学べない人びとは「夢」を見るのか?

アチコチの研究会などで「地理教育の問題、教育の課題、社会の病理を切り分けて考えること」などと発言するのだが、日本の教育の最大の課題は「学び方を学ぶ」ことができていないことだと考えている。
小・中・高・大を通じて、特に小学校で学ぶというスキルや学ぶことの意味や大切さを身に付けていないことが、生涯にわたる損失を生み出し続けている。
この情報過多の時代に、学び取ることができる事例は、毎日無数に例示されていても、知っていても、理解はできず、理解できないから、考えることもしないでいる人びとが大多数だ。情報は通り過ぎていくだけで、意味を持つことがない…。まるで「時計仕掛けのオレンジ」(キューブリック)のような現実がそこには存在している。


保護者が教員からセクハラ被害
 息子への「制裁」恐れて泣き寝入りも
2020年1月3日:AERA

 教員のセクハラ・パワハラが後を絶たない。中でも表面化しにくいのが、保護者が教員からセクハラを受けるケースだという。AERA 2019年12月30日-2020年1月6日合併号では、セクハラ被害を受けた保護者が苦しい胸の内を語った。
*  *  *
「先生、起きてください。着きましたよ」

 2019年の夏、東海地方に住む40代の女性が、中学校のバレーボール部で息子を指導していた元顧問の男性教諭を初めて車で自宅に送った夜のことだ。

 突然、教諭の右手が女性の左胸に伸びてきた。Tシャツの上からわしづかみにするように何度もさわる。

「やめてください。寝たふりしないでください」

 払っても、払っても、伸びてくる手を必死に押さえた。

 後部座席には、片道1時間かかる教諭の自宅までの送迎に付き合ってくれた別の部員の母親も乗っていた。狭い車内で、この母親が気づかないわけがない。女性は、

「助けて。先生をやめさせて」

 と助けを求めたが、返事はない。教諭は押さえられた手を振りほどいてはまたさわるを繰り返したあと車を降りた。開けた窓から車に顔だけ突っ込むと、

「いやあ、〇〇さんの胸はすごかった」

 と言って薄笑いを浮かべた。

 女性が狼狽しつつ、同乗していた母親に、「あんなことをする先生なの」 と聞くと、「寂しいんじゃないの?」と言われた。教諭に妻子はいる。同乗していた母親は、「眠いから寝るわ」と何事もなかったような態度だった。この母親は、男性教諭のいわゆる“シンパ”だ。

 教諭は道中で「頭が痛いから車を止めて」と言い、「休憩したいからホテルに行こう」と誘ってもいた。

 このことは当初、ほかの誰にも言えなかった。

「自分が声を上げて、子どもが一生懸命取り組んでいる部活動に支障が出るのが怖かった。私さえ黙っていればいい。泣き寝入りになるけど、それも仕方がないと思った」

 部活における教師の存在は絶大だ。あらゆる面でブラックな状態が野放しにされやすい。
 女性は、シンパの母親から再び「先生と3人で飲もう」と呼び出され、教諭にホテルへ連れ込まれそうになった。ほかにも「〇〇さんの胸は……」と何度もからかうように言われるなど、屈辱的な仕打ちを受けた。それらすべてを、数少ない教諭シンパではない母親に打ち明けたところ「我慢するなんて、おかしいよ」と言われた。

 女性はその後、教諭のシンパの母親たちに、教諭に自分へのわいせつ行為について謝罪してほしい旨を訴えたが、逆に「さわったという証拠はない。誘ったのはそっちだ」などと責められた。教諭は「不愉快な思いをさせたことは謝罪するが、さわっていない」などと言い訳をしていることも伝え聞いた。自分が誘ったことにされていることにショックを受けた。

 女性は、勇気を振り絞って警察に被害届を出した。法務省の調査では、性的な被害に遭った人のうち、捜査機関に届け出た割合は14.3%。被害届がいかにハードルが高いかがわかる。

 加えて、保護者が教職員からわいせつ行為を受けるケースはまれだ。文部科学省の調べによると、公立校で「わいせつ行為等により懲戒処分等を受けた教職員」は2017年度で210人。ここ数年は200人台前半で高止まりしている。行為の対象は、約半分が「自校の児童・生徒」で、次に多いのが自校の教職員。調査の対象属性に「保護者」はない。

