強者に優しい「アベノミクス」

邪悪なABE政権の悪徳がボクたちをさまざまに苦しめている。
そもそも「アベノミクス」とは、「弱いものに厳しく、強いものに優しい」政策だ。ABEたちは、こういう政策を恥ずかしげもなく公にしながら、平然と進めている。株価が上がっても、株を持たない庶民にとっては何ら恩恵はない。企業の収益が増えても、労働者の賃金は上がらない。子供から高齢者まで、全ての人びとに降りかかる、消費税も増税される。年金や生活保護費は削られ、ブラック労働や非正規雇用は改善される見通しも立たない。
若い世代にとって、将来の見通しは暗く、人生の展望も開けない時代だ。
アベノミクスの「暗黒面(ダークフォース)」が日本をさまざまに蝕んでいる。このことは、決して密かに行われているわけではない。最後のとどめが日本国憲法改憲なのだが…。

<消費税8%から10%>
母子家庭 生活苦さらに
 新宿の子ども食堂で聞く
2019年9月27日:東京新聞

子ども食堂で、美容師に髪の毛を切ってもらう女の子

 消費税増税まであと四日。軽減税率やプレミアム付き商品券の発行といった負担軽減策は盛り込まれたが、今後の暮らしに不安を抱える人は多い。生活に苦しい世帯が対象の子ども食堂「新宿ニコニコ子どもひみつ基地」(東京都新宿区)を利用する母子家庭の人びとに思いを聞いた。 (中村真暁)

 九月下旬の夕方。小学三年の女児は生まれて初めて美容師に髪を切ってもらった。最初は緊張していたが、背中まで届いていた長い髪があご下まで短くなったのを鏡で確認すると、「うれしい」。にこっと笑った。
 この日、食堂のガレージに仮設の「無料美容室」ができた。ボランティアの美容師二人が髪形を整えた。節約のため、いつも女児の髪を切る母親(40)も美容室は四年ぶり。「めったに行かないから思い切ったわ」。長かった髪は、流行のショートヘアに様変わりした。
 母子家庭になったのは、女児が赤ちゃんの頃。夫の暴力が原因で、嫁ぎ先から地元の新宿区に逃げてきた。母親は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、今は障害者向け作業所に通う。作業所の収入と、生活保護で得られる月額計十二万円をやりくりして暮らす。
 自宅にエアコンはなく、夏の猛暑は扇風機二台で過ごした。一シーズン二千五百円で借りた畑で野菜を作り、食べ盛りの女児に食べさせる。
 生活保護受給者は、消費税増税時に購入できるプレミアム付き商品券の対象外だ。キャッシュレス決済時のポイント還元は利用できるが、母親はためらいを感じる。「数百円で一日を過ごすのに一定額のチャージ(前払い)が必要で、利用できる場所も限られる交通系ICカードは使いにくい」という。
 この日、調理ボランティアをしていた別の女性(51)は発達障害の高校一年の娘と暮らす。通院や通学に付き添うため、就労は困難だ。「消費税が8%でもきついのに、光熱費や通学定期代がさらに増える。さらに食費を切り詰めるしかない」とため息をついた。
 骨の一部がない障害がある小学一年の娘と一緒に夕食を食べていた女性(43)は「物価も上がっているし、消費税増税は痛い」と嘆く。

子ども食堂で夕食をとる子どもたち=いずれも東京都新宿区で

 母子二人暮らしで、娘の通院や身体訓練が頻繁にあるため就職できず、アルバイトで生計を立てる。娘の治療費など高額な出費がかさむ不安を拭えず「このままだと、生活保護の受給を考えなければいけない」。消費税を財源にする三~五歳児の保育無償化では所得制限がなくなることに「富裕層向けの政策ばかり進んでいる気がする」とつぶやいた。
 ひみつ基地の利用者は九割以上が母子家庭だ。運営する猪爪まさみさん(63)は「みんな子育て、仕事でくたくた。母子世帯に軽減税率やポイント還元といった情報をキャッチし、使いこなす時間は少ない」と指摘。「離婚後に養育費が払われるようにするとか、新卒ではなくても正社員になれる就労支援など、自立を促す支援こそが必要です」と強調した。


世界3大投資家の一人、ロジャーズが
「日本は置き去り」とアジア情勢を予言
2019年9月25日:週刊朝日

 9月、「世界3大投資家」の一人、ジム・ロジャーズ氏が来日し、元経済産業省官僚の古賀茂明氏と対談を行った。「最大の問題は安倍さん自身です(笑)」と話すロジャーズ氏が安倍外交で激突する日韓、トランプ大統領と北朝鮮の金正恩氏、台頭する中国……、日本の様々な問題点に斬り込んだ。
*  *  *
古賀:人口はその国の国力を示す指標の一つです。その点では、世界人口の5人に1人が中国人という中国の台頭がすごい。しかし、日本人の中には、中国を見下すような意識がまだ残っている気がします。

