で聞いていた幹部の解説を最近、また思い出したのは、どうやら安倍首相は岸田文雄政調会長を後継の一番手と考えているようだからだ。
 呼応するように従来改憲に慎重だった岸田氏は地方政調会を開き、改憲の旗振り役をしている。
 谷垣、岸田両氏は自民党の派閥「宏池会」の流れを継ぐ。宏池会は吉田茂の直系、池田勇人が創設した。吉田とライバル関係にあったのが首相の祖父、岸信介だ。
 岸が改憲を狙ったのに対し、吉田や池田は経済成長を優先した。そして吉田の軽武装路線が長く保守の本流となる。安倍首相には、野党や一部新聞に加え「宏池会も祖父を邪魔してきた」という積年の恨みがあるように思える。
 しかも今度、参院の憲法審査会長に据えたのは、これまた岸田派の林芳正氏だ。そこには岸田氏と林氏とでタカ派色を薄めるだけでなく、「宏池会もついに改憲に乗り出した」とアピールする狙いがあるのではなかろうか。宏池会いじめでもあり、祖父以来の一種の復讐(ふくしゅう)劇だと私は見ている。
 なぜ今、こんな話を?
 言うまでもない。首相が憲法を私物化しないでほしい。そう切に願うからだ。(専門編集委員)

(社説)
皇室制度の今後 政治の怠慢に終止符打つ時
2019年11月18日:朝日新聞

 天皇陛下の即位に伴う儀式は今月の大嘗祭(だいじょうさい)でひと区切りがつく。皇位継承のあり方など皇室制度をめぐる諸課題について、政府は検討を先延ばししてきたが、これ以上の放置は許されない。開かれた場での議論をすみやかに始めるべきだ。
 そのさい大切なのは、皇室を取り巻く状況を正しく認識し、手当てを急ぐ必要があるのは何か、主権者である国民の思いはどこにあるかを適切に見極め、将来につなげることだ。
 憲法は「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と定める。皇室制度は、国会や内閣、裁判所などと同じく国家のシステムでありながら、それを担うのは特定の一家一族に限られるという、他にはない特徴をもつ。
 思い通りの絵を白地の上に描くようにはいかず、一人ひとりの年齢や歩んできた道、今後の人生にも目配りしたうえで、結論を導く必要がある。さもなければ制度と現実との間に齟齬(そご)が生じ、多くの人の理解と支持を得るのは難しくなるだろう。
 ■女性宮家の検討急げ
 今回の代替わりによって皇位継承順は、秋篠宮さま、悠仁さま、常陸宮さまとなった。
 有資格者が高齢の常陸宮さまを入れて3人なのは心細いが、悠仁さまは13歳になったばかりだ。夏には皇嗣である秋篠宮さま、紀子さまと共に初めて外国を訪問し、ブータンの王室や国民と交流した。いま、継承順の変更につながる見直しをするのは現実的とはいえまい。
 一方で、早晩立ちゆかなくなるのが明らかなのは、皇族全体で担ってきた活動の維持・存続だ。皇室は現在18人で構成されるが30代以下は7人。悠仁さまを除く6人が未婚の女性で、皇室典範によれば結婚すると皇籍を離れることになる。
 広がりすぎた感のある活動を、その規模に見あう程度に絞り込む作業は必須だし、実際に見直しは進んでいる。だが皇室と社会との接点が減れば、「日本国民の総意」のうえに成り立つ象徴天皇制の基盤がゆらぐことにもなりかねない。
 対応策として7年前に野田政権が打ち出したのが、「女性宮家」の創設だ。皇位継承の資格や順位には手をつけない前提で典範を改正し、女性皇族が結婚後も皇室に残って、それまでと同じく活動を続けられるようにしようとしたものだ。ところが安倍政権に交代してから動きは止まってしまった。
 この構想について改めて検討を進める必要がある。宮家をたてる女性皇族の範囲や、本人の意思を要件とするか、家族も皇族とするかなど、積み残しになっている課題は少なくない。
 ■旧皇族復帰案の無理
 安倍首相が議論を避けてきたのは、宮家の創設が、女性天皇やその流れをくむ女系天皇に道を開く恐れがあるとの懸念からだ。自らの支持基盤で、男系男子路線の護持を唱える右派に配慮しているのは明らかだ。
 しかしそうやって歳月を無為に過ごすうちに、皇室の危機はいっそう深まった。この不作為の責任をどう考えるのか。
 自民党の一部議員らは、第2次大戦後の改革で皇籍を離れた旧宮家の男性を復帰させる案を主張する。だが約600年前に天皇家から分かれた親王の末裔(まつえい)であり、戦後ずっと民間人として生活してきた人々だ。今さら皇族の列に戻し、国民が成長を見守ってきた女性皇族を飛び越えて「国民統合の象徴」の有資格者とすることに、幅広い賛同が得られるとは思えない。
 旧宮家の誰を、どんな手続きで、いかなる順位をつけて皇位継承者にしようというのか。現皇族の養子にして正統性を担保する考えもあるようだが、双方への強制になりかねず、人権に照らして大いに疑問だ。
 朝日新聞の社説はかねて旧宮家復活には疑義を唱えてきた。その主張に変わりはない。
 ■分断避ける知恵を
 象徴天皇制を続けていくのであれば規模の維持は不可欠であり、現実的な策として女性宮家問題に結論を出すことを優先すべきだ。政府は識者らから再び意見を聴くなどして、成案をまとめる作業を急いでほしい。
 女性・女系天皇については、男女平等の理念や、男子誕生の重圧から皇室を解放しようとの考えから支持が広がる。一方でとりわけ女系天皇への反対は根強く、政党間でも見解が割れ、合意形成は難しい状況だ。
 国民統合の象徴をめぐり、国民に深刻な亀裂が生まれるのは好ましくない。継承者の安定確保にむけ方向性を見いだすべく議論を深めねばならないが、性急に答えに至ろうとすると危うさをはらむ。当面は悠仁さまと新女性宮家の様子を見守り、判断は将来の主権者に委ねる。そんな考えもあるように思う。
 皇室のあり方を決めるのは国民だ。歴史を尊重しつつ、意識や価値観の変化を的確にとらえ、時代にかなう姿を探る。その営みの大切さを、代替わりを通じて社会は学んだはずだ。

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