「アベノミクス」に忠実に…

萩生田文科相の「身の丈」発言から、くすぶっていた大学入試英語検定試験問題は大炎上し、来年度入試からの導入の“先送り”を決定することで、政治決着された。
この英語検定問題は、「教育のアベノミクス」の現れを象徴している。拙ブログで何度も言ってきたように、アベノミクスとは「弱い者に厳しく、強い者に優しい」政策の総合体だ。今回指摘された、経済・地理的に有利な受験生が「得」をすることを「是」とする文科相と、それはおかしいという国民との感覚の差は、アベノミクスへの親和度の違いだ。新自由主義的な立場からすれば、弱肉強食の自己責任論で、全てを説明しようとし、そこからは当然「『身の丈」発言」は許容される。安倍晋三首相側近の萩生田文科相としては「当たり前の発言をしただけだろう。小泉純一郎首相のころから規制緩和・民営化は政策の中核として推し進められてきた。教育も産業化しようと、さまざまに試みられてきたが、子どもの実態の多様性や教員の良心によって阻まれてきた。そこで目をつけられたのが大学入試だ。20年程前に、ある誌代の教員から「模擬試験をやっている予備校から、大学が希望する学生を選抜できる入試問題を提供できると営業されている」と聞いたことがある。公にされていなくても地方私大などでは使われている可能があると思う。大学教員にして見ると、問題作成から採点まで、手間もかかり、ミスが“絶対”に許されない入試作業はストレスでしかない。
英語教育で4技能を重視することと、大学入試で英語の4技能を評価することは意味が全く違う。そこには、大学入試の根本的な問題が存在する。今回の騒動は「大学入試問題の本質」という“パンドラの箱”を明けかけたのだが、“類焼”せずに国会運営とのバーターのように、中止でなく実施延期で片付けられようとしている。積み残された大学入試の根本的・構造的課題は今後もくすぶっていくだろう。これが炎上すれば、大火災となる。


萩生田文科相 なぜ直前まで強硬路線<英語民間試験見送り
背景に 競争促す「新自由主義」
>「身の丈」失言でなく本質
2019年11月2日:東京新聞・こちら特報部

 萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言を機に、土壇場で導入が見送られた大学入学共通テストの英語民間検定試験。萩生田氏は「自信を持って勧められない」と述べたが、これまでは何度問われても、実施を強行する発言を繰り返していた。背景として指摘されるのが、競争原理を優先する新自由主義が安倍政権に蔓延している現状だ。格差を前提とする教育観のまま、抜本的見直しなどできるのか。
(片山夏子、中山岳)

 萩生田文科相が記者会見で英語民間検定試験の見送りを発表した1日は、大学入試センターが発行する「共通ID」の申込開始日だった。地理的、経済的な格差を解消できず、「文科相として自信を持ってお勧めできない」と強調。一方で、「受験勉強のあり方には様々なツールがあり、そこを全てイコール(等しく)とすることは難しい、という問題意識の中での発言だった」と述べた。
 しかし、物議を醸した「身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」という自身の発言については、「直接の原因ではない」と今回の見送りへの影響を否定した。そもそも10月28日に「国民。特に受験生に不安を与えかねない説明だった」と謝罪した後も、「自分の都合に合わせ適切な機会を捉えて全力で頑張ってもらいたいという思いだった」と釈明していた。
 29日の記者会見でも、「受験生を見下したり、切り捨てたりすることを念頭に発言したわけではない」と強調。一方で、「受験勉強のあり方にはさまざまなツールがあり、そこを全てイコール(等しく)とすることは難しい、という問題意識の中での発言だった」と述べている。
 30日の衆院文科委員会では、経済的に厳しい生徒が民間試験の費用を負担できるのか質問され、「多取れば受験した後に入学をすれば、給付型奨学金でこの費用を補填する仕組みも出来上がっている」と発言。質問した国民民主党の城井崇議員から「大学生活使う金を先食いして使えというのは相当無責任」と批判された。
 発言は撤回するとしつつ、実施の方針は変えない展開に、試験を受けることになる高校生や教育関係者の反対の声は高まった。引き伸ばされた末、延期が決まると「なぜ今ごろ」「準備して勉強している生徒もいる」と戸惑う声も上がった。
 千葉大の小林正弥教授(政治哲学)は「現政権の思想は、第一に柱である改憲につながる国家主義、第二に市場経済の原理を最大限活用し、富裕層に有利になる『ネオリベラル』の2つがある」と説明。萩生田氏は安倍晋三首相の側近として、二つの流れを進めてきたとする。
 前者の特徴は、過去に波紋を広げた発言からもうかがえる。2018年5月には講演で「(乳幼児の子育ては)ママがいいに決まっている」と、母親による育児が前提の子育て論を展開。今年7月には、憲法改正論議が停滞するなら「有力な方を(衆院議長に)」と、議長交代の可能性に言及していた。
 小林氏は「今回の問題はネオリベラルの流れ、萩生田氏の身の丈発言は失言ではなく、この試験制度の本質そのものであり、それがストレートに出た。だから反省がない。本来、国が公平を確保すべき入試に、特定業者を使う仕組みをつくる発想そのものが問題だ」と批判する。

