人間としての教員

 一方、注目すべき動きがある。
 米配車大手ウーバー・テクノロジーズが日本で展開する「ウーバーイーツ」の配達員が十月、労組を結成した。
 配達員たちは雇用されている従業員ではなく「個人事業主」だ。個人事業主は法的には「労働者」ではないため労災や雇用保険、最低賃金などの規定が適用されない。配達員たちは特に事故時の十分な補償を求めている。
 まだある。東京電力の関連企業で各家庭の電気メーターの交換業務を請け負う人たちが昨年十二月に労組を結成した。請負契約打ち切り問題で団体交渉を求めている。請負で働く人も個人事業主だ。
 個人事業主でも労組は結成できる。それは労働組合法が失業者も含め雇用されていなくても広く労働者と認めているからだ。プロ野球の選手らが労組をつくり球団と交渉する例もある。
 個人事業主だが、実態は取引先から指示を受けるなど事実上労使関係にある働き方をしている人もいる。雇用形態に関係なく働く側は企業より立場は弱い。幅広く働く環境を改善せねばならない。
 労働運動は下火となったが、団体交渉などで企業と交渉できる労組の役割は今も小さくない。
 雇用される従業員でも今後は兼業や副業に挑戦する人や、フリーランス、外国人労働者も増える。どんな働き方をしても頼れる労組の存在はさらに重要になる。
 十一月に発足三十年を迎える連合もこの課題に直面している。
 今後は、こうした多様な働き方への支援に乗り出す。労組を結成できない人の連合加盟も認めるという。日本最大の労組の中央組織として当然の対応だ。
 連合は大企業で働く組合員が中心で「正社員クラブ」ともやゆされてきた。パートなど非正規労働者への対応が後手に回ってきたことは否めない。同じ轍(てつ)を踏むべきではない。
 「働き方改革」は労組のあり方の再考や意識改革も迫っていると自覚してほしい。



関西生コン支部 昨夏から延べ60人以上起訴
労組に迫る抑え込み
威力業務妨害、恐喝… 学者ら「恣意的」と抗議
2019年11月22日:東京新聞・ニュースの追跡

 「全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部」の組合員らの逮捕が相次いでいる。昨夏以降、関西の4府県で威力業務妨害や恐喝未遂などの罪で、延べ60人以上が起訴された。正当な労働組合活動に対する「恣意的な法執行」として、労働法の研究者らに抗議の動きが広がっている。   (佐藤直子)

 「労働組合活動を理由とする刑事事件としては戦後最大規模だ」
 労働法研究者の毛塚勝利・中央大名誉教授は、こう断じる。
 1965年に設立された関西生コン支部は、企業の枠を超えて個人加盟できる産業別労働組合。春闘で勝ち取った労働条件を全体に波及させるなど、大手ゼネコンやセメントメーカーが力を持つ生コンクリート業界で異色の存在だ。
 その関生支部の幹部や組合員が昨年8月以降、大阪、京都、和歌山、滋賀の4府県警によって大量に逮捕されている。容疑のほとんどは威力業務妨害と恐喝(未遂)。例えば、執行委員長ら3人が滋賀県警に逮捕された昨年8月の事件で、検察側は、3人が同県内の工場倉庫の増改築工事で使用する生コンを巡り、大坂の商社の支店長に加盟業者と契約するよう迫ったと主張している。
 一連の捜査に対し弁護側は罪に問われているのは>工事現場で業者の法令違反を指摘するコンプライアンス活動>運賃の引き上げを求めたストライキ>アルバイトの運転手を正社員とするよう労働条件の改善を求めた活動―などと反論している。
 毛塚氏は「捜査機関は反社会的集団による妨害行為という先入観で対応している」と話す。大津地裁で開かれた公判では、証人尋問の際に傍聴人席に大きな遮蔽版が設けられていたという。「思考停止の舞台を作り出す司法に背筋が寒くなった」
 何度も逮捕、起訴が繰り返されているのも特徴。執行委員長は昨年8月から6回逮捕され、副委員長は今月14日で8回目の逮捕となった。2人とも400日以上拘留が続く。保釈条件も厳しく、接触禁止の対象を広範囲に設定。関生支部の事務所への出入り禁止など、組合活動を不可能にする内容となっている。
 「関西生コン弾圧弁護団」に一人、小田幸児弁護士は「こんな取り締まりが認められるなら、共謀罪を持ち出さなくても組織を壊滅させることができる」と批判する。
 関生支部によると、昨年8月に一連の逮捕が始まるまで約1700人の組合員がいたが、激減したという。組合員の一人は「関生に関係していたら仕事をもらえなくなるといって、やむなく離れるメンバーも多い。みんな孤立している。仲間を取り戻したい」と訴える。
 憲法28条では団結権や団体交渉権、争議権が保障され、労働組合法では組合活動の刑事免責が保障されている。毛塚氏は「正当な行為が威力業務妨害などとされたら組合活動は成り立たなくなる。労働組合法上の労働組合と認められているのだから、組合活動の正当性の有無の観点から判断して対応すべきだ」と求める。
 毛塚氏ら労働法学会の有志は「適正な法執行」を求める声明文をまとめており、今月中にも公表する準備を進めている。
 今月7日には、全国の地方議員や議員経験者124人が捜査を批判する声明を出した。大阪府豊中市の木村真市議は「企業の枠を超え、労働条件改善に取り組んできた関生支部は、政治闘争や社会運動の下支えもしてきた。黙っていられない」と危惧する。


