自然が引き起こす災害による、人災…。

台風15号(ファクサイ)、19号(ハギビス)という“風台風”と“雨台風”が日本列島、特に千葉県と東日本に甚大な被害をもたらした。すでに日本列島は、気候変動の只中にある。本州島南側の海水温はこの時期でも台風の勢力を養うのに十分な高温だ。そのため、勢力を増しつづけながら本州島に接近、上陸し、甚大な被害をもたらしている。しかも、日本列島は国土が十分に管理されず、脆弱化していて、二次的な被害も大きくなっている。さらには、劣悪な避難所で、避難生活での三次被害、四次被害も発生している。


+2℃の世界
温暖化被害、最悪GDPの8.6%に
2019年10月16日:毎日新聞

米オクラホマ州での小麦の収穫作業。地球温暖化に伴う収量減少などで
農作物価格の高騰も予測されている=ロイター

 <くらしナビ 環境>
 地球温暖化がこのまま進んだ場合、今世紀末時点で生じる経済損失は深刻な影響が予測される9分野だけで見ても、最大で世界各国の国内総生産(GDP)合計の8・6%分に相当する――。そんな試算を国立環境研究所などの研究チームが、英科学誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」に発表した。
 世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑えるという温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の目標を達成できるなどすれば、損失額はGDP合計の1・2%以下に抑えられるという。
 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、効果的な温暖化対策を取らなければ、今世紀末の気温は4度程度上昇すると予測される。
 研究チームは農業生産▽水力発電▽屋外での労働生産性▽冷暖房需要――など温暖化の影響を受けると予測される主要9分野について、今世紀末時点の経済的な損失額を推計した。算出にあたっては、温室効果ガス排出削減策の違い、将来の人口増加や技術水準の向上などを考慮した。
 その結果、今世紀末に気温が4度上昇し、技術革新がなく、途上国の経済成長も進まないケースでは、損失額が想定GDP合計の3・9~8・6%に上った。
 一方、2度程度の気温上昇に抑え、世界全体で再生可能エネルギー導入が拡大するなど持続可能な形での経済成長が続くなら、損失は0・4~1・2%にとどまるとの結果になった。
 損失の程度は地域によって異なり、アフリカなどの途上国は温室効果ガス削減だけでなく、経済成長や生活水準向上によって損失額が抑えられるとした。
 ただ、来年始まるパリ協定の下で各国が現在掲げる温室効果ガス削減目標が達成できても、3度前後の気温上昇は避けられないとされる。研究チームの高倉潤也・国立環境研究所研究員は「世界で今、温室効果ガス削減強化に取り組むことなどで、とてつもない被害は避けることができるのではないか」と指摘する。【大場あい】=次回は11月20日掲載

パリ協定

 2015年12月の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された、20年以降の地球温暖化対策の国際枠組み。16年11月に発効した。世界の温室効果ガス排出量を今世紀後半に実質ゼロにし、産業革命前からの気温上昇幅を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目指す。先進国、途上国を問わず、全ての国に排出削減目標の策定と対策実施を義務付け、各国は目標を5年ごとに見直して対策を強化する。米国は17年6月に離脱を表明した。


台風19号 避難所で野宿者受け入れ拒否―台東区
住所不定お断り 「観点抜けた」と釈明
ずぶぬれの雨「避難者を取捨選択」
2019年10月16日:東京新聞・こちら特報部

 台風19号が猛威を振るった12日、東京都台東区は避難所に身を寄せようとした野宿者2人の利用を拒んだ。この情報が広がるや、同区には抗議が殺到したが、ネット上では、「税金も納めていないのに」という声も上がった。災害から国民の生命と財産を守るのは、行政の基本的な役割。だが、その前提が「事故責任論」の台頭によって崩されつつある。台東区の対応は氷山の一角にも見える。 (榊原崇仁、佐藤直子)

 「まあ、こんなもんよ」。上野公園で野宿していた男性(64)は14日夜、「こちら特報部」にそう語ると、毛布をかぶって眠りについた。台風19号が東京を直撃した際、東京都台東区が開設した避難所で受け入れを拒まれたのがこの男性だった。北海道出身で上京したのは1カ月ほど前。過去に脳梗塞を患っている。
 男性によると、12日午前9時ごろ、台風19号の接近で身の危険を感じ、普段寝泊まりする上野公園から徒歩で20分ほどの距離にある区立忍丘小学校へ向かった。今回の台風を受け、区が指定した4つの自主避難所のうちの一つだ。
 雨風が強まる中、男性は忍岡賞に着いた。区によると、現地の職員は氏名や住所の記入を求めたが、男性は「住所がない」と答えたため、職員は区災害対策本部に問い合わせた。その結果「避難所は区民が対象」と回答があり、職員は男性に「住所不定の方はお断りしている」と伝えた。
 台東区の野宿者らを支援する一般社団法人「あじいる」のメンバーは昼過ぎ、この男性と上野公園で会った。「あじいる」は公園や上野駅周辺にいる野宿者たちの身を案じ、カンパンやタオルのほか、避難所の忍岡小の地図を配っていた。
 「かっぱでもずぶぬれになるぐらい雨が降っていた時間帯。公園の施設の裏で独り座り込んでいた男性を見つけた。『避難所に行ってもダメだった』と言うので『そんなことが起こり得るの?』と耳を疑った」。メンバーの斎藤有子さん(38)はそう振り返る。
 「あじいる」の面々は忍岡小を訪れ、職員に「避難所に入る人を取捨選択するのか」と聞いた。職員は黙り込んだため、区災害対策本部に連絡するよう求めた。電話では区民以外は受け入れないということだった。
 公園周辺に戻った「あじいる」の面々は、チラシを配った野宿者らに謝りに回った。上野駅周辺で年配の男性は「俺行ったけど、ダメだったよ」と言った。冒頭の男性とは別の人だ。「お姉さんたちが悪い訳じゃないから」と付け加えた。
 区広報課は忍岡小で野宿者2人の受け入れを拒んだと明らかにしている。田端俊典課長補佐は「区災害対策本部の職員は、地域防災計画に『避難所は住民向け』とあるため『区民が対象』と現場の職員に伝えたが、野宿者への対応という観点が抜けていた」と述べた。
 「あじいる」の中村光男さん(68)は「(日雇い労働者が集まる)山谷があるのが台東区。行政の頭には常に野宿者の存在があるはずだ」と語る。「私が区災害対策本部と電話でやり取りした際『本部の会議で野宿者の施設利用が議題に上がり、断るという決断をした』と伝えられた」と明かす。ただ、区側は「本部の会議で野宿者は議題に上がっていない」と否定している。