 一般的なケースではないからか、女性が1回目に訪ねた警察署では受理してもらえなかった。対応した署員からは、

「なぜすぐに通報しなかったのか? さわられた服からDNAが検出できたのに」

 と被害を受けて1カ月以上経過している点を厳しく問われた。

「わかってもらえなかった。親が先生の意に反することをすると、子どもが制裁を受ける。わが子が人質だから通報できなかったと話したのですが」

 事実、制裁は過酷だった。

 教諭は試合に負けると体育倉庫に選手を集めて叩くなど、暴力をふるった。女性の息子への理不尽な扱いもあった。学校で決められた活動時間以外に、ほかの体育館で「夜練」と呼ばれる活動も行っていた。文科省が作成した「部活動ガイドライン」が時短部活を提唱するなか、同じ部員、同じ指導者で行うのに、表向きの名称「民間クラブの活動」を隠れ蓑に長時間の練習を強いる。相当にブラックな部活だった。

 そのことが18年、公益通報された。だが、保護者は一枚岩ではなかった。通報したのはだれか、保護者による激しい犯人捜しが起きた。

 ある母親が疑われ、6時間にわたる拷問まがいの聴取を受け、途中で過呼吸を起こした。その後、うつを発症し病院通いを余儀なくされた。同時に、その息子は練習に参加させてもらえなかったり、遠征に行っても一人だけ試合に出してもらえなかったり、という嫌がらせを受け、後に退部。好きだったバレーを奪われた。

 この公益通報のせいかはわからないが、教諭は19年度から隣の市の中学へ移動になった。しかし、違う学校のバレー部顧問でありながら、足しげく前任校へ通い指導を続けていた。

 ここまでの強権が発動できるのも、教諭が親しくする強豪高校へ毎年のように生徒をスポーツ推薦で入学させていたからだ。そのため、親たちは推薦入学の決定権を握る教諭の機嫌をとる。自身の欲望を満たすために部活を利用しているかのようなこの教諭にマインドコントロールされる者と、それに抗う者。親たちがブラックな部活によって分断されている。

 12年の12月23日に、大阪市立桜宮高校のバスケットボール部員が顧問の男性教諭からの体罰が原因で自殺した。この問題は教育・スポーツ現場の暴力を根絶しようという動きのきっかけになった。

 だが今はまだ過渡期のため、親たちの価値観が二つに分断されるのかもしれない。19年11月には、大分県の少女バレークラブで、監督の暴力を隠蔽しようとした一部の親が口止め誓約書を配る問題も発覚した。

 冒頭のバレー部で、息子が1年生の母親は、上級生の親から再三言われた。

「うちの子どうですか?って、親のほうから先生にもっと寄っていかなきゃ。そうすれば、子どもが可愛がってもらえるよ」

 親が顧問にすり寄らなくては試合には出られない。そう解釈した。

「そんなものかと思い、頑張って先生(元顧問)に飲み物を買って持っていったりしていた。おしぼりもいるかもと気を使っていました。でも、夜中まで先生と飲み歩くことなどを疑問に感じ始めたときに(冒頭の)わいせつ行為の話を聞いた。早く目が覚めてよかった」

 名古屋市で性被害やセクハラ問題を扱う弁護士の岡村晴美さんはこう話す。

「弁護士や裁判につながる事例として、教員から保護者へのセクハラ問題は多くないと感じる。ただし、そういう問題がないからではなく、あったとしても被害を申告しにくいという側面もあるのではないか」

 そもそもセクハラ被害は、証拠が残りにくい、被害者が自分を責めてしまう、二次被害があるなど、法的手続きに進みにくい理由が多々ある。

「学校が期間限定であることも、卒業するまで耐えればいいと泣き寝入りになりやすい理由かもしれない。大切なわが子を巻き込みたくないという心理に陥りやすい」(岡村さん)

 同じ心理状態だった冒頭の被害女性を救ったのは、ママ友の行動力だった。

「被害を受けたのに泣き寝入りさせては、いじめを見て見ぬふりするのと一緒。子どもに親として胸を張れない」

 被害届の不受理を疑問視した、前出の1年生の息子を持つ母親は、一人で県警を訪ね、被害届が受理される道筋を作った。少数だが、協力を申し出る親も現れた。

 そうやって書類送検までこぎつけたが、起訴に持ち込むことは難しそうだ。

「でも、追及をあきらめるつもりはありません。次は教育委員会に現状を知ってもらいたい」

 と、被害を受けた女性は闘う姿勢を崩さない。(ライター・島沢優子)

