権力が「欲望に正直」ではいけない

次々と出る、議員や大臣の“失言”に通底する思想は「アベノミクス」の哲学とでもいう「弱いものに厳しく、強いものには優しい」という欲望に正直な弱肉強食の世界観と言えるだろう。
これは、20世紀に積み上げられてきた、社会権的人権をなし崩し、19世紀的な欲望をあらわにした世界を作り出そうということで、帝国主義的な「力」による政治を意味している。
ボクのような、障がい者などは「生産性がない」と真っ先に切り捨てられる。切り捨てられたくなかったら「自己責任」でどうにかしろと言っているに等しい。


閣僚の舌禍は失言ではない
驕る安倍政権の正体そのもの
2019年10月31日:日刊ゲンダイ

 教育の経済格差を容認する発言で大炎上している萩生田文科相が、ジリジリと追い詰められている。











謝罪の言葉にも差別意識ムキ出し(C)日刊ゲンダイ

 大学入学共通テストに導入される英語民間検定試験を巡る受験機会の不公平問題について、「身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」と上から目線を隠そうとせず、世論の反発にも野党の批判にもシレーッとしたもの。「受験生に不安を与えかねない説明だった」と詭弁を弄し、形ばかりの謝罪でコトを収めようとしたが、撤回を余儀なくされた。

 10月30日の衆院文科委員会では「仮に今の状況より混乱が進むようなら考えなくてはならないという気持ちもある」と来年度実施の見送りをにおわせた。

 萩生田発言を受けなくとも、導入延期は当然だ。全国高等学校長協会は見送りを求め続けているし、文科省のまとめでも活用する大学・短大は6割に過ぎない。入試で最も大切な公平・公正への懸念が拭えないからだ。立憲民主党は「経済的な状況や居住地域に左右される」とし、導入を延期する議員立法を衆院に提出。11月5日の文科委では、全高長などの代表者を招致する参考人質疑も決まった。

■長期政権を支えるスネ傷の面々

 なぜ、この内閣ではあり得ないような暴言、妄言が続くのか。

 外相から横滑りした河野防衛相の「私は雨男。防衛大臣になってから台風が3つ」も無神経の極みだ。2001年に閣議決定された大臣規範で閣僚の政治資金パーティーは「大規模開催の自粛」が規定されているのに、800人も集めて大宴会。それだけでも常識を疑うのに、被災者が日常生活を奪われる中で開催し、台風被害で笑いを取っていた。

 野党に追及されて「自衛隊の努力と処遇改善の必要性について申し上げた」と陳謝したが、昼夜を分かたず被災者救援に動く自衛隊にしたって、そんな形で持ち上げられたらいい迷惑だろう。厚顔無恥にもほどがある。

 萩生田は台風15号直撃を無視して強行された内閣改造で初入閣した安倍首相の最側近だ。第2次安倍政権発足以降、自民党総裁特別補佐に引き上げられ、官房副長官や党幹事長代行を経て文科相に出世。
 この間、野党の国会対応を「田舎のプロレス」とクサし、「消費税増税延期論」を言い出し、「有力な方を議長に置いて憲法改正シフトを国会が行っていく」と大島衆院議長の交代に言及した舌禍常連だ。

 河野にしても外相時代、日韓関係を「戦後最悪」にこじれさせた当事者のひとり。韓国最高裁の元徴用工判決を巡って面会した南官杓駐日大使の発言を遮り、「極めて無礼だ」とカメラの前でわざわざ面罵。韓国叩きで支持者の歓心を買う安倍政権に乗っかったのである。

 もっとも、これらは閣僚の失言ではない。それぞれの口から出たとはいえ、7年に迫る長期政権に驕る安倍内閣の正体そのものなのである。

上級国民を作り出し、負け組を見下す欺瞞政治

 安倍は第2次政権発足当初から「閣僚全員が復興相」と繰り返しているが、真っ赤なウソだ。今村雅弘元復興相は3・11の自主避難者を自己責任だと切り捨て、「まだ東北で、地方だったからよかった」とホンネを漏らして事実上更迭。復興担当だった務台俊介内閣府政務官は岩手県の台風被害視察に長靴を持参せず、職員におぶさってぬかるみを移動。世論の非難もどこ吹く風で、パーティーで悪びれもせずに「長靴業界はだいぶもうかった」とネタにして辞表を提出させられた。

 桜田義孝元五輪相は高橋比奈子衆院議員のパーティーで「復興以上に大事なのが高橋さん」とおちゃらけて辞任。国民に寄り添う気持ちなんて、これっぽっちも持っちゃいないヤカラばかりだ。

 政治ジャーナリストの角谷浩一氏は言う。

「安倍政権の根底にあるのは選民意識と新自由主義です。政権やその周辺にいる人々は上級国民を自負し、彼らのやり方に反発する人間は競争を勝ち抜けなかった負け組だと見下している。相次ぐ不祥事に対する批判を弱者のヒガミだとしか受け止めていないのでしょう。憲法がうたっているように、この国にヒエラルキーはありません。社会構造上も階層は存在しないのに、安倍政権はあえて上級国民という特権層を作り始めている。
 思い上がった政治家は内閣からも自民党からもパージされたものですが、今ではそういう人物こそ地位を得ています。台風被害を巡る二階幹事長の〈まずまずに収まった〉もトンデモないですが、萩生田文科相の発言は地方格差と経済格差を一緒くたにしたもので、差別意識ムキ出し。地方創生も経済再生も安倍政権の金看板ですが、欺瞞だと認めたようなものです」


 事あるごとに強調される「経済最優先」もマヤカシだ。

 景気はダダ下がり。「個人的な信頼関係」を誇るトランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争に翻弄され、アジア蔑視丸出しの対韓輸出規制はブーメランのごとく跳ね返ってきている。経済指標にも失速がアリアリと表れ、アベノミクスはとんと耳にしなくなった。「女性活躍」だの「1億総活躍」だのと看板を次々に付け替え、その成果とされる「有効求人倍率1倍超え」は少子高齢化による労働人口減少の結果だし、「失業率低下」は非正規雇用の拡大が背景にある。実質賃金は8カ月連続マイナス。それがこの国の現実だ。
 選民思想とオレ様政権で浮かれる体質、弱者を愚弄しながら1億総活躍などと欺くペテン。そして、イカれた首相にひれ伏す者が重用される。安倍のオトモダチであれば国家私物化で滴る甘い汁が分け与えられ、違法行為も捜査当局の忖度によっておとがめナシ。憲法も教育基本法も理解していなくても、支持者ウケする法改正に手を付けられつつある。法治国家の超法規的存在としてやりたい放題なのである。