「教育の民営化」安倍政権下で着々と推進
格差前提 企業潤う構造
>エリート優遇 機会均等の軽視

 大学入試への民間の試験導入は、安倍政権が一体となって進めてきた。
 自民党は野党だった2012年10月、安倍総裁直属の「教育再生実行本部」を設立。初代本部長は下村博文氏で、英語を含む大学入試改革の方針などを議論した。同12月、自民が衆院選で政権を奪還すると、下村氏は文科相に就いた。
 同実行本部は13年4月、TOFLEなど民間試験の一定以上の成績を受験資格にするよう安倍首相に提言した。政権が掲げる政策を引き合いに「成長戦略実現上、投資効果が最も高いのは教育」「結果の平等主義から脱却し、トップを伸ばす戦略的人材育成」と強調。萩生田氏は当時、この提言を取りまとめた実行本部部会の1人だった。
 首相官邸では安倍首相、下村氏や有識者らでつくる「教育再生実行会議」が大学入試改革を議論し、同年10月に「外部検定試験の活用」を提言。英語の民間試験導入の道筋をつけた。
 こうした経緯に、新潟大の世取山洋介准教授(教育政策論)は「規制緩和や市場競争を重視する新自由主義の考えが、安倍政権下で教育に持ち込まれてきた」とみる。新自由主義的な発想は下村氏、萩生田氏、柴山昌彦前文科相ら自民党の文教族議員らの教育観に共通していると指摘。「特徴は『教育の民営化』だ。グローバル社会で活躍する人材を育てる名目で、経済界への配慮を第一にして教育をビジネスチャンスととらえる流れが強まっている」
 民間試験導入を巡っては、実施する企業や団体が対策本を販売することへの懸念も強い。世取山氏は「実施する企業や団体に利益を配分するためとしか考えられない」とみる。
 共栄大の藤田英典教授(教育社会学)も「安倍政権下の新自由主義的発想の教育政策はエリート教育を推し進め、家庭の経済力などによる格差を広げる方向に進んでいる」と話す。民間試験の導入は、試験会場から遠い地方や、高額な検定料の負担が重い家庭の子どもが不利になるとし、「教育基本法に定める『機会均等』の重要性を理解していないと言わざるを得ない」と批判する。
 世取山氏は、そもそも民間試験で「読む、聞く、話す、書く」の4技能を評価することを疑問視する。「民間試験で高得点を取ることと本当にコミュニケーションで使える英語が身に付くこととは別だ。大学入試の民間参入は結局、試験問題という商品を売ることで、教育の画一化、陳腐化につながりかねない」と警鐘を鳴らす。
 京都大国際高等教育院の柳瀬陽介教授(英語教育学)も「英語で4技能を重視するのはいいが、民間試験を導入すれば済むというのは短絡的すぎる」と唱える。
 大学入試改革を企業に任せるだけでは、今回のような問題は避けられないという。「利益を求める企業が公共性の高い試験を担当することと、憲法や教育基本法で保障する教育機会の確保は、そもそも両立しない」。4技能を評価するための試験方法について、抜本的な見直しを求める。
 「これまでのようなずさんな計画で一気に民間試験を導入しようというのには、反対だ。英語教育の専門家の意見をより広く取り入れ、検討を進めてほしい」
 萩生田氏は1日、自分の下に検討会議をつくって今後1年で見直すと説明。民間試験は「24年度に実施したい」と述べ、導入する方針自体は変えていない。
 選出の小林氏は「これまで受験生の英語力を伸ばすためのように言われてきたが、本質を示す萩生田氏の発言で延期となった」と皮肉りつつ、「大臣も代え、仕切り直して抜本的に変えるべきだ」と述べている。

デスクメモ
 もっと早く決められなかったのかと、思った人が多いのでは。英語民間検定試験の導入延期と、東京五輪のマラソン会場変更のことだ。どちらも、立案段階で当事者の声を重視していれば、かなり早く修正できたはず。上から押し付ける手法を改めないと、今後もこういうことは続く。 (本)



英語民間試験の問題は「公平性」だけではない 
「中止を」約7割が支持
2019年11月1日:AERA

「『今さら訴えてもムダ』と言われることもありましたが、あげ続けた声が拾われたことに希望を持てました」

 アエラドットに掲載された「ぼくたちに入試を受けさせてください」(2019年10月25日)の訴えで、話題を呼んだ筑波大学附属駒場高校(筑駒)2年生の男子生徒(17)はそう語る。

 共に、文部科学省前のデモや国会でのヒアリングなどで、当事者となる高校生の声を届けてきた私立高校2年生の健さん(17)は言う。

「民間試験の延期は根本的な解決にはなりませんが、ひとまずほっとしました。僕は教員志望で、民間試験では高校を会場にする話も出ていましたが、先生たちが過労死寸前まで働いているのにそんなことしたら教育自体が破綻してしまうという危機感もあります。引き続き声を上げていきます」

 5カ月後の4月から実施予定だった、大学入学共通テストの英語民間試験が、多くの制度不備が指摘されるなか本日11月1日、延期が発表された。

 現在の高校2年生が受験する2020年度から大学入試は、センター試験から「大学入学共通テスト」へ変わる。目玉のひとつが、英検やGTECなど7種類の民間の検定試験を活用して、従来できなかった「話す・書く」も加えた4技能を測ることだった。

 民間試験は高校3年の4月から12月の間に2回まで受験できる。実施まで半年を切り、11月1日から受験のための共通ID申し込みの開始が予定されていながら、日時と具体的な会場を揃って明らかにしている団体はひとつもなく、懸念する声が高まっていた。

 先月21日には全国約5200の国公私立高が参加する全国高等学校長協会が「英語4技能の民間資格試験は、混乱なく実施できるのか」と題した緊急シンポジウムを開催。試験を実施する全6団体のうち5団体が参加するなか、英検と並んで全国の受験生が集中するとみられていたGTEC(ベネッセコーポレーション)は欠席。「会場は確保できているのか」など関係者の不安がより一層高まっていた。

 延期の引き金になったのは、10月24日に萩生田光一文科大臣のテレビ番組に出演した際の「身の丈」発言だった。
 7種類ある英語民間試験のうち47都道府県で受験できるのは英検(S-CBT)とGTECの二つだけ。「たくさんある検定試験から自分に合ったものを選べる」とされながら都市部と地方では選択肢の幅がまるで違う。

 地方の高校教員からは同じ県内の「地域格差」を問題視する声も上がっていた。

「県庁所在地に住んでいる生徒と、へき地に住んでいる生徒では、時間や経済的な負担がまるで違う。中心部に住む生徒は普段通りの生活の延長上で受験できるのに対し、へき地の生徒は飛行機に乗ったり、前泊しないといけなかったり。移動と金銭の負担が半端ない。とても公平な制度とはいえない」

 さらに民間試験は受験料が5千円台から2万円台までまちまち。裕福な家庭の生徒ほど本番前に練習受験ができ有利に働く。受験料を含めた諸費用の負担から大学受験をあきらめないといけなくなる生徒も出てくることなども問題視されていた。

 これらの指摘を知りながら、萩生田大臣は番組内でこう発言した。

「自分の身の丈に合わせて(試験)を選んで勝負して頑張ってもらえれば」

 本来、教育格差を是正すべき立場の文科相が、格差を前提としていることに非難が集中。「教育基本法」に抵触するとの声も上がった。

 さらに深刻なのは、英語民間試験の問題は「公平性」に限らない点だ。京都工芸繊維大学の羽藤(はとう)由美教授は一貫して、民間試験の「不公正」を問題提起してきた。

「英語民間試験が延期されたことはよかったですが、補助金などを出して地域格差や経済格差の問題を解消すればいいでしょう、となっては解決しない。複数の民間試験の活用は、マラソンと50メートル走の成績を比べて、走力の優劣を決めるようなもの。異なる試験の成績を対応させるため導入された共通指標『CEFR(セファール)』の活用自体にも問題がある。セファールと各試験の成績の対応づけも各事業者が自己申告したもので、第三者による検証が行われておらず、公正さにはほど遠い」
 アエラが8月に実施したアンケート(2019年9月2日号特集「英語民間試験は中止して」271人の悲鳴)では、英語民間試験の実施について延期を求める声が約2割、中止を求める声が約7割。延期より中止の声が大きく上回った。

