無節操な権力、権力の退廃

「NHKは暴力団」 日本郵政上級副社長 鈴木氏 なぜ強気
クロ現動画に「言われっぱなしじゃない」「電車の中づり」…
圧力を正当化
旧郵政省出身の元総務次官 電波行政仕切った過去
2019年10月11日:東京新聞・こちら特報部

 日本郵政グループかんぽ生命の不正販売を追求したNHKの番組に対して、日本郵政側が再三抗議していた問題で、元総務省事務次官で日本郵政上級副社長の鈴木康雄氏が、NHを「暴力団と一緒」と批判した。顧客に不利益な販売が180000件にも上るなど、底なしの不正販売問題を受け、およそ強気に出られる立場にないはずの鈴木氏、なぜ「逆ギレ」ともとれる態度をとっているのか。背景を探ってみた。
(佐藤直子、榊原崇仁)

 今月3日の野党合同ヒアリング。鈴木氏は不正販売問題などを説明し、顧客に向けては「申し訳ない」と謝罪した。だが、昨年4月にかんぽ不正販売問題を報じたNHK「クローズアップ現代+」が続編を目指し、情報提供を求めツイッターに載せた動画に対しては、「おかしいと今も思っている」「言われっぱなしで構わないというんじゃない」と不満を述べた。
 ヒアリング後にはさらにヒートアップ。記者団の取材に、NHK側から「取材を受けてくれたら動画を消す」と言われたとし、「そんな暴力団と一緒でしょ。殴っておいて、これ以上殴ってほしくないならやめたるは。オレの言うことを聞けって。ばかじゃねえの」とまくしたてた。
 NHK側はこの暴力団発言に反発し、4日に開かれた2回目の合同ヒアリングの場で、「鈴木氏に面会に行っていた者からヒアリングをした」として、鈴木氏の指摘を全面否定。しかし、鈴木氏は「『取材を受けてくれたら過去2つの動画を消す』と、われわれの記録に残っている」と再び反論。8日の3回目の野党ヒアリングでも、動画について「(電車内の)中づり(広告)のキャッチコピーのように書いている」と言い放った。
 批判を受けるべき鈴木氏が、問題を追及するメディアに対しここまで強気の発言を続ける背景には、何があるのか。

「テレビは言うこと聞く」高圧的な感覚?

 「今回の件は、鈴木副社長のが総務省の出身で、とりわけ旧郵政省の主審であることが大きい」。こう話すのは、旧労働官僚で現在は神戸学院大教授の中野雅至氏(行政学)だ。
 鈴木氏は山梨県出身。東北大を卒業後、1973年に旧郵政省に入賞。キャリアを積み上げ、2005年に郵政行政局長となったが、更迭。電気通信事業部長だった01年に利害関係者のNTTコミュニケーションズから飲食接待を受け、タクシー券を受領したことが発覚。国家公務員倫理法違反で戒告処分を受けた。
 一時期は放送規則部門から外れるが、第一次安倍政権の07年、当時の菅義偉総務相(現官房長官)の下、情報通信政策局長だった鈴木氏は、事務次官まであと一歩の総務審議官に抜擢された。情報通信総局長時代には、菅総務相がNHKに対して北朝鮮の拉致問題を重点的に短波ラジオ国際放送で報道するよう命令をした件にも関わった。
 09年に事務次官となるも、民主党政権の誕生により就任半年で退任。今回の野党合同ヒアリングの中心議員でもある当時の原口一博総務相によるものだった。その後、日本郵政に天下りし13年に取締役になっている。
 中野氏は「電波行政を長く取り仕切った旧郵政省は地方のテレビ局への天下りも多く、かつてのマスコミ、特にテレビ局には「郵政の不祥事は流さない」といったタブーがあった。鈴木氏にはテレビはオレの言うことを聞くと高圧的な感覚が残っていたのだろう。よほどNHKの報道が頭にきたのでは…」とみる。

「かんぽ不正」当事者なのに逆ギレ攻撃
「公平」注文の裏「本音」追及を
経営委の注意で会長が郵政に謝罪

 鈴木氏が「暴力団」とまで言い放つのは、鈴木氏ら日本郵政上層部が、不正販売問題に劣らず異常な手段で、NHKに圧力をかけたことを正当化したい思惑があるのかもしれない。
 昨年4月の「クロ現+」放送後、7月に問題の動画がツイッターに掲載されると、日本郵政は翌8月にNHKの上田会長へ、10月には経営委員会にガバナンス(企業統治)体制の認識説明を求める文書を送付、NHK側はこれを重く受け止め、経営委が上田会長を厳重注意したほか、会長は郵政側に謝罪し、続編の放送は今年7月までずれ込んだ。
 元NHKアナウンサーでジャーナリストの堀潤氏は「クロ現+のスタッフたちは『市民のための公共放送』の担い手として権力側の不正を追及した。にもかかわらず、上層部が権力に屈してしまった」と嘆く。「クロ現+が不正を追及した日本郵政は、放送行政をつかさどる総務省の所管で、鈴木氏も同省出身。彼らによる不当な圧力を見過ごせば、今後も公共放送の役割が脅かされる。NHKは戦わなければいけなかった」

