今が、“大構想”実現のチャンスだ。

20世紀後半以降のポストモダン社会においては、単純な“諸悪の根源”という図式は描くことができず、さまざまな問題が群として絡み合ったリゾーム構造をもつ複合体として存在している。
日韓関係というものも、単純な二国間の問題ではなく、中・米など日・韓のバックグラウンドを考えなければ理解もできなくなっている。
この絡み合った、群としての日韓問題をどう解していくのか、外交不在のABE外交に期待はできないが、それでも、かすかな関係改善の動きが感じられてきた。
拙ブログでは、何度も訴えてきたが、「最悪の日韓関係」と言われる現在だが、日韓の問題を解決するだけでなく、東アジアの平和構築という大きなイシューを掲げて、バックグラウンドも含めた常設の話し合いのテーブルを設定できないものかと考えている。以前から東アジアの平和構築のカギはモンゴルだと思っている。
さて、「東アジアの平和」が妄想で終わるのか、今が“大構想”実現のチャンスなのだが…。



今再びマルクスの理由
 資本主義が招いた気候変動と格差
2019年11月2日:朝日新聞

 暮らしを脅かす気候変動、経済格差。若者を中心に、こうした現状を変えようという世界的なうねりは、「資本主義」という経済システムへの異議申し立てだ……。米国やドイツで学んだ32歳の経済思想家は、こう読み解く。新しい経済のありようを見いだす鍵は、カール・マルクスの「資本論」だとも。どういうことですか。

「今のシステムではだめだ」若者から

 ――「生態系が崩壊しようとしている」「行動を怠る大人は悪だ」と訴えた16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの国連でのスピーチが世界で共感を呼んでいます。
 「グレタさんの演説や活動は、日本では、『環境破壊を憂える少女の勇気ある表明』という文脈で報道されがちですが、そこに込められた強い政治的主張は注目されていません。『大人は無限の経済成長というおとぎ話を繰り返すな』『今のシステムでは解決できないならシステム自体を変えるべきだ』という彼女の発言は、資本主義システムが深刻な異常気象を引き起こしており、経済成長が必須の資本主義のもとでは気候変動問題に対処できないというメッセージなのです」
 ――そこに注目が集まらないのは、極端な主張だからでは?
 「極端ではありません。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の昨年の報告書でさえ、経済成長だけを求めるモデルは持続可能性がない、として脱成長モデルを検討するようになっています。気候変動が国際的な課題になったのはIPCCの最初の会合が開かれた1988年ですが、その後30年間、政治家たちは空約束ばかりで時間を浪費してしまいました」
 ――とはいえ、2016年には産業革命前からの世界の平均気温の上昇を2度未満に抑える目標を掲げたパリ協定も発効しました。
 「パリ協定は、あくまで資本主義のもとで市場メカニズムを利用し、イノベーションや経済成長を阻害しない程度の炭素税で解決しようとする対策です。30年前ならその枠組みでも対応できたでしょう。でも、もう遅すぎます」
 ――問題が放置され続けてきたのはなぜでしょうか。
 「タイミングが悪かった面もあります。冷戦体制が崩壊し、グローバリズムという名のもとで市場原理主義的な資本主義が地球を覆っていきました。ところが、気候変動対策は市場の規制や生産の計画化を求めるため、無視された」
 「科学技術への過信もこの間に広がりました。インターネットなど情報技術が発展し、政治や社会の仕組みを変えずに技術や市場メカニズムで解決できるという信仰で崖っぷちまで来てしまった。見落とされてきたのは、気候変動は正義の問題であるという点です」
 ――正義、ですか。
 「世界の所得上位10%が温室効果ガスの半分を排出している一方で、下から数えての35億人はわずか10%です。富裕層ほどたくさん消費し、排出している。ですが、結果的に異常気象の影響を大きく受けるのは、発展途上国の貧困層や、今の子どもたちの世代です」
 「日本でも気候変動をめぐる不平等の構図=不正義、は見られます。大型台風の被害は、インフラが整っていない地方で影響が格段に深刻化しています」
 ――つまり先進国の豊かな人たちは、もっとつつましく生きるべきだという話ですか。
 「『足るを知れ』といった精神論ではありません。行き過ぎた資本主義を人間と環境を破壊しない形に変えよう、という議論なのです。上の世代が戸惑うほどグレタさんが絶大な支持を受けた背景には、今のシステムではだめだという危機感が直感的なものも含めて若者たちに広がっていることがあります」
 「この30年間で結局、誰が『豊か』になりましたか。日本でもかつて構造改革という言葉が流行しました。改革、競争、経済成長……。これらを追い求めた結果、非正規雇用が増え、低賃金や長時間労働が蔓延(まんえん)しています。成長すれば社会全体が潤い、誰もが豊かさを享受できる、という論理がでたらめだったことは、日本社会の現実が物語っています」
 ――とはいえ、日本は経済成長すらあまりしていません。それでももっと再分配、ですか。
 「問題は富が『足りない』ことではないのです。十分に生み出されているのに、一部の人が独占していることです。世界全体の富を独占する一部のお金持ちには、もっと課税して分配すればいい」
 「再分配を強化したうえで、景気を良くすれば、経済が活力を取り戻す、という議論では足りません。この種の議論は結局、既存の経済の仕組みを変えず、政府や日本銀行が上から政策を変えれば社会が良くなるという発想ですから。それでは、ここで対策を打つか否かで人類の未来が変わる、『大分岐の時代』である現代の気候危機には対応できません。重要なのは、今の貧困や労働搾取の問題と気候変動の問題の根源は一緒であり、資本主義そのものが問題である、ということなのです。かつてマルクスが警告していたことです」