「4技能を評価することの意義や重要性は否定しない。しかし試験の絶対条件である公平性の確保が不可能である以上中止すべき」(49歳男性・大学教員)

「理念に対して出てきた施策が『絵に描いた餅』」(50代女性・高校教員)

「延期をしても根本的な問題は解決できない。どうしても4技能の試験をしたいなら入試センターが統一テストを作るべきだ」(45歳女性・保護者)

「延期」よりも「中止」を求める声が多かったのは、制度設計そのものに問題があるため、延期しても抜本的な解決につながらないと、多くの回答者がとらえているからだった。

 東京大学の阿部公彦教授は、英語の民間試験の根本的な問題は「公的入試の民営化」にあると指摘する。

「試験がこのまま強行されたら会場やシステムのトラブルなど、なにかしら事故が起きる危険性があった。実害が出る前に延期になったことはよかった。民間試験事業者も内心、同様ではないか。会場は2回受験を想定すると、のべ100万人分以上が必要。その確保の問題ひとつとっても、文科省は『受験生が希望する最寄りの会場で受験できるよう、事業者にできるだけ多く設置してもらえるよう努める』の一点張りで丸投げ状態だった。しかし、事業者も営利事業である限り、採算の取れない会場をいくつも設定するわけにはいかない。そもそも公的入試の民間委託は利害が一致せず成立しないのです」

 阿部教授は一度振り出しに戻って、英語力の向上のためにすべきことを、「入試を変えるのではなく、学校の授業環境の充実する」といったことも含め総合的に考える必要があると言う。

 前出の羽藤教授も次のように言う。

「大学入試センターが主導して、民間と専門の研究者の知恵と技術を合わせながらスピーキングの統一テストを開発すべき。本気で取り組めば2024年度実施も不可能ではありません」

 大学入学共通テストのもうひとつの目玉である、国語と数学の「記述式」も問題が山積している。

 国語の記述式については「自己採点ができない」「大学生のアルバイトが採点者に入る可能性があるのは問題」などの声が上がっている。

「大量の採点をさばくために多くの条件づけがされた記述式問題は、もはやマークシート式とさほど変わらず形骸化している」と疑問視する声も多くあがっている一方で、採点業務をベネッセの子会社が落札し、約61億円もの費用が投じられる。

 冒頭の筑駒生は10月、文科省前のデモでこう訴えた。

「本来ならば、教育の現場で行われるべきことを、入試に担わせようとした結果、(大学入学共通テストは)入試としての役割を果たせなくなっているんです。英語の4技能を問い、思考力を問い、表現力も問い、いくつものことを押し込み問おうとしている。こういった営みは、あくまで教員にリソースを割いて教室で行われるべきことです。僕がお願いすることはただひとつです。僕たちに『入試を受けさせてください』」

 この声に国をはじめ大人たちはどう答えるのか。
 英語の民間試験延期をきっかけに、大学入学共通テスト全体の真摯な再検討が不可欠だ。

(編集部・石田かおる)



英語民間試験見直し
 「萩生田氏守るため」官邸が主導
2019年11月1日:毎日新聞

閣議後の記者会見で大学入学共通テストの英語民間試験の導入延期を発表した萩生田光一文部科学相
=東京都千代田区で2019年11月1日午前9時47分、滝川大貴撮影

 大学入試で2020年度から新たに始まる大学入学共通テストで予定されていた英語民間試験の導入が突然「白紙」に戻された。これまで準備不足を懸念する高校現場から見直しを求める声が上がっても文部科学省は一貫して「実施」にこだわり続けてきたが、トップの失言を機に延期論が強まり、最後は事実上官邸に押し切られた形となった。

背景に与野党攻防

 「最終判断は文部科学相として私が行った」。萩生田光一文科相は、大学入学共通テストでの英語民間試験活用の抜本的見直しを表明した記者会見で、こう強調した。菅義偉官房長官も会見で「準備が十分に整っていないと文科相が判断された」と述べ、文科省の主体的な判断だったと説明した。だが、突然の方針転換は官邸主導の政治判断で行われたのが実情だ。
 延期論が広がった10月31日、藤原誠事務次官ら文科省幹部は断続的に首相官邸に足を運んだ。「遠隔地の学生への交通費支援制度を作り、試験会場を増やす方向で検討しています」。経済・地域格差の問題がクローズアップされる中、官邸サイドに予定通りの実施を訴えた。
 官邸幹部は「難しい。これでは修正したことにならない」と突き返した。これが最後通告だった。報告を受けた萩生田氏は同日夜、「判断」を迫られた。文科省は、受験に必要な「共通ID」の申し込みが間もなく始まるというタイミングで延期に向けた準備作業に着手した。
 実態は「官邸のダメ出し」だが、「文科相の判断」を強調したのは、官邸が表立って乗り出し、対応を誤れば政権に傷が付きかねないからだ。
 萩生田氏が24日に「身の丈に合わせて」などと発言した当初、政府・与党は「(政治的判断が求められない)政策的な問題」(自民党の世耕弘成参院幹事長)、「官邸で引き取るものではない」(官邸幹部)と文科省に対応を委ねる姿勢を示していた。試験の導入や延期は法律事項ではなく、役所だけの判断で決定できるからだ。
 萩生田氏も29日の記者会見で「足らざるところを補いながら、ぜひ、予定通り実施させていただきたい」と述べていた。
 だが、31日になって事情が変わった。その日の早朝、河井克行前法相が妻の案里参院議員の「公職選挙法違反疑惑」を巡り辞表を提出した。菅原一秀前経済産業相に続き、1週間で2人の閣僚が辞任するという深刻な事態を招き、さらに火の手が萩生田氏に及べば政権運営が行き詰まりかねない。
 官邸内では「3人目の辞任が出たらどうするんだ」(幹部)との声が上がり、与党からも「英語民間試験で強行突破すれば政権の支持率にも響く。謙虚に方針転換すべきだ」(自民党幹部)との見直し論が広がった。