※AERA 2019年12月30日-2020年1月6日合併号より抜粋


部活顧問のパワハラを絶対に許さない
 対抗の鍵は「教育委員会とSNS」
2020年1月4日:AERA

 理不尽な部活顧問の暴言やパワハラに対し、権力に屈しない保護者が増えてきた。昨今のスポーツ界での「パワハラ告発」が保護者の行動を後押ししているという。AERA 2019年12月30日-2020年1月6日合併号では、パワハラ教諭の実態とその対抗策について紹介する。

*  *  *
 首都圏にある公立高校では、野球部顧問のパワーハラスメントに対し、立ち上がった親もいる。

 2年生の男子生徒は1年生だったある日、野球部の顧問から無視されるようになった。練習では声もかけられないし、目も合わせられない。体育の授業の際の点呼は自分だけ飛ばされた。

 身に覚えがあった。その少し前に、2年生が自分の同級生を殴る暴力事件が起きたが、それについて顧問は部員らに何の説明もしなかった。正義感が強く納得できない男子生徒は、

「どうなっているんですか? 部全体に説明してください」

 と願い出た。顧問は、

「おまえには関係ない」

 と取りあってくれなかった。そこから無視が始まった。

 実は彼らが入部する前の年、顧問は部員に暴力をふるい一時期謹慎していた。だが、学校は教育委員会にも高野連にも届けていない。そんな蒸し返されたくない過去があるからか、説明を求める男子生徒を疎ましく思ったようだ。試合のメンバーから外されるようになった。

「おまえなんか永遠に入れないんだよ!」

 と、怒鳴られた。

 同学年の別の部員も顧問、副顧問の2人からパワハラを受けた。体育祭の日は、

「おまえみたいなやつは野球部の輪にもクラスの輪にも入るな」

 と言われ、終日用具室の前で過ごした。出場種目も制限された。練習中に自分の意見を言うと「なに反抗してんの」とけんか腰。この生徒はスポーツ推薦で入学したため「部をやめるなら学校もやめろ」と脅迫のように言われた。

 顧問らからパワハラを受けた2人の親たちは、一緒に学校へ出向き指導の改善を申し出た。学校長は「行き過ぎた指導」と認め改善を約束したが、その日から2人への無視や暴言はさらに悪化した。そこで親は、息子にボイスレコーダーを持たせた。

 副顧問から呼ばれた際に、ボイレコのスイッチを入れて上着のポケットに入れた。長時間にわたって理不尽に罵倒する声はすべて記録された。

「おまえのお母さんにそういうふうに言われたり、何か事実をねじまげて伝えられてさ。全然違うことになっているのはさ、何で? はっきり言うけどさ。おまえ、このまま社会に出たらとんでもないことになるよ」

 40分ほどの説教は書き起こされ、A4シート7枚に。親たちはそれを学校に提出して、教育委員会にも改善を求めた。

 学校やスポーツ現場のパワハラに詳しい弁護士の宗像雄さんは言う。

「パワハラに関して、親子が泣き寝入りしなくなった傾向を大いに感じている」

 理由として宗像さんが挙げたのは2点。一つは18年に起きた女子レスリングの伊調馨選手へのパワハラ問題で、監督が一時的とはいえ、その座を追われたこと。こうした事実が、訴える側の成功体験になった。二つ目は、スマートフォンなどで録画・録音しての証拠確保が容易になったこと。SNSなどで拡散できるため「最後は社会に訴える」という選択肢ができた。

 声を上げたからといって、セクハラやパワハラがすぐに改善されるわけではない。それでもパワハラ被害を受けた野球部の生徒の母親(50代)は言う。

「立ち上がってよかった。本人はかなり強くなった。悪いものは悪いと言えるようになったのではないか」

 ただ、部内で親の分断を避けられないのも、また事実だ。

「部の中に派閥を作りたいわけじゃない。嫌だけど顧問には言えない、という親には押しつけません。おかしいよね、という気持ちだけ共有しようねと、ゆるく繋がっていきたい」

 声を上げることで、少しずつ現場が変わり始めている。(ライター・島沢優子)