資本論が説く、人間と自然の関係

 ――どういうことですか。
 「米国の哲学者マイケル・ハートがマルクスを参照しながら、根源的な私たちの共有財産という意味で『コモン』という概念を提唱しています。水やエネルギーがそうですが、利益を生み出す元手としての地球=環境も本来はコモンです。しかし、資本主義下では一部の人がこれを囲い込み、管理し、他の人には使わせないようにして解体していきます。多くの人々は『商品』として購入しない限り、手に入れられなくなる」
 「資本主義は『希少性』を人工的に作り出し、人々をたえざる労働と消費に駆り立てるシステムです。家のローン、子育て、老後の生活費……。常に足りない、だからもっと働こうとする。本来、技術発展でこれだけ生産力が上がったのだから、労働時間を減らしてもよいはずなのに、です」
 ――資本主義の矛盾を指摘したマルクスは、地球環境問題を考えていたのですか。
 「そうです。マルクスの資本論の本質は、人間と自然環境の強い結びつきにあることが、最近の研究でわかってきました。マルクスは、人間の生活の本質は『自然とのたえざる物質代謝』にあると考えていた。人間が労働を通じて自然に働きかけ、受け取り、廃棄する循環プロセスです。ところが資本主義ではこの人間と自然の関わり合いが徹底的にゆがめられ、両者の破壊が起こります。これは資本主義である以上、不可避だというのがマルクスの主張です」
 ――ただ旧ソ連などの社会主義国でも、資本主義国と同じように環境破壊が進んでいました。
 「旧ソ連は今説明した意味でのマルクスの思想の本質の体現ではありません。政策で『上から』経済を成長させようとした。成長第一主義という意味では資本主義と同じです。本来は、資本主義の問題の解決に欠かせない人間と自然の両者を包括する『ポスト資本主義』の構想が必要で、今その変化の萌芽(ほうが)が見えてきました」
 ――具体的には?
 「グリーン・ニューディールです。公共事業で各産業分野での再生可能エネルギーへの転換を後押しし、新しい雇用を生み出そうとします。生活に欠かせないものは気候変動対策の観点から『公有化』していく。たとえば、自家用車を減らすため、公共交通機関を無償化するといった政策などを掲げています。そして待遇がよくないケア労働を重視して、人間の生活中心の経済に移行するべきだと。しかもこのような政策が国境を越えて訴えられ、支持されるようになってきた。欧米の左派は、もはやグリーンでなければ、左派ではない。マルクスが今生きていたら、このようなポスト資本主義の構想こそ社会主義と呼ぶでしょう」
 ――グリーン・ニューディール政策は2008年のリーマン・ショック後に、米国のオバマ大統領も政策に掲げていましたが。
 「当時は雇用政策や景気対策が主で、成長を目的とした『グリーン』です。今、形になってきているのは、経済成長を一義的な目標にしない社会を作るための手段としての『グリーン』です。成長や再分配重視の『反緊縮』は日本でも最近語られますが、主張が人間の側だけに偏り、環境の問題は無視されている。失敗した20世紀型の議論に見えます」
社会見直す議論、日本でも必要
 ――欧米の左派のような、社会のありようを根底から変えようという議論は、日本ではまだ広がりを欠くように思います。
 「日本には、『政治主義』とでも言える強固な考え方が根付いているためではないでしょうか。選挙を通じてしか、社会は変えられない、と。ただ、社会運動によって政治や経済を変えることもまた民主主義なのです」
 「最近ドイツでは、労働組合が短期的な利益を度外視してグレタさんを支持する、といった動きも出てきました。下からの突き上げで社会を変える土壌が育っていくことは、人々がコモンを資本の支配から取り戻す一歩になる。実際に1年前に、気候変動への対応を求めるグレタさんの声がここまで広がるなんて誰も思っていなかったのですから」
 ――ところで、そもそも斎藤さんは、なぜマルクスに関心を持ったのですか。
 「大学に入学した2005年は改革ブームの時代でした。格差や貧困は自己責任の問題として語られ、かくいう私も漠然と他の人に対し『もっと頑張ればいいのに』と思っていた。そんなとき読んだのが、マルクスでした。社会の問題は、身の回りの人間関係や自分の意識の問題としてではなく、もっと構造的に考えなければならない。そう教えてくれたのです」(聞き手・高久潤)
     ◇
 1987年生まれ。大阪市立大学准教授。専門は経済思想。マルクスの思想とエコロジーの関連を分析した研究でドイッチャー国際賞を受賞。著書に、哲学者マルクス・ガブリエルらとの対談「未来への大分岐」(集英社新書)「大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝」(堀之内出版)。