■野党は問責決議案で外堀埋め、不信任決議案を

 第4次安倍再改造内閣で辞任1号となった菅原前経産相は公選法違反疑惑が次々に明るみに出て、初入閣を後押しした菅官房長官もかばいきれず、事実上更迭された。同じく菅プッシュで初入閣した河井法相にも公選法違反疑惑が浮上し、31日朝に辞任した。しかも、疑惑の中身は妻の河井案里参院議員と夫婦ぐるみである。

 案里は7月の参院選で地元の広島県議から鞍替えし、官邸丸抱えで初当選。その選挙戦で案里陣営がウグイス嬢に法定上限の2倍に当たる日当3万円を払っていた疑いを、発売中の「週刊文春」が報じている。

 ちなみに、菅原が選挙区の有権者へのメロンやカニ贈答で火ダルマになっている最中、地元でジャガイモを配っていたともいうから、ふてえ夫婦だ。「今だけカネだけ自分だけ」を地で行く薄汚い政権の本性がここまで露呈してもなおゴマカせると思ったら、大間違いである。政治評論家の森田実氏はこう言う。

「安倍政権の驕り、緩みは度し難い。国民の生命も将来も平然と軽視する。そんな精神は政治家としてはあってはなりません。野党は問題大臣の問責決議案を参院に提出し、世論の怒りを一層喚起して外堀を埋め、衆院で不信任決議案を突き付けるべきです。そうやって自民党全体に揺さぶりをかけなければ、この国のモラルは回復不能なレベルまで崩壊してしまう。国民を蔑み、差別を助長する政権を許したら日本は危ない。驕れる者は久しからず、にしなければなりません」

 辞任第3号は萩生田か、河野か。それとも、国会質問流出が進退問題に発展している北村地方創生相か。暴力団関係者との交際疑惑を抱える「魔の3T」の武田国家公安委員長、竹本IT担当相、田中復興相が続くのか。


【主張】
河井法相の辞任 「政権の危機」を自覚せよ
2019年11月1日:産経新聞

 河井克行法相が、7月参院選で初当選した妻で自民党参院議員の案里氏の選挙事務所の公選法違反や自身の関与などの疑惑を週刊誌に報じられ、辞任した。
 「饗宴(きょうえん)の儀」をはじめ天皇陛下の即位の礼関連行事の最中だ。公選法違反の疑いにより菅原一秀前経済産業相が事実上更迭されてから、わずか1週間しか経(た)たぬうちの辞任劇である。
 本当にお粗末で情けない。
 重要閣僚2人が短期間のうちに疑惑で辞める異常事態となった。しかも法相は「法の番人」といわれる。混乱の責任は、任命権者の安倍晋三首相にある。適材ではない人物を選んだ不明を恥じ、「政権の危機」を自覚すべきだ。
 首相は「責任を痛感する」と謝罪し「より一層身を引き締めて行政の責任を果たす」と語った。
 謝罪は当然としても、それだけでは不十分だ。説明責任を果たさなければ国民の納得は得られず、国会運営を含め国政は混乱しよう。自民党は、衆参両院で首相出席の予算委員会の集中審議を開催することを条件に、野党の反発で審議が止まっている国会の正常化を求めた。
 ならば、河井氏、案里氏、菅原氏ら関係者も国会に呼び、事実関係を説明させたらどうか。
 週刊文春の報道によれば、公選法違反の運動員買収に当たる可能性がある。参院選広島選挙区で当選した案里氏の事務所が、運動員13人に法定上限の倍額の日当3万円を支払い、法定内に収まるようにみせる偽の領収書を作った疑惑がある。候補者本人が知らなくても、秘書など一定の立場の者による買収が確定すれば連座制の適用で当選無効となる。
 案里氏の選挙活動を夫の河井氏が仕切っていたとの証言も報じられた。寄付行為を禁ずる公選法に反して、河井氏の事務所が地元有権者にジャガイモなどの贈答品を配った疑いも指摘された。
 河井氏は「私も妻も全くあずかり知らない」が、「国民の法務行政への信頼が損なわれてはならない」から辞任したとし、説明責任を果たすと語った。「私も妻も県民の皆さまに支持を訴え続けていたので、選挙事務所の事務は承知していない」とも述べた。
 トカゲの尻尾切りでないというなら、きちんと説明すべきだ。公正な選挙は民主主義の基本であり、疑惑の解明が必要である。


法相辞任 緩み排し政策遂行にあたれ
2019年11月1日:読売新聞

 内閣改造から1か月半で2人の重要閣僚が辞める異常事態だ。安倍首相は、政府・自民党の緩みを排さねばならない。
 河井克行法相が辞任した。7月の参院選で初当選した妻の河井案里参院議員の陣営が、法定額を超える報酬を運動員に支払っていた、とする週刊文春の報道を受けたものだ。
 公職選挙法の施行令は、ウグイス嬢への日当の上限を1万5000円と定めているが、その倍を払ったという。河井克行氏の元公設秘書の関与が指摘されている。
 選挙の公正さを損なう行為は許されない。ましてや法秩序の維持を担う法相だ。疑惑を抱えていては職責を全うできまい。首相が事実上、更迭したのは当然だ。後任に森雅子・元少子化相を充てた。堅実な手腕を買ったのだろう。
 公選法違反で秘書らの禁錮以上の刑が確定した場合、議員の当選は無効となる。
 河井氏と案里氏は事実関係を調べ、説明責任を果たすべきだ。
 安倍内閣では先週、菅原一秀・前経済産業相が、選挙区で秘書が議員名で香典を渡した問題を理由に、更迭されたばかりだ。首相は「厳しい批判を真摯しんしに受け止めなければならない」と述べた。
 9月の内閣改造は、安倍政権を支えてきた人に報いた面が強い。河井、菅原両氏は、菅官房長官に近い。首相も河井氏を首相補佐官などで重用してきた。
 閣僚の人選にあたっては、候補者の政治資金や活動に問題がないか調査するのが通例だ。チェックが甘かったと言えよう。
 閣僚の失言も相次いでいる。長期政権ゆえ、政府・自民党に慢心や驕おごりが広がっているのではないか。内政、外交の課題は山積している。首相は謙虚に反省し、着実に政策を推進する必要がある。
 選挙運動員への報酬額は、1992年の規定が今も適用されている。近年の人手不足から、「この報酬では、人が集まりにくい」との指摘が根強い。
 香典は、本人が持参すれば違法性がなく、秘書や政党支部の職員が政治家名で渡せば、違反の可能性が高い。こうした規定が分かりにくいのは確かだろう。
 選挙や政治活動の規制が、社会通念や時代に合っているか、再点検することも大切だ。与野党で協議してはどうか。
 野党は、相次ぐ閣僚辞任について首相が国会で釈明しない限り、法案審議に応じない構えを見せている。旧態依然とした審議拒否戦術はやめるべきだ。