※AERA 2019年12月30日-2020年1月6日合併号より抜粋



(社説)
大学入試英語 失敗繰り返さぬために
2020年1月6日:朝日新聞

 英語民間試験や国語・数学の記述式問題の導入延期を受け、大学入学共通テストの今後のあり方を話し合う有識者会議が、15日に最初の会合を開く。
 今回の混迷と破綻(はたん)の原因は、政府が実施ありき・期限ありきで物事を進め、疑問や批判に耳を貸さなかったことにある。
 慎重論を唱えた専門家は文部科学省が設けた検討の場から次第に遠ざけられ、しかもその会議の多くは非公開で行われた。問題が広く共有されぬまま、土壇場になって見送りが決まり、受験生や学校現場に多大な迷惑をかけた。反省を踏まえたオープンな議論が不可欠だ。
 とりわけ英語については慎重な制度設計を求めたい。政権が打ち出した「話す力」の習得には、読む・書く・聞くに比べて手間やお金がかかる。留学や外国での生活経験の有無といった家庭環境も影響する。
 民間試験の活用の難しさが明白になったことで、大学や高校の間には、大学入試センターによる「話す」を含む4技能の統一試験を望む声がある。確かにそうすれば、種類の違うテスト同士で優劣を判定する無理はなくなる。国の機関が主体的に関わることで、試験会場や日程の偏りも改善が期待できよう。
 だが、公的試験にすれば全てが解決するという話ではない。かつて韓国では、入試にTOEFLを採り入れる大学が増えて試験対策が過熱し、社会問題になった。そこで政府は公的な統一試験を開発し、共通入試として使うことにした。しかし、本格実施を迎える前に計画は頓挫した。6年前のことだ。
 経緯を調べた京都工芸繊維大の山本以和子(いわこ)准教授によると、政府が4技能を指導できる教員を養成・採用せず、授業は文法中心のままだった。このため生徒らの塾への依存度を、かえって高めてしまったという。
 高校教育の実態とかけ離れた入試改革は失敗する。隣国の曲折から読み取れる教訓だ。
 日本の状況はどうか。文科省の調査では、英検準1級以上に相当する資格や点数をもつ高校英語教員は7割弱で、目標の75%に届いていない。「教員1人に生徒40人では十分な訓練などできない」との専門家の指摘もある。「使える英語」をうたう以上、質量ともそれに見合う教員を配置し、研修を充実させる責任が政府にはある。
 そもそも話す力の有無を判断する機会を入試に限る必要はないはずだ。高校が自らの教育成果を確かめるために実力を測ってもいいし、企業が採用活動の際、必要に応じて民間試験の成績を求めても良い。有識者会議はまず、入試に頼る発想を離れることから始めるべきだ。



【主張】科学技術立国
人を育てる政策を掲げよ
 成果偏重が「失速」を招いた
2020年1月6日:産経新聞

 資源の乏しい日本が持続的に繁栄し、国際社会に貢献していくためには何が必要か。国民の多くが「科学技術」を挙げるだろう。
 令和2年、西暦では2020年代に入った。年の初めに、科学技術政策の現状を検証し将来のあり方を考えたい。

 ≪吉野彰氏のメッセージ≫
 昨年、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏はこう語っている。
 「研究者は役に立たない研究を一生懸命やってほしい。目的があってするのではなく、好きな研究をする。そのほとんどは無駄になるが、無駄をやらないと、とんでもないものは出てこない」
 吉野氏は、スマートフォンなど携帯通信機器の普及を劇的に進展させ、低炭素社会の実現、地球環境への貢献が大いに期待されるリチウムイオン電池を開発した。
 とんでもなく役に立つ成果を挙げた吉野氏の後進研究者へのメッセージに、日本の科学研究の現状への強い危機感が滲(にじ)んでいる。研究者が自由な発想で研究に打ち込める環境であれば、このようなメッセージは発信しない。
 2000年の白川英樹氏(化学賞)から昨年の吉野氏まで自然科学系の3分野(医学・生理学、物理、化学)でノーベル賞を受賞した日本の研究者(米国籍2人を含む)は20年間で19人を数える。米国に次ぐ受賞者数は日本の科学研究の水準の高さを示すものである。ただし受賞業績の多くは1900年代の成果である。
 この数年、大隅良典氏(16年、医学・生理学賞)をはじめ受賞者の多くが「日本の科学研究の現場が急速に活力を失っている」などと警鐘を鳴らしてきた。その要因として短期的な成果を偏重する近年の科学技術政策を挙げた。
 英科学誌「ネイチャー」も17年3月、「日本の科学研究はこの10年間で失速し、他の科学先進国に後れをとっている」との現状分析を発表した。国の科学研究予算が01年以降横ばいで、研究者の安定したポストが少ないことが失速の要因であると分析した。