韓国の国会議長「日韓で寄付募る」
 徴用工問題で私案
2019年11月5日:朝日新聞

 来日中の韓国の文喜相(ムンヒサン)・国会議長は5日、東京の早稲田大で講演し、元徴用工問題の解決に向けて、日韓の企業や国民から幅広く寄付を募り、補償に充てるという私案を発表した。実現のため、関連法案を韓国国会に提出することも検討しているという。
 文氏は講演で、昨秋に韓国大法院(最高裁)が日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた判決をめぐり、解決のためには韓国側にも新たな立法的努力が必要だと強調。解決策は元徴用工問題だけではなく、慰安婦問題なども含めて「包括的に解消する内容でなければならない」と訴えた。
 そのうえで、補償の財源確保のためには、徴用工問題に関係する日韓の企業が資金を出し合うという韓国政府の「1プラス1」案では難しいと指摘。これに代わる私案として、元徴用工問題とは無関係の日韓企業や両国民からも「自発的に寄付を募る方式」を提案した。日韓慰安婦合意で設立され、文在寅(ムンジェイン)政権が解散した「和解・癒やし財団」の残余金の60億ウォン(約5億6千万円)も、「(財源に)含める」と語った。
 文氏は、新たな基金制度を作るため、まずは韓国国会に関連法案を提出する意向を表明。「和解協力の扉を開くことができると期待したい」と述べ、日本側の賛同も求めた。
 文氏は来日前の朝日新聞とのインタビューでも「支援法案を作った」と語っていたが、詳細については明らかにしなかった。(鈴木拓也)


韓国議長「天皇発言」改めて謝罪
 新たな首脳宣言を提案
2019年11月3日:朝日新聞

 慰安婦問題をめぐり、今年2月に上皇さま(当時は天皇陛下)による謝罪を求めた韓国の文喜相(ムンヒサン)・国会議長(74)が、4日に東京である20カ国・地域(G20)国会議長会議を前に、朝日新聞のインタビューに応じた。自身の当時の発言について、「心が傷ついた方々に、申し訳ないとの心をお伝えしたい」と謝罪した。
 文氏は「慰安婦問題では両国間の合意や談話があったが、解決できていない。被害者の心にしこりと恨み、嘆きが残っているからだ。心の痛みを癒やすことが解決の中心だと強調するなかでの発言だった」と釈明。そのうえで「慰安婦問題は心の問題だと思っている。日本から心のこもった謝罪の言葉が一つでもあれば、解決できると考えている」と述べた。
 問題の発言は、2月にあった米メディアとのインタビューで出た。文氏は当時、上皇さまを「戦犯の息子」とも呼んだ。この点についての見解も問うたが、直接は答えなかった。
 文氏の発言は日本で大きな反発を招き、当時の河野太郎外相が韓国の康京和(カンギョンファ)外相に謝罪や撤回を求めるなど外交問題化。文氏は6月に訪韓した鳩山由紀夫元首相に謝罪する発言をした。
 一方、元徴用工訴訟について、文氏は原告らや韓国世論が納得できるような支援法案を作ったと話した。韓国では与野党が様々な支援法案を国会に出している。文氏は自らの法案を明かさなかった。国会関係者によると、原告らへの支援に充てるため、被告の日本企業のほか、韓国企業の参加、韓国国民の寄付も財源として検討する内容という。
 文氏は「訪日で日本側の反応を探り、国会提出を見極めたい」と語った。国会審議を主導して複数の法案を一本化させ、韓国内で解決への機運を高めたい思惑がありそうだ。
     □
 今回の文氏の訪日では山東昭子参院議長との会談が開かれる可能性もあったが、山東氏側が拒否した。山東氏は10月に文氏の慰安婦問題をめぐる発言撤回を求める書簡を送っていた。(ソウル=神谷毅、武田肇)