 民間試験の活用延期という野党側の主張を受け入れる形を取ったことで、野党の萩生田氏への追及も一時的に緩むこととなった。自民党文教族議員は「萩生田氏は安倍晋三首相の側近中の側近。野党は政権に最もダメージを与えられる萩生田氏を攻め、逆に官邸は萩生田氏が次のターゲットにされるのを嫌った」と決断の背景に与野党攻防があったと解説した。首相周辺も今回の決断について「萩生田氏を守るために、試験見直しを野党に差し出した」と表現した。【古川宗、宮原健太】

準備不足 実施団体任せ

 大学入学共通テストでの英語民間試験の導入は、2013年に安倍晋三首相が設置した教育再生実行会議が提言した「英語教育改革」と「大学入試改革」の流れの中で浮上した。14年12月に文科相の諮問機関、中央教育審議会が大学入試で英語の4技能(読む・書く・聞く・話す)を評価することと「20年度」の導入を答申した。だが、50万人が受験する共通テストで4技能を測る試験を国が開発するのは時間的にも財政的にも困難なため白羽の矢が立ったのが、4技能の評価に実績がある民間試験で、文科省は17年7月に活用することを決めた。
 しかし、その後、準備は遅れに遅れる。要因の一つが「実施団体任せ」(萩生田文科相)だったことだ。試験会場の確保は実施団体に委ねられたが、地方での会場確保に難航する実施団体もあった。「申し込みがあって初めて会場を押さえられる」という実施団体側の事情もあり、会場確保が進まず、会場が都市部に集中する「地域格差」が拡大した。公共施設を会場に使うことも選択肢に考えられたが、萩生田氏は「実施団体が都道府県などを訪ね、『建物を貸してくれませんか』とやりとりをすることを前提に制度を変えようとしたことに無理があった」と反省の弁を口にした。
 受験料を巡る経済格差の問題も解決に向けて文科省の「指導力」が発揮されなかった。民間試験の受験料は5000円台~2万5000円台。高校3年時の4~12月に2回まで受験できることになっていたが、家庭の事情で1回しか受けられない可能性もある。文科省は実施団体に対し低所得世帯の受験料の減免措置を要請したものの対応が遅れた実施団体もあった。

 現行の大学入試センター試験は独立行政法人の大学入試センターが実施するため、管轄する文科省の指導力が及ぶ。一方、英語民間試験はセンターが実施団体と協定を結ぶという形で調整が進められてきた。「民間の実施団体は指導対象外。どうしても、センターを挟んでの『お願い』にならざるを得ない」(文科省幹部)。しかし、ある実施団体の担当者は「地域や経済的な不公平さの問題も、試験団体として、できることとできないことがあると言い続けてきた」と反論する。
 「文科省と民間試験団体との連携、調整が十分でなかったことから準備が整わなかった」。菅官房長官は1日午前の記者会見でこう指摘した上で「文科省で、今回の判断をせざるを得なかった要因等を十分に検証しつつ、今後の大学入試における英語の評価のあり方を検討していく」と述べた。【水戸健一】

はしご外され、補償問題浮上か

 今後、新たな問題として浮上しそうなのが、予定されていた英語民間試験の実施団体への補償だ。
 今回の見直しの発表は試験の実施団体にとって「寝耳に水」だった。ある試験団体のもとには、発表前日の10月31日午前、文科省の担当者から「試験実施会場のバリアフリー化の割合について教えてほしい」と質問が届き、その日の「午後6時」が締め切りになっていた。回答したが、何の音沙汰もないまま、半日が経過。その後、文科省から連絡があったのは延期決定の発表後で、担当者から「来週、説明にいきたい」という電話連絡があり、萩生田氏のコメントが添えられたメールが届いた。
 受験生の多くが利用するとみられていたGTECと英検は10月31日に会場数や日程を発表したばかりだった。GTECを運営するベネッセコーポレーションは「受験生の皆様が安心して受験にのぞむことができるよう、20年度の開始に向け準備を進めてきたので、非常に残念に思っている」とコメント。英検の担当者は「今後の対応を協議しているので現時点では何もいえない。受験者に戸惑いがないよう文科省が対応することを願うばかりだ」と言葉少なに語った。
 これまで各実施団体は試験会場の確保や機器の購入、大学入試センターへ受験生の情報や成績を送るシステム開発に膨大な投資をしてきた。各実施団体と大学入試センターの間で交わされた基本協定書には、実施団体がセンターに損害を与えた場合の賠償規定はあるが、文科省やセンターの都合で試験が予定通り実施されなかった際の補償や賠償については規定されていない。
 ある実施団体の担当者は「先行投資についてどのような補塡(ほてん)があるのか、請求をしていいのか全くわからない。各団体とも対応はこれからだろう」と話した。【金秀蓮】



英語民間試験の延期
 遅すぎた判断の罪は重い
2019年11月2日:毎日新聞

 迷走の末、追い込まれての転換である。来年度から始まる大学入学共通テストで予定されていた英語民間検定試験の導入が延期となった。
 萩生田光一文部科学相が「身の丈に合わせて勝負してもらえれば」と発言したことで、批判が一気に強まっていた。
 きのうの記者会見で萩生田氏は経済事情や居住地によって生じる格差に触れ、「自信を持って受験生にお勧めできるシステムになっていない」と制度の不備を認めた。来春までに格差が解消される見通しが立っていない以上、延期は当然だ。
 民間試験活用制度を巡っては、格差の問題に加え、想定される対象者や難易度の違う7種類の試験の結果を公平に評価するのは難しいという問題点もあった。入試の公正さを保つ上で、大きな欠陥のある制度だ。
 このため、危機感を抱いた全国高校長協会は今年9月、導入の延期を文科省に要請した。それでも、同省は聞き入れず、あくまで来年度からの実施を強行しようとした。
 ところが「身の丈」発言が批判を浴びると、今度はあっさりと方針を覆した。
 発言に対しては野党が国会で追及し、与党内からも疑問の声が上がっていた。今回の延期は、教育の機会均等や受験生に配慮した措置というより、政権への批判や世論の逆風をかわす思惑からだろう。
 実施を目前にしての遅すぎた延期決定による混乱は避けられない。受験生はすでに実施を前提に準備を始めていた。検定団体も会場の確保などを進めていた。強引に制度を推進してきた文科省と歴代の文科相の責任は重い。
 「身の丈」発言により、教育の機会均等に対する無理解を露呈した萩生田氏の担当閣僚としての適性にも疑問がある。
 同省は今後1年間をめどに制度を見直し、2024年度の入試で「読む・聞く・話す・書く」の英語の4技能を測る新制度の導入を目指す。
 入試は全国一律に公平に実施されねばならない。採算を度外視できない民間団体に任せようとしたことにそもそも無理があったのではないか。政府は制度を白紙に戻し、受験生本位の制度の構築に向けて一から議論し直さなければならない。