 ≪iPS「騒動」に猛省を≫
 国内外からの警鐘にもかかわらず、政府は危機的状況から脱却する施策を示せてはいない。
 昨年11月に表面化したiPS細胞(人工多能性幹細胞)の備蓄事業をめぐる「騒動」で、政府の危機感の欠如と、不透明で場当たり的な科学技術政策の形成過程があからさまになった。
 京都大教授の山中伸弥氏が開発したiPS細胞は、あらゆる臓器や組織の細胞に分化できる万能細胞のひとつで、再生医療の実用化に向け、臨床段階に入った分野もある。
 山中氏が12年にノーベル賞を受賞したことを受け、政府は22年度までの10年間に再生医療の研究開発に1100億円を拠出することを決定していた。
 昨年11月11日、山中氏の記者会見で備蓄事業への国の支援の打ち切りや減額案が政府内にあることが表沙汰になった。結果的に支援は当初予定の22年度まで継続されることになったが、「一件落着」とするわけにはいかない。
 支援の打ち切り・減額案が政府内で検討された経緯は、竹本直一・科学技術担当相が「少し別の動きもあったと聞いている」と述べただけだ。山中氏や京都大関係者がいない場で形成された不透明な政策案が山中氏らに危機感、不信感を抱かせた。
 日本を代表する科学者の一人であるノーベル賞受賞者が、科学技術政策の決定過程でないがしろにされていたのだ。この状況で、日本の将来を担う研究者が育つとは考えられない。
 政府は、野心的な研究目標を設定し画期的な技術革新(イノベーション)の創出を目指す「ムーンショット型研究開発制度」をはじめた。5年間で1000億円を拠出する。構想自体が米アポロ計画の模倣である。国主導の目標設定は、研究者の自由で独創的な発想を妨げかねない。
 政府はiPS細胞をめぐる「騒動」で露呈した長期的視野の欠如、研究者軽視を猛省し、抜本的な転換を図らねばならない。
 科学技術政策の根幹に掲げるべきは、投資に見合う成果や目標ではなく、人(研究者)を育てる理念である。
 人工知能(AI)など科学技術が目覚ましく進化し、少子高齢化が進む社会では、人材育成の重要性はさらに高まる。