権力に屈した/放送法と矛盾

 日本郵政は今年6月になって「不正販売の疑いがあった」と発表し、先月には長門正貢社長が「(クロ現+の内容は)今となってはまったくその通り」と謝罪した。それでも鈴木氏らは強気なのだが、成城大の西土彰一郎教授(メディア法)は放送法の趣旨を踏まえ、一連の問題点を指摘する。
 重く見るのは同法第3条だ。「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」とあり、さらに第32条は、経営委員が個別の番組放送の編集に関与できないとする。西土氏は「第3条は制作現場の自主自立を定めた内容。大本営発表に加担した戦前の反省がある。自主自立が損なわれれば、権力側に都合の良い情報しか伝えられなくなる。第32条は、編集部門の独立性を確保するため、経営部門との切り分けを明確にしている」と言う。
 国民の知る権利を第一に考え、経営委の権限を制限したのが放送法の趣旨だったのに、日本郵政は経営委を通じて圧力をかけてきたわけだ。西土氏は「鈴木氏が強気の態度を見せるのは、日本郵政やNHKの対応を『問題なし』と考える人たちが他にいるからだろう。一人だけの問題に矮小化してはいけない」と語る。
 NHK内部の議論は不透明なままだ。経営委から会長への厳重注意は議事録に掲載されておらず、上智大の音好宏教授(メディア論)は「国民の代表としてNHKに関わるのが経営委。彼らの議論の一部を意図的に掲載しなかったとしたら問題は大きい」と語る。
 一方で、今回の一件に既視感を覚える向きも。市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」共同代表で東京大名誉教授の醍醐聡氏は「現政権では、権力を持つ側が『公平さが必要』『手続き的に問題ないか』など、まっとうそうな言葉を狡猾に使い、報道や表現に圧力をかけるケースが目立つ」と語る。
 自民党が2014年の衆院選公示前、NHKと在京各局に「公平中立」な番組づくりを求める文書を渡した例がまさにそうで、16年にも高市早苗総務相が政治的公平性を欠く放送を繰り返せば停波を命じる可能性があると言及した。あいちトリエンナーレの補助金では、文化庁が愛知県の手続き上の不備を理由に不交付を決めている。
 醍醐氏は「権力の本音を覆い隠す言葉をうのみにしてはいけない。そんな言動が航行している今だからこそ実際に何が起きているのか、本質を見極め、一人一人が追及の声を上げなければならない」と述べた。

デスクメモ
 鈴木氏の官僚経験はずっと通信・放送分野で、およそ郵便や銀行、生命保険など日本郵政の本業に詳しいとは思えない。してみると、今回のように放送で批判報道があった時の「用心棒」としての上級副社長なのだろうか。なるほど、「暴力団」などという物言いが飛び出すはずだ。         (歩)


田原総一朗さんのまとめ
政権は「聞く耳」を持っているか
 「野党の対案」深化に期待
2019年10月11日:毎日新聞

田原総一朗さん

 「批判だけの野党はいらない」と、皆さんにご意見を募ったが、その前に、このところの安倍晋三首相や政府のやりかたに一言いいたい。衆参予算委も開かれず、経済政策論議はほぼ皆無。3カ月以上休んでようやく始まった国会代表質問でも、野党への質問には答えず「はぐらかし」を続けているのはとんでもないことだ。関西電力の金品受領問題も、国会で詰めるべき問題だ。黙殺をよしとする姿勢は「野党の対案」以前の問題だと、この際はっきりさせておく。
 これに関連して、今回「野党は批判ばかりしていない、与党や報道側にも問題」という立場からの意見も多く寄せられた。「teru」さんは「反対するだけの野党はいらないとの発言には賛成できません。野党の反対のことばかりを国民に伝える報道機関にも問題があります。また野党の質問に真摯(しんし)に答えない政府、数の力で強引に採決する政府が問題なのです。報道機関や関係者は、政府の態度の悪いことを国民に伝え、国民を正しい判断ができる状態に導くよう報道すべきです」。「荒霧」さんも「野党の法案はたとえ提出しても、与党側の同意がなければ審議すらされない」と指摘する。対案が活用されるためには、与党の責任も求められるということだ。
 経済関連で「アベノミクス」の対案を求める意見は多かった。「taka」さんは「対案は与党にこそ求められるものではないか。野党は対案を示せというけれど、そういう国民自身が経済成長の延長線上の政策ばかりあてにするから自公政権が続く。対案がない野党は無用だろうかと国民は自らに問うべきだ」と、立場を超えての議論に期待する。
 「Jferry」さんは、より具体的だ。「野党結集への経済政策は『脱原発、再生可能エネルギーにシフト、温暖化抑制』を中心にすべきだ。テーマの重要性と気合が伝われば国民も動く。経済産業省が掲げる作戦はいまだ『原発依存』『火力発電重視』。劣化した人材が、官邸レベルの思考に振り回されていては作戦遂行で失敗する。ここを野党は突くべし」と提案する。野党が何を軸に与党に対抗していくか、議論の深化を期待したい。