(社説)
閣僚連続辞任 長期政権の緩み極まる
2019年11月1日:朝日新聞

 内閣改造から2カ月もたたないうちに、重要閣僚が相次いで辞任に追い込まれた。「安定と挑戦」を掲げた人事の失敗は明らかだ。安倍首相は、政権全体への信頼を揺るがす事態であると重く受け止めねばならない。
 先週の菅原一秀経済産業相に続き、今度は河井克行法相が辞表を提出した。きのう発売の週刊文春が、妻で自民党参院議員の案里(あんり)氏の陣営の選挙違反疑惑を報じたためだ。
 案里氏は7月の参院選広島選挙区で初当選した。文春によると、その際、選挙カーでマイクを握る運動員に対し、法定上限の倍にあたる3万円の日当を支払いながら、領収書を二つにわけて経理処理をするというごまかしをしていたという。
 事実なら、公職選挙法が禁じる運動員買収にあたり、候補者本人が承知していなくても、連座制の対象となる人物の有罪が確定すれば、当選が無効になる。議員の身分にかかわる、ゆるがせにできない疑惑である。
 ところが、案里氏は事務所の運営はスタッフに任せていたとして、「事実関係の把握に努めたうえで、説明責任を果たしたい」とのコメントを発表して終わり。夫の克行氏も記者団に「私も妻もあずかり知らない。法令にのっとった活動を行っていると信じている」などと短く語るだけだった。
 きのうは参院法務委員会で克行氏への質疑が予定されていた。報道直後のスピード辞任は、国会での追及を逃れるためではなかったか。同様に衆院経済産業委員会を前に辞任した菅原氏は、その後1週間たつが、いまだに公の場で疑問に答えていない。
 甚だしい説明責任の軽視は、首相自身にもいえる。閣僚辞任という重大な場面にもかかわらず、その説明は会見ではなく、記者団との「立ち話」。「責任を痛感」「国民に心からおわび」というが、2012年の政権復帰以降、疑惑や失言などによる閣僚の辞任は10人目である。これだけ繰り返されると、首相の反省がどこまで本気か疑わしいと言わざるを得ない。
 克行氏をめぐっては、秘書への暴行やパワハラ、セクハラの疑いが週刊誌で報じられ、閣僚としての資質を危ぶむ声があった。にもかかわらず、首相は法務・検察をつかさどる法相につけた。選挙区内での贈答疑惑を指摘されていた菅原氏の起用と併せ、長期政権のおごりと緩みが極まった感がある。
 首相が本当に任命責任を感じているというのなら、まずは野党が要求する予算委員会の集中審議に応じるべきだ。自ら説明の先頭に立つことなしに、信頼回復への歩みは始まらない。


河井法相辞任「法務トップなのに」
 政治とカネ「また辞めた」
2019年10月31日:東京新聞

辞表提出後に取材に応じ、一礼する河井法相=31日午前8時29分、首相官邸で

 「政治とカネ」を巡り、またもや閣僚が辞任した。河井克行法相は三十一日、妻で参院議員の案里氏の選挙運動に関する疑惑を週刊誌で報じられ、辞表を提出した。法務行政のトップの辞任に法務省内は困惑。安倍政権では菅原一秀前経済産業相が二十五日に辞任したばかりで、市民から批判の声が出ている。
 東京都内のJR新橋駅前では、有権者から安倍政権の任命責任を問う怒りの声が上がった。河井氏が疑惑を認めていない中で辞任したことにも「それなら堂々としていればいい」といぶかしがる人もいた。
 「えっ。また辞めたの?」と驚きの声を上げたのは、神奈川県の会社員菅原理子(さとこ)さん(42)。選挙区内で有権者に香典を渡したと報じられた菅原前経産相に続く閣僚の辞任に、「二人とも菅義偉官房長官の側近。任命前にきちんとチェックして、能力ある人を大臣に据えてほしい」と求めた。
 週刊文春の報道では、案里氏の陣営が七月の参院選で運動員に法定上限を超えた日当を渡し、河井氏の事務所は有権者にジャガイモなどを贈ったとしている。河井氏は三十一日、辞表を提出しながら「今回の一件は私も妻も全くあずかり知らない」と説明している。
 東京都葛飾区の会社員田中嵩久さん(44)は「早期の辞任は潔いが、疑惑を否定しているのに辞める理由が分からない」と指摘。安倍政権に対し「いつも内閣改造をするたびに、スキャンダルが出て閣僚が辞める。どうにかならないのか」とあきれ顔だった。
 一方、通勤途中の千葉市の会社員男性(50)は「閣僚の失言やスキャンダルのせいで、税金が無駄に使われている」と嘆いた。 (天田優里)
 ◇ 
 河井法相の急転直下の辞任を受け、法務省内は朝から混乱状態に陥った。同省幹部からは「法をつかさどる組織のトップにこんな疑惑が持たれるとは…。残念だ」との声が漏れた。
 「あ、ちょっと忙しいので取材には応じられない」
 法務省内の廊下で中枢の幹部に声を掛けると、険しい表情で自室に戻っていった。大臣官房の幹部は「ごめんごめん」とだけ言い、若手職員らと小声で話しながら足早に部屋に入った。
 この日は午前十時から、全国の検察庁の次席検事らが集まる会議が省内であり、当初は河井氏が訓示する予定だった。だが、三十日午後、訓示は法務次官の代読に変更され、三十一日午前九時前には代読も取りやめになった。
 ある法務省幹部は「辞任をニュースで知って驚いた。こんなに早く決断するなんて、よほどまずいことがあったのでは」と眉をひそめた。
 別の幹部は「疑惑が本当なら許されない。法相なのに公職選挙法に抵触するようなことをしていたとすれば完全にアウトだ」とあきれた様子。「今国会で法務省は会社法改正案など重要法案を出している。審議への影響は避けられないだろう」と心配する幹部もいた。 (小野沢健太、山下葉月)