英語民間試験、20年度の実施見送りへ
 制度の欠陥噴出
2019年11月1日:朝日新聞

 政府は2020年度から始まる大学入学共通テストで活用される英語の民間試験の実施を見送る方針を固めた。受験生の住む地域や、家庭の経済状況によって格差が生じるといった不安が広がり、政府・与党からも「政策的な欠陥がある」などといった懸念の声が上がっていた。
 英語の民間試験活用をめぐっては、萩生田光一文科相が24日、BSフジの番組で、「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」などと発言。教育格差を容認しているなどと批判が集中し、謝罪、撤回に追い込まれた。
 こうした中、制度の問題点も改めて注目された。野党側は国会審議で繰り返し延期を要求。自民党参院幹部は30日、記者団に「受験生があまりにかわいそうだ。制度の問題点を補完するには準備の時間が足りなすぎる」と指摘。官邸内からも「延期したらいい」(幹部)との声が漏れていた。
 2020年度に実施される現在の高校2年生が受験する入試から、大学入試センター試験に代わり大学入学共通テストが始まる。英語は民間試験の活用で、「読む・聞く・話す・書く」の4技能を評価。特に「話す」試験について、一斉に数十万人が受験したり短時間に採点をしたりすることが難しいため、センターが認定する7種類の試験が活用される。
 民間試験は、原則として受験生が高校3年の4~12月に受けた2回までの成績が、国のシステムを通じて出願先の大学に提供され、合否判定などに活用される。ただ、受験生の住む地域や家庭の経済状況などによって、受験機会に格差が生じる可能性などが指摘され、文科省は試験の実施団体に住民税非課税世帯の受験生の受験料減免を求めたり、離島の受験生が会場と行き来する交通費や宿泊費の一部を補助する支援策を、来年度予算の概算要求に盛り込んだりしていた。



英語新試験制度24年度導入めざす
 文科省1年間検討へ
2019年11月1日:朝日新聞

 萩生田光一文部科学相は1日、2020年度から始まる大学入学共通テストで活用される英語の民間試験について、「来年度からの導入を見送る」と表明した。現制度は受験生の住む地域や、家庭の経済状況によって格差が生じるといった批判が出ており、「等しく安心して試験を受けられる配慮など、自信を持っておすすめできるシステムにはなっていない」と説明。今後1年をかけて新たな制度を検討し、24年度からの実施をめざすとした。
 1日は、大学入試センターで受験に必要な「共通ID」の申し込みが始まったが、急きょ中止を表明した。異例の方針転換について、萩生田氏は「今日まで熱心に勉強に取り組んでいる高校生が多いと思います。今回の決定で約束を果たせなくなったことを大変申し訳なく思っております」と謝罪。「自分が受けようと思っている試験が、今日の段階でも、どの市のどの場所でいつ行われるのかも分からないまま準備を続けるのは、限界があるんじゃないか」と延期の理由を説明した。
 文科省は、民間試験以外の入試センターが作る共通テストについては、20年度から予定通り始める考えだ。その中で英語の「読む・聞く」の試験も23年度まで続く。24年度には高校の新しい学習指導要領が全学年で実施されるのに合わせ、共通テスト全体の見直しを予定していた。萩生田氏はそのタイミングに合わせて民間試験を使うかも含めて再検討するとして、「仕組みを含めて抜本的に見直しを図っていきたい」と述べた。24年度実施になれば、現在の中学1年生が主な対象となる。
 20年度に実施される現在の高校2年生が受験する入試から、大学入試センター試験に代わり大学入学共通テストが始まる。英語は民間試験の活用で「読む・聞く・話す・書く」の4技能を評価。特に「話す」試験について、一斉に数十万人が受験したり短時間に採点をしたりすることが難しいため、センターが認定する7種類の民間試験を活用する予定だった。ただ、会場の確保が都市圏に偏り受験料も高額なことなどから、受験生の住む地域や経済状況で受験機会に格差が生じることが指摘されていた。
 さらに、萩生田氏が10月24日、BSフジの番組で「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえば」などと発言。教育格差を容認しているなどと批判が集まり、謝罪、撤回に追い込まれた。こうした中、制度の問題点も改めて注目された。野党側は国会審議で繰り返し延期を要求。政府・与党内からも批判が出ていた。この日の会見で萩生田氏は延期の決定について、「私の発言が直接原因となったということではありません」と述べた。(矢島大輔、宮崎亮)



(社説)
民間試験延期 入試の見直し根底から
2019年11月2日:朝日新聞

 急転直下、大学入学共通テストへの英語民間試験の導入見送りが決まった。きのう萩生田光一文部科学相が表明した。
 準備してきた受験生や保護者、高校の教員らには、振り回されたことへの怒りや戸惑いがあるだろう。だが大きな欠陥を抱えたまま強行すれば、どれほどの混乱を招いたか計り知れない。見送りの結論は妥当だ。
 むしろ問題は、決断が遅すぎたことにある。
 今回の構想に対する疑義の多くは、昨春、東京大学の五神真(ごのかみまこと)総長が国立大の会合で「拙速は避けるべきだ」と提起した時点で広く認識された。家庭環境や居住地がもたらす不平等や、複数の試験の成績を比較して合否判定に使う難しさなどだ。そして今夏は全国高校長協会が問題点を詳しく列挙して「不安の解消」を求め、さらには「延期」を文科省に申し入れた。
 それでも政府は耳を貸さず、予定通りの実施に固執した。根底には、改革は正しく、支持されているという独りよがりの考えがあった。柴山昌彦前文科相が「サイレントマジョリティは賛成です」とツイートして反発を招いたのが象徴的だ。
 もし、後任の萩生田氏の「身の丈」発言によって社会の注目が集まらなかったら、文科省は突き進んでいただろう。実際にぎりぎりまで与党幹部らの説得に動いていた。混乱を拡大させた責任は極めて重い。
 注目すべきはきのうの会見で萩生田氏が、民間試験を使う今の枠組みを前提にせず、抜本的に見直す考えを示したことだ。新しい指導要領で学んだ受験生らが受ける24年度をめざし、1年かけて検討するという。
 だが、50万人超が受ける試験に「話す力」を測る仕組みを組み込むのは至難の業だ。1年で万人が納得する解が出るとは到底思えない。取り組むべきは、共通テストの一環として話す力を試す必要が本当にあるのか、一から議論し直すことだ。
 入試は大学の教育方針に応じて課すのが原則だ。英語に関しても、会話の力がどこまで必要かは大学や学部によって違う。選抜方法は各校の創意に委ね、国はその後押しを通じて全体の底上げを図るべきではないか。
 文科省の本来のねらいは、小中高の英語教育を実践的なものに変えることだったはずだ。だが読解中心の授業からなかなか脱却できないとみて、入試をテコにしようとした。けれどもそれは、やはり順番が逆だ。
 まず話す力を含む総合力が学校で身につくよう、授業改革を徹底する。そのうえで入試を見直す。正攻法を貫くことが、格差助長などの弊害を生まず、結局は目的達成の近道になる。