ロジャーズ:実は、私も日本が外国人に対してとる差別に戸惑うことがあります。国連も18年に、日本には在日外国人に対するいろいろな差別があると勧告したほどです。相変わらず外国人参政権を認めていませんよね。19世紀は英国、20世紀はアメリカ、21世紀はアメリカと中国、それが歴史の流れです。皆、中国の時代はあまり好きじゃないかもしれないけど、そういう時代なので、受け入れないといけません。アメリカは非常に成長したけど、いろいろな問題も抱えた。不況も15回はきた。それでも、20世紀では、最高の国になったというのが事実です。中国は今から、アメリカと同じようにいろいろな問題が起きるでしょうが、21世紀で中国以上に成長する国はおそらくないでしょう。トランプ大統領との間で経済戦争は起きていますが、私は娘にシンガポールで中国語を学ばせています。

古賀:ロジャーズさんは、日本がこれからやるべきことの一つとして、無駄な支出は削れ、そのうちの一つが、防衛費だとおっしゃっています。けれど、潜在的に、中国が日本を占領するのではないかと恐れている人たちもいて、日本も軍備を増強し、中国に対抗しようという考えも根強い。それが安倍政権の考えです。

ロジャーズ:対立するのではなくて、経済協力することでお互いがアジアを牽引することを考えましょう。中国は、これまで内戦はいっぱいあったけど、国際的な戦争を実はそんなにしていません。実は平和的な国です。歴史でもそれは証明されています。
古賀:元々中国人というのは、資本主義的な考え方を身に付けた人たちで、これから長く繁栄していくためには、どうしても世界と貿易ビジネスをしていかないといけないとわかっている。それが中国の利己的な行動を抑える上で一番の歯止めになるのではないかと思います。軍事で抑え込むというよりは、「ビジネスがやりにくくなっちゃいますよ」と周りに取り込んでいくことのほうが世界のために有効じゃないかと思います。

ロジャーズ:私も同意見ですが、政治家は間違いを犯すことが過去にもたくさんありました。日本、中国、韓国にも非常に頭のいい、素晴らしい人がいる。喧嘩して対立することもあっていいですが、チャンスがあれば、ビールを飲んで、楽しく話せばいいのではないですか? 戦争は誰の得にもならないのは、歴史が物語っています。

古賀:朝鮮半島情勢が今後、アジアの鍵を握ると思います。北朝鮮の金正恩氏を、どう評価されていますか。

ロジャーズ:彼は北朝鮮人じゃないのです。彼はスイスで育ったけど、スイスに帰れない。そういう意味で、北朝鮮をスイスにしたい。北朝鮮に国際的なスキーリゾートを建設したのもそう。トウ小平(※トウは「登」におおざと)が中国を変えたように、北朝鮮を変えたいのですね。でも、そういうことは日本でもアメリカでも報道されない。今、日本の報道を見ると、先進国による経済制裁が続き、北朝鮮の人々は困窮しており、「北朝鮮には未来がない」というトーンばかりです。世界中でそうプロパガンダされています。特にアメリカのプロパガンダはひどい。アメリカから学んだ日本でも非常にうまくプロパガンダされています。だが、実際に北朝鮮を見てきた私にとっては信憑性がない。

古賀:アメリカの企業でも北朝鮮へのビジネスチャンスを狙っているところがあるのでしょうか。

ロジャーズ:トランプに聞いてほしいのですけど、トランプは何もわかっていません。トランプは歴史に名を残したくてやっているのでしょう。北朝鮮と韓国の統一は遠くない未来に起きると私は思っています。韓国も、アメリカも、中国、ロシアも望んでいるかもしれない。だが、実は日本は南北の統一にはすごく反対しているように見える。朝鮮半島が統一されると、経済的に脅かされるからかもしれませんが……。
古賀:仮にうまく南北が完全な統一までいかなくても、国家連合のようになれば、一斉に世界中のビジネスが北朝鮮で利益を得ようと動く。いま、北朝鮮、韓国と対立している日本は立ち遅れる危険性があります。

ロジャーズ:北朝鮮と韓国が統一されると、外国から投資を呼び込めるだけでなく、国内の投資も活発になります。日本や中国が現状のままであれば、5年後、アジアで最も裕福な国になるのは、朝鮮半島の統一国家となる可能性が高い。日本の経済を復活させるには内需には頼れず、インバウンドに頼るほかないですが、韓国は国内消費の上昇も期待できます。この点は両国の大きな差です。いま、経済を悪化させているヨーロッパ諸国や米国よりも朝鮮半島に可能性があると考えるのは、北朝鮮というフロンティアがあるからです。

古賀:しかし、日本と韓国の関係は悪化の一途をたどっています。

ロジャーズ:韓国も日本と同じような人口減などの問題を抱えていますが、朝鮮半島の南北統一が実現すれば韓国の人口減は軽減されるでしょう。北朝鮮には若い女性が多く、子供を産むことに躊躇(ちゅうちょ)しません。北朝鮮から女性が流入し、改善の見込みがあります。統一のネックになりそうなのは、アメリカの存在です。アメリカが韓国に駐留させている3万人の軍隊をどうするか? アメリカのプロパガンダ的に言うと、核を北朝鮮から排除するのがゴールですが、北朝鮮はその代わり韓国に対し、在韓米軍を引き揚げさせてくれと要求するでしょう。アメリカが韓国から米軍を引き揚げたくないと考えるなら時間がかかりますね。ただ、日本や中国が現状のままでいれば、5年後にアジアで最も裕福な国になるのは、朝鮮半島の統一国家だと私は考えています。