公選法違反で辞任・河井法相と
安倍首相の密接関係…
それでも安倍の「任命責任」は口だけ、
田崎史郎と宮根誠司は安倍擁護
2019年10月31日:LITERA

 安倍政権の“辞任ドミノ”がはじまった。先週末には菅原一秀経産相が選挙法">公職選挙法違反の「有権者買収」疑惑で辞任したが、それから1週間も経たないうちに、本日、河井克行法相が辞任した。今度は「運動員買収」の公選法違反疑惑だ。
 すでに報じられているとおり、辞任の引き金になったのは本日発売の「週刊文春」(文藝春秋)。7月におこなわれた参院選では河井法相の妻である案里氏が広島選挙区から出馬し当選したが、記事ではこの選挙戦において案里氏の陣営が車上運動員、いわゆるウグイス嬢に対して法定上限額である日当1万5000円を超える3万円を支払っていたことをスクープ。それも、領収書の写しや実際の支払額を記した“裏帳簿”を掲載するという物証付きだった。
 こうした運動員の買収行為は公選法で禁止されており、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。また、候補者本人が直接関与していなくても候補者の秘書や出納責任者、親族といった一定の関係者の刑が確定し「連座制」が適用されれば、当選は無効になる。
 しかも記事によると、案里氏の選対を実質的に取り仕切り、金の差配をおこなっていたのは克行氏で、領収書を2枚に分けて法定上限額の倍の日当を支払っていたことを隠す工作を指示していたのも昨年末まで克行氏の公設第二秘書を務めていた人物だという。法務大臣が法律違反をおこなっていたなどとなれば、これは言語道断だ。
「河井前法相は辞任後のぶら下がり取材でも『今回の一件は私も妻もまったくあずかり知らない』などと主張したが、官邸は国会での追及に耐えられないと判断したのだろう。記事ではジャガイモやマンゴー、トウモロコシなどを有権者に配っていたという菅原前経産相と同様の有権者買収疑惑も暴かれていたが、じつは河井前法相にはこのほかにも重大な疑惑があるとも囁かれており、それを見越した辞任ではないかという見方も出ている」(大手紙政治部記者)
 ともかく、内閣改造からわずか約1カ月半、しかも1週間のあいだにスキャンダルで立てつづけに2人も大臣が辞任し、国会を空転させている責任は、当然、安倍首相にある。しかし、安倍首相からは「責任をとる」姿勢はまったくみられない。
 実際、河井氏の辞任について、安倍首相は「河井大臣を任命したのは私だ。こうした結果となった責任を痛感している。国民のみなさまに深くおわびしたい」と述べたが、つい6日前にも菅原前経産相の辞任を受けて「任命責任は私にあり、こうした事態になってしまったことに対し国民のみなさまに深くおわびする」と言ったばかり。そもそも、安倍首相が第二次安倍政権で大臣の辞任は10人目。松島みどり元法相と小渕優子元経産相はダブル辞任だったため、安倍首相が「任命責任は私にある」と述べるのは、これで9回目だ。
 9回も同じ台詞を繰り返しておきながら、一度もその責任をとっていない安倍首相。無論、記者からは具体的にどう責任をとるつもりなのかと質問も飛んだが、その答えは「国民のみなさまの信頼を回復してしっかりと行政を前に進めていくこと。そのことにおいて責任を果たしていきたい」というもの。ようするに、安倍首相に「責任をとる」つもりなど微塵もないのだ。
 しかも、メディアは菅原前経産相につづいて河井前法相も菅義偉官房長官の側近だったことから「“ポスト安倍”の菅官房長官にも影響か」などと報じているが、河井前法相は菅官房長官だけではなく、安倍首相とも密接な関係だったのだ。

安倍首相の河井法相任命責任を
田崎史郎は「総裁選で世話になったから義理を返すのは当然」

 現に、河井氏は総裁外交特別補佐を務め、2016年に米大統領選後はトランプが当選すると就任前に河井氏に渡米して地ならしすることを指示。トランプタワーでの安倍・トランプ初会談にも同行するなど、安倍首相は河井氏を買っていたのである。
 さらに、参院選で河井氏の妻の案里氏が広島選挙区から出馬したのも、安倍首相にとって目障りだった自民党の重鎮・溝手顕正氏を蹴落とすための“刺客”としてだった。というのも、広島選挙区選出の溝手氏は第一次政権時の2007年参院選で自民が大敗した際、安倍首相の責任に言及し、さらに下野時代には安倍氏を「過去の人」と発言した人物。今年の参院選で、自民は表向き“2人区で2人擁立して票を上積みする”としていたが、実際には安倍首相が溝手落としのために子飼いである河井氏の妻を新人として立たせたのだ。
 今回の「週刊文春」でも、この選挙で案里氏の選対に“安倍首相の地元・山口から秘書が代わる代わる選対に入っていた”という証言が紹介されているが、そうした安倍官邸が主導していた選挙で運動員買収が繰り広げられていたのである。そもそも、河井氏が法務大臣に引き立てられたのも、これらの安倍首相のための働きが認められてのこと。つまり、安倍首相の「任命責任」は、相当に重いものなのだ。
 だが、安倍首相の「任命責任」を、きょうのワイドショーでは安倍応援団たちが必死になって矮小化した。
 たとえば、本日放送の『ひるおび!』(TBS)では、河井・菅原両氏が大臣に抜擢されたた理由について、田崎史郎氏が“総裁選で安倍首相のために必死で働いたのがこのふたり”とし、人事は「論功行賞」だったと解説。そんな人事をしているからスキャンダルが噴出しているわけだが、しかし田崎氏は「総裁選でお世話になった人にちゃんと義理を返しておくというのは、永田町では通じる話」などと正当化した上、こんな話をはじめたのだ。
「菅原さんも河井さんも『ちょっと危なそうね』って話は、『秘書との関係が崩れてるよね』って話はずっとあったんですよ。で、その情報は官邸には届いていた」
 それは当然だろう。本サイトでも内閣改造のときに記事で紹介したが、2016年には元秘書が河井氏による暴力行為やパワハラ、セクハラ行為、さらには“対立候補のポスター剥がし”をやらされたと告白しており、河井氏のスキャンダルはすでに報じられていた。そして、田崎氏が言うように「その情報は官邸に届いていた」。にもかかわらず、安倍首相が河井氏を法相に抜擢したのだ。
 なのに、田崎氏は安倍首相の任命責任を問うどころか、「(疑惑があっても)調べようがない」「本人に『大丈夫です』って言われると、調べようがないんですね」と述べ、挙げ句、「先に起用ありきなんですよ」とまで言い放ったのだ。つまり、“疑惑があっても大臣人事とは義理を優先させるもの”だと強調したのである。