【主張】
民間試験の見送り 英語政策全体の見直しを
2019年11月2日:産経新聞

 大学入学共通テストの英語民間検定試験について、萩生田光一文部科学相が令和2年度からの実施見送りを発表した。この判断は妥当だが、決定が遅すぎたことなどはお粗末極まりない。
 文科省は、受験生を振り回した責任を明確にするとともに、英語教育を民間試験頼みとする安易な政策全体を見直すべきだ。
 萩生田氏は「自信を持って受験生に薦められるシステムになっていない」と述べた。受験生の「身の丈」どころか、制度自体に無理があるのは明らかだった。
 民間試験の日程や会場が決まっていない準備不足のほか、居住地域や家庭の経済状況次第で受験機会の格差が出ることを見送りの理由に挙げた。いずれも以前から指摘されてきたことである。
 全国高等学校長協会は「先が見通せないほど混乱している」という厳しい言葉で延期を要請していた。現場の声を真摯(しんし)に聞く姿勢を欠いては教育行政を担えない。
 共通テストの英語は、マークシート方式試験との併用で、英検など民間6団体7種の試験を利用する計画だった。5年後に向けて抜本的な見直しをするというが、民間試験ありきでは同じ過ちを繰り返すことになる。
 大学の個別入試では民間試験の成績を加点する例もある。だが、数十万人が受験する共通テストでの一律利用が難しいことは、今回の問題をみても明らかだ。
 難易度が異なる民間試験について、文科省は国際評価基準に当てはめて6段階で区分しており、これが適切なのかという批判もある。国立大学協会は一定以上のスコアを出願資格とするなどの指針を示したが、中学卒業程度のレベルしか課さない大学も目立ち、制度が骨抜きにされていた。
 そもそも、文科省が目指す英語教育の方向性にも疑問がある。
 文科省は小学校から英語を教える早期化や、英会話力などのコミュニケーション重視といった改革を進めてきた。民間試験利用もその一環だ。だが、英語は使う環境や目的がなければ身につかないと多くの専門家が指摘する。中学、高校時代は基本的な英文法などの土台を固める必要がある。
 コミュニケーションの基礎は、言語を問わず相手の言葉をよく聞き、理解する読解力だ。これは確かな国語力に支えられる。土台を欠いた改革は危うい。



英語新入試延期
 受験生を翻弄した責任は重い
2019年11月2日:読売新聞

 土壇場での方針転換は極めて異例だ。受験生を翻弄ほんろうした文部科学省の責任は極めて重い。
 2020年度からスタートする大学入学共通テストで、英語民間試験の活用が見送られることになった。萩生田文科相は「自信を持ってお勧めできるシステムになっていない」と述べ、陳謝した。
 試験に向けて努力を積み重ねてきた高校生の間には、困惑が広がっている。試験開始まで5か月を切っての延期は、失態と批判されても仕方がない。
 英語民間試験は、大学入試改革の目玉だった。受験生は、4~12月の間に2回まで、民間試験を受けられる。実用英語技能検定(英検)やTOEFLなど6団体が実施する7種類の試験から、自分で選ぶという方式だ。
 ただ、当初から、実施会場が都市部に偏り、地方在住の受験生には負担が大きいとの声があった。受験料が高額で、家計が苦しい受験生は不利益を被りかねないとも懸念されていた。
 加えて、試験日程や会場の詳細がなかなか決まらず、9月に入って、全国高校長協会が延期を求めていた。準備期間があったにもかかわらず、試験の実施環境を整えられなかったのは問題だ。
 さらに、「自分の身の丈に合わせて勝負してもらえれば」という萩生田文科相の発言が、不信感を招いた。民間試験の活用にあたり危惧されていた有利不利を、是認したと取れる内容だった。
 経済的な格差を埋めて、教育の機会均等を図るべき行政のトップとして不見識極まりない。結果的にこの発言が、英語民間試験の見送りを決定づけたと言える。
 文科省は1年程度かけて、民間試験活用の是非を検討し、24年度の入試から新たな英語試験の実施を目指すという。ここは、立ち止まって考え直すべきだろう。
 英語の入試改革には、「読む・聞く・話す・書く」の4技能をバランスよく測る狙いがあった。その方向性は、間違っていない。
 だが、大学入試センター試験に代わる共通テストで、性格の異なる複数の民間試験の結果を合否判定に使う、という制度設計に無理があったのではないか。
 大学入試センターが自前で、適切に4技能を測る試験を開発するのも選択肢となろう。
 高校の現場では、英語のコミュニケーション力を育む指導が広がりつつある。生徒が身につけた英語力をきちんと評価できるテストを検討してもらいたい。