古賀:日本は中国や韓国、北朝鮮、あるいは東南アジアなどポテンシャルを持った国とどう関係を築けばいいのでしょう。

ロジャーズ:中国・日本・韓国がEUのようなアジア共同体といった形で一緒になってキャピタリズム中心になるようつくればよいのです。パワーがあるので、アジアの時代をもっと継続できますよ。

(構成/本誌・田中将介)

※週刊朝日  2019年10月4日号より抜粋


(社説)
自民の新体制 改憲ありきは許されぬ
2019年9月26日:朝日新聞

 来月4日召集の臨時国会を前に、自民党が改憲論議に臨む新たな体制を固めた。安倍首相は原案作成を目標に掲げるが、改憲ありきでは、与野党の対立をあおり、冷静な議論にはつながらないと心得るべきだ。
 首相は先の内閣改造後の記者会見で、衆参両院の憲法審査会において、今後は「自民党が強いリーダーシップを発揮していくべきだ」と語った。この2年間、衆院憲法審で実質審議が一度も行われなかったことに業を煮やしたのだろう。
 党憲法改正推進本部長には、首相の出身派閥の長で、自衛隊明記など改憲4項目をまとめた細田博之・元幹事長を再び起用。憲法審の会長には、衆院は佐藤勉・元国会対策委員長、参院は林芳正・元文部科学相を充てる。野党とのパイプや交渉力に重きをおいた布陣といえる。
 ただ、これまで憲法論議が進まなかったのは、改憲に前のめりな首相の姿勢や、野党を挑発するような首相側近の不用意な言動が原因ではなかったか。その根本を改めずに、野党との駆け引きに心を砕いても、実のある議論は期待できない。
 首相は改憲論議の是非を訴えた今夏の参院選に勝利したことで、「議論すべきだとの国民の審判は下った」と繰り返す。
 しかし、同時に、自民、公明の与党に日本維新の会などを加えた「改憲勢力」が、国会発議に必要な3分の2を維持できなかったことも重く受け止めるべきだろう。公明党の山口那津男代表が選挙直後、「憲法改正を議論すべきだと受け取るのは、少し強引だ」と指摘したのはもっともである。
 そもそも、内外の課題が山積しているというのに、政権党の政治エネルギーを改憲に注ぐ緊急性や必然性がどれだけあるのか。朝日新聞の世論調査によると、改憲を求める声は一貫して小さい。党総裁の任期が残り2年となるなか、政権の「遺産」づくりという思いが先立つなら、本末転倒というほかない。
 安倍政権は集団的自衛権の行使に道を開いた安全保障関連法など、世論の割れるテーマで熟議を拒み、最後は「数の力」で押し切る国会運営を繰り返してきた。衆院憲法審の会長となる佐藤氏は安保法成立を強行した時の国対委員長だ。自民党内には早くも「改憲論議は(憲法審の)会長職権で進めるしかない」との声がある。
 改憲ありきではなく、国のあり方をめぐって大所高所から議員同士が闊達(かったつ)な議論を交わす。その環境を整える責任こそ自民党にある。通常の法案以上に丁寧で幅広い合意形成が求められる憲法論議を数の力で推し進めることなどあってはならない。


日米貿易協定の合意
 ウィンウィンとは言えない
2019年9月27日:毎日新聞

 安倍晋三首相とトランプ米大統領が日米貿易協定に最終合意した。首相は「両国に利益をもたらすウィンウィンの合意」と強調したが、とてもそう呼べる内容ではない。
 焦点となった米国産牛肉や豚肉への関税は、日本は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)並みの水準にただちに引き下げる。米国がTPPを離脱したにもかかわらずだ。トランプ氏は「米国の農家にとって偉大な勝利だ」と誇った。
 なのに、もう一つの焦点だった日本車への関税について、米国はTPPで約束していた撤廃を見送る。自国産業保護のためだ。継続協議としたが、撤廃は困難とみられている。
 自由貿易の目的は、主要な市場を互いに開放し、経済を活発にすることだ。日本と欧州連合(EU)が今年発効させた協定も日本が農産物、EUが車の関税削減で合意した。
 米国は今回、日本に対して車以外の製品などの関税削減は決めたが、日本の対米輸出の3割を占める車の関税は残す。これでは日本のメリットは限られてしまう。
 さらに首相は先月、協定と別に日本企業が米国産トウモロコシを大量購入する計画を示し、会談したトランプ氏を喜ばせた。首相は害虫対策と説明したが、専門家からはそれほどの被害でないと疑問も出ている。
 日本政府がそこまでして米国の要求を受け入れたのは、トランプ氏が日本車関税撤廃どころか、追加の高関税発動をちらつかせたためだ。
 トランプ氏の最優先課題は大統領選での再選だ。農家や自動車工場は選挙情勢を左右する激戦州に多い。
 今回の交渉は、両首脳が交渉入りで合意した昨年9月からわずか1年のスピード決着だ。日本政府は成果を急ぐトランプ氏に花を持たせ、過大な要求を突きつけられないうちに交渉を終えたかったのだろう。
 追加関税について、日本政府は、両首脳の署名した共同声明に回避する文言が盛り込まれたと説明する。
 しかし文言は、昨年9月の共同声明を踏襲したにとどまる。予測不能なトランプ氏だけに歯止めとは言いがたい。追加関税が発動されるリスクは消えていない。
 政府は協定案を来週召集の臨時国会に提出する。国益にかなう内容なのか、しっかり審議すべきだ。