日本郵政・鈴木副社長、NHKへ
「圧力をかけた記憶は毛頭無い」衆院予算委
2019年10月11日:毎日新聞

衆院予算委員会に臨む(左から)上田良一NHK会長、石原進NHK経営委員長、高市早苗総務相、
日本郵便の横山邦男社長、日本郵政の鈴木康雄上級副社長
=国会内で2019年10月11日午後0時55分、川田雅浩撮影

 日本郵政の鈴木康雄上級副社長は11日の衆院予算委員会で、かんぽ生命保険の不正販売問題を報じた番組を巡り、日本郵政グループの抗議を受けたNHK経営委員会がNHK会長を厳重注意した問題に関して「圧力をかけた記憶は毛頭無い」と述べた。
 鈴木氏は参考人として出席。「極めて刺激的な言葉を並べたようなツイッターを出していたので、削除してほしいという要請をした」と説明した。
 また、経営委員会が厳重注意を決定した際の議事録がないことについて、高市早苗総務相が「経営委員会に定めることにより(議事録の)作成、公表を行うとした放送法第41条は、NHKの経営の透明性を確保する観点から設けられている」と指摘したうえで「経営委員会は適切に説明し、対応してほしい」と注文をつけた。いずれも立憲などの会派の小川淳也氏の質問に答えた。


論点 かんぽ不正販売問題
2019年10月11日:毎日新聞

 かんぽ生命保険の不正販売問題で、日本郵政グループの信用が失墜している。保険料の二重徴収や無保険状態の発生など顧客に不利益を与えた疑いのある契約が約18万3000件も判明したためだ。大規模な不正がなぜ行われ、見逃されてきたのか。再発防止には何が必要か。郵政問題や企業統治(ガバナンス)に詳しい識者に話を聞いた。

今も引きずる「官」の体質 国広正・弁護士


 一連の問題で浮かび上がったのは、日本郵政グループ経営陣の機能不全だ。大規模な不正を把握する仕組みを作ってこなかったばかりか、自浄作用を働かせることなく、報道に不当な圧力をかけた。民間企業の常識からかけ離れた対応で、政治的な権力を使おうとする「官」の体質を今も引きずっているのではないか。
 9月末の記者会見で、日本郵政の長門正貢社長は「経営陣まで情報が上がっていなかった」と釈明した。情報を上げない現場が悪いと受け取れる発言で、大規模な不正に気づかなかった経営責任を棚上げしている。現場の悪い情報を経営陣が把握する仕組みの構築や不正防止の体制整備は、経営陣の責任において行うべきものだ。
 さらに驚いたのが、報道への圧力だ。日本郵政はかんぽ問題を昨年4月に先んじて報じたNHKに強く抗議した。「自分たちに問題があるかもしれない」と顧みることなく、報道がおかしいと決めつけて圧力をかけており、不当な隠蔽(いんぺい)工作だ。日本郵政の上級副社長は、放送行政を所管する総務省の元事務次官。NHKが圧力に屈して続編の放送延期に追い込まれたのであれば報道機関としてあるまじき対応で、それ自体も第三者委員会で調査すべき重大な問題だ。日本郵政は強大な政治力を振るった形で、単なる危機管理の失敗にとどまらない悪質性がある。
 なぜ大規模な不正が起きたのか。直接的な要因はノルマだろう。2017年に政府系金融機関の商工中金が、国の制度融資で本来は対象外の中小企業に不正に融資していた問題が発覚し、私は第三者委員会の委員長を務めた。「実態に沿わない過大なノルマ」が不正の背景にあった商工中金も、今回のかんぽも、民営化によって利益を上げることが求められるようになり、現場にノルマを課した。
 自分の評価に影響するため、現場の郵便局員も抵抗なく不正な販売を行ったのではないか。民間企業は過去数十年にわたり、不正販売などでマスコミにたたかれて不買運動が起きたり、行政処分を受けたりしてきたが、日本郵政はそうした経験が少なく、歯止めがかかりにくかった面もある。「郵便局なら安心だ」と信じる高齢者は多く、不正を働きやすい構図だったとも言えるだろう。
 今年9月末までにかんぽで法令違反の疑いがある契約は約1400件判明した。だが、企業に求められるのは単なる法令順守だけではない。例えば郵便局員が顧客の高齢者に「ノルマに困っているから保険を乗り換えて。2カ月間無保険になるけど大丈夫だよね」と頼んで契約を結ばせた場合、顧客にも説明していて法令違反にならない。だが、本来は変える必要のない契約であり、不当な営業だ。
 日本郵政は殊更、法令違反に着目しているようにみえるが、顧客のためにならない契約をなくすこと自体が重要であり、民間企業ではその考え方が主流になっている。再発防止には民間の常識とかけ離れた企業風土そのものを変えることが必要だ。改革する力のあるトップを招き、「官」体質から決別することが不可欠と言えるだろう。【聞き手・古屋敷尚子】