チョ・グク法相就任の際に
「日本では疑いがあったら総理が任命しない」と
言っていた宮根誠司は河井辞任で驚きの解説

 さらに、『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)も酷かった。本日の放送で河井法相の辞任を取り上げると、司会の宮根誠司は「(河井氏は)当選7回でしょ?」「長期政権になっていると、当選も7回もしたら、そろそろ大臣にさせてやらないとな、みたいなのもあるんですかね」「身体検査も限界があるってことなんですかね」などと安倍首相をフォローしたのだ。
 おいおいちょっと待て、という話だろう。同番組では、文在寅大統領側近のチョ・グク氏が法相に就任した際、宮根は「これ普通、日本だと“疑い”ですよ。家族でもなんでも、なにか“疑い”。怪しいことがあったら、日本だったら総理大臣が任命しませんよね、法務大臣に」と言って文大統領を批判していたのだ。なのに、「怪しい」疑惑が持ち上がっていた河井氏を安倍首相が任命し、案の定、スキャンダルが発覚して辞任しても、「身体検査は限界がある」「長期政権だから」などと擁護したのである。
「任命責任は私にある」と9回も繰り返しながら一度も責任をとらない総理大臣と、隣国の大臣人事をヒステリックに批判しながら安倍首相の人事の責任は水に流そうとする二枚舌ワイドショー。第一次安倍政権ではスキャンダルによる閣僚の“辞任ドミノ”が起こり退陣に追い込まれたが、いまのワイドショーの報道姿勢を見ていると、当たり前の責任追及さえ起こらないのは当然なのかもしれない。
(編集部)



河井法相も辞任 安倍内閣の劣化は深刻だ
2019年11月1日:毎日新聞

 「任命責任は私にある」という安倍晋三首相の言葉は、もう聞き飽きた――と多くの国民があきれているだろう。河井克行法相(自民党、衆院広島3区)がきのう、辞任した。
 今夏の参院選で初当選した河井氏の妻、案里氏の陣営が選挙中、車上運動員に法定上限を超える報酬を支払った疑いがあると報じられたことを受けての辞任である。
 安倍内閣では先週、菅原一秀氏が有権者に金品を配った疑惑により経済産業相を辞めたばかりだ。いずれも9月の内閣改造で初入閣した閣僚で、いかに今度の改造人事がずさんだったかを物語っている。
 河井氏は辞任の理由を「法務行政への信頼が損なわれてはならない」と述べ、疑惑については「私も妻も全くあずかり知らない」と語った。
 だが、公職選挙法では車上運動員への限度を超える日当は買収に当たる。仮に候補者が直接関与していなくても、場合によっては候補者に連座制が適用されて当選が無効となる可能性がある。
 菅原氏の贈答疑惑と同様、買収が禁じられているのは政治家にとってイロハのイの常識だ。河井克行氏本人も妻の選挙運動を支えていた。
 今回も疑惑が発覚し、国会で野党から追及を受ける直前に閣僚を辞任して国会質疑から逃れた点も看過できない。無関係だと言うのなら堂々と国会で説明すればいい。そうしないのは、やはり何か疑わしいことがあるのではないかと見られても仕方がない。
 河井氏は安倍首相の補佐官などを務めた側近の一人で、菅義偉官房長官にも近い。一方、案里氏は参院選直前に広島選挙区(改選数2)からの出馬を決めて立候補した結果、自民党の現職が落選した。
 案里氏の出馬を後押ししたのは菅氏で、その強引な手法には自民党内にも不満が残っていた。にもかかわらず今回の失態に党内から強い批判が出ないのは不思議なほどだ。
 「在庫一掃」と言われた先の内閣改造のツケは極めて重い。萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言なども含めて閣僚の質の劣化は深刻だ。
 辞任した2人だけでなく、なぜこんな事態に陥っているのか、首相自身が国会できちんと説明するのが、任命者として最低限の責任だ。



「身の丈」発言に反省ゼロ
萩生田文科相の呆れた順法精神
2019年10月31日:日刊ゲンダイ

 大学入試に導入される英語の民間検定試験を巡る「身の丈」発言で猛批判されている萩生田文科相。30日の衆院文科委員会で野党に追及されると、「(発言があった)番組内での『身の丈』発言以降のくだりもできたら紹介して欲しいんですけど」などと答弁。野党議員をバカにしたような笑みを浮かべ、反省の色はゼロだった。

■過去にも「法律に問題がある」と放言

 民間試験導入で、家庭の経済状況などによる不公平が生じる恐れがあるのに、番組で「それは『あいつ、予備校に通ってるからずるい』と言うのと同じ」とまで言い放った萩生田氏。文科相にもかかわらず、「教育を受ける機会の平等」を規定する教育基本法を軽視しているとしか思えない。即辞任すべきだが、そもそも萩生田氏に「順法精神」を求めること自体、無理な話なのだろう。過去にも本人や事務所が法律を軽んじる発言を連発している。
 日刊ゲンダイは2016年5月9日号で、萩生田氏の政治団体が支出した「慶弔見舞金」の公選法違反疑惑を指摘。もともと収支報告書上で二百数十万円だった支出額を十数万円に大幅訂正しており、いかにも不自然だった。

 当時、萩生田事務所は日刊ゲンダイに「(香典配布問題を指摘されていた)高木毅復興相の報道を受け、急きょ訂正した」と答え、ナント「多くの議員が同じようなことをやっている。問題があるのはむしろ公選法の方ではないか」と強弁したのだ。

 17年7月には、本人に2000万円の借金があったにもかかわらず、資産報告されていなかったことが発覚。
 日刊ゲンダイが指摘すると、国会議員の資産報告は法律で義務付けられているものの、罰則がないからなのか事務所は「事務的ミス。訂正します」と回答し、開き直った。
 同年10月の衆院選の際は、加計学園の獣医学部新設に萩生田氏が関与した疑いが持たれていたが、日刊ゲンダイの直撃に萩生田氏は「“罪状”はあるけど、証拠がなく逮捕されないっていうね」と“ドヤ顔”で放言。捕まらなければ、法を犯しても平気なのか。順法精神が欠如し、あらゆる問題に無反省ということだ。

「『身の丈』発言は、『国民は等しく教育を受ける権利を有する』という憲法26条から逸脱する発言です。『公選法に問題がある』などという発言も言語道断。法律など都合よく解釈すればいいと考えているのでしょう。法治主義に反する暴言です」(立正大名誉教授の金子勝氏=憲法)

 野党は徹底追及してクビをとるべきだ。



英語民間試験、萩生田発言は問題外だが、
実施先延ばしも問題外
2019年10月31日:ニューズウィーク
受験生に「身の丈に合わせて頑張って」と言い放った萩生田文科相の発言は確かに問題だが
 Issei Kato-REUTERS