東京五輪控え排除強化■職員「ここで寝るな」

 40年ほど野宿者と接している中村さんは、今回の受け入れ拒否を「ありがちな話」と捉えている。
 「行政が野宿者を排除する構図は以前からある。2000年ごろ、大雨で隅田川の水かさが増えて河川敷にあった野宿者の小屋が流されても、都や台東区は何ら援助してくれなかった。むしろ河川敷の小屋を撤去するよう働きかけてきた」
 野宿者を支える「山谷労働者福祉会館」活動委員会の女性(53)もこう話す。
 「東京五輪が近づき、各地で再開発が進む中、野宿者たちの排除が強まっている。彼らは図書館から追い出されたり、公園に置いた荷物が捨てられたりほか、『ここで寝るな』と役人たちから日常的に言われている。そういった経験があるからか、今回の台風で野宿者に『避難所があるから』と伝えても『どうせ俺たちはダメだから』と諦める人が多かった。

災害時も猛威「自己責任論」
新自由主義が破壊する「お互いさま」
税金納入⇐⇒サービス受給 露骨に

 今回、東京の他の区の対応はどうだったのか、例えば世田谷区では10日から多摩川の河川敷に住んでいる野宿者を訪ね、「チラシを配って台風と避難所の情報を知らせた」(区玉川総合支所生活支援課)。13日まで連日、担当者が河川敷に人が取り残されていないか、見回りを重ねた。
 渋谷区もホームページで避難所開設を知らせ、「非常時だから」と野宿者を受け入れた。こうなると「数十年に一度の大雨」と警告されていた日に野宿者を排除した台東区の対応は特異だ。被災者への応急的な生活支援を定めた災害救助法にも抵触している。
 背後に、税金を納める者だけが住民サービスを受けられるという排他的な自己責任論が透けてみえる。
 実は自己責任の発想は1995年の阪神淡路大震災の際からあった。住宅を失った被災者が公的補償の実施を求めたのに対し、当時の村山富市首相は「自然災害で個人が被害を受けた場合、自助努力による回復が原則」と退けようとした。
 だが、当時は被災者だけでなく、全国の人が声を上げた。自然災害時の被災者への支援を目的にする「被災者生活再建支援法」制定のため、生活協同組合などが2700万筆の署名を集める運動を展開。同法は3年後に成立した。「自己責任的な発想を押し返すエネルギーがあった」と運動を進めた「被災地NGO協働センター」(神戸市)の村井雅清顧問は振り返る。
 「災害の前では皆『お互いさま』だから、人を分け隔てなんてしない。避難所にはホームレスの人も不法滞在の外国人の人も入った。神戸に100万人ものボランティアが全国から集まったのも『困っている人がいつから手伝う』という一心だった」
 だが、こうした共助の力も、時代の波にもまれた。法政大の岩崎晋也教授(社会福祉理論)は「競争原理が働く新自由主義が浸透した今日、共助に根差した社会福祉は後退しがち、安定的な場所を持ちにくい状況では、個人の選択が個人の責任として跳ね返る。自己責任的な発想はより強まる」と指摘する。
 怖いのは公共の意識も薄れることだという。「社会が共有する公共空間から都合の悪い人を排除しようとする。台東区で起きたことはそういうことだ」
 被災者に自己責任を転嫁する発想は2011年の福島原発事故の避難者への対応でむき出しになった。
 都内で避難生活を続ける鴨下美和さん(49)は「東京電力とともに、政府は責任放棄を隠そうともしない」と憤る。避難対象区域外の人を「自主避難者」と呼び賠償も拒否した。鴨下さんは台東区の件について「命の危険を感じて避難所にたどり着いた人を追い出すなどあってはならないこと。避難所は一番弱い人から受け入れるべき場所であるはずだ」と語った。

デスクメモ
 増水などで危険が続いていた13日夜、ラグビーWカップでの日本チームの勝利直後に首相は「被災者の皆さんにとっても元気と勇気を与えてくれるもの」とツイートした。生死を巡る事態が進行する中、何とも当事者意識に欠けたセリフではないか。自己責任論を信奉する本音が透ける。       (牧)


台風被害の後手後手対応と
避難所の劣悪環境が国会で議論も…
安倍首相は“自治体任せ”で知らんぷり、
「十分機能を果たした」
2019年10月16日:LITERA

 全国で55河川・79カ所で堤防が決壊し(本日午前5時の情報)、少なくとも1万4000棟以上の住宅が浸水被害を受けた台風19号。朝日新聞デジタル本日付記事によると、13都県で計約4500人が避難生活を強いられているというが、今回の災害でも対応の遅れが目立っている。
 というのも、上陸から4日が経過した本日、政府は2019年度予算の予備費約7億1000万円の支出を決定。予算は「プッシュ型」支援の強化に充てられ、〈被災各地の避難所に水や食料、段ボールベッド、仮設トイレなどを送る〉という(共同通信)。
 繰り返すが、すでに被害に遭った被災者が避難しはじめて約4日も経っているというのに、この決定は、いまだに段ボールベッドや仮設トイレなどが行き渡っていないということを示している。
 実際、前述した朝日新聞デジタルの記事によれば、千曲川の堤防が決壊した長野県長野市の避難所では、両ひざに人工関節を入れている障害をもつ人が〈マットに敷いた布団で寝ている〉といい、さらに長野県では〈夜間の冷え込みが厳しくなり、毛布を何枚も体に巻き付けたり、暖房をかけた車の中で寝る被災者が出始めている〉という。記事は、長野県の災害対策本部が〈被災者の健康管理に留意するほか、段ボールベッドの配備やプライバシー確保策などを検討している〉とまとめられている。
 避難所におけるプライバシー確保の問題は、阪神・淡路大震災のころから課題としてあがってきたが、東日本大震災を経てもなお、熊本地震や昨年の西日本豪雨でも万全の体制はとられなかった。つまり、豪雨や強大な台風による災害が起こる頻度は高まっているというのに、避難生活を支援する体制づくりがまったく進んでいないのである。
 安倍政権による災害対応の杜撰さ──。それは、昨日15日におこなわれた参院予算委員会における安倍首相および武田良太防災担当相の答弁からもはっきりとした。
 たとえば、質問に立った国民民主党の森裕子議員が、東京都台東区の避難所からのホームレス締め出し問題に言及し、安倍首相も武田防災担当相も事実確認さえおこなっていないことが判明。また森議員は「まったくなっていない」と厳しく指摘し、その上で、「スフィア基準についての政府の見解は」と問いただした。
 スフィア基準(「人道憲章と人道対応に関する最低基準」)は災害の際や紛争時の避難所の国際基準であり、「世帯ごとに十分に覆いのある生活空間を確保する」「1人あたり3.5平方メートルの広さで、覆いのある空間を確保する」「最適な快適温度、換気と保護を提供する」「トイレは20人に1つ以上。男女別で使えること」といったことが最低基準とされている(大前治「自然災害大国の避難が「体育館生活」であることへの大きな違和感」/「現代ビジネス」2018年7月10日付)。いずれをとっても、日本の避難所における実態とはかけ離れたものであり、日本の避難所が国際基準より明らかに下回るものなのだということがよくわかるが、この基準に対する「政府の見解」を問われた武田防災担当相は、こう述べたのだ。
「ご指摘のスフィア基準は、災害や紛争の影響を受けた人びとへの人道支援の基準を表しているものと承知しております。避難所の生活環境を考えるときにたいへん参考となるものでありまして、平時から避難所を開設する自治体に対してもそのことは周知をしております。……はい」
 なんと、武田防災担当相は「自治体には周知している」と言うだけで、答弁を終わらせてしまったのである。ようするに、安倍政権の姿勢は「基準は知ってるけど自治体に任せている」というものなのだ。