民営化の不徹底が原因 竹中平蔵・東洋大教授


 かんぽ生命の不正販売問題の原因を一言で言えば、ガバナンスの欠如に尽きる。完全民営化が政治にゆがめられ、予定通り実現しなかったことが背景にある。一刻も早く完全民営化を実現し、民間並みの経営の自由度とガバナンスを徹底させていかなければならない。
 小泉政権(2001~06年)が進めた郵政民営化は本来、17年9月までにかんぽ生命、ゆうちょ銀行の金融2社の全株式を売却し、完全民営化するというものだった。背景にあったのが、超低金利の時代に入り、国債中心の安全資産運用では稼げないという問題意識だ。法人向け融資などの「信用リスクビジネス」に入っていく必要があるが、国有である限り、民業圧迫の問題から新規事業が制約される。時代に合った新商品の開発もできない。だから民営化を急ごうという趣旨だった。
 だが、民主党政権が郵政株売却を凍結し、その流れを止めてしまった。12年の法改正で凍結は解除されたものの、自民、公明両党も賛成して完全民営化期限を削除してしまった。これらは政治によるゆがみだ。その結果、新商品を出せないかんぽ生命は、(超低金利による利回り低下で魅力が低下した)貯蓄型の古い保険を売らざるを得なくなり、現場が相当無理な営業をしてしまった。
 もう一つの問題が、ガバナンスの欠如だ。今回のような不正販売問題は民間生命保険会社では起きていない。日本郵政に民間並みのガバナンスが利いていれば防げたはずだ。私の知人から聞いた話だが、ある問題が起きた時、郵政幹部は「大丈夫です。通達を出しましたから」と答えたそうだ。これは役所がよくやる「私たちはちゃんとやっています」というアリバイ作りに過ぎず、こういったところに非常に古い体質がある。経営とは結果に責任を持つことだが、それが徹底できていない。まず経営者が強い意識を持ち、経営方針を全社に徹底させなければならない。
 そう考えれば、対処法は明らかだ。もう一度原点に返り、早期に株を売却して完全民営化を行うことだ。売却ペースの見通しを明らかにして、予見可能性を高めることが再起の第一歩となる。
 民営化ができれば、郵政がグループとして発展していく可能性は大いにある。駅前に多くの不動産を保有しており、活用すれば相当な収益基盤を作れる。全国ネットワークは次世代移動通信(5G)の基地局に使うなど多くの可能性を持つ。問題は(コスト高の)郵便事業のユニバーサル(全国一律)サービスだ。人口減少が進む中で、少数集落は地方中核都市に移住してもらうなど、いずれ国土政策全般の見直しは起こりうる。その時に議論になるだろう。
 官僚の天下りを徹底して排除しなければならない。民営化とは、経営を民間人に任せることだ。(銀行出身の)西川善文・初代日本郵政社長は、天下り先となっていた子会社を大胆に見直すなど手腕を発揮した。日本郵政の社長は政権交代のたびに入れ替わる政治的リスクの大きいポストだが、腕力と志と明確な経営哲学を持った経営者は必ずいる。【聞き手・加藤明子】

経営の自由度高める工夫を 柘植芳文・参院議員














 今回の問題の根底に、現場の人材育成や研修が十分行き届いていなかったことがあるのは間違いない。1871(明治4)年の郵便事業の創業以来、郵政は長年にわたって公的使命を果たし、各地域で厚い信頼関係を築いてきた。その原点に立ち返り、集中的な研修で顧客重視、法令順守の姿勢を現場にしっかり落とし込むことが必要だ。ただ、それだけで問題の根を絶てるとは思えない。無理な営業をしなくて済むよう、業務にさまざまな制約を課す規制の見直しも考えるべきだ。
 これまでの日本郵政グループを見ると、人材育成の優先度は低かった。そこを改めつつ、個人ごとに営業目標を課し、成績優秀者だけを優遇する体制を見直すべきだ。ガバナンスの要諦は、経営トップの方針が順序よく下に伝達され、現場の情報が屈折せずに上がる仕組みにある。それが機能していなかったことも問題の背景にあるのだろう。
 2007年の郵政民営化により、それまで一体で運営されていた郵政事業は、持ち株会社の下で郵便、銀行、保険事業に分社化された。役職員は、慣れない組織運営を強いられ、その結果、指揮命令系統がうまく機能しなくなった。権限と責任を持ってエリアごとに監督機能を果たしてきた地方の郵政局が、実質的には権限のない「支社」となった結果、監督機能が低下してしまった。今後は民間の仕組みを謙虚に学び、指揮命令系統を立て直すべきだと思う。
 同時に、長い歴史の中で果たしてきた公的使命を忘れてはいけない。大手銀行や大手生保の手の届かないところを補完し、幅広く国民に貯金や保険の機能を提供して、人生100年時代の資産形成を支えていくことが郵政の役割だ。
 電話や水道、ガスと同じ社会インフラとして、郵便、銀行、保険の郵政3事業を過疎地でも提供していかなければならない。これからの日本は大都市がますます発展し、地方は疲弊していく。私は各地域を守る「最後のとりで」は郵便局だと考えている。
 何か問題が起きると「早期にかんぽ生命やゆうちょ銀行を完全民営化すべきだ」と主張する人がいるが、乱暴な議論だ。収益力のある金融を切り離せば、過疎地を抱える郵便局でユニバーサルサービスが維持できなくなる。株式売却を急ぐよりも、経営の自由度を上げて、きちんと収益を上げられる仕組みを作ることが重要だ。
 現状は民業圧迫を防ぐための「上乗せ規制」が郵政民営化法で課され、国営時代のさまざまな法規制も足かせとなっている。今回のような不正は決して許されないが、新たな保険商品も自由に出せない中で追い立てられ、無理な営業をした面は否めない。
 日本郵政は被害者意識で萎縮せず、法律の不備や仕事のやりにくさについて声を上げるべきだ。政治も勇気を持って必要な法改正を行うなど、それに応えなくてはならない。「経営者が悪い」と言うのは簡単だが、手足が縛られた中でうまくやるのは難しい。規制緩和などで、制度を見直す必要がある。【聞き手・加藤明子】