「盤石」の安倍外交、8年目の課題は「韓国」だ
ROUGH SEAS AHEAD?
2019年9月25日:ニューズウィーク

<ちまたの「安倍外交論」はいずれも説得力がない。トランプを操縦し習近平とも握手してきたが、果たして成功なのか。首相個人ではなく、「時代的産物」として多元的に総括すると――。本誌「2020 サバイバル日本戦略」特集より>

第2次安倍晋三政権が発足して早くも7年近くがたった。ちまたには多くの「安倍外交論」があるが、いずれの論考も「外交」を一元的に捉えており、あまり説得力がない。本稿では安倍外交を、首相個人ではなく、21世紀初頭の「時代的産物」として多元的に総括してみたい。

そもそも外交には3つの側面がある。第1は、国民感情や国内の権力闘争とは一線を画し、純粋に国際政治・経済・軍事上の利益を最大化する知的活動。第2はこれとは逆に、国内政治上の一手段として権力者が権力基盤を維持するために行う対外活動だ。どちらを重視するかで評価は大きく変わる。
第3は、過去10年間で始まった国際的な政治潮流の変質だ。グローバリズムと国際協調に代わって自国第一主義と排外差別主義が復活し、1930年代のような「勢いと偶然と判断ミス」による政治判断がまかり通っている。これら3つの側面に配慮しない外交政策はいずれも成功しない。
この国際政治・軍事環境の大転換期に発足したのが第2次安倍政権だ。目指した外交政策は2006~07年の第1期と大きく変わっていない。具体的には、日米韓の同盟・準同盟を基軸に、台頭する中国を牽制し、ロシアとの関係改善を計りつつ、東南アジア、欧州、中東との関係を維持することだ。
第2期に安倍外交が花開いたのは、首相の個人的能力もさることながら、安倍外交の基本政策がより多くの国民に支持され始めたことが大きい。転機は12年の尖閣諸島をめぐる日中衝突だった。当時の中国のかたくなな姿勢に直面し、国民はより強いリーダー、より毅然とした対外政策を求めたのだろう。各主要国に対する個別の安倍外交はどうか。
まずは日米関係だが、日米同盟関係が今ほど円滑であった時期は記憶にない。東アジアで中国の台頭に直面しながら、付き合い方の難しいバラク・オバマ、ドナルド・トランプ両政権と良好な関係を巧みに保ちつつ、日米連携の維持・拡大をリードした功績は素直に評価すべきだろう。
続いて中国だ。安倍政権の対中政策は戦略的でブレていない。政権発足直後こそ日中関係はギクシャクしたが、14年以降徐々に中国が日本に歩み寄るようになった。しかし、日中関係はしょせん米中関係の従属変数。米中関係が悪化した今、安倍外交は巧みに対中関係の戦術的改善を進めている。
朝鮮半島は鬼門だ。元徴用工の訴訟や秘密情報保護協定(GSOMIA)問題での韓国の強硬姿勢は想定外だったろう。残念ながら、北朝鮮との拉致問題も解決の糸口を見いだせないでいる。南北朝鮮については、冒頭に述べた外交の国際的側面と国内政治的側面のバランスの維持が非常に難しい。
日米韓の連携が失われる?
さらに困難なのが、東アジアでのいわゆる歴史問題の扱いだ。安倍外交の基本姿勢は確かなものだが、国際的利益と国内的政治配慮のどちらを優先するかは微妙である。13年の靖国参拝では後者を優先し、15年の戦後70年談話では前者を優先している。
最後にロシアに触れよう。北方領土をめぐる日ロ首脳交渉は、日本国内への配慮というより、米中ロ間のバランス変化を踏まえた戦略的な一手である。残念ながら今回ロシアは米ロ関係の悪化を受け、中国の戦略的脅威よりもアメリカに対する中ロ連携を重視した。日ロ関係の再活性化は容易ではない。
過去7年弱の安倍外交は、不確実性が高まる東アジアで日本の国益と存在感を高めることにおおむね成功してきた。懸念材料は、日韓関係悪化に伴い従来の日米韓3国の連携が失われる可能性だ。今後日本がアメリカと共に韓国をどこまで引き留めるのか。これが安倍外交8年目の課題である。
<本誌2019年10月1日号掲載>