欧米韓は…
比べてわかる日本の大学入試の「欠陥」
2020年1月6日:朝日新聞

 まもなく大学入試センター試験が行われ、大学受験のシーズンが本格化します。でも、日本の大学入試は大揺れ。来年度からセンター試験に代わって始まる「大学入学共通テスト」の看板だった、英語の民間試験と国語・数学の記述式問題の実施が相次いで見送られました。入試改革はそもそも、「グローバル化する世界」にも対応できる能力を測ることを目指していましたが、日本と海外の大学入試はどのように異なるのでしょうか。大学入試センターの荒井克弘名誉教授によると、日本の入試制度には大きな「欠陥」がありながら、広く認識されていないのが問題だと言います。
 ――入試改革では、日本中の受験生が振り回されています。海外の大学入試でも、記述式問題は使われているのですか?
 イギリスやドイツ、フランスといった欧州諸国で大学入試に相当する「中等教育修了資格試験」は基本的に記述式です。一方、米国には「SAT」や「ACT」と呼ばれる共通試験があり、日本の大学入試センター試験と同じ、マークシート方式が用いられています。
 ただ、大学入試に記述式問題が必要かどうかよりも、もっと大切な問題があるでしょう。
 ――どういうことでしょうか?
 高校と大学の教育は性格が異なります。高校までは「中等教育」と呼ばれ、体系化された教科科目の知識を子どもたちに習得させることに主眼が置かれています。これに対し、大学は「高等教育」で、すでにある知識をさらに発展させ、先端的な領域を開拓し、伝えていくのが目的です。大学の専門が細かく分かれているのはそのためです。
 異質な性格をもつ高校と大学をどのようにつなげるのか。「高大接続」とも呼ばれるプロセスが大学入試の本質的な問題です。
 ――「接続」というのは、わかりやすく言えば何が大切なのでしょうか
 日本では小学校、中学、高校と教育が積み重なっていきます。これに対し、大学では専門教育を学び、その人の進路を決めます。ところが、大学受験では受験生が十分な知識も経験もないまま専門・専攻を決め、学部別に行われる入試を受けるのが一般的になっています。その入試に受かると、大学で所属する専門分野も決まってしまうのが日本の現状です。
 欧米の場合はそのプロセスがもっと丁寧です。大学志願者は「進学予備課程」に入って準備をするためです。
 ――進学予備課程とは何でしょうか
 大学で学ぶための準備をする教育課程です。
 例えば、ドイツの「ギムナジウム」という中等学校では、最後の2年間がこの予備課程にあたります。そこでは大学の専門教育について学び、進路を決め、資格試験の準備をします。このため、予備課程では教育だけでなく学術的にも造詣(ぞうけい)の深い人物が生徒の指導にあたります。
 イギリスでは「シックスフォーム」と呼ばれる課程がこれにあたり、フランスでは「リセ」の後期課程にも同様の教育課程があります。
 米国の場合は欧州とちがって、大学に入ってから一般教育を学び、その間に専門・専攻を決めていきます。大学入学2年目にはメジャー(専攻)を選択しますが、本格的に専門教育を受けるのは大学院からです。大学での教育が「接続」の役割を果たしているのです。
 ――日本とは随分違うのですね
 戦前は日本にも旧制高校や大学予科という予備課程がありました。戦後の学制改革でそれらは廃止され、新制の高等学校から直接大学へ進学できる制度に変わりました。その結果、大学入試だけで「高大接続」を片付けるという制度になりました。
 ただ、戦後の学制改革から70年以上が経ちました。その間に高校への進学率はほぼ100%に達し、大学もより好みしなければ必ず入れる「全入時代」を迎えています。学校制度全体の改革を構想しなければならないのに、そのための準備も努力も足りません。
 今回の入試制度の見直しも当初は「高大接続改革」を目指すはずでした。しかし残念ながら、この問題を正面から議論せず、大学入試問題の改革にすり替わってしまいました。
 ――米国の大学では人物評価も重視されるそうですね
 日本では、米国の大学入試制度が理想のように語られてきたところがあります。高校成績や学力テストだけでなく、エッセーや学校長などの推薦書などが評価資料に使われることがめずらしく、注目が集まったからでしょう。
 一方で、米国の初等中等教育は地方分権的な行政制度です。州、郡、都市ごとにカリキュラムが異なり、学校ごとに教科書が違うこともあります。教育内容が多様なので、日本のように共通の教育課程に基づいて共通テストを実施できるわけではありません。そのために各種の資料を集めて、受験生の能力を推し量ることが必要になります。
 ――現在の日本の高校と大学の接続の枠組みの中で、記述式や英語の4技能の導入はどうみますか?
 教育的な必要は認めますが、部分的な問題です。
 英語が話せるようになったとしても、中身がなければ意味がありません。記述式にしても、たとえ試験の解答が書けたとしても、それが文章を書く能力があることの証明にはなりません。
 何かを表現するには、問題意識がなければならない。そのためには知識や技能も必要で、それらを育むのが学校教育なんです。
 そもそも、グローバル化を目標に掲げ、教育改革を進めることに、それほどの意味があるとは思えません。日本の教育を改善した結果、グローバルな力が高まったというなら、まだ分かりますが。
 ――日本と同じような大学入試をしている国は他にあるのですか
 一般的に東アジアの国々は日本と似ていると思います。中国では大学入学のための統一試験「高考」があり、この結果に応じて進学先が決まります。中国では、隋代に始まった官僚登用試験の「科挙」が、1300年にわたって続いてきた歴史もあります。一発勝負の試験の成績を重視するという考え方は、今の高考にも影響をしているかもしれません。
 韓国にも統一試験があります。近年は、特定の教員や職員が学力以外の要素を評価し、それを加味して総合判定する制度が始まりました。ただ、大統領が代わるたびに入試制度が変わる国なので、どこまで定着するかは未知数です。(今さら聞けない世界)(今村優莉)