進まぬ実態解明

 日本郵政グループは9月末、顧客に不利益を与えた疑いがある約18万3000件の契約のうち、保険業法や社内規定に違反した可能性があるのは6327件(うち法令違反は約1400件)と発表した。ただ、顧客に確認できた契約は4割弱の6万8020件にとどまり、年内に公表する最終報告で違反件数が膨らむのは必至だ。今年6月に不正販売問題の報道が相次いで以降、実態解明は遅れており、経営責任が問われる事態となっている。

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 ■人物略歴
国広正(くにひろ・ただし)氏
 1955年生まれ。東京大卒。弁護士で企業統治問題に詳しい。商工中金とスルガ銀行の不正融資問題ではそれぞれ、第三者委員会委員長、危機管理委員会委員を務めた。

 ■人物略歴
竹中平蔵(たけなか・へいぞう)氏
 1951年生まれ。一橋大卒。日本開発銀行、慶応大教授などを経て、2001~06年の小泉純一郎政権で経済財政担当相、郵政民営化担当相、総務相などを歴任。

 ■人物略歴
柘植芳文(つげ・よしふみ)氏
 1945年生まれ。愛知大卒。77年に名古屋森孝郵便局長、2009年に全国郵便局長会会長となり、郵政民営化法の改正を後押しした。13年参院選で初当選し、現在2期目。


かんぽ報道 郵政副社長が不満伝達
 NHK経営委へ申し入れ前
2019年10月12日:毎日新聞

 かんぽ生命保険の不正販売を追及したNHKの番組「クローズアップ現代+(プラス)」(クロ現)を巡り、日本郵政グループの要求を受けたNHK経営委員会が上田良一会長を厳重注意した問題が衆院予算委員会で取り上げられた。郵政側が「NHKのガバナンス(統治)体制の検証」を文書で経営委に求める10日前の昨年9月25日、鈴木康雄・日本郵政上級副社長が森下俊三・経営委員長代行(元NTT西日本社長)に上田会長ら執行部への不満を伝えていたことが明らかになった。【伊澤拓也、屋代尚則】
 11日の衆院予算委員会に参考人として出席した石原進・経営委員長(JR九州相談役)が、立憲民主などの会派の小川淳也氏の質問に答えた。
 鈴木氏は放送行政を所管する総務省の元事務次官で、上田会長を厳重注意した経営委へ昨年11月7日付文書で「早速に果断な措置を執っていただき篤(あつ)く御礼申し上げます」と謝意を伝えていたことも判明している。鈴木氏が経営委幹部に直接接触するなど、NHKに対する申し入れの中心的役割を果たしていた可能性が高くなった。
 郵政側は、クロ現の番組幹部が昨年7月に「番組制作と経営は分離し、会長は番組制作に関与しない」と発言したことを問題視。「NHKでガバナンスが全く利いていないことの証左」として昨年10月5日付で「ガバナンス体制についての認識」に関する上田会長からの回答を催促する文書を経営委に送った。
 これ以前に郵政側とのやり取りがあったかどうかを問われた石原氏は、昨年9月25日に鈴木氏が森下氏のもとを訪れたことを明らかにしたうえで「(鈴木氏が)ガバナンスの問題と(上田会長から)答えがないことに非常に不満を言っていたと聞いた」と述べた。
 また、経営委が厳重注意を決めた際の議事録を作成していないと説明していることについて、高市早苗総務相は「放送法41条に基づいて経営委の定めるところにより作成・公表を行うことになっている」と指摘。「41条はNHKの経営の透明性を確保する観点から設けられているので、経営委は適切に説明し、対応していただきたい」と経営委に求めた。
 一方、予算委に参考人として出席した日本郵便の横山邦男社長は自身の進退について「再発防止策を徹底させることで経営責任を果たしたい」と述べ、改めて辞任を否定した。


首相、憲法調査会出席は1回だけ
 辻元氏「興味ないのでは」 衆院予算委
2019年10月11日:毎日新聞

衆院予算委員会で立憲民主党の辻元清美幹事長代行(左列手前から2人目)の質問に答える
安倍晋三首相(右)=国会内で2019年10月11日午前10時36分、川田雅浩撮影