<日本の国際化を妨げ、経済停滞を招いた英語教育を「使える英語教育」へと変える――その改革にもう猶予はない>
大学受験の英語力判定において、2020年度から民間試験を導入する問題ですが、萩生田光一文科相の「身の丈に合った......」という発言が「炎上」する中で、野党や高校の現場などから「実施の延期」を主張する声が上がっています。
確かに、大学受験において高額の受験料が発生するというのは問題で、そのために「格差の世襲」が続くようでは、日本社会の活力はさらに衰退してしまうでしょう。一刻も早い是正が必要です。
具体的には、
▼本命のくせに法外な(一回約2万5000円)受験料を取っているTOEFLなどの価格を強い行政指導で下げさせる。
▼世帯年収に応じて受験料の減免を行う。
▼地方など受験生の少ない場所での実施には補助金を出す。
といった緊急措置が必要だと思います。これは待ったなしで策を講じなければならないでしょう。ちなみに、大学出願に必要な学力検査の受験料の減免ということでは、アメリカの場合、4人家族の年間世帯年収が約4万7000ドル以下であれば減免が、3万3000ドル以下なら無償化の対象となっています。
どうして待ったなしなのか、それは実施の先送りは許されないからです。英語というのは、学界やビジネス界では事実上の世界共通語になっています。その一方で、日本の英語教育は、誤った文法メソッドや翻訳メソッドで、言語ではなく単なる暗号解読と暗記を多くの日本人に強いてきました。
その結果として、英語教育が無力感と劣等感を植え付けてきたのです。英語教育の遅れが国際化を妨害し、日本経済をここまでボロボロにしたのです。その英語教育を「使える英語教育」に変革する、この改革に猶予はありません。そのための入試改革は、すでに遅過ぎるぐらいであり、1年の延期も許されません。
それにしても、アベノミクスの第三の矢が発動できずに、先進国から滑り落ちそうになっている政権に対抗するべき野党が、どうしてこうした改革に反対するのでしょうか?
スマートシティ構想もそうで、何もしないで傍観していれば、中国やシンガポールがどんど5G(第五世代移動体通信)やそれを使った自動運転を実現する都市インフラの実験で先行し、日本の自動車産業や情報通信産業は研究開発も含めて一層の空洞化が進み、国内では雲散霧消してしまうかもしれないのです。
とにかく、自民党などのイデオロギー保守に対して、革新を名乗る野党が対抗していたという構図ははるか彼方の歴史となってしまい、今は野党イコール守旧派で抵抗勢力と構図が逆転してしまっています。
その理由は、支持層が高齢化しているからでしょう。人口が多かったために、翻訳本が経済的に成立する中で、日本語で世界の先端情報に触れることのできた過去世代は、「大学受験は公正なペーパー試験」が良いという過去の「常識」に囚われているからです。
メディアが煽る中で、与党でも先送り論が出ているのは同じ理由です。将来への投資であるべき教育を、無効となった過去の常識から出た感情論で政治利用する動きが与野党を包んでいるとも言えます。受験生の不安感情すら、その動きに利用されているようです。
入試が格差を助長してはダメです。同じように、改革の先送りも許されません。緊急措置として是正措置を行い、予定通り新制度を導入するべきです。それが文科相の辞任と引き換えになるとしても、やむを得ないでしょう。



英語民間試験、20年度の実施見送りへ
 制度の欠陥噴出
2019年11月1日:朝日新聞

 政府は2020年度から始まる大学入学共通テストで活用される英語の民間試験の実施を見送る方針を固めた。受験生の住む地域や、家庭の経済状況によって格差が生じるといった不安が広がり、政府・与党からも「政策的な欠陥がある」などといった懸念の声が上がっていた。
 英語の民間試験活用をめぐっては、萩生田光一文科相が24日、BSフジの番組で、「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」などと発言。教育格差を容認しているなどと批判が集中し、謝罪、撤回に追い込まれた。
 こうした中、制度の問題点も改めて注目された。野党側は国会審議で繰り返し延期を要求。自民党参院幹部は30日、記者団に「受験生があまりにかわいそうだ。制度の問題点を補完するには準備の時間が足りなすぎる」と指摘。官邸内からも「延期したらいい」(幹部)との声が漏れていた。
 2020年度に実施される現在の高校2年生が受験する入試から、大学入試センター試験に代わり大学入学共通テストが始まる。英語は民間試験の活用で、「読む・聞く・話す・書く」の4技能を評価。特に「話す」試験について、一斉に数十万人が受験したり短時間に採点をしたりすることが難しいため、センターが認定する7種類の試験が活用される。
 民間試験は、原則として受験生が高校3年の4~12月に受けた2回までの成績が、国のシステムを通じて出願先の大学に提供され、合否判定などに活用される。ただ、受験生の住む地域や家庭の経済状況などによって、受験機会に格差が生じる可能性などが指摘され、文科省は試験の実施団体に住民税非課税世帯の受験生の受験料減免を求めたり、離島の受験生が会場と行き来する交通費や宿泊費の一部を補助する支援策を、来年度予算の概算要求に盛り込んだりしていた。


「全体的に不備、抜本的に見直す」
萩生田文科相、英語民間試験延期で
2019年11月1日:毎日新聞

大学入学共通テストの英語民間試験導入見送りに関する記者会見で質問に答える
萩生田光一文部科学相=東京都千代田区で2019年11月1日午前9時33分、滝川大貴撮影

 2020年度に大学入試センター試験に代わって始まる大学入学共通テストで導入が予定されていた英語民間試験について、萩生田光一文部科学相は1日の閣議後記者会見で延期すると発表した。「全体的に不備があると認めざるを得ない。抜本的に見直し、高校生が平等に試験を受けられる環境づくりに注力したい」と述べた。今後民間試験の活用の有無も含めて改めて検討を進め、24年度に実施する共通テストで新制度の導入を目指すという。