元徴用工問題で政治家の役割を強調

 韓国国会の文喜相(ムンヒサン)議長は10月下旬に行った朝日新聞のインタビューで、元徴用工訴訟をめぐり、原告らを支援する独自の法案を作るとともに、問題解決に向けて国会審議をリードする考えを明らかにした。また、日韓関係の改善に向け、両国の政治家が努力する必要性を強調した。
 文在寅(ムンジェイン)大統領は元徴用工の原告らが納得できる形での解決を強調してきた。朴槿恵(パククネ)前政権が2015年に日本と交わした慰安婦合意に一部の元慰安婦が反発し、文大統領も合意を批判してきたためだ。
 文議長はインタビューで、韓国政府は日本企業に賠償を命じた大法院(最高裁)判決に従う必要があって動きにくく、原告らや世論に受け入れられる案をつくるのも簡単でないと指摘。そのうえで、「政治家なら動ける」と述べた。
 韓国で政府が認定した元徴用工ら約14万9千人のうち、日本企業を訴えた原告は約1千人にとどまる。原告団は大法院判決をてこに、訴訟に加わっていない人たちも支援を受けられる制度整備を求めている。
 国会には与野党から支援法案が複数提出されており、文議長は「まとめて審議できる」と指摘し、「解決法の模索は可能だ」と述べた。また「被害者と日韓の関連企業が和解を通じて問題を解決することが最も望ましい」とも話した。
 ただ、日本政府は被告の日本企業に負担が生じる形の解決案は受け入れられないとの立場だ。文議長は戦後に日韓が緊張した多くの局面を振り返り、「かつては韓日双方の議員連盟の政治家が重要な役割を担った。韓日の政治指導者、特に議会は今の葛藤を解消するため全力投球しなければならない。事態を放置することは、決して両国国民の利益ではない」と述べた。
 さらに、1998年に小渕恵三首相と金大中(キムデジュン)大統領が未来志向の協力をうたった「日韓パートナーシップ宣言」を挙げ、「宣言の核心は、過去の直視も同時にうたったことだ。韓日の首脳会談を開いて新たな宣言を出し、両国関係の礎を残すため、安倍晋三首相の政治決断とリーダーシップに期待する」と語った。
 そのうえで「夢のような話」とことわったうえで、文大統領の故郷の韓国南部の釜山と、安倍首相の選挙区の下関はフェリー航路でつながっていると強調。「韓日の縁を結ぶその船上で新たな宣言を出せれば象徴的で、両国民も世界も喜ぶのでは」とも主張した。
 また、「韓日関係の悪化は、歴史、法律、経済、安保が複雑に絡まりあっているが、私は心の問題だと考えている。首脳同士が会って心の問題をめぐる雰囲気を変えれば、不買運動や日本旅行の自粛も、一瞬のうちになくなる」と話した。
 文議長は、北朝鮮問題をめぐる日本の関与への期待にも言及した。「朝鮮半島の平和プロセスで日本は決定的な役割を果たすが、南北が統一されるまで北朝鮮は社会主義体制で、中国、ロシアと行動する」と指摘。「韓日は東アジアで、普遍的価値の民主主義と市場経済、法治、人権を共有し、世界のモデルになった」とし、「韓日は米国と共に自由民主主義と市場経済を尊重しており、長い目でみれば今の状況はなんとか解決しないといけない」と述べた。(ソウル=神谷毅、武田肇)