英語民間試験 混乱招いた責任は重い
2019年11月2日:東京新聞

 大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入が一日、見送られた。受験に必要なID(識別番号)の申し込みの初日。まさにぎりぎりの決断だ。混乱を招いた国の責任は重い。
 四年制大学の七割が、出願資格や加点などの形で民間試験の利用を予定していた。それが見直されることになる。受験生の不安に最大限配慮し、なるべく早く、かつ分かりやすい周知が必要だ。
 「会場確保を(試験を実施する)各団体任せにしていたのも反省している」。延期を明らかにした会見で、萩生田光一文部科学相はそう話した。収益を度外視できない民間団体に任せれば、会場は人が集めやすい都市部が中心となる。どこにどれだけ集まるか分からないから、会場や日時の詳細の公表も遅れる。分かりきった話だ。
 今回、萩生田文科相の「身の丈」発言に対する世論の反発の高まりが方針転換を促すことになった。なぜそれまでに立ち止まることができなかったのか。まずは厳しい検証が必要だ。そうしなければ同じ過ちを繰り返す。
 民間試験導入は、安倍晋三首相が設置した政府の教育再生実行会議が二〇一三年に提言した。グローバル化への対応を迫られる産業界からの要請で始まった「教育改革」だ。
 翌年、教育関係者などを集めて開かれた文科省の協議会の議事録を見ると、現在問題となっている点はすでに指摘されている。大学関係者は高額の受験料と地域格差を懸念し、大学入試センターの関係者は、複数の試験を同列に並べて点数化する困難さを挙げた。
 懸念が解消されない中、昨年、東京大学は、民間試験を出願資格とするものの、それ以外の手段で英語力を証明できる余地を残すことを明らかにした。今年に入り民間検定試験「TOEIC」は参加を取り下げ、全国高等学校長協会は延期と見直しを求める要望書を文科省に提出した。
 「黄信号」「赤信号」と受け止めるべきサインを過小評価した背景には、一度決めたことは後戻りできないという官僚体質が透けて見える。民間試験導入を推進した文科相経験者など「身内」への配慮が優先し、思考停止に陥っていた側面がなかったか。
 今後、二四年度の新制度導入に向け、抜本的な見直しに入る。受験生が十分に能力を発揮できる環境が第一だ。今度は、耳を傾ける対象を間違えてはいけない。



AO入試が「学力不問の簡単入試」は過去の話 
実施大学が増える本当の理由
2019年11月2日:AERA

 AO入試=「学力不問」「特別な才能を持つ人向け」というのは過去の話。いま国立大学も私立大学もこぞって推薦・AO入試を拡大している。AERA 2019年11月4日号では、東大、京大、阪大など難関10国立大への合格実績をもとに「推薦・AO入試に強い」高校を調査。合格者を積み上げている「強い」高校の共通点とは。
*  *  *
 大学受験の山場といえば年明けを思い浮かべるが、AO(アドミッションズ・オフィス)入試は今がシーズンだ。

「あっ、◯◯ちゃんだ!」

 AO入試に強い予備校として知られる早稲田塾。池袋校の玄関では、壁に貼り出された合格者名を見ながら、女子生徒が歓声を上げていた。

「今年の在籍者、来年度以降の受験生からの問い合わせは共に去年より3割増えており、関心の高まりを実感しています」

 同塾事業本部本部長の大澤雅紀さんはそう話す。

 いま推薦・AOで大学に入るのは決して珍しいことではない。私立大では入学者の半数近く、国立大でも2割弱を推薦・AO合格者が占めている。

 AO入試と聞いて、こう想起する人も多いだろう。

「学力不問の安易な入試」

 かつて、そう批判された時期もあった。しかし思考力・表現力や主体性を問い、多面的・総合的に生徒を評価するというその理念が、2020年度(21年入試)からの大学入試改革を先取りしているとして近年再評価され、各大学がこぞって拡大しているのだ。

 例えば早稲田大学は、政治経済や社会科学など多くの学部で推薦・AO等入試を拡充。一般入試との比率を逆転させる方針を掲げる。1990年に日本で初めてAO入試を導入した慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)では、総合政策学部・環境情報学部の募集定員を20年度入試からこれまでの1.5倍の計300人に大幅増員する。同様の動きは、他の私立難関大にも広がっている。

 激しい獲得合戦に、国立大学も負けてはいない。15年、国立大学協会は推薦・AO入試による募集を21年度までに定員の3割に引き上げる目標を設定。拡大路線に転じた。
 私立の難関大や国立大がAO入試を拡大する中で、もはや「AO=学力不問」批判は当たらなくなっていると、早稲田塾の大澤さんは指摘する。

「国立大を中心にセンター試験を課したり、評定平均を問う大学が増えています。しかも大学入試改革では基礎学力の担保が必須となります」

 再来年に迫る新しい大学入試では、推薦入試は「学校推薦型選抜」、AO入試は「総合型選抜」、一般入試は「一般選抜」に衣替えする。学校推薦型と総合型で基礎学力が問われるようになる一方、一般選抜でも「活動記録」や「学びの計画書」など主体性を測る資料の提出が求められるようになる。一般入試でもAOの要素が取り入れられるのだ。

 大学にとってAOはいまや、目的意識を持ち伸びしろの大きい優秀な学生を、着実につなぎとめる重要な手段となっている。

 今の優秀な学生は海外大進学を視野に入れていることも多い。その海外大では、まさにAO型入試がスタンダード。日本の大学が、国際的には特異なテスト一発勝負の入試にしがみついていたのでは、優秀な学生に来てもらえない時代なのだ。大学・高校の教育改革に詳しい進研アドの中村浩二さんは大学のAO重視の背景には、授業スタイルの変化もあると指摘する。

「大学の授業は一斉型からディスカッション型へと切り替わっています。ディスカッションするには、多様なバックグラウンドを持つ学生が自分の視点で意見を言えなくてはなりません。そういう学生を見つける手段としてもAOは有効なのです」

 一方、中堅大や地方の小規模大の間でも、AO入試は広がりを見せる。もちろんそこには早期に入学者を確定させ、経営を安定させたいという思惑がある。いわゆる大学入試の「定員厳格化」により、私学助成金の交付対象となる「入学定員に対する実入学者の割合」の基準が近年厳しくなり、18年度にはその割合が大規模校で1.1倍に。大学側は歩留まりが読みにくくなることから、安定した入学者数を確保できるAO入試に力を入れているのだ。

 その一方で中村さんは、AO入試ならではの「丁寧なプロセス」を活用することで、入学する学生の意識を変え、大学自体のレベルアップにつなげたいという意図もあるという。

「例えば鎌倉女子大学などでは、受験生に高校時代の学びをどう大学で生かすのかといった視点でエントリーシートをしっかり書かせ、プレゼンや面接に臨ませています。結果、学生にここで学びたいという意識が芽生え、入学後の中退者が減少。GPA(成績評価値)の平均も上がったと聞いています」(中村さん)

(編集部・石臥薫子)
※AERA 2019年11月4日号より抜粋



なりふり構わぬ朝令暮改
世紀の破廉恥政権“錯乱”と“迷走”
2019年11月2日:日刊ゲンダイ

 決して「君子は豹変す」ではない。方針などあてにならない政権の単なる「朝令暮改」。いや、まだ何ひとつ改まってさえいないのだ。

 萩生田文科相が1日、大学入学共通テストに導入される英語民間試験の来年度実施の延期を表明。今後は民間試験の活用の有無も含め、抜本的な制度の見直しを行い、2024年度の実施を目指すという。