2日間でテント、ベッド、エアコン、トイレを
避難所に行き渡らせたイタリアとの差

 昨日の質疑では森議員も言及したが、じつは国会では、スフィア基準のほか、イタリアの避難者支援についてたびたび取り上げられてきた。
 イタリアは約3000人が死亡した1980年のイルピニア地震を教訓として災害対応を見直した“災害対応先進国”であり、朝日新聞2018年8月5日付記事によると、2016年のアマトリーチェ地震では発生から数時間以内には国や地方に登録しているボランティアが約1000人が被災地に入り、地震発生から約半日後にはボランティア団体が避難所に5000人に食事を提供できるキッチンカーを配備。このボランティア団体では、会社員が災害でボランティアとして出動した際、その間の賃金は国が会社に補償するという。さらに、〈家族単位で避難できる大型のテント、ベッド、エアコン、トイレなども各地に備蓄があり、2日間でおおむね行き渡った〉というから驚きだ。
 一方、日本人は体育館でお風呂も入れず、プライバシーもなく雑魚寝状態で寝泊まりすることを当たり前のように受け入れている。何度も大きな災害を経験しながら、避難所の様子は一向に変わることはない。とくに東日本大震災では、避難生活で体調を崩して死亡した「災害関連死」と認定された人は3700人にものぼり、熊本地震でも200人を超えた。東日本大震災の教訓が活かされていない証拠だ。
 そのため、国会でもイタリアのような対応がとれないかとたびたび言及され、たとえば今年2月15日の衆院本会議でも、イタリアを視察したという立憲民主党の高井崇志議員が、安倍首相に対して、こんな提言をおこなっていた。
「イタリアでは、災害発生から24時間以内に、被災を免れた近隣の自治体が、備蓄されたテント、ベッド、簡易トイレを大型トレーラーに積んで100人体制で被災地へ向かい、避難所の設営から運営まですべてを担います。日本とイタリアの最大の違いは、イタリアは、日本の人口の半分にもかかわらず、700名の専任職員からなる市民保護省があり、さらに、22の州ごとに地方支分部局があることです。
我が国の防災組織は、内閣府に100名ほどの組織があるのみで、その職員の多くは兼務であり、頻繁に人事異動で入れかわります。与党のなかにも防災省を提唱する方はたくさんいらっしゃいますが、イタリアのように専任職員による防災省を創設する考えはないか、総理に伺います」

イタリアと同じような組織づくりを提案されても
安倍首相は「必要性は低い」と一蹴

 日本の災害避難者が国際基準を明らかに下回る劣悪な環境に置かれる現状を考えれば、イタリアのように防災組織の抜本的見直しが必要なのはあきらかだ。しかし、この提言に対し、安倍首相の答弁は、まったく危機感のないものだった。
「行政府の防災や危機管理への対応に関しては、内閣総理大臣の指揮のもと、内閣官房や内閣府が中心となって、省庁横断的な取り組みをおこなってきております。現在の枠組み自体については、最近の大規模災害に際しても十分な機能を果たしたものと認識しており、新たに統一的な組織を設置する必要性は低いと考えております」
 前述したように災害関連死は熊本地震でも200人を超えている。西日本豪雨でもプッシュ型支援でミスマッチが起こったり、深刻な浸水被害を受けた岡山県倉敷市真備町のある避難所では簡単な間仕切りさえ設置されたのは避難所の開設から約1週間後だ。それでも、安倍首相は「現在の枠組みで十分な機能を果たした」と言い、抜本的な見直しはおこなわないと明言したのである。
 安倍首相がこうした姿勢をとりつづけるかぎり、災害大国・日本では、「雑魚寝が当たり前」の劣悪な避難環境の姿は変わることはない。昨年の西日本豪雨と同様、初動が完全に遅れた台風15号を含め、安倍政権による災害対応の問題には、もっと徹底した追及が必要だ。
(編集部)


堤防決壊、過去もほぼ同じ場所
「ハード対策」頼み限界
2019年10月16日:朝日新聞

 台風19号は、東日本の広い範囲で堤防決壊が同時多発的に起こる「未曽有の事態」をもたらした。激しい水流は家屋を破壊し、人々の日常を奪った。堤防の限界と防災をめぐる課題も浮き彫りにした。
 約9・5平方キロに及ぶ大きな浸水被害をもたらした長野市穂保の千曲川の堤防決壊現場。15日、原因究明のために国土交通省が立ち上げた堤防調査委員会のメンバーが現地調査に訪れた。委員長の大塚悟・長岡技術科学大教授(地盤工学)は調査後、「非常に流れが強かったことがわかった。越水で堤防が削られた可能性もある」と話した。
 決壊したのは千曲川左岸の約70メートルの区間。堤防が残っている隣接部も、数十メートルにわたって堤防の外側が深くえぐられ、茶色い土がむき出しになっていた。
 一般的に、堤防から水があふれると、流れ落ちた勢いで堤防の外側が浸食される。内側から水がしみこんで堤防が弱くなっているところに、外側からも崩れ、決壊に至る。千曲川では今回、水が堤防を越えて流れ出る様子が国交省のカメラに記録されていた。
 決壊地点の下流約5キロでは川幅が急に狭くなり、上流約8キロでは犀川が合流する。一帯は古くから洪水の「常襲地帯」とされ、記録に残る最大規模の寛保2年(1742年)の洪水でも同じエリアが浸水した。川幅などが決壊に影響したかについては、委員会で調べ、対策を検討するという。
 各地で決壊が相次いだのは、記録的な豪雨が広範囲に降ったためとみられる。防災科学技術研究所が、13日午前0時までに降った雨の頻度を計算すると、決壊した千曲川や阿武隈川の流域の広い範囲で「100年に1度」よりもまれな値になった。
 宮城県大郷町を流れる1級河川・吉田川では、地元の人が以前から危険性を指摘していた所が決壊した。
 13日午前7時50分、同町粕川地区で吉田川左岸の堤防が決壊し、約100メートルにわたって消失。あふれだした泥水は計139世帯が住む地区を襲い、取り残された住民35人がヘリで救出された。行方不明者や死者は出なかった。
 決壊した堤防はその前後より50センチ~1メートルほど低く、幅も狭かった。用地などの事情があったとみられる。代わりに堤防上に高さ70センチほどのコンクリート胸壁が設けられていた。現地調査した風間聡・東北大教授は「堤防が細いので弱い。そこが越水で削られ、決壊した」とみる。
 大郷町では1986年8月の豪雨でも吉田川の堤防が決壊するなど、過去も被害が出ている。町は国交省に繰り返し治水強化を要望し、この場所も「危険箇所」とみていた。同省は最近になって堤防に土囊(どのう)を積む対策をとっていた。
 家の中に泥水が入り込んだ会社員高橋郁雄さん(60)は「政府は決壊を防ぐ対策をなぜ打てなかったのか。水害の多い土地に暮らしているから仕方ないが、くやしい」と話した。(小林舞子、赤田康和、石橋英昭)