略歴 文喜相氏

 ムン・ヒサン 1992年に国会議員に初当選し、6選。盧武鉉(ノムヒョン)政権で大統領府の秘書室長(2003~04年)などを務め、18年7月から国会議長。


「ルビコン川渡ってしまう」
元徴用工判決、迫る資産売却
2019年10月30日:朝日新聞

 元徴用工訴訟で、韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じた判決から30日で1年が経つ。日韓の膠着(こうちゃく)状態が続くなか、来年1月にも、原告が賠償金の代わりに被告企業の資産を売ることが可能になる見通しだ。両政府は売却回避を願うが、打開策は見いだせていない。

 「強制動員を賠償せよ」

 ソウルの日本大使館前など約10カ所で29日、市民団体のメンバーが1人ずつ街頭に立ち、「判決履行」を訴えた。参加した女性(37)は「戦犯企業が判決を無視するのは許せない。賠償だけでなく謝罪もすべきだ」と話した。
 これまでに大法院判決で敗訴した日本製鉄と三菱重工業は、賠償金の支払いに応じていない。日本政府が、判決は1965年の日韓請求権協定に反するとの姿勢を示しているためだ。
 大法院で勝訴が確定した原告は元徴用工ら32人。賠償総額は計27億ウォン(約2億5千万円)超に上る。32人のうち多くは、被告企業が韓国内に持つ株式や特許権などの資産を差し押さえ、裁判所に賠償額相当を売却する「現金化」を申請済みだ。
 原告側弁護士によると、来年1月にも裁判所による資産の売却命令が出され、競売などの手続きが可能となる。大法院の判決後にも数十人が追加で提訴しており、原告数は約1千人に上る。今後も同様に原告勝訴の判決が続くとみられる。
 韓国政府は「三権分立で司法に介入できない」(文在寅(ムンジェイン)大統領)としつつ、資産売却を「越えてはいけないレッドライン」とみて危機感を抱く。売却された場合、日韓の緊張激化は必至だが、韓国政府関係者は「原告の行動を阻止する手立てはない」と言う。
 韓国政府内の検討作業に詳しい関係者によると、政府は賠償金の支払いを巡り、これまでに日韓の企業が資金を出し合う「1プラス1」案や、日本企業が払った賠償金を、韓国政府と韓国企業で作る基金が補塡(ほてん)する「1プラス1プラスα」案を検討。だが、日本に拒まれたり、政府内で意見がまとまらなかったりして実現には至っていない。
 今月24日にあった安倍晋三首相と李洛淵(イナギョン)首相の会談に同席した韓国外交省の趙世暎(チョセヨン)第1次官は25日、ラジオ番組で、「双方の基本的な立場の隔たりが大きい。首相同士が一度会談して、狭められる状況ではない」と述べた。
 資産売却が現実味を増すなか、韓国政府は文氏と安倍首相の首脳会談を実現させ、直談判で日本側の譲歩を引き出したいとの考えを抱く。見据えるのは、両首脳が出席する今月末の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、11月中旬のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、12月開催で調整する日中韓首脳会談だ。
 大統領府に助言する日韓関係の専門家は「韓国からすれば、日本企業が賠償金を一切負担しない方式での解決はあり得ない。一歩も譲らない姿勢をとる安倍首相に文大統領が向き合い、話し合うことしか前進はあり得ない」と話す。(ソウル=武田肇)