 国会の憲法審査会での改憲議論を求める安倍晋三首相が、前身の衆院憲法調査会に出席したのは2000年の1回だけ――。11日の衆院予算委員会で立憲民主党の辻元清美氏がこんな事実を挙げて「憲法に興味がないのではないか」と聞き、首相が「外形的なことでのみ決めつけるのはやめていただきたい。私は党内でずっと議論してきたと自負している」と反論する一幕があった。
 衆院で憲法を議論する場として00年に憲法調査会、07年に憲法審査会が設けられた。辻元氏が首相の通算出席回数をただすと事務局は「平成12年5月11日に発言されている」と答弁。辻元氏が「1回だけなんですよ」と補足すると、委員会室は野党議員の「えー」というヤジに包まれた。
 首相は00年7月に森内閣の官房副長官となり、07年9月まで自民党幹事長・幹事長代理、官房長官、首相に在職し続けた。首相はこの経歴に触れ「(議論に加わる)機会は少なかったかもしれない」とも答弁した。
 辻元氏は、首相が出席した際の様子を「発言した途端、他の人の意見を聞かずにパッと立ち去った」と説明。「総理は憲法憲法と言っているので、ご自身はさぞかし議論されているんだろうなと思っただけだ」と質問の意図を説明した。
 また辻元氏は、首相が過去の国会答弁で「立場の異なるもの同士が正々堂々と議論し、合意を形成していくプロセスが政治だ」と発言したと指摘。憲法調査会・審査会の議論に積極的な議員の発言回数に関し、自民党の船田元・元経済企画庁長官が345回、首相の盟友だった故・中川昭一元財務相が209回、立憲の枝野幸男代表が250回に及ぶと引き合いに出した上で、「国民投票法案を作るにも2年かかった。2020年に憲法改正を実現したいと(の首相の期待)は非現実的だ」と指摘した。【青木純】


特集ワイド
改憲すれば戦時体制完成
今は「昭和3年」と酷似
 内田博文・九州大名誉教授
2019年9月24日:毎日新聞

内田博文 九州大名誉教授=宮本明登撮影

 なんだか戦前と似ていないか。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安全保障関連法、そして自衛隊を明確に位置づける憲法改正へ。安倍晋三首相は11日、内閣改造後の記者会見で「新しい国造りに挑戦すべき時」と述べ、改憲を「必ずや成し遂げていく」と強調した。この先にあるのは、どんな「新しい国」なのか。「現政権は今、戦時体制の総仕上げをしようとしている」と警鐘を鳴らす近代刑法史に詳しい内田博文・九州大名誉教授に、戦前と今の酷似点と、この流れを食い止める手立てを聞いた。【鈴木美穂】
 内田さんは、言論の自由を奪い、戦時体制の礎を築いた治安維持法の制定・運用の過程を、帝国議会の審議資料や大審院の判例などから検証し、著書「治安維持法の教訓」「刑法と戦争」(いずれも、みすず書房)にまとめた。著書で内田さんは、近年急速に進んだ国の権限を強める一連の法整備と、戦時体制を強めた当時の日本の状況を比較し、今は1928年、元号で言えば「昭和3年」とよく似ていると指摘する。


治安維持法制定に反対してデモ行進する群衆=1923年2月撮影

 昭和3年とは、どんな時代だったのか。内田さんが解説する。「その3年前に制定された治安維持法は、昭和3年に緊急勅令および議会の事後承諾という形で大幅に改定されました。国体の変革が厳罰化され、最高刑は死刑となりました。結社目的遂行罪も新設され、労働組合や文化団体などの取り締まりに威力を発揮します。当初、この法律が対象としたのは無政府主義者や共産党員でしたが、次第に労働組合員や反戦運動家らにも広がり、太平洋戦争直前の41年の改正時には『普通の人たち』の『普通の生活』が国の監視や取り締まりの対象となりました」
 内田さんによると、国が戦時体制を推し進める際には(1)治安体制(2)秘密保護・情報統制(3)国家総動員法制(4)組織法制などをセットで整備する。戦前も改正軍機保護法(37年)や国防保安法(41年)制定によって秘密保護・情報統制が進み、国家総動員法(38年)により、国家のすべての人的・物的資源を戦争遂行のために統制運用できるようにした。「この流れの中で、満州事変(31年)が勃発しました。その後、日本は戦線拡大に走り、太平洋戦争になだれ込みます。昭和3年の段階であれば、治安維持法を廃止し、引き返す選択もできた。しかし当時の世論は軍部にくみし、後戻りできない状況に進んでいったのです」
 戦後74年を迎えた今の日本は、昭和3年とそんなに似ているのか。内田さんは表情を引き締め、こう語る。「まるで同じです。現政権は日本を新たな『戦前』にしようと企てています。その証拠に、戦時体制の構築に向けてさまざまな下準備を進めてきました。改憲はその総仕上げ。私たちは今、戦争に向かう一歩手前、つまりルビコン川の岸辺に立っているのです」
 改造内閣には安倍氏に近しい人たちが並んだ。内田さんは「最後の仕上げとの印象を受けました。この内閣の最大のテーマは憲法改正。戦前の場合、『満州事変』が戦争に向かう決定打となりましたが、現在の日本にとってはそれが『憲法改正』ということになります」。
 第2次安倍政権が発足(2012年)してからの流れを振り返ってみると、国の安全保障に関する情報漏れを防ぐ特定秘密保護法(13年)制定に始まり、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定(14年)、自衛隊の海外での武力行使を可能にする安全保障関連法(15年)などが矢継ぎ早に整備された。さらに17年には、過去に3度も廃案となった共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が成立した。内田さんは「戦後、日本の在り方を揺るがす決断が毎年のように行われています。一連の法整備で、国は都合の悪い情報を国民に隠し、国民を監視することができるようになりました。これこそが『戦前回帰の企て』です。現行憲法と明らかに矛盾する決定が、戦前よりスピーディーに行われているのです」と危機感をあらわにする。