3万5千以上の河川、整備追いつかず

 堤防はダムとともに河川の氾濫(はんらん)を防ぐための治水の要だ。
 国内には3万5千以上の河川がある。国土交通省はこうした河川のうち、約1万3400キロの区間で堤防整備計画を立てているが、完成済みなのは約9100キロと予定の約7割にとどまっている。
 2018年7月の西日本豪雨や、同年9月の台風21号の記録的な大雨などを受け、政府は同年12月、約7兆円規模の「国土強靱(きょうじん)化のための3か年緊急対策」を閣議決定した。防災や減災に向けたインフラ整備を強化し、今年度当初予算でも治水関係の事業費として約1兆1500億円を計上した。
 国交省などは全国の堤防の危険箇所の緊急点検を実施。決壊が起きた時に大きな被害が生じる恐れがある約120河川の堤防について、20年度にかけて、堤防のかさ上げや河川と反対側にあるのり面の補強、水はけをよくするための工事を行っている。ただ、国が管理する約70河川のうち19年度中に工事が完了する見通しなのは、15河川にとどまっている。
 赤羽一嘉国交相は15日の閣議後の記者会見で、台風19号の大雨によって、国管理の7河川12カ所が決壊したことについて「未曽有の事態」と語った。国交省はすでに復旧工事に着手しているが、完了のめどは立っていない。
 国交省は大規模な決壊のあった河川について、有識者らでつくる堤防調査委員会で原因を究明し、復旧方法を検討する。ただ、決壊箇所が多く、特に都道府県管理の河川では、浸水や交通規制もあって現場での調査が思うように進んでいない場所もあるという。決壊の原因についても、国交省の担当者は「答えられる段階ではない」としている。(渡辺洋介)

「自分で命を守る」ソフト対策も重要

 浸水が想定される場所には全国で3千万人以上が住んでいる。堤防の決壊は昨年の西日本豪雨や2015年の関東・東北豪雨でも起きている。地盤工学会は今年5月、決壊するまでの時間を引き延ばす補強や、堤防の状況をわかりやすく社会に伝える必要性を提言した。
 前田健一・名古屋工大教授(地盤工学)は「堤防は単にかさ上げすればいいわけではなく、決壊を防ぐことが被害を大きくしないポイント。影響の大きいところは重点的に対策を取っていく必要がある」という。越水にとどまれば浸水は限定的で対処のための時間も稼げる。堤防の裾を広げて削られにくくするなどの強化策が考えられるが、土地も必要になる。「そこに住んでいる人もいる。移転を含め、社会全体で考えていく必要がある」と言う。
 豪雨が頻発するなか、堤防などの「ハード対策」に頼る防災には限界があり、事前の避難など「ソフト対策」も重要になる。国の中央防災会議の作業部会は昨年12月、「自らの命は自らが守る」ことをうたい、住民自らの判断で避難行動を取る重要性を指摘する報告書をまとめた。
 作業部会の主査を務めた田中淳・東京大総合防災情報研究センター長は「計画運休で外出する人が減るなど社会の備えが進んだ面はあったが、直前に風の被害が目立った台風15号があり、河川の氾濫で避難が必要になるイメージが十分に共有されていなかったのではないか。昔に比べて治水対策が進んだ分、今回のような台風が来ると、経験がないままにいきなり大きな洪水に見舞われる。ハザードマップを改めて確認し、行動につなげてほしい」と話す。(佐々木英輔)


台風19号 「公邸待機」の安倍首相批判を問う
2019年10月16日:毎日新聞

松井孝治氏=内藤絵美撮影

 台風19号の列島縦断は、大きな被害をもたらしました。犠牲者のご家族にお悔やみ申し上げるとともに、被災者の皆さまにお見舞い申し上げます。
 台風の襲来をめぐってSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上で政治がらみの話題がいくつかありました。野党議員の質問通告の遅れについてはあとで少し触れますが、ここでは、野党議員の一部が、安倍晋三首相の12日の公邸での動静(待機)を揶揄(やゆ)されている件について、特に、首相公邸での執務の意味についてご説明申しあげたいと思います。
 私のツイッターでは、下記のように発言しました。
 「新しい議員さんは、官邸勤務経験もないからわからないのは当然かも知れないが、震災時に官房長官を務められた代表は、この動静を揶揄することがいかに危機管理を理解しないことなのか、きちんと指導された方が良いと思います。震災後長期間執務室に籠られた方を想起します。」
 「災害対応真只中(ただなか)では基本的に与野党の区別なくできるだけ協力して事に当たるべき。また今回のような風水害対応で総理や大臣の出番を作れば良いというものではない。現場が機敏に動ける体制を裏から支えるのがベスト。復旧や復興ステージはまた別ですが。お願いです、政権運営可能な野党を作ってください」
 これに対して、ある方から「震災時の首相の行動を評価するのかしないのか、どちらでしょうか?」という趣旨のご質問をいただきました。無理からぬことです。一般の方には官邸と公邸の区別はわかりませんからね。