 英語民間試験を巡っては高額な試験料や地方の会場の不足などによる経済・地域格差の問題が指摘される中、萩生田氏が10月24日にテレビ番組で「身の丈に合わせて勝負してもらえれば」と発言したことが格差を容認するとして受験生や高校関係者を中心に批判が高まっていた。ただ、萩生田氏は延期の判断について「私の発言が直接原因になったわけではない」と述べた。
 予定していた来年4月の受験開始まで半年を切り、1日は受験に必要な「共通ID」の申し込みの初日を迎える中での異例の方針転換となった。英語民間試験の対策を進めてきた受験生や高校で混乱や反発が広がることは必至で、日程や会場の調整を行ってきた実施団体への補償が新たな問題として浮上することも予想される。
 英語民間試験の活用は、グローバル化が進む中、英語の4技能(読む・聞く・書く・話す)を大学入試で評価する必要があるとして、文科相の諮問機関である中央教育審議会が14年12月に答申し、文科省が17年7月に実施の方針を決めた。しかし、会場が都市部に多くなることが予想され、受験料が2万円を超える試験もあるため、経済・地域格差の問題が指摘されていた。
 今年9月10日、主に公立高校の校長でつくる全国高校長協会(全高長)は、生徒の不安が払拭(ふっしょく)されていないとして延期や制度の見直しを求める要望書を文科省に提出した。一方、全国の私立中高でつくる日本私立中学高校連合会は9月19日、生徒は準備を進めているとして「確実な実施」を求める要望書を提出するなどし、高校の現場で賛否が分かれる異例の事態が続いた。
 文科省は格差の解消に向けて、来年度予算の概算要求に離島の受験生の交通費などを補助する支援策を盛り込み、9月11日に文科相に就任した萩生田氏も「予定どおりに実施する」との考えを繰り返し示していた。だが「身の丈」発言で制度の問題点が改めて注目され、政府・与党内で延期論が急浮上。文科省内では「逆に混乱する」(幹部)として延期に否定的な声も強かったが、官邸の意向などもあり最終的に延期に踏み切った。
 予定されていた英語民間試験は「英検」「GTEC」など7種類。現在の高校2年が3年となる来年4~12月に2回まで受験し、成績が志望の大学に提供され、合否判定などに使われる予定だった。【水戸健一、千脇康平】



「危ない人事」当初から懸念
 首相周辺「まずい状況だ」
2019年11月1日:朝日新聞

 先週の菅原一秀経済産業相の辞任に続き、今度は河井克行法相が辞任に追い込まれた。安倍晋三首相や菅義偉官房長官に近い閣僚の問題が相次ぐことに、野党だけでなく、与党内からも批判が噴出。「1強」とも言われた政権の求心力に影を落としている。
 31日午前9時過ぎ、報道陣の前に姿を見せた安倍首相は、「河井大臣を法務大臣に任命したのは私だ。責任を痛感している。国民に深く心からおわび申し上げたい」と言って頭を下げた。
 辞任は午前8時過ぎ。午前10時から予定された参院法務委員会の直前の辞任劇は、25日の衆院経済産業委員会直前に辞表を出した菅原氏と同じだ。閣僚として国会に出席して野党の追及を受けることを回避した格好で、内閣支持率への影響を最小限に抑えようという政権の思惑がにじむ。
 ただ、続けざまの閣僚交代には、与党内からも冷ややかな視線が向けられている。
 首相はこの日の朝、公明党の山口那津男代表に電話をかけ、河井氏の辞任を謝罪した。与党関係者によると、首相は29日に山口氏と会談した際に「気を引き締めて真摯(しんし)に取り組んでいく」と伝えたばかりだったため、山口氏は「気を引き締めると言ったばかりじゃないですか」と指摘。首相は返答に苦しんだ様子だったという。
 辞任した河井氏は安倍首相と距離の近い存在として知られていた。
 河井氏は2012年9月の総裁選で、劣勢と見られていた安倍首相の推薦人にいち早く名乗りを上げた経緯があり、第2次安倍政権発足後は首相補佐官や党総裁外交特別補佐など重用され続けてきた。また菅氏とは当選同期で、菅氏を慕う若手・中堅議員の「向日葵(ひまわり)会」も主宰。今年7月の参院選に妻の河井案里氏が広島選挙区から立候補すると、首相や菅氏が応援に駆けつけていた。
 「お友達内閣」と揶揄(やゆ)された第1次安倍政権では、約1年の間に閣僚5人が交代し、最後は安倍首相自らも退陣に追い込まれた。その記憶は政権幹部の間にいまも残る。
 吹き始めた逆風に、首相周辺は「首相もだいぶ気にしている。ちょっとまずい状況だ」と語る。(大久保貴裕、安倍龍太郎)

「危ない人事」に入閣当初から懸念

 主要閣僚の連続辞任という異例の事態に、31日の自民党の派閥会合では引き締めを求める声が相次いだ。岸田文雄政調会長は「緊張感をもって国会に臨む」と述べ、石破茂・元幹事長は「適材適所とは一体何か。ポストは個人のためではなく、国家国民のためにある」と訴えた。
 相次ぐ閣僚の辞任は、7年に迫る長期政権の危機管理能力の低下を映し出す。その背景には、政権のおごりやゆるみが透ける。
 菅原、河井両氏は、過去に週刊誌などで公職選挙法違反疑惑やパワハラ問題などが報じられ、入閣当初から「危ない人事」(ベテラン)と不祥事を懸念する声があった。首相周辺は両氏について「完全に菅人事」と指摘。菅官房長官との距離の近さが入閣の決め手になったとの見方を示す。
 閣僚経験者は「入閣前の『身体検査』はどうなっていたのか」と、閣僚候補の不祥事を調べる身体検査の不備を指摘する。中堅議員は、公選法違反が疑われている両氏のケースについて「昔からある典型的なもの。緩んでいると言われても仕方ない」と話す。
 野党は「安倍総理の任命責任が焦点だ」(立憲民主党の安住淳国会対策委員長)としつつ、政権の抱える問題を追及する考えだ。
 国民民主党の玉木雄一郎代表は「大臣辞任が続くなら内閣の信任が問われてくる」。共産党の志位和夫委員長も「かなり深刻なモラル破壊が進んだ結果だ。末期的な状況」と批判した。
 閣僚辞任の余波を受け、国会は31日に予定していた衆院憲法審査会などすべての審議がストップ。野党は首相が自ら予算委員会などで説明責任を果たすよう求め、与党との調整が続いている。
 党関係者は「閣内には菅原、河井両氏以外にも問題がある閣僚がいる」と不安を漏らす。政権は萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言が飛び出した英語民間試験をめぐる問題も抱える。首相が「安定と挑戦」を掲げた人事が、政権運営に混乱をもたらしている。(河合達郎、今野忍)