譲らぬ日本政府も回避したい「現金化」

 日本政府は、年明けにも予想される日本企業資産の「現金化」に神経をとがらせる。
 「現金化されることはあってはならない」。茂木敏充外相は29日の閣議後会見で、こう強調した。仮に資産の売却によって現金化され、日本企業に実害が生じた場合、「日韓関係はさらに深刻な状態になる」と指摘。こうした内容を韓国の康京和(カンギョンファ)外相に伝えていることも明らかにした。
 日本政府は1965年の日韓請求権協定で、元徴用工問題は「解決済み」との立場だ。安倍晋三首相は、韓国の李洛淵(イナギョン)首相と24日に約20分会談した際、2度にわたって「大法院(最高裁)判決は国際法に明確に違反している」と指摘。「韓国がルールを守るか守らないかの2択で、その間は無い」(首相周辺)と日本からは譲らない考えだ。
 現金化された場合、日本政府は国際司法裁判所(ICJ)への提訴や韓国政府への賠償請求なども検討。現金化によって被った損害と同程度の損害を韓国側に与える、何らかの対抗措置も検討しているという。
 とはいえ、日本企業に実害が生じ、対立が決定的となる現金化だけは「ルビコン川を渡ってしまう」(外務省幹部)と、なんとか回避したい一線だ。
 菅義偉官房長官は27日、東京都内での講演で「韓国でもこのままではダメだ、何らかの話し合いをという雰囲気になっている」と語った。ただ、実際に昨年9月から途絶えている日韓首脳会談に至るかはいまだ不透明だ。外務省幹部は「(現金化は)想定したくもない。仮にそうなったら、日韓関係はアウトだ」と漏らす。
 こうした中で、韓国大法院に賠償を命じられた日本企業は、身動きがとれない状況が続いている。
 判決を受け、日本製鉄は韓国鉄鋼大手ポスコと合弁で設立した韓国国内のリサイクル会社の株式が差し押さえの対象となった。韓国国内で差し押さえ手続きが進むが、昨年末の時点で「自社でできることはもうなく、日韓両国の外交努力による解決に期待するしかない」(幹部)状態に。膠着(こうちゃく)した事態の推移を見守っている。
 三菱重工業も慎重姿勢を崩していない。問題がこれ以上深刻化するのを避けたいとみられ、差し押さえの対象となった資産の内容や影響についてコメントしていない。同社広報は「日本政府とも連絡をとりつつ、適切な対応をとっていきたい」としている。
 日本の経済界からは早期の問題解決を望む声があがる。経団連審議員会の古賀信行議長(野村ホールディングス会長)は28日の記者会見で、「隣の国でもあり、一日も早く正常化してほしい」と話した。(太田成美、上地兼太郎)

日韓が関係する今後の主な日程

10月31日~11月4日 ASEAN首脳会議など(タイ)
16、17日      APEC首脳会議(チリ)
23日        日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が失効
12月下旬      日中韓サミット
2020年1月   日本企業の資産売却?



「元徴用工、韓国政府に信頼ない」
識者が示す解決の糸口
2019年11月4日:朝日新聞

 元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じた韓国大法院(最高裁)判決から1年が過ぎた。原告と被告企業はこの間、日韓政府の対立を見つめてきた。かつて元徴用工問題に深く関わった両国の識者に、解決に向けた提言を聞いた。