公邸でも実質的指示は可能

 官邸と公邸は同じ敷地内にあります。官邸の前庭を通っても行き来できますが、それ以外の通路もあります。事実上一体の場所です。
 でもそのどちらで執務するかは、官邸の体制上、大きな違いがあります。官邸に首相(あるいは官房長官)が出勤すると官邸はフル起動モードになります。政治家はこの際置くとしても、秘書官などの側近部隊や官房副長官やその部下たち、さらには事務所関係者(会議係や賄い係、清掃係を含めた施設管理チームまで)、そして何より大勢の警護関係者(官邸の警務官やSPさん、官邸警備隊の皆さん)はフル体制で稼働します。それが平日の日中の官邸の体制ですね。もちろん警護関係などはローテーションですが、このフル体制が延々と続くとスタッフも人間ですから疲労が重なります。
 なので、予算委員会中の早朝の答弁レクチャー(私が官邸にいた頃は朝6時から開始ということが多かったです)などの早朝や深夜の執務は特段の必要性がなければ、あえて首相公邸の会議室で行い、秘書官など以外の官邸スタッフの負担の軽減に努めておりました。この方針は自民党内閣・民主党内閣を通じて、一貫したものだと理解しています(25年前私が官僚として官邸に勤務していたときは公邸の設備は貧弱でしたが大きな方針は一緒でした。現在はそれよりも公邸の会議室も広くなり、危機管理体制も充実していますから、なおのこと公邸での執務体制は充実しています)。
 官邸執務と公邸執務の違いをもう少し分かりやすく例を挙げて申しあげます。首相が官邸執務室にいる官邸がフル起動モードだとすると、公邸執務は省電力モードです。いつでもフル稼働に切り替えられるけれど、ある程度その執務に関係のない「兵」は休ませておける。そして実質的な指揮命令は、幹部の官邸官僚が執務環境にあれば、ほぼ官邸と同様に可能なのです。
 12日土曜日は、これから台風が本土に接近・上陸するというタイミングです。もちろん、気象庁や水管理・国土保全局を含む国土交通省は緊急モードですし、防衛省・自衛隊、消防庁や警察庁、内閣府をはじめとした防災関係官庁や関係自治体は危機管理体制を敷いていたと思います。
 その時点で、首相が、官邸に出勤するというよりは、官邸同一敷地で徒歩2分で執務室に出動できる公邸で、各種情報収集や関係官庁や自治体との連絡調整に当たるというのは、原則的には、最も適切な判断だと私は思います。
 というのも、内閣危機管理監や官房副長官、そして首相秘書官は、間違いなく執務室もしくはオペレーションルームと言われる地下の危機管理センターにいて情報収集するとともに、関係省庁で現場の指揮に当たる責任者と連携を取っていたと考えられますし、台風がまさに土曜日の夜間から日曜未明に首都圏や東北を直撃しようとする最中に彼らを実務指揮官たちを官邸に集めることに、政治的パフォーマンス以上の意味があったとは思えないからです。
 私が、ツイッターで言及した東日本大震災を同列には扱えないことは、言うまでもありません。140字の枠内で並べたのは少し言葉足らずだったかもしれないと少々反省しますが、危機管理時の首相の対応として比較することに意味はあります。というのも、今回の安倍首相の対応や、私が今回の対応に関して述べた危機管理の考え方と、相当異なるものだったからです。
 時の菅直人首相が、東日本大震災発災直後に、ヘリコプターで福島第1原発の視察に行かれたり、東京電力本社に早朝5時半に乗り込んで東電幹部を叱責されたことは有名ですが、菅首相が長期間(それが10日間なのか何日なのかは詳細な資料は手元にありませんが)、官邸と同じ敷地にある公邸に戻られず、首相官邸(首相執務室と、その奥にあるトイレや仮眠ベッドなどがある小部屋)に籠もって執務されたことは知る人ぞ知る話です。
 大震災や原発事故と、今回のような台風災害は災害としての規模や性質も異なるので、同列では比較できませんし、時の首相の、自分が名実ともに前面に立って24時間危機管理に当たるのだという必死の気持ちを否定するものではありませんが、この首相の官邸執務が長期間続く中で、官邸スタッフ(秘書官はもとより施設管理警備関係者を含めて)の疲労困憊は筆舌に尽くしがたかった、と当時の複数の関係者から直接別々に聞いております。
 その結果、危機管理がうまく機能したかどうかは、私がここで断ずるよりも、後世の評価に委ねるべきものだと思います。

台風襲来前後の首相の行動とは

 首相動静(毎日新聞首相日々より)
 【11日】
 午前
 7時8分公邸から官邸。15分西村明宏官房副長官。8時18分閣議。40分西村氏。50分国会。58分衆院予算委員会。
 午後
 0時5分官邸。55分国会。1時衆院予算委。5時10分官邸。20分安全・安心なまちづくり関係功労者表彰式。40分台風19号に関する関係閣僚会議。6時1分北村滋国家安全保障局長、今井尚哉首相補佐官、秋葉剛男外務事務次官。22分北村氏。34分東京・有楽町のフランス料理店「アピシウス」。谷内正太郎前国家安全保障局長、山内昌之東大名誉教授、辻慎吾森ビル社長らと会食。9時40分公邸。宿泊。
 【12日】
 終日、公邸で過ごす。
 【13日】
 午前
 8時43分公邸から官邸。45分沖田芳樹内閣危機管理監、関田康雄気象庁長官。9時7分台風19号に関する関係閣僚会議。10時2分東京・市谷本村町の防衛省。自衛隊殉職隊員追悼式に参列し、追悼の辞、献花。11時公邸。
 午後
 4時13分官邸。44分非常災害対策本部会議。5時34分東京・富ケ谷の私邸。

 野党議員が揶揄的に取り上げた12日の首相動静では、首相が公邸において防災担当者からいかなる情報収集を行ったのか、いかなる指示を出したのかはわかりませんが、下記に引用する日経新聞の報道(12日午後4時52分配信)によれば、官邸としては首相が公邸で情報収集をしつつ、官房副長官や危機管理監が官邸で対応していることがうかがわれます。
 「首相『人命第一で対策に全力』 台風19号で指示 安倍晋三首相は12日午後、台風19号の静岡県や関東への上陸が迫っているのを受け、被害が発生した場合は迅速な状況把握とともに政府一体で人命第一の災害応急対策に全力で取り組むよう関係省庁に指示した。
 このほか(1)避難や大雨・河川の状況などに関する情報提供を適時的確に実施する(2)浸水が想定される地区の住民の避難が確実に実施されるよう、避難支援などの事前対策に万全を期す――ことも求めた。
 政府は同日、首相官邸の情報連絡室を官邸対策室に格上げし、状況の把握を続けた。杉田和博官房副長官、沖田芳樹内閣危機管理監が官邸に待機した。自衛隊は約1万7千人の即応態勢を敷いている。台風が通過する可能性のある地域の自治体に対し、約170人の連絡員を先行派遣した」
 ちなみに台風19号は、12日午後7時前に伊豆半島上陸。午後9時ごろ川崎市周辺を通過。13日未明に福島沖に抜けていて、河川の増水氾濫は12日夜から13日、そして14日に多くの被害をもたらしています。
 政府の災害対応の検証は今後予算委員会などで行われていくと考えますが、私としては、今回の12日土曜日の首相の公邸待機(情報収集と指示)は、自分の経験上は、適切な判断だったと考えています。野党が、政府の活動を監視批判し、それを督励するのは当然の機能ですが、内容についての批判や改善提案であればともかく、被災地で関係者が全力で対応している最中に、首相が公邸で対応していることを揶揄するというスタンスは、正直言って私の考える野党のあり方とは明確に異なります。同じコメントであっても、下記のような共産党の志位和夫委員長のツイッターにはもっと前向きなものを感じます。
 「長野・福島等の避難所で寄せられた要望を武田防災大臣に電話で要請。