 この日朝、まさに英語民間試験の「共通ID」の受け付けが開始。申込先の大学入試センターには文科省から延期決定の連絡はなく、予定通り報道陣への説明会が行われた。メディアが事前に「延期検討」と報じていたとはいえ、ドタバタした方針急転劇には世紀の破廉恥政権の錯乱と迷走、なりふり構わぬ悪あがきが、くっきり浮かぶ。

 英語民間試験を含めた入試改革は、第2次政権発足直後に「教育再生」を掲げた安倍首相の肝いり政策。13年5月に自民党教育再生実行本部がまとめた第2次提言に端を発し、主に英語を話す能力が「現行のセンター試験では測ることができない」との理由が導入のタテマエとなった。
 当事者である大学や高校、受験生を議論の片隅に追いやった政治主導による制度設計が、一気に逆風にさらされたのは、萩生田本人の「身の丈」発言がきっかけだ。

 英語民間試験は受験年度の4~12月の間に受けた英検やTOEFL、ベネッセコーポレーション実施のGTECなど7種のうち、共通IDを使って受けた最大2回分の成績が大学に通知され、合否に反映される。金銭的余裕があれば事前に何度も試験を受けて慣れることができる。また試験会場は都市部に集中しがち。

 地方在住者には交通費や宿泊費など経済的負担が重い上、受験料が1回2万5000円を超える試験もある。
 カネを使えば使うほど有利な制度設計には、導入を決めた当初から専門家たちが「住む場所や家庭の経済状況によって不公平が生じる」と指摘してきた。

 先月24日夜のBSフジの番組で、この点を聞かれた萩生田はこう言い放ったのだ。
「『あいつ予備校通っていてずるい』と言うのと同じ。裕福な家庭の子が(民間試験の)回数を受けて、ウオーミングアップできるようなことはあるかもしれないが、そこは自分の身の丈に合わせて2回を選んで勝負してもらえれば」

 さらに地方など試験が受けにくい環境については「人生のうち1回や2回は故郷から出て試験を受ける、そういう緊張感も大事」と言及した。格差を容認しながら、根性論で制度の不備をごまかす「受験指導」――。

 ただでさえ、家庭の経済力に比例した「教育格差」が問題となって久しいのに、教育機会均等の理念を守り、格差を是正すべき文科大臣の資質を疑う開き直り発言は案の定、大炎上。野党の追及を招いた。

制度見直しは二の次で逃げを打つのが最優先

 どこの地域や家庭に生まれるかは選択できないのに、都市部や裕福な家に生まれなかったことすら「自己責任」。萩生田の身の丈発言には安倍政権の冷酷さがにじむが、図らずもこの発言が英語民間試験の構造的欠陥をあぶり出し、ついには導入延期に追い込まれるとは、皮肉な話だ。

 今さら萩生田が「自信を持って受験生の皆さんにおすすめできるシステムになっていない」としおらしく語っても、薄気味悪いだけである。今年6月、国会に民間試験導入中止を請願した学者有志のひとり、東大教授の阿部公彦氏(英米文学)が言う。

「延期は当然で遅いくらいです。場当たり的な対策では解決できない欠陥が多々あり、先送りではなく、白紙から制度を改めて欲しい。新たな検討会議を設置し、今後1年をめどに結論を出すとのことですが、反対派も含め、広く人材を募り、議論すべきです。ただ、今回の延期は身の丈発言を取り繕えなくなって、とりあえず逃げを打った印象が強い。本気で制度を改修する気があるのかは疑念が残ります」
 文科省の豹変もフザケている。阿部氏らの国会請願後、9月には全国高等学校長会が地域格差や経済格差への対応が不十分などとして文科省に導入延期を要望。いくら欠陥を指摘されても聞く耳を持たなかったクセに、大臣がバカ発言で窮地に立たされた途端、見送りに応じた。

 この政権につきまとう忖度臭がプンプン漂うが、前出の阿部公彦氏は「文科省が強行突破を諦めたのはこれ以上、追及が強まることで隠したがっていた制度の闇の部分がつまびらかになることを恐れたのではないか」と指摘する。

 実際、英語民間試験の導入を決めた文科省の有識者会議の傘下に設置された協議会には、ベネッセの高校事業部GTEC事業推進課長や日本英語検定協会の制作部研究開発主任らが名を連ねていた。有識者会議で明海大外国語学部教授の大津由紀雄氏が「明らかに利害の絡む人が協議会メンバーなのはおかしい」と声を上げても、文科省は知らんぷりだった。
 民間試験導入には入試をビジネスチャンスと捉えたロコツな利益誘導の疑いが横たわるのだ。

■やましさがあるから辞任ドミノに怯える

 ましてや、9月の内閣改造から1カ月半で先週の菅原前経産相に続き、1週間足らずで河井法相も辞任。「週刊文春」が発売されるたび、重要閣僚のクビが飛ぶ異常事態に加え、閣内には国会質問流出の「責任撤回」答弁の北村地方創生相や、揃ってヤクザ絡みの疑惑を抱える武田国家公安委員長、竹本IT担当相、田中復興相が控える。
 その上、萩生田まで野党の追及で火だるまとなり、辞任に追い込まれたら政権には大打撃。それゆえ、ボロ儲けを企んだ民間試験の事業者や予行演習として何度も英検を受けていた受験生を振り回そうが、お構いなし。

 この政権は辞任ドミノを恐れるあまり、サッサと英語民間試験問題の幕引きを図り、延期を決めたのに過ぎないのである。
 現場の混乱など顧みず、とことん我が身大事の権力亡者の無責任と、いい加減さには業者も受験生ももう唖然だろう。政治評論家の森田実氏はこう言った。

「結局、安倍政権の入試改革は教育さえビジネスの手段にした利益誘導に過ぎないのではないか。バレたら内閣が吹っ飛びかねない醜悪な事態を隠している感じがします。国民に説明できないことをやっているとしか思えません。菅原、河井両大臣に詰め腹を切らせたのも、国会の委員会出席の当日。国民に説明できないから、早めに逃がしてしまう。政権維持のためにトカゲの尻尾を切り続け、今や胴体まで刻んでいる印象です。週刊誌任せの新聞社もだらしないですが、やましさがあるから腐敗政権は辞任ドミノに怯える。富士川の戦いで水鳥の羽音を敵の襲来と勘違いして逃走した平家の心境でしょう」

 かくなる上は国民が追及の攻勢を強め、おごれる政権を壇ノ浦まで追い込み、滅亡させるしかない。

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