韓国の歴史学者・鄭恵瓊氏

 ――元徴用工問題は解決の糸口が見えません。
 「日本側の対応だけでなく、韓国政府が(元徴用工ら)強制動員被害者の信頼を失っていることが原因と考えます。私は2005年から約11年、政府機関で被害の実態調査に関わり、その後、在野で歴代政権の対応を研究しました。そこで明確になったのは、解放から74年の韓国の歴史は被害者が自国政府への不信感を深める過程だった、ということでした」
 ――韓国では日本の責任を問う声が強いですが。
 「被害国政府にも果たすべき役割があります。被害者の証言に耳を傾け、同じ被害を繰り返さない方法を提起することです」
 「韓国政府は1987年の民主化まで、被害者が救済を求める活動を抑えつけました。90年代に一部の人が日本の裁判所で日本政府と日本企業を相手に提訴しましたが、支えたのは日本の市民です。盧武鉉(ノムヒョン)政権で初めて被害申告を受け付ける活動を始めましたが、15カ月で打ち切りました。韓国政府は国民が非常に強く要求したときにしか動きません」
 ――文在寅(ムンジェイン)政権は日韓の企業が資金を出し、裁判の原告に賠償金相当額を支払うという案を提案しています。
 「被害者を救済されるべき人とそうでない人に分け、葛藤を助長するのではないかと心配しています。提訴できるのは企業名が明確で給与明細など記録がある人で、全体の数%に過ぎない。文政権が掲げる『被害者中心主義』が、勝訴した原告の権利を保障するだけに終われば、多くの被害者は失望し、新たな問題が起こる可能性があります」
 ――解決の道は。
 「国を失ったことで過酷な人生を強いられた被害者が望むのは、まず自国政府に癒やされること。膠着(こうちゃく)状態の訴訟以外で韓国政府ができることはあります。被害調査の再開や、日本などで亡くなった人の遺骨返還、日本軍兵士としてシベリアで抑留された同胞の名簿提供をロシアに求めるなどです。地道に被害者の信頼を回復することが問題解決の土台になるはずです」(聞き手・武田肇)
     ◇
〈チョン・ヘギョン〉2004年に盧武鉉(ノムヒョン)政権下で設けられた「日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会」で徴用などの実態を調べた。徴用工問題研究で韓国の第一人者。
東京大大学院の唐津恵一教授
 ――日本政府は、日本企業に賠償させる判決は認めない立場です。ただ、かつて日本で新日本製鉄(現・日本製鉄)が訴えられた際、当事者として和解で終結させましたね。
 「戦時中に釜石の製鉄所で働いた徴用工の韓国人遺族11人が1995年に起こした訴訟です。徴用工は終戦直前に米英の艦砲射撃で亡くなり、遺族らが遺骨の返還と未払い賃金の支払いなどを求めて新日鉄と国を提訴したのです」
 ――日本で行う合祀(ごうし)祭の旅費や永代供養の費用などとして原告1人当たり200万円を払うことで和解しました。企業は責任を認めたのですか。
 「裁判では(韓国での訴訟と同様に)新日鉄は徴用工が働いた(前身の)会社とは別会社だと主張しました。また、徴用工は砲撃で亡くなり、賃金は戦後、供託され国の管理に委ねられました。そのため新日鉄は死亡、未払い賃金のいずれの法的責任も認めませんでした。ただ、遺骨が返還できない点は人道的な対応が必要だと考え、和解を選びました」
 ――同じ被告だった国は和解に反対したのでは?
 「事前に国に報告したり国から働きかけを受けたりした記憶はありません」
 ――韓国大法院は元徴用工が求めた慰謝料を認めました。日本製鉄は日本政府と同様に「日韓請求権協定違反」だとし、日韓の外交交渉をみて対応する考えです。
 「私が担当した訴訟とは原告の主張が異なると思いますが、一般論で言えば企業は和解する道を残しておくべきです。訴訟の費用や敗訴の確率、将来の紛争への影響などを比べ、和解が経営判断として合理的と思える場合があるためです」
 ――韓国の首相との会談で安倍晋三首相は改めて「国家間の約束順守」を求めました。被告企業にとって和解は現実的ですか。
 「協定は国と国の取り決めで、企業と個人のやりとりは縛っていません。判決確定後の和解は極めて難しいですが、被告企業の対応次第で原告が態度を軟化させることはあり得ます。戦時中に徴用工が日本企業のために働かされた事実を謙虚に受け止める姿勢は、国際社会での企業イメージの向上にもつながるのではないでしょうか」(聞き手・清水大輔)
     ◇
〈からつ・けいいち〉専門は企業法。新日本製鉄で国内法規グループリーダーを務めた際は自ら釜石での調査や元徴用工遺族への面会をしながら訴訟、和解を担当した。



「故意に遅らせている」
韓国元徴用工ら、賠償履行を要求
2019年10月31日:朝日新聞

 元徴用工問題で、韓国大法院(最高裁)が日本製鉄(旧新日鉄住金)に賠償を命じる判決を下して30日で1年になるのにあわせ、原告と支援者が同日、ソウルで記者会見を開いて判決履行を求めた。訴訟代理人の弁護士は、原告が進めている被告企業の資産売却手続きについて「当初の予定よりも遅れる可能性がある」と明らかにした。
 弁護士によると、原告は今年5月、日本製鉄が賠償に応じないとして、差し押さえた同社株式の売却命令を出すよう韓国の裁判所に申請し、受理された。その後、手続きに必要な訴訟書類を日本製鉄側へ送ったが届いていないという。訴訟書類は外交当局経由で届ける仕組み。「日本外務省が故意に遅らせているとしか考えられない」という。
 日本製鉄側に書類が届かなくても、裁判所の職権で被告に届いたとみなす「公示送達」の手続きをとれば、売却は可能だ。ただ、通常よりも時間がかかるため、「来年上半期(5~6月ごろ)にならないと売却できない」との見方を示した。当初は年末か年初には売却できるとしていた。
 一方、訴訟弁護団は、大法院判決後に追加訴訟した元徴用工や元女子勤労挺身(ていしん)隊員の人数は82人になると明かした。被告企業は西松建設や三菱マテリアルなど11社。日本企業側に早期賠償を迫るため、国連人権理事会に救済を求める手続きを進めるとも述べた。
 記者会見に同席した三菱重工の元女子勤労挺身隊員の梁錦徳さん(88)は「(被告企業が)謝罪してこそ私たちの恨みは晴れる。それまで目を閉じられない」と賠償の早期履行を訴えた。(ソウル=武田肇)



オアシスのとんぼ
ソウルの少女像は
日本大使館の前に建っているのか
2019年11月4日:毎日新聞
日本大使館が取り壊された後、敷地を囲う工事用フェンスに向き合う少女像。
大使館は左奧の建物内に移転しており、出入り口は反対側にある=2019年10月19日、澤田克己撮影