●食事を温かいものに。
●布団、段ボール等の提供で暖をとれるように。
●間仕切り等プライバシーの確保。
●医療スタッフ派遣、福祉避難所等健康管理。

大臣は「プッシュ型で全力をつくします」。二次被害防止に万全の対策を。」
 「今、武田防災大臣から電話あり、「(避難所の改善について)的確な提言をいただき、政府から派遣している全ての調査員に実行を指示をしました」との連絡をいただきました。被災者の救援・支援は、与野党の違いを超え、力をあわせてやっていきたいと思います。」
 同時に政府にも申し上げたいのは、官邸と公邸の機能の差異や近接関係については、ほとんどの国民はご存知ないという事実です。そのあたりも含めて、総理がきちんと対応されていることは、もっと一般に説明した方がよいし、それが国民の安心感にもつながるのではないかと思った次第です。
 立憲民主党の枝野幸男代表や福山哲郎幹事長は、東日本大震災と原発事故という未曽有(みぞう)の災害時に、首相の対応を支えられた当事者であり、様々ご苦労も多かったと思います。当時、リアルタイムで提供できなかったような緊迫した状況もあったことは事後的に多くの検証も行われています。
 そのご経験も踏まえて、若手議員にも多様な危機管理のご経験や、一国の首脳が、どこまでの規模や性質の災害時に、率先して前に出るべきなのか、裏方として現場を支えるべきなのかなどを伝授いただけると、我が国の緊急時対応も、より懐深くなるのではないかと思います。

国会対応で深夜待機の官僚から悲鳴

 なお、同じ土曜日に、連休明けの国会対応を巡り、深夜待機や対応を余儀なくされた官僚から悲鳴が上がりました。質疑通告やレクチャーについては、国会論戦の在り方を巡り、与野党間で認識の違いや温度差がかなりあるかもしれません。
 私が実務責任者(内閣副参事官)であった四半世紀前、私は質疑者の書面通告や簡単な質問要旨だけでは各省待機を解除せず、よほどの事がない限り、質疑者と直接コンタクトを取った上で、必要に応じて想定問答対応を含めて答弁資料の作成を手配していました。首相や閣僚が質疑で立ち往生しないようにです。この姿勢は現在でも受け継がれていますが、それでも私が担当していた当時、私は土日に出勤命令をかけたことは一度もありませんでした。
 今は、土日の待機や出勤も日常的に行われているようです。
 例外的な議員もおられましたが、当時の野党の方が、現在の野党よりは、官僚組織が首相や閣僚のために行う答弁準備にはるかに協力的だったと思います。
 昨今、政官関係に何が生じているのかまで論ずる紙幅はありませんので、それは<別稿>や今後の論考をご参照いただくとして、これを契機に、緊急時の委員会の持ち方(この点については野党は14日に参院予算委の延期を提案したようです)やそもそも国会質疑の事前通告の在り方、さらには委員会立てや国会の日程闘争の問題について、もう少し突っ込んだ議論が必要かと思います。
 昨年、国会改革についての超党派議連が立ち上がりました。ただ、そこには野党第1党が参加せず、合意をみた3項目に意味がないとは申しませんが、事の本質にはもう一つ迫れてはいないように感じます。
 この機会に、野党第1党をも巻き込んで、彼らの主張にも耳を傾けて、そして与野党ともに国会実務に精通された議員方がより積極的に参加された上で、国会改革の本丸に切り込んでほしいと切望します。それがないと、遠からず、永田町と霞が関の関係の下部構造が崩壊しかねないと、私は危惧します。このあたりは日をあらためて論じたいと思います。


(社説)台風19号 避難所の課題、克服を
2019年10月17日:朝日新聞

 記録的な雨をもたらした台風19号の被災地では、16日朝時点で13都県で約4千人が避難生活を送っている。冷え込みが強まるなか、仕切りのない体育館の床の上での生活は、体調不良につながる。一日も早く改善すべきだ。段ボールベッドや毛布、温かい食事の提供など、国や自治体は民間団体の手も借り、支援を加速させてほしい。
 被災者の支援と同時に、考えておくべきことは多い。その一つが、避難所の一時的な受け入れ能力の問題だ。
 今回の災害では、各地の避難所に住民が殺到し、入り切れない人が続出した。約千カ所に8万人以上が避難した東京都内や、台風15号で被災した千葉、東北でも、車中泊や、遠方の避難場所への移動を強いられた住民がいた。同じ問題は7月の九州南部での豪雨や、昨年の西日本豪雨でも起きた。
 大雨の中を移動するのは危険なことでもある。水害時の避難者数の想定に甘さがないか、各自治体は早急に検証し、受け入れ態勢を見直す必要がある。
 多摩川左岸にあり、4千人近くが避難した東京都狛江市では、当初、1カ所だった避難所を最終的に11まで増やした。今後は商業施設の活用なども検討したいという。自治体によっては、管内の大学と協定を結び、非常時の開放を依頼している所もある。ショッピングモールや映画館など、民間の側も積極的に協力してもらいたい。
 こうした背景には、最近、自治体が大規模に避難勧告や避難指示を出す傾向がみられる問題がある。もちろん河川の決壊などで、全域に浸水リスクがある場合は仕方ないが、情報は地域の特性を考慮し、きめ細かく出す方が、受け手には親切だ。自治体も心がけてほしい。
 住民の方も、平時から避難所以外の移動先を考えておこう。危険性は場所によって異なり、避難情報が出ても自宅にいる方が安全な場合もある。浸水する可能性や、土砂災害の危険があるか。自宅の2階以上に移る垂直避難のほか、事前に近所の上層階の家や、別の町の親戚宅に行く方法もある。様々な避難の形を頭に入れておきたい。
 残念だったのは、避難所の役割を自治体職員が理解していない事態が起きたことだ。
 東京都台東区が、自主避難所となっていた区立小学校を訪れたホームレスの男性を、「住所がない」との理由で受け入れを断っていた。批判を受けて区は謝罪したが、命にかかわりかねない対応だ。外国人を含め、避難所は誰にでも開かれた場であることを忘れないでほしい。
 大変な時こそ、誰もが助け合う姿勢を心がけたい。