日本の市民団体、
戦犯企業による強制徴用事実を
立証する証拠資料を公開
2019年9月24日:ハンギョレ新聞

高橋共同代表、23日に光州市議会で記者懇談会 
1945年8月基準の三菱重工業社内報の証拠を提示 
「朝鮮人徴用工は自発的な労働者」との主張を覆す資料

名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会の高橋信共同代表(77)が今月23日、1945年8月基準で作成された日本戦犯企業三菱重工業の社内報を見せている//ハンギョレ新聞社
 日本で女子挺身隊被害者を支援する市民団体の代表が、日本戦犯企業の強制徴用事実を立証する証拠資料を公開した。「日帝強制占領期(日本の植民地時代)に日本へきた朝鮮人たちは自発的な労働者だ」という日本の安倍政権の主張を覆す証拠資料だ。「名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会」の高橋信共同代表(77)は23日、光州(クァンジュ)市議会市民疎通室で記者懇談会を開き、1945年8月基準で作成された日本戦犯企業三菱重工業の社内報を提示した。同社内報によると、三菱系列会社全体の34万7974人の労働者のうち朝鮮人徴用者は1万2913人、非徴用者は171人だったという。
 特に、女子勤労挺身隊は9485人と別途に記載された。女子挺身隊は日帝強制占領期間に13~15歳で日本の軍需工場労働者として動員されたにもかかわらず、賃金を一銭ももらえず、“奴隷労働”を強いられた被害者たちだ。高橋共同代表は「ただし、日本政府は日本の女性に対しても勤労挺身隊を運営したことがあり、勤労挺身隊記録に現れた全体人員を被害者規模と見ることは難しい」と説明した。
 彼は、「私たちには皆さんが見たような資料があり、今隣に座っているヤン・クムドクさんのように直接被害に遭った被害者もいる」とし、「このような真実があるため、真実は絶対負けないと思う」と強調した。
名古屋三菱・朝鮮女子挺身隊訴訟を支援する団体の高橋信共同代表(77)が今月23日、
勤労挺身隊被害者のヤン・クムドクさんの手を揚げている//ハンギョレ新聞社

 高橋共同代表は同日、日本の安倍政権の経済侵略後の日本国内の「嫌韓」と「反韓」の雰囲気も伝えた。彼は「安倍政権は、メディアを利用して“韓国バッシング”に乗り出している」としたうえで、「10代や20代、30代など若者は韓国に好感を持っているが、40代以上の中高年層と老年層は反韓意識が蘇っている」と診断した。一方、安倍政権の対応を見て歴史認識に目覚める日本人も増えているという。高橋共同代表は、「韓国最高裁(大法院)の判決と韓日対決後、侵略戦争による加害意識に目覚めている。市民の歴史認識が史上初めて反戦平和・民主・人権意識に変わりつつある」と伝えた。また、「現在の韓日状況は大変で難しい時期だが、韓日関係を立て直す機会だ。植民支配の事実を知らせ、加害事実を日本国民が受け入れた時、それを土台に韓日問題を眺めて解決していけるだろう」と強調した。
 一方、高橋共同代表は同日、光州広域市庁で上映されるドキュメンタリー映画「名古屋のパボ(バカ)たち」の上映会に出席するため光州を訪れた。彼は1998年、1100人が参加する名古屋訴訟支援会を設立した後、同年3月、韓国の勤労挺身隊被害者たちが日本の裁判所に損害賠償請求訴訟を起こすように後押ししており、これまで支援・連帯活動を続けている。
チョン・デハ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
http://www.hani.co.kr/arti/area/honam/910617.html


法人税逃れ大国ニッポン
 消費増税で内部留保463兆円のカラクリ
2019年9月26日:週刊朝日

 10月1日から消費税が上がり、庶民は物価高に苦しむ。一方で、企業の「内部留保」は463兆円と過去最高を更新。法人税が引き下げられ、お得な減税策などもあり、企業はもうかりやすくなっているのだ。庶民には厳しく企業には優しい“法人税逃れ大国ニッポン”の実情に迫った。
*  *  *
「企業の責任が果たせているのか、制度的に疑問なところがある」

 こう言うのは東京商工リサーチ情報本部の原田三寛・情報部長だ。企業は多くの人材や公共設備などを利用して金もうけしている。利益に応じて納税し社会を支える責任がある。ところが、もうかっているのに納税額が少ない大企業が目立つようになっているのだ。

 表を見てほしい。東京商工リサーチのデータをもとに、利益が大きいのに納税額が少ない主な企業をまとめたものだ。

 東証1部上場企業を対象に、直近3カ年の有価証券報告書を分析。課税前の当期純利益(税金等調整前当期純利益)に対し、法人税等が占める割合を、「税負担率」として算出した。利益が大きく負担率が低い主な企業が並んでいる。低いからといって違法な脱税をしているわけではないが、税金をうまく逃れている状況がわかる。

 企業は所得に応じて法人税や地方法人税などを支払わないといけない。実質的な税負担率(法人実効税率)は大企業の場合、29.74%(2018年度)となっている。つまり、基本的にもうけの3割を税金として国に納めるルールだ。

 それなのに表にある企業では、税負担率が2割を下回り、中には数%やマイナスのところもある。

 なぜか? 企業には庶民にはない有利な制度があり、納税額を減らせるためだ。どんなメリットがあるのか、見ていこう。

 表のトップのソフトバンクグループは、税金等調整前当期純利益(直近3カ年分)が約2兆7千億円もあるのに、法人税等はマイナス8236億円。税金を納めているのに巨額の利益が出るのは、「欠損金の繰越控除」といった制度などを利用したためとみられる。

 これは赤字(欠損金)が発生すると、その後10年間にわたり所得から差し引くことができるものだ。同社は16年に約3.3兆円でイギリスの大手半導体会社を買収。その会社の株式の一部をグループ企業に移す際に、取得価格と時価評価額の差にあたる約1兆4千億円の損失を計上した。その分、利益が減るので“節税”できることになる。

 この手法自体は合法だが、国税庁は損失額の計算が不適切だったと判断。一部について損失を認めず約4千億円の申告漏れを指摘した。同社側は、損金算入の時期について国税当局と見解の相違があり修正申告したとしている。庶民からすれば、「見解の相違」で数千億円もの申告漏れが発生するのは驚きだ。
 同社の孫正義会長兼社長は6月の株主総会で、「ルールのなかでいろいろな節税を合法的にやっている。合法的な範囲のなかで、ある程度節税を図っていく」と発言している。