 「日本の不当な経済制裁を撤回させなければなりません!」「日本は真の謝罪をし、反省しろ!」
 2019年8月14日正午すぎ。慰安婦を象徴する少女像の建つソウルの「日本大使館前」には、日本批判の大きな声が響いていた。だが、集会を見る私はむなしさを感じていた。
 熱気がなかったわけではない。ざっと数えると参加者は1500人ほどにはなりそうだ。安倍晋三首相を批判する「NO安倍」というTシャツを着た人たちの姿も目立った。この日は韓国で国の記念日に指定されてから2回目となる「慰安婦の日」であり、毎週水曜日に行われる「水曜集会」の1400回目という節目でもあった。さらに、日本政府による対韓輸出規制強化が7月に発表されたことへの反発もあって、日本批判の声には力がこもっていた。いつもの水曜集会は数十人規模なのだが、もともと学生たちが参加しやすい夏休みである上にいくつもの要因が重なって人数が膨れ上がったようだ。
 いくら声を上げたって安倍首相が耳を傾けるはずがない。むなしいというのは、そんな理由ではない。彼らが糾弾している「日本」がそこに見当たらないことに違和感を覚えたからだ。集まった人々の怒りをぶつけるべき物理的な対象物として「日本を代表する何か」がそこにあるべきなのだろうが、そんなものはないのである。
 壇上に上がった政治家や運動家が呼びかけ、参加者が大きな声で唱和する日本批判はもともと、日本を対外的に代表する大使館に向けて発せられていた。水曜集会を主催する「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連、旧韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会=挺対協)」は、そのために30年近く前から日本大使館前での水曜集会を重ね、そこへの少女像設置を強行したはずだった。

更地のまま放置されている日本大使館の敷地。道路をはさんだ場所に少女像(丸囲み)がある。
大使館は右側のビル内に移転した=朝鮮日報提供

 だが、もはやそこに日本大使館はない。建て替えのため4年前に取り壊され、すぐ裏のビル内に引っ越してしまったのだ。2020年には地上6階地下3階の新大使館が完工する予定だったけれど、実際には着工すらされないまま時がすぎ、日本政府が地元自治体から取得した建築許可は期限切れとなった。いま少女像が向き合っているのは、背の高い工事用フェンスに囲われた空き地。大使館の入るビルは敷地の裏なので少女像の視線の先に「ある」と言えないこともないのだが、ビルの入り口は反対側だ。少女像との位置関係だと、背を向けていることになる。しかも大使館が入るのは8階から11階なので、集会や少女像は下方に小さく見えるだけだ。
 日本政府は適切な時期に大使館を建設する考えに変化はないと繰り返すものの、現実には放置している。少女像の存在がネックとなっていることは公然の秘密で、近い将来に大使館がここへ戻ってくると考える関係者はいない。少女像が姿を消すことなど、想像しがたいからだ。在韓大使館での勤務経験のある日本の外交官からは、在韓米軍司令部跡地への移転話がある米国大使館を引き合いに「新しい米国大使館の横に建てさせてもらえばいい。日米同盟なんだから」という冗談すら聞かれる。
 私が2回目のソウル勤務を終えて帰国したのは取り壊しの直前だったので、工事用フェンスの前での集会を見たのは初めてだった。大使館の建物がなくなっているのは知っていたが、いざ現場に立ち会ってみると違和感を覚えざるをえなかった。
 こうなってくると、ここをいつまで「日本大使館前」と呼ぶべきかという疑問が出てくる。「日本大使館の前に建てた」という行為には大きな意味があるのだが、もはやそこに日本大使館は存在しない。そうした迷いが冒頭などに使った「日本大使館前」というカギカッコ付きの表記だ。毎日新聞では「日本大使館敷地前」と書くようになってきたし、韓国メディアもいつしか「旧日本大使館前」と呼ぶようになってきた。

日本大使館敷地前で開かれた水曜集会=2019年8月14日、澤田克己撮影
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 現時点で日韓関係悪化の最大の要因を挙げるなら、戦時中に日本企業で働かされた元徴用工の訴訟ということになる。現在の日韓関係の法的土台となっている1965年の日韓基本条約と請求権協定に反する判決を韓国最高裁(大法院)が下し、文在寅政権が有効な対応を取らなかったことが大きい。

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