災害時の避難所 被災者の尊厳守る環境に
2019年10月17日:毎日新聞

 台風19号による豪雨被害では、高齢者が逃げ遅れて亡くなったケースが目立った。
 犠牲者が多かった福島県では、避難指示などの対象人数のうち、台風の通過直後に実際に避難所へ身を寄せていた人の割合は1・6%だった。自宅の2階以上へ逃げた人がいることを考慮しても低い割合だ。
 「避難率」の低さは過去の災害でも指摘されてきた。住民が避難をためらう理由の一つに挙がるのは、自治体の避難所の質の問題だ。
 あるべき避難所の姿について、国際赤十字などは「衛生」「生活環境」などの指針「スフィア基準」を定めている。1人当たりの居住空間を最低3・5平方メートル確保することなどを求めているが、日本の避難所は多くの点で満たしていない。
 復興庁の検討会が2012年に東日本大震災の関連死について調査したところ、「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が原因の約3割を占めた。冷たい床に毛布1枚を敷いた狭いスペースで過ごすといった環境のせいだった。
 問題はその後も十分には改善されていない。16年の熊本地震でも、高齢者らの同様の関連死が相次いだ。
 学校が避難所の自治体が多く、体育館での不自由な生活を強いられるケースが多い。公立小中学校の体育館の空調設備設置率は平均3%にすぎず、体調維持は容易でない。
 トイレの課題もある。足腰の弱い高齢者や障害者には不便な和式しか備えていない避難所が散見される。
 政府は台風19号の接近前に、授乳室や男女別のトイレを設けるなど、女性の視点に立った避難所運営を全国の自治体に求めた。今後も質に配慮した避難所運営を政府から自治体へ働きかけることは重要だ。
 住民がアクセスしやすい避難所の立地も求められる。
 今回、栃木県で避難所に向かおうとした車が水没し、乗っていた女性が犠牲になる痛ましいケースがあった。危険な場所を通らざるをえない避難所がないか、各自治体で点検が必要だ。
 内閣府のきのうの朝時点のまとめでは、避難所に身を寄せている住民は4000人を超える。物資だけでなく、人間の尊厳を守れる生活環境を提供しなければならない。


記者も身を寄せた避難所
 「体育館で雑魚寝」でいいのか
2019年10月20日:毎日新聞

記者が避難した公民館の避難所。ロビーにシートを敷いて休む人々であふれている
=2019年10月12日午後7時ごろ、長野県佐久穂町で坂根真理撮影

 台風19号で避難所生活を送る被災者は、19日午前11時現在で4646人にのぼる。今も1000人以上が避難している長野県では、記者自身も家族と避難所へ身を寄せた。だが、そこは必ずしも安心が得られる場所ではなく、結局は自宅へ引き返した。避難所といえば「体育館で雑魚寝」が定番だが、その環境は国際基準に照らすとかなり劣悪と指摘される。このままでいいのか、震災の避難所を取材した経験のある記者と共に探った。【坂根真理/長野支局、中川聡子/統合デジタル取材センター】

停電、混雑、寒さ 盗難におびえた避難所

 台風が関東地方に近づいていた12日午後2時、記録的な大雨に見舞われた長野県佐久穂町で、アパートの2階にある記者(坂根)の自宅が停電した。徒歩5分の場所には千曲川がある。次第に暗くなってきて、ロウソクをともして夫と避難するかどうかを話し合った。
 外はたたきつけるような激しい雨だ。迷ったが、午後5時ごろ、夫、小学生の娘2人の計4人で近くの公民館に設けられた避難所に入った。だが、そこも停電で薄暗い。すでに大勢の人が詰めかけている。多くの人は持参したレジャーシートを狭いスペースに敷いて体を休めていた。支援物資が入っていた段ボールや袋を敷いている人も。私たちもレジャーシートを持参したが、「子どもはここで眠れるのだろうか」と早くも不安がこみ上げた。
 同じ年頃の子を持つ近所の友人女性に、避難所の様子をスマートフォンで撮影し無料通信アプリ「LINE」で送ると、「子どもが他の避難者に迷惑をかけてしまうと申し訳ない」と、避難をためらう返信があった。
 夜になるにつれて、冷え込んでくる。「毛布が足りない」という声があちこちで聞こえた。貴重品も身につけるしかなく、盗難に遭わないか、気が気でなかった。

千曲川緊急放流の危機、でも「ここで寝るのはいやだよ」


13日朝、記者の自宅そばの千曲川は堤防すれすれまで増水していた
=長野県佐久穂町で2019年10月13日、坂根真理撮影

 ひっきりなしに人が出入りし、避難者のスマホに災害情報が届くたび、一斉に「ピポピポリン、ピポピポリン」というアラームがけたたましく鳴り響く。「お母さん、帰ろう。ここで寝るのはいやだよ」。娘がおびえた顔で、すがりついてくる。予報によると、深夜には雨が弱まるようだった。避難所に着いて2時間後の午後7時、自宅に引き返すことに決めた。
 しかし自宅に戻ると、防災行政無線のアナウンスに青ざめた。
 「町内の古谷ダムの貯水量が満水となったため、今後状況により緊急の放流をすることが予想されます。大至急自宅の安全な場所に避難してください」
 千曲川が氾濫するかもしれない。恐怖におびえながら夜を過ごした。幸い緊急放流はなく、私たちのアパートに被害はなかったが、周辺には1階が浸水した家屋もあった。朝、千曲川へ行ってみると、堤防すれすれまで増水していてぞっとした。