 欠損金の繰越控除のメリットを受けている企業は多い。表にある東京電力ホールディングスは原発事故を起こし多額の損失を抱えているので、納税額は少しだけ。日本航空も経営破綻したことがあり、繰越控除を受けているとみられる。

 ものづくりの大企業に有利な制度もある。

「研究開発減税」は、研究開発費の一部を法人税から控除できる。財務省によると、この制度によって減った大企業の税額は、17年度だけで約6千億円にも上る。自動車メーカーや製薬会社など、製品開発に巨額の投資をする企業は恩恵が大きい。例えば表にある本田技研工業(ホンダ)は18年度に約8千億円、武田薬品工業は約3700億円の研究開発費を使っている。

 企業ごとの減税額は公表されていないが、年間数百億円もの恩恵を受けているところがありそうだ。

 こうした、過去の赤字や研究開発費を理由に納税額を減らす仕組みなど、企業を実質的に優遇している制度はたくさんある。紹介しているのは一部だけだ。法人である企業は個人と税制が異なるとしても、庶民感覚からすれば納得しにくい。会社員は収入がガラス張りで、所得税などは給料から強制的に徴収される。消費増税や社会保障費の負担増で生活はさらに苦しくなるが、節税の手段は限られている。

 そもそも、企業のうち法人税を納めているのは少数派だ。国税庁の17年度の統計によると、普通法人271万社のうち赤字は181万社で、割合は66.6%。中小企業を中心に、6割以上が法人税を払っていないことになる。もうけが少ないのに経営者の報酬を不当に高くするなど、税金逃れの手法はいろいろある。冒頭で登場した原田さんはこう訴える。

「税金を控除する制度について、もう一度考える必要があるのではないでしょうか。企業の責任には税収を守るということもあるはずですが、そこが弱まっている。合理的な経済活動の結果なのかもしれませんが、制度の妥当性を改めて考えたほうがいいと思います」

 税制が全体的に企業やお金持ちに優しく、庶民に厳しくなっている。税収は消費税が右肩上がりなのに、法人税や所得税が下がっている。

 消費税は1989年に3%で始まり、97年に5%、14年に8%になった。これに対し、大企業の法人税率は消費税導入前は42%だったが現在は29.74%。所得税の最高税率も60%から45%に下がっている。

 法人税については日本経済団体連合会(経団連)など財界が、世界的に見て高すぎると主張してきた。引き下げないと、法人税が低い国の企業との競争に負けてしまうという論理だ。確かに日本の法人税率は、数字上は世界的に見て低くなかった。だが、段階的に引き下げられ、有利な制度も充実している。税制に詳しい菅隆徳・税理士は政府や財界の対応を批判する。
「日本の法人税率が高すぎるというのは、大企業の負担を引き下げ、その分を庶民に押し付ける口実です。支払い能力に応じて負担するのが、本来の税のあり方です。法人税率はいくらもうかっていても同じ。法人税も累進税率にして、もうかっている会社はそれなりに負担するべきです」

 こうした主張に説得力があるのが、企業がお金をため込んでいる現状だ。利益の剰余金である「内部留保」は増え続けている。財務省の法人企業統計によると、18年度の金融業・保険業を除く全産業の内部留保は463兆1308億円と過去最高。7年連続の増加で、前年度から3.7%増えた。

 法人税が低いことで、経営者はもうけをため込みやすい。もし法人税が高ければ、国に取られるぐらいなら給料や設備投資を増やそうという経営者も出てくるはず。消費増税で個人消費が落ち込み、景気の失速が見込まれているいまこそ、法人増税すべきだとの意見もある。

 企業にとって有利なケースとして、輸出企業の消費税の還付制度も挙げられる。上の表を見てわかるように、輸出大企業は巨額の還付金を受け取っているようだ。個別の数字は非公表だが、元静岡大教授で税理士の湖東京至(ことうきょうじ)さんが推計した。湖東さんは、還付金は輸出企業への事実上の奨励金になっていると指摘する。

 消費税は、ものやサービスがつくられていく過程で段階的に課税される。最終的に負担するのは最後に買い物をした人だが、納税するのはものやサービスを売った企業だ。

 生産や流通段階で二重三重に税がかからないよう、税が累積しない仕組みになっている。例えばお店で千円の商品を買ったとしよう。千円の10%の100円を店が国に納めるわけではない。お店は客から受け取った消費税から、仕入れなどで払った消費税分を引いた額を納めるのだ。つまり仕入れ額が仮に900円で支払った消費税分が90円だとしたら、納めるのは100円から90円を引いた10円になる。

 輸出する場合は、海外では日本の消費税はかけられない。最終的な輸出企業は、仕入れなどで払った消費税分の還付を受けることができる。本来支払う必要がなかった消費税分が戻ってくるだけで、企業にとって得にも損にもならないはずだが、実は企業にとってうまみがあるとされる。

 なぜなら、消費税分をきちんと下請け業者に支払っていないこともあるためだ。米国のトランプ政権も、この還付制度が事実上の輸出補助だと問題視している。

「下請け企業が消費増税分をきちんと転嫁できない事例はよくあります。輸出企業は消費増税で還付金が増え、ますます潤うことになります」(湖東さん)