(社説)
パワハラ指針 働く人を守るを原点に
2019年11月22日:朝日新聞

 職場でのパワーハラスメント(パワハラ)を防止するために事業主が講じるべき措置や、何がパワハラに該当する行為かなどを、具体的に定める国の指針が大筋で固まった。
 厚生労働省はこの案をもとに一般から意見を募り、年内の正式決定をめざすという。「パワハラと認められる範囲が狭い」との心配も残っており、懸念の払拭(ふっしょく)に努めてほしい。
 パワハラ対策は企業の自主的な取り組みに委ねられてきたが、大企業は来年6月から、中小企業は22年4月から防止措置をとることが、法律で義務づけられた。相談窓口の設置や社内規定の整備などが求められ、取り組まない企業には厚労省が行政指導で改善を求め、悪質な場合は企業名が公表される。
 企業側には、業務上必要な指導との線引きが難しいとの声があり、典型例などを指針で示すことになっていた。
 厚労省が先月示した指針の素案では、パワハラを「身体的な攻撃」「過大な要求」などの6類型に分け、「必要以上に長時間にわたる厳しい叱責(しっせき)」「仕事を外し長期間、別室に隔離」などをパワハラに該当する事例として示した。
 一方で、「誤って物をぶつけてしまう等によりけがをさせる」「経営上の理由により、一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせる」などを、該当しない事例として挙げたため、「まるで使用者の弁解カタログ」と批判を浴びた。
 今回の案で、これらの項目は削除された。新たに、パワハラかどうかの判断基準として、相談した労働者の「心身の状況や受け止めなどの認識にも配慮」することも明記された。
 だが、まだ万全とは言えない。例えば「社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない労働者に対して一定程度強く注意する」ことはパワハラに該当しないとされるが、「一定程度強く」の基準はあいまいだ。労働者側に落ち度があればパワハラにはならないと受け取られかねない、との懸念もある。
 就職活動中の学生やフリーランスの個人事業主など、雇用関係にない人たちを守るための措置は「必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい」との表現にとどまった。これでどれほどの企業が、有効な対策をとるだろうか。
 厚労省は、指針で示しきれない部分は解釈の通達などで補い、実効性ある対策につなげたいという。
 指針がパワハラの範囲を狭め、使用者側の言い訳に使われては困る。働く人を守るという原点を、忘れてはならない。


「指導できる部活は?」
採用試験で書かせる 自治体の5割、
一部は加点も 学習院大教授ら調査
2019年11月12日:朝日新聞

 教員採用試験で、出願書類などに部活動についての記載項目がある自治体は9割にのぼり、うち教員として指導可能な部活を書かせているのは5割――。そんな結果が、長沼豊・学習院大教授(教科外教育)の研究室の調査でわかった。
 部活は中央教育審議会の働き方改革の答申で「必ずしも教師が担う必要のない業務」とされている。「指導可能な部活を尋ねる項目は答申とずれており、見直す必要がある」と長沼教授は話す。
 調査したのは今年9月。47都道府県と20政令指定都市の計67自治体の教育委員会に郵送し、46自治体から回答があった(回収率69%)。県と市で合同の試験を行っていると答えた県市については1自治体と数え、44自治体分の回答を得たとした。
 結果によると、出願書類や面接票などに、部活の記載項目が「ある」と答えたのは41自治体で93%。その内容として「自身の部活の経験」を書くよう求めるのは、項目を設けた全41自治体で、「教員として指導可能な部活動」を書かせるのは、22自治体で54%だった(複数回答可)。
 内容を活用する段階として「1次試験」と答えたのは10自治体、「2次試験」は22自治体。「加点する」のは2自治体で「20点、ただし1次試験のみで加点」「最大100点」と回答した。「考慮して採点する」と答えたのは1自治体。採点に反映させるのは計3自治体にとどまった。
 中教審の働き方改革の答申では「採用において教師の部活動の指導力を過度に評価しないよう留意すべき」だとしている。また、現職の教員たちが「未来の教師にサービス残業を強制するような質問をやめてほしい」と訴えるネット署名を呼びかけ、1万1千筆以上の署名が集まっている。
 「部活は自主的な活動。自身の経験の項目は、受験者の個性や特性を見たいという点では理解できるが、経験しなかった受験者にはハードルが高くならないか気になる」と長沼教授。指導可能な部活の項目は「多くの受験者は部活の指導は必須ととらえるだろう。部活を経験しなかった人や否定的な体験をした人は、受験を避けるのではないか」と話す。
 採点に反映させるのが3自治体にとどまることについては「受験者は記載したものは全て評価されると受けとめる。評価の対象にしないなら、募集要項などに明記するか、記載項目から削除するかすべきではないか」と話している。(編集委員・氏岡真弓)

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