刑事告発されたら、法務行政が持たない…

 「辞任することにした」
 政府関係者によると、河井法相が周囲に電話で辞意を伝えたのは日付が31日に変わる頃。官邸に辞表を出す約8時間前だった。
 法務省が、河井氏や妻をめぐる疑惑を週刊誌が取材しているのを把握したのは28日ごろだ。河井氏は29日、同省幹部に「私は知らない」と説明。30日も午後9時すぎまで、翌日に予定されていた参院法務委員会での追及に備え、省内で受け答えの準備に真剣に取り組み、続投する姿勢を見せていたという。
 だが、疑惑の概要が30日にネット上に流れてからは、省内では「疑惑は濃いと言わざるを得ない。刑事告発されたら、法務行政が持たない」という受け止めが広がっていった。
 法相は、検事総長を通じて検察の捜査を指揮監督できる立場だ。河井氏や案里氏の疑惑が刑事告発されれば、法相や家族が捜査対象になる。同省幹部は「検察が適正な調べを尽くしても国民は捜査結果に納得しないだろう」と漏らした。
 安倍内閣では2014年、自らの似顔絵入りの「うちわ」を選挙区内で配ったとして公選法違反で告発された松島みどり氏も法相を辞任している。
 河井氏は31日朝、全国の検察幹部が集まる会合でも訓示する予定になっていたが、30日午後には事務次官が代読することに変更された。結局、辞任を受けて訓示そのものがなくなった。
 後任の森雅子法相は31日夕の会見で「法務行政は国民の信頼がないと成り立たない。真摯に謙虚に進めたい」と語った。(板橋洋佳)


官邸主導、土壇場の延期
 身の丈発言で「ごり押し無理」
2019年11月1日:朝日新聞

 萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言が火をつけた、英語民間試験をめぐる問題は、土壇場での延期にまで発展した。閣僚の辞任が続き、世論の風向きを気にした首相官邸が、混乱をおそれて延期に消極的だった文科省を押し切った構図だ。
 1日午前、民間試験導入の見送りを発表した萩生田氏に記者から飛んだ最初の質問は、自身の「身の丈」発言が判断に与えた影響についてだった。
 萩生田氏は「私の発言が直接原因となったということではない」と否定したが、テレビ番組で飛び出した教育格差を容認するかのような発言は世論の大きな反発を招き、指摘されていた民間試験導入の問題点を改めてクローズアップする役割を果たした。
 身の丈発言に高まる批判に、首相官邸は神経をとがらせた。公職選挙法違反疑惑をめぐり10月25日には菅原一秀経済産業相、31日には河井克行法相が辞任に追い込まれた。政権に対する逆風が強さを増していた。政府・与党内には「もう風圧に耐えられない。大臣が2人辞め、英語試験のごり押しはできない」(自民党幹部)との声が広がった。
 首相に近い自民党幹部は30日、「延期した方がいい」と記者団を前に延期論を明言。首相周辺も延期を含めた対応の検討を始めた。31日には文科次官と高等教育局長が3回も官邸を訪れて、菅義偉官房長官らと対応を協議。同日夜には官邸主導で民間試験の導入延期が決まった。
 首相への批判をかわすかのように、官邸側は一斉に文科省批判を強める。官邸幹部の一人は「文科省はこれまでいったい何をやっていたんだ」。菅長官は1日の会見で責任の所在を問われ「文科省で民間試験団体との連絡調整が十分でなかったことから準備が整わなかった」と指摘した。
 ただ、民間試験の導入は、安倍首相の私的諮問機関として官邸に設置された「教育再生実行会議」でも提言された。第二次安倍政権以降の文科相は、首相の出身派閥から起用されてきた経緯もある。「教育改革」は安倍政権の看板政策の一つでもあった。
 安倍首相の最側近である萩生田氏は、制度をめぐる今後の議論を指揮する考えを示したが、玉木雄一郎・国民代表は1日、「文科大臣の資質がないのではないか」と言及。来週開催予定の予算委員会で追及する考えを示している。(安倍龍太郎、宮崎亮)

「個別試験で英語行うか、加点どうするか、すべてこれから」

 「経済的な状況や居住している地域に関わらず、等しく安心して試験を受けられる配慮など、受験生に勧められるシステムになっていない」
 1日の会見で萩生田氏は、延期の理由をそう説明した。だが、こうした課題は、以前から高校や大学の関係者が繰り返し指摘してきたものばかりだ。
 全国高校長協会(全高長)は9月、格差の問題が「短期間のうちに解決する見通しが立っていない」などとして、文科省に民間試験の活用を延期するよう要望した。協会の調査で7割近い校長が「延期すべきだ」と答えたという。
 直後に大臣に就任した萩生田氏は、会見などでこうした課題を指摘されても、すでに多くの生徒が勉強に取り組んでいるため、「やめることによる混乱」を理由に姿勢を変えなかった。
 文科省は格差対策の一環で、試験の実施団体に低所得世帯への受験料の減免を求めてきた。だが、10月末に公表された受験料をみると、減額後も1回2万円を超える試験が相次いだ。現行の枠組みでは、文科省が実施団体に試験の詳細を指示する権限はない。こうした課題を広く知らしめたのが、格差を「身の丈」と表現した萩生田氏の発言だった。
 文科省が方針を覆したことで、20年度から始まる入試改革はどうなるのか。
 民間試験以外の国語や数学に記述式問題を採り入れた共通テストは、20年度から予定通り始まる。英語の試験も「読む・聞く」の2技能に限り、これまで通り23年度まで続く。現在の中学1年生が主な受験生となる24年度には、高校の新しい学習指導要領が実施されるのに合わせ、共通テスト全体の見直しがある。萩生田氏は、そのタイミングに合わせて新試験の導入をめざすとしたが、具体的な内容は不透明だ。
 利用する大学側は困惑を深める。国立大学協会は、民間試験を全受験者に課し、合否判定に利用する指針を示していた。永田恭介会長(筑波大学長)は「各大学は活用を前提に入試内容を検討してきた。延期発表を受け、各大学は迅速な対応をしなければならない」とのコメントを出した。地方の国立大の学長は「入試方法は考え直さざるを得ない」。首都大学東京は民間試験を活用する代わりに、一般入試の個別試験で英語を廃止することにしていた。担当者は「個別試験で英語を再度行うか、加点をどうするか、すべてこれからだ。受験生のためにも、早く方針を決めて公表しないといけない」と戸惑う。一方、独自に民間試験を合否判定に使ってきた東京の大規模私大の担当者は「大学が独自に受験生から成績を集めれば対応できる」と語った。
 20年度には、7種類の民間試験が活用される予定だった。実施団体の一つ日本英語検定協会は「受験生にとまどいがないよう、文科省が対応するよう、ただただ願うばかりです」とコメントした。
 全高長の萩原聡会長は、「今後、文科省が新しい制度を作っていく際には、積極的に現場の声を反映させていきたい」と述べた。(増谷文生、宮坂麻子)

指摘されていた英語民間試験の主な課題

・受験会場が遠い地方の受験生に不利
・受験料を払えば練習で何度も受験できるのは不公平
・種類が異なる試験の成績を同列に比較できるか
・希望した日時と場所で受験できない恐れ
・仕組みが複雑で大学ごとに成績の利用法が異なる
・採点の質や公平性を確保できるのか

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