長野県上田市が開設した避難所では、プライバシーに配慮し、
あらかじめ用意してあったナイロン製の囲いやテントが設置された=同市提供

 やはり、避難所にいるべきだったのでは――。反省する一方で、子どもも安心して眠れる避難所であったなら、との思いも消えない。

テント準備の上田市「体育館に雑魚寝はプライバシー侵害」

 一方、ツイッターでは、同じ長野県の上田市の避難所、市立塩田中学校の写真が大きな話題になった。体育館の中に、大人が2~3人ほど入れる青色の簡易テントが立ち並んでいたからだ。
 上田市は災害に備えてナイロン製の囲い約300、テント約30を用意していた。誰の判断で、いつからこうした備えをしていたのだろうか。市危機管理防災課に問い合わせたが、電話口の男性職員は「災害対応でそれどころではなく、調べる余裕がありません。ツイッターで話題になっているのは知っています」。ただ、職員はこうも話した。「体育館に雑魚寝するのはプライバシーの侵害になりますから」
 だが、上田市のような例はまれだ。長野市の一部避難所では、市が国に要請して15日ごろから段ボールでできた簡易ベッドが運び込まれているが、依然として雑魚寝を強いられている避難者は多い。

台風19号の風雨が強まる中、避難所に集まった住民たち
=千葉県館山市の房南学園で2019年10月12日午前8時39分、手塚耕一郎撮影

千葉の台風被害 和式トイレしかない避難所も

 2007年7月に発生した新潟県中越沖地震で初めて避難所を取材した記者(中川)は、あれから10年以上がたっても、避難所の環境がなかなか改善しないことを疑問に思ってきた。
 取材に訪れた体育館の避難所で夜を明かした際には、体調不良を訴えた高齢者が救急車で運ばれていく場面を何度か見た。床での雑魚寝は体が冷え、人の出入りも気になって安眠できない。血栓ができやすくなり、エコノミークラス症候群や心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞の危険性が高まるといわれる。
 9月の台風15号で設置された千葉県内の避難所を視察した「男女共同参画と災害・復興ネットワーク」の堂本暁子代表によると、和式トイレしかなく、高齢者や障害者が利用できない例もあったという。堂本氏は「避難所を生活空間として捉えた備えをしている自治体と、そうでない自治体との間で格差が生まれる」と指摘する。
 東京大の大沢真理教授(当時)らが17年度に行った調査によると、全国の市区町村のうち、避難所の運営指針で「プライバシーの確保」を定めている市区町村は6割。更衣室の設置は5割、間仕切りの設置は4割弱だった。

東日本大震災で性被害の報告も

 避難所では性被害も懸念される。

9月にイタリア・アブルッツオ州ペンネ市で行われた防災訓練で設置された避難所のテント。
テント内にはベッドや空調が設置され、エリアごとにトイレや浴場、食堂が配置される
=避難所・避難生活学会の水谷嘉浩理事提供

 東日本大震災では、避難者の男性が▽女性の着替えや授乳をのぞく▽女性の毛布に忍び込み性交しようとした▽女児や男児に触ったり下着を脱がせたりする――などの被害が報告されている。
 「災害時はストレスや不安のために暴力が発生する可能性が指摘されています」と、性被害の問題に詳しいNPO法人「しあわせなみだ」の中野宏美理事長は語る。「非常時ゆえに被害者も我慢しがちで、被害が表に出にくい。そのリスクを前提とした避難所の運営が必要だと思います」

食堂や空調を備えたイタリアの避難所

 実は、日本の避難所の環境は、国際的にも劣悪だと指摘されてきた。
 国際赤十字は「スフィア基準」と呼ばれる災害や紛争の際の避難所の最低基準を提唱している。世帯ごとに天井つきの生活空間を確保▽広さは1人あたり3・5平方メートル▽トイレは20人に一つ以上で女性用は男性用の3倍設置する――などだ。

9月にイタリア・アブルッツオ州ペンネ市の防災訓練で設置された避難所内の移動式食堂。
災害支援の訓練を積んだ料理人がボランティアとして働くという
=避難所・避難生活学会の水谷嘉浩理事提供

 研究者でつくる「避難所・避難生活学会」の水谷嘉浩理事によると、日本と同じく地震が多いイタリアでは、避難所には災害発生から48時間以内に空調や簡易ベッドがついたテント、トイレ、浴場、食堂、子どもの遊び場などが設置される。
 さまざまな業界で災害ボランティアが育成されていて、被災地を支援した際には給与の保障もある。避難所にはこうしたボランティアのほか、警察や軍も常駐し、臨床心理士による心のケアも行われる。公費負担でホテルに避難することも可能だという。
 避難所の設置・運営を指揮するのは自治体ではなく、政府の市民安全省だ。「避難所はできる限り快適であるべきで、災害関連死はあってはならないという意識が徹底している」と水谷さんは話す。
 また、災害関連死に詳しい榛沢(はんざわ)和彦・新潟大特任教授によると、米国では連邦緊急事態管理庁(FEMA)の指示のもと、指定避難所にはベッドやトイレ、シャワーなどが常備され、災害発生時には速やかに開設することが義務づけられているという。

乏しい被災者の「権利」という観点

 なぜ日本では環境改善が遅々として進まないのだろうか。

9月にイタリア・アブルッツオ州ペンネ市の防災訓練で設置された避難所のテント内部
=避難所・避難生活学会の水谷嘉浩理事提供

 台風19号の被災地支援にも携わる榛沢さんは「避難生活が命を縮めかねないという危機感が政治や行政に乏しい」と指摘する。また、災害対策基本法が避難所運営を市町村の責任にしていることにも問題があると言う。
 「近年は広域災害が多い。外交や防衛と同じように本来は国が責任を持つ必要があります。防災を一元的に担う省庁を設けて、統一した基準を定めるべきです」
 また、災害対策基本法は「自ら災害に備えるための手段を講ずる」「自発的に行う防災活動を促進する」などと定めているが、被災者の生活支援に詳しい大前治弁護士は「被災者の権利の視点がなく、自助努力を促す記載が目立つ」と指摘する。
健康な男性が決める配慮なき避難所
 避難所の計画を立てるのが「健康な男性」に偏っているからではないかとの指摘もある。
 前述の大沢さんの調査によれば、各自治体が防災計画を決める「防災会議」の女性委員比率が高い市区町村ほど、間仕切りや簡易ベッド、小児用・成人用おむつといった多様な物資の備蓄を計画で定めている割合が高かったという。前述の堂本さんは「日本の意思決定の男女比がいびつなのは防災分野も同じ。健康な男性だけの意思決定では、女性や子ども、障害者への配慮を『特別待遇』とみなして軽視する可能性がある」と指摘する。
 大前弁護士は言う。「被災者の人権や尊厳の保障は国際的な大前提です。人々が体育館で雑魚寝する風景は、日本人の忍耐強さではなく、政府の人権感覚の乏しさの象徴なのです」
 復興庁などによると、東日本大震災の死者1万9689人のうち3723人、熊本地震では275人のうち220人が災害関連死と認定されている。12年の復興庁の調査によると、東日本大震災の災害関連死の原因で最も多かったのは「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」(33%)だった。

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