「違憲訴訟」で対抗を

 戦前の教訓を今生かす手立てはあるのか。内田さんは「法律が憲法に適合しているか否かを審査できる裁判所の『違憲立法審査権』を国民の『最大の武器』にすべきだ」と語る。
 「国民主権、平和主義、基本的人権の尊重(憲法の3原則)をないがしろにする国家の暴走が生じた時、食い止める武器となるのがこの制度です。戦前、悪法は法律の外皮をまとい、制定されました。そうした負の歴史への反省から戦後、憲法が保障したのが違憲立法審査権です。裁判所は『憲法の番人』とされながら役割を果たしていないとの批判もあります。違憲訴訟の取り組みを根気強く行い、法の問題点をあぶり出す戦いを続けていく必要があるのではないでしょうか」
 この間、政府が取った手法にも「戦前との共通性がある」と内田さんは指摘する。「戦前の政府は治安維持法の制定により、大日本帝国憲法の事実上の改正をはかりました。現政府も集団的自衛権の行使を認める閣議決定や安全保障関連法などの制定によって憲法9条を骨抜きにしました。過去のあしき手法に学び、踏襲したかの印象です」
 この発言を聞きながら、麻生太郎副総理兼財務相の「ナチス発言」が頭をかすめた。13年の講演での「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わった。あの手口に学んだらどうか」という発言で、国際社会の批判を受けて撤回した。だが、その後の政府の法整備を振り返ると、政府の本音だったのではないかという疑念が湧く。
 では、憲法を守ることが「戦前回帰の企て」を阻止することにつながるのか。内田さんはこう語る。「今の憲法は戦前の反省に鑑みてつくられました。日本は国際社会への復帰に際し、『過ちを再び犯さない。戦争はしない』と誓いました。つまり憲法を改めることは国際社会との約束をほごにすることなのです。国内はもとより海外、とりわけ近隣諸国に与える影響は大きく、日本の信頼の失墜にもつながる大きな問題です」
 憲法9条だけに注目が集まりがちだが、内田さんは「改憲の狙いはそこにとどまらない」と指摘する。「家族や民間組織を戦争遂行のための組織に変えようとしている。具体的には自助や共助が求められる日本型家族制度を復活させ、公助の概念は後退する。改憲と併せ、基本的人権を大幅に制限する緊急事態法の制定や家族法の改正への動きのほか、公教育や地方自治体の変質などが今後、強まるのではないかと懸念しています」
 改憲の是非を問う国民投票が正念場になると内田さんは言う。
 「どんなに主体的に選び取ろうとしても、国は虚偽の情報を流し、国民間の分断工作に出てくるでしょう。常に『これは本当ですか』と押し返していく力が国民一人一人に求められます」。そして、最後にこう熱く問いかけた。「憲法改正でこの国の戦時法制は完成してしまいます。しかし、それでよいのでしょうか。平和も人権も受け身のままでは守ることはできません。今こそ傍観をやめ、参加型民主主義を始める時ではないでしょうか」

 ■人物略歴
内田博文(うちだ・ひろふみ)氏
 1946年大阪府生まれ。京都大大学院修了。専門は刑事法学。九州大教授や神戸学院大教授などを歴任。著書に「治安維持法と共謀罪」(岩波新書)など。国のハンセン病問題検証会議の副座長を務めた。