 税金の仕組みを知れば、庶民がいかに不利なのかがよくわかる。「企業は天国、庶民は地獄」とも言える制度を黙って受け入れず、公平な税制を求めていきたい。(本誌・吉崎洋夫、浅井秀樹)

※週刊朝日  2019年10月4日号

儲かってるのに納税額が少ない企業

企業              冬季収益額  法人税額
                  (億円)  (億円)
SUMCO(金属製品) 921 148
アドバンテスト(電気機械) 892 162
SCSK(情報・通信)         888 165
オリエントコーポレーション(金融) 855 111
アルパック(電気機械) 770 157
ディー・エヌ・エー(サービス) 665 51
三井海洋開発(機械) 623 142
カシオ計算機(電気機械) 601 145
四国電力(電気・ガス) 490 77
北海道電力(電気・ガス) 476 67
日本電気硝子(ガラス・土石製品) 473 114
奥村組(建設) 410 82
日本ユニシス(情報・通信) 364 68
ケネディクス(サービス) 330 79
富士石油(石油・石炭製品) 263 38
セイコーHD(精密機械) 261 64
ニッタ(ゴム製品) 260 49
グリー(情報・通信) 252 18
リョービ(非鉄金属) 247 64
テクノプロHD(サービス) 235 50
ホシデン(電気機械) 229 38

東京ドーム(サービス) 212 41
加賀電子(卸売業) 214 49
ユニチカ(繊維製品) 207 32
アイフル(金融) 205 17
日医校(医薬品) 197 40


特集ワイド
この国はどこへ これだけは言いたい
俳優・仲代達矢さん・86歳
 「戦争スイッチ」押させなかった憲法
2019年9月27日:毎日新聞

仲代達矢 俳優=東京都世田谷区の無名塾で2019年9月3日、宮間俊樹撮影

 東京・世田谷の静かな住宅街の一角、重厚なレンガ造りの建物に足を踏み入れると、若い俳優たちが交わすせりふが耳に飛び込んでくる。仲代達矢さん(86)が主宰する「無名塾」の稽古(けいこ)場「仲代劇堂」では、来年3月の公演に向けた立ち稽古が始まっていた。
 稽古場から壁一つ隔てた一室で、仲代さんが語り始める。「単なる一役者の、残り少ない人生ですけれども、戦争と平和という問題を作品の中に込めて生きてみたい。戦争を体験した最後の世代として、そう思っております」。日本映画の黄金期を体現し、なお一線の舞台に立ち続ける名優の声が重く響いた。
 仲代さんが生まれる前年の1931年は、満州事変勃発の年。そして翌年の5・15事件、上海事変と、日本は軍国主義が暗い影を広げる時代を迎えていた。日本が太平洋戦争に突入した41年に父を肺結核で亡くした仲代さんは、軍国少年として戦火の日々を過ごしていた。「年齢的に兵隊にこそ行っておりませんが、戦争に勝つことを信じ、お国のために死ぬことを教育でたたき込まれておりました」
 45年5月25日、中学生だった仲代さんは、3600人を超える死者を出した「山の手大空襲」に遭った。焼夷(しょうい)弾が雨のように降る中、たまたま近くにいた小さな女の子の手を引いて懸命に逃げた。気が付くと、女の子は腕だけになっていた。「恐らくその子が直撃を受けたのでしょう。ほんの10センチほど横に来ていたら、死んでいたのは私でした」。ショックのあまり、その腕を離してしまったことを今も悔いている。「女の子のお陰で自分が生き延びたのに、私はお墓に葬ってあげられなかった」。仲代さん一家も渋谷にあった家を失い、その後も空襲警報の中、一日一日を死と隣り合わせで過ごし、終戦の日を迎えた。
 戦争の犠牲になるのは、結局名もない庶民ばかり。その考えは、俳優としての歩みの中でも貫いてきた。戦後、俳優座付属養成所に通っていた駆け出しの頃、ある映画の出演オファーを断ったことがある。「戦争の英雄」を描く作品であったのが理由だ。「19歳で役者になり、今、自分の仕事を振り返ってみますと、気に入ったものしか出なかった。今の若い世代の方にも、戦争の恐ろしさと人間の命について考えてほしいと思っています。戦後の日本が、日米安保条約の下で、沖縄を含めて米軍基地化されてしまったことを憂えていたのが、私の師である小林正樹監督でした」
 主役に抜てきされ、仲代さんの出世作となったのが、小林監督の「人間の條件(じょうけん)」(59~61年)だった。原作は五味川純平の大河小説。日本支配下の旧満州(現中国東北部)を舞台に、暴力によって中国人たちを苛烈な労働に駆り立てている鉱山で、仲代さん演じる「梶」は、労務管理の責任者として中国人捕虜を「人間として扱う」ことを主張。抵抗する現場や上司との板挟みに苦しむ姿が描かれる。小林監督自身が、戦時中に兵士として満州に駐留しており、自らの軍隊生活と重ねて、主人公の考えに「親近感を覚えた」と書き残している。