拓論’20
人口減少と地方 恐れず現実と向き合おう
2020年1月6日:毎日新聞

 人口減少に拍車がかかっている。全国で昨年に生まれた子どもは予測を下回り、初めて90万人を割った。細る地域やコミュニティーをどう、持続させていくのか。
 宮城県南端にある丸森町。昨年10月の台風19号でのケタ外れの豪雨による河川の氾濫、土砂災害で深刻な被害を受けた。10人の犠牲者を出し、再建の途上にある。
 その丸森の山あいにある「筆甫(ひっぽ)」という集落が注目を集めた。人口約540人、高齢者が半数を超すいわゆる限界集落である。
 災害後、交通網は寸断され孤立状態となった。だが、住民による自治組織である「筆甫地区振興連絡協議会」が機能した。
 集落ごとに住民が全戸訪問を行い、全世帯の健康状態や必要な物資など約20項目にわたる情報を協議会で集約した。足りない物は住民が融通しあい、急場をしのいだ。重機を使って土砂で塞がった道路を開通させる結束もみせた。

失敗した「地方創生」

 人口減少が進む丸森町は住民自治の推進を掲げている。筆甫地区は10年前に役場職員が撤退し、住民による連絡協に代わった。町の窓口業務だけでなくスーパーやガソリンスタンドも運営し、身近な課題は自分たちで解決している。事務局長の吉沢武志さん(43)は「信頼関係が災害時に生かされた」と語る。
 地方の人口減少の深刻さが認識されたのは6年前、増田寛也前岩手県知事らのグループが市町村の「消滅危機」を警告してからだ。
 安倍内閣は地方創生を掲げ、2015年から5カ年計画で自治体の人口増加策を交付金で支援した。「稼げる自治体」が重視され、インバウンド目当ての観光需要の発掘などに力点が置かれた。
 だが、このアプローチは東京集中に歯止めをかけられなかった。
 政府が地方創生で掲げた数値目標の根幹は、東京圏と地方の人口の転出入数を均衡させることだった。だがここ数年、東京圏への人口流入はむしろ加速している。
 仙台市など地方中核都市から若い女性を中心に東京圏に流入する流れが止まらない。東京集中を生み出す構造の分析が不十分だったと言わざるを得ない。
 それ以上に問題なのは、国も地方も人口減少自体は不可避であるという現実から目をそむけ、思考停止に陥りつつあることだ。
 地方創生はあくまで減少のスピードを緩める試みだ。備えが後手に回ってしまっては本末転倒である。
 昨年1年で日本の人口は自然減で51万人減った。鳥取県の人口56万人に迫る規模で消えた勘定になる。政府が出生率1・8を前提に掲げる「人口1億人維持」の将来目標は実際は達成は困難だ。昨年のように出生数が予測を下回り続けると、減少ペースはさらに急になるだろう。
 市町村行政の基本とされる小学校の設置や、水道事業などを多くの自治体が早晩、単独で担いきれなくなるおそれがある。役場の職員も減り、筆甫のように出先が撤退する集落も増えるだろう。

住民本位こそが原点

 手をこまねいている時間はない。市町村は広域に連携して教育、医療など機能を補完し合うべきだ。
 高度成長期に整備されたインフラは老朽化で選別を迫られる。取捨選択と並行して、都市や集落を設計し直す取り組みが欠かせない。
 地域社会を維持するため、いくつかの自治体は挑戦を始めている。
 北海道の北部にある下川町は町の9割を占める森林資源の有効活用に取り組んでいる。伐採した木材を余すことなく使い切るバイオマスなどで町おこしを進め、雇用の創出や子育て支援に力を入れている。近年、転入人口は転出を上回っている。
 生活に困窮することが多いシングルマザー世帯の移住支援を進める自治体も広がっている。引っ越し代だけでなく、雇用先の確保など暮らしやすさをアピールして定住を進める試みだ。兵庫県神河町への移住はすでに11世帯、33人に達した。
 「地域おこしといっても、奇をてらうことはない。生活の維持に何が必要かを中心に考える」と筆甫の吉沢さんは語る。
 人口減少の現実に恐れずに向き合い、地域の暮らしを守り、住民参加で課題に取り組む。住民が結束して危機に向かった筆甫の姿は、自治が持続していくためのヒントとなるのではないか。

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