参院選当選したのに
辞めて参院補選立候補…ありなの?
2019年10月9日:朝日新聞

 NHKから国民を守る党(N国)の立花孝志党首(52)が、つけたばかりの議員バッジを外し、10日告示の参院埼玉選挙区の補欠選挙に立候補するという。参院議員を辞め、また参院選へ――。異例の「くら替え」はありなのか。
 「勝てるんじゃねと思った。僕としては出るしかないという感じ」。立花氏は8日、会見で語った。7月の参院選比例区で党として約98万票を集めた投票日から、わずか79日後。本人も「異例の辞職」と認めた。
 参院選の結果、政党交付金も得る公党になった。「候補者を立てないわけにはいかない」と、埼玉補選への対応を模索していたのだという。8月の埼玉県知事選で落選した青島健太氏、元秘書への暴行疑惑が報じられた豊田真由子前衆院議員、「森友学園」の籠池泰典前理事長の長男……。打診を重ねたが、最後は自身の立候補を決めたと説明した。
 立花氏は東京都中央区議への脅迫容疑で書類送検され、実刑ならば辞めると語っていた。しかし、それとは「全く関係ないです」。
 比例区の議員が辞めて補選に出る例は多くはない。衆院では、自民党の故町村信孝氏が2010年、比例北海道ブロックから北海道5区補選に挑み、当選。民主党(当時)の古賀一成氏も02年、比例九州ブロックから福岡6区補選に立候補した。
 参院ではさらに異例だ。参院事務局によると、同じ政党で比例区から選挙区補選にくら替えして立つのは、憲法が施行された1947年以降で初めてだという。
 公職選挙法には、くら替えを禁じる決まりはない。旧自治省選挙部長を務めた片木淳弁護士も、今回は公選法上の問題はないという。
 当選・落選にかかわらずに選挙を渡り歩くのは、いつもの手法だ。立花氏は13年の大阪府摂津市議選以来、計9回の選挙を経験。千葉県船橋市議を1年あまりで辞め、都知事選に立候補。17年には東京都葛飾区議になったが、これも1年半ほどで辞めて、大阪・堺市長選へ移った。
 狙いは、さらなる知名度アップだ。今回、立花氏が辞めても、約9300票を得てN国の次点だった浜田聡氏(42)が繰り上げ当選となり、N国は議席を失わない。
 その浜田氏は参院選後すぐに、縁のない埼玉県で知事選に出た。その際、「当選は無理」と公言。NHK問題を訴えた政見放送などを見てもらうことが最大の目的と話していた。
 8日の会見。繰り上げになった浜田氏もいつか辞職して、再びどこかで立候補する可能性はないのかと問われると、立花氏はこう答えた。「あります」。任期満了の直前に辞職させ、別の人物に1カ月ほど国会議員を経験させるのだという。
 こうした手法が繰り返されれば、有権者の意思とはかけ離れた人物が国会議員になってしまう可能性は否定できない。
 小林良彰・慶応大教授(政治学)は「『比例区選出だと出来ないことがあるから選挙区を狙う必要がある』など、参院選の比例区で投票した全国の人たちが納得できる十分な説明をする必要があるのではないか」。そしてこう言った。「最後は有権者が判断することです」(佐藤恵子)


かんぽ報道
郵政側最初の抗議文判明「経営に支障を来す」
2019年10月12日:毎日新聞

毎日新聞が入手した、日本郵政グループの3社長がNHKの上田良一会長に宛てた昨年7月11日付の文書

 かんぽ生命保険の不正販売を追及したNHK番組を巡り、日本郵政グループの要求を受けたNHK経営委員会が昨年10月に上田良一会長を厳重注意した問題で、郵政側の一連の抗議や申し入れのうち、昨年7月に初めてNHK側に送った抗議文を入手した。番組が続編に向けツイッターに公開した情報提供を呼びかける動画に対し「経営に支障を来す」などとして、上田会長に削除を求めていた。NHKは昨年8月に続編延期を決め、動画を削除したが、動画の内容に問題はなかったと反論している。
 毎日新聞が入手したのは昨年7月11日付の文書で、昨年4月24日放送の「クローズアップ現代+(プラス)」の番組を巡り、日本郵政の長門正貢社長ら郵政グループ3社長の連名で出されていた。郵政側が問題視した動画2本のうち、2本目が公開された7月10日の翌日付で送られており、長門社長が先月30日の記者会見で説明したように、一連の抗議が動画に対する反発を発端に始まったことを裏付けている。
 文書は番組側が昨年7月7日と10日に公開した動画2本に対し「事実誤認がある」と指摘。「不適正募集の根絶」に努めている中で「お客様に過度な不安を抱かせ、グループの経営に甚大な支障を来すおそれがある」などと主張し、早急に削除するよう求めていた。
 文書は、具体的な問題点として「押し売り」「かんぽ詐欺」といった「一方的にネガティブな言葉を並べている」と指摘。また、動画で「『押し売り』の背景にある『過剰とも言える営業目標』 郵便局は抑制を約束した」と編集した点について、抑制はすでに実施されており「悪意のある編集」と批判していた。
 日本郵政の長門社長は先月30日の会見で、昨年4月の番組や今年7月の続編を改めて視聴したとして「(内容は)今となっては全くその通り。深く反省している」と謝罪した。動画を見た当時の印象について「『押し売り』とか『詐欺』とか『元本割れ』などと書かれていた。(続編に向けてネットで)情報を集めていると分かり、ひどいんじゃないかと思ってクレームをした」と説明した。

NHK「内容に問題ない」

 一方で、NHKの木田幸紀放送総局長は動画について、今月4日の野党合同ヒアリングで「内容に問題はなかった。情報提供を呼びかけるツールだからいいかげんなことをしてよいわけではない。(取材に基づく)証言の信ぴょう性は確認した」と強調。昨年8月に動画を削除したのは、8月10日に続編の放送を予定していたものの、取材不足で放送を断念したことに伴う判断だったと説明した。
 NHK関係者は「昨年7月の文書の後、郵政側は申し入れをエスカレートさせ、同調した経営委による昨年10月の会長への厳重注意につながった。郵政側には途中から、延期された続編をけん制する狙いが出てきたのではないか」と語った。【NHK問題取材班】

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