空襲で焦土になった東京・新宿付近。仲代さんは「山の手大空襲」に遭ったが一命を取り留めた

 梶は、戦時体制に翻弄(ほんろう)され、結局は心ならずも加害の側に立つことを余儀なくされていく。支配者の側にありながら良心的に振る舞おうとする梶。だが、その心情と無関係に戦争の論理が突き進む。「戦争へのスイッチはいたるところにありますが、一度始まってしまうと止めるのは容易ではない。戦争体験のない政治家による改憲論議が最近また聞こえてきますが、今の憲法のもとで70年あまりかろうじて平和が続いてきたことを考えてほしい。憲法9条が変われば、自衛隊は米軍と行動を共にして戦争に飛び込んでいくことになりかねない。憲法改正だけは絶対に止めたい、と思っています」
 「無名塾」では一昨年、やはり戦争を中心テーマに据えた演劇を上演、仲代さんが主役を務めた。その舞台「肝っ玉おっ母と子供たち」はドイツの劇作家ブレヒトの作品。17世紀、三十年戦争時代の欧州を舞台に、軍隊を相手に商品を売って生計を立てる女性「肝っ玉おっ母」の姿を描く。「戦争のお陰」で生活している主人公は、戦場から戦場へと渡り歩く中で、3人の子供を戦争によって失う。
 戦時下で「良心」に従って行動しようとしながらも加害者となる「梶」。一方、戦争から「利益」を得ているはずが子供を奪われてしまう「肝っ玉おっ母」。戦争があらわにする人間の悲しさと愚かさを合わせ鏡のように映し出している。
 150作を超える出演映画の中で、仲代さんが「一番思い出のある作品」と振り返るのが、小林監督の「切腹」(62年)だ。江戸時代の武家社会の残酷さを描いた時代劇は、カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞するなど、海外でも高い評価を受けた。
 仲代さんが演じたのは、幕府によって主家が没落し、浪人となった主人公・津雲半四郎。幸せな暮らしが一転、病に襲われた娘も孫も、貧苦のために医者に診せることができない。そして、「武士道」の不条理さによって同じく浪人に身を落とした娘婿を失う――。武家社会の虚飾とあしき権力に立ち向かう主人公の姿が観客の共感を呼んだ。
 作品が公開されて以降、日本は高度成長を果たし、ここで描かれたような貧しさは70年代には過去のものとなったはずだった。だが、メディアで「格差」「貧困」の文字が躍る今、この映画が突きつける問いは改めて重い。劇中、切腹を迫られた半四郎が言う。「仮借なき幕府の政略のため罪なくして主家を滅ぼされ、奈落の底にあえぎ、うごめいている浪人ものの悲哀など、衣食に憂いのない人には所詮わからぬ」
 仲代さんは語る。「藩がつぶれて浪人があふれた時代、主人公は社会の不公平に一人で立ち向かう。だが結局、『井伊家は安泰』というところで終わる。現代の政治でも同じようなことはいっぱいあるような気がします」。物語は、半四郎が井伊家上屋敷で起こした事件が、公的記録であるはずの「井伊家覚書」では何事もなかったように記載された、という内容の語りで幕を閉じる。公文書の改ざんや意図的な廃棄が問題となっている現代の日本社会にとってこれほど皮肉な時代劇も少ない。
 最近、仲代さんが案じていることの一つが、韓国との関係だ。「旅で九州辺りを回りますと、炭鉱労働などに朝鮮半島から多くの人が連れてこられた、という話はたくさん残っています。歴史問題として、やはり日本が悪かったということですよ。条約を結んで解決したと言っても、韓国の人たちの心の中というのは収まらないものだと思うんです。相手の気持ちを考えて、日本政府も『済んだこと』と片付けるのではなく、もう少し知恵を出せないか、と思います。マスコミも、韓国との歴史問題はあまり触れないようですが、最悪の状態にならないようにしてほしい」
 日本政府の姿勢について苦言を呈したのは、国連の核兵器禁止条約への対応だ。2017年7月に122カ国・地域の賛成多数で採択されたが、日本は核保有国と同様に参加していない。「世界で唯一、原爆の被害を受けた日本が、世界中の人が集まって禁止しようというのに禁止する側に入らない。広島、長崎には、今も苦しんでいる被爆者の方がいるというのに、非常に腹立たしく思います」
 無名塾で仲代さんの指導を受けた俳優たちも「原爆禍」を正面から描く作品に取り組んでいる。その一つが、広島、長崎両市で「二重被爆」した姉弟の体験を朗読劇にした映画監督の稲塚秀孝さんの作品だ。昨年12月の「長崎国際平和映画フォーラム」で披露された。
 「無名塾は日本の演劇界で一番小さい私塾ですが、私の周りにいる若者だけでも、そういう思いで育ってくれたらいいなあ、と思っております。戦争の恐ろしさを知らない若い人たちが、こうした問題を自分のこととして深く考えてくれるきっかけになれば、と」
 今も自らが先頭に立って走り、若い世代にバトンをつなごうと懸命に手を伸ばす。その姿、その言葉に改めて身が引き締まる思いがした。【井田純】

 ■人物略歴
なかだい・たつや
 1932年、東京生まれ。養成所を経て55年に俳優座入団。舞台「ハムレット」「どん底」、映画「人間の條件」「切腹」「用心棒」「影武者」など数多くの作品に出演。75年、「無名塾」を設立。2015年、文化勲章受章。

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