民主主義から全体主義へ、では困る

2020年は、日本が「全体主義」の底に転げ落ちるのか否かの分かれ目の年となりそうだ。
全体主義を成立させるための仕掛けは、人びとの分断、外部の仮想的、巨大イベントによる統合…、などと言われる。いま、日本では格差が深刻化し、寄る辺なき人びとが社会を浮遊し、近隣の韓国・朝鮮や中国への国営ヘイトも盛んで、国別対抗金メダル合戦というオリンピック憲章違反の精神が前面に出たスポーツイベントに国民精神総動員という雰囲気に突入させられている。すでに、全体主義の蓋は開かれ、後はここに落ち込むだけ…、という状況だ。
そして、日本は国際的には孤立を深め、「友達いない」国から、「みんなに嫌われる」国へと変容してきている。日本の人びとは「ダメじゃんニッポン」をもっと自覚し、ドメスティックな思考から脱する必要がある。


時の在りか
象徴天皇制を続けますか=伊藤智永
2020年1月4日:毎日新聞


上皇さまの誕生日を祝うため、皇居に入られる天皇、皇后両陛下と長女愛子さま
=皇居・半蔵門で2019年12月23日、代表撮影

 令和元年は祝賀ムードのうちに過ぎ、天皇代替わりは一段落した感が漂うが、上皇陛下が退位の決意と併せて投げかけられた宿題は手つかずで残されたままだ。国民がこの先も皇室を存続させるつもりなら、今の皇位継承のしくみでは難しいですよ、という問いかけである。
 即位を祝う万歳に手を振りつつ、皇室の女性たちには哀切の影が差す。皇后雅子さまの涙、上皇后美智子さまの吐血、眞子さまの結婚延期……。
 皇嗣の秋篠宮さまを経て、遠からず皇室の血統を一人で継いでいかざるを得ない悠仁さまと、そんな皇室でも結婚するという女性は、よほど非凡な勇気の持ち主でなければなるまい。
 仮に現れても、「男を産め」「もっと産め」という心理的圧迫を受け続ける人生は、男の身でも想像するだに苦しい。
 もう跡継ぎはいないとなった頃には、愛子さまも眞子さまも佳子さまも皇室を離れているだろう。皇室が絶える日はかなりの確率でやってくる。
    *    *
 明治維新(1868年)から敗戦(1945年)まで77年。戦後は今年で75年。象徴天皇は既に相応の年輪を刻んだ。
 象徴とは何か。私たちは考えもしなかったが、上皇さまは皇太子の時から一人思い巡らし、平成の30年間、弱い人や傷ついた人(戦争死者を含む)に寄り添う「旅」を上皇后さまと続け、身をもって示してきた。
 事実上の退位表明だった「象徴としてのお務めについてのおことば」(2016年)でそれを「象徴的行為」と呼んだ時、私たちは、平成の天皇は象徴がなすことを創造し、国民の敬愛を重ねて一つの「型」を打ち立てたのだと気づかされた。
 生前退位は天皇の意志と働きかけで実現した。政治性を警戒する意見もあったが、この度の譲位に示された国際社会と国民の理解と祝意は、象徴天皇制の成熟と評価すべきだろう。
 世界中で強権指導者たちが権威主義を競う時代、権威=天皇と権力=首相を分かつ柔構造を生かさない手はない。
 政治には、選択と集中、決断と実行といった強い働きと別に、災厄や障害への慰め、過去や死者への祈り、憲法や平和や人権への平衡感覚といった穏やかな働きも求められる。象徴天皇が政治のモラルを担う安心感は、思いのほか大きい。
 象徴天皇は、ただ「いる」のではない。漫然と続くのでもない。国民との不断の交感を通じて「なる」もの、努力と工夫により存続させていくものだ。続けるかどうかは国民の課題であり、政治の意思による。
 戦後、戦争責任へのわだかまりから、天皇制廃止論は自然な感情表現の一つだった。天皇制と民主主義の接合もなじめなかった。だが、教室にも会社にも町内会にも革命党にも「内なる天皇制」を抱える社会では空論となる。その間、象徴天皇制は民主主義の欲望と傲慢さと愚かさを補う役目を担いだした。
    *    *
 昨年11月、東京都内で開かれた憲法を議論する市民集会で、司会者が「憲法を変えて一番実現したいことは何」と尋ねた。自民党の石破茂元幹事長、国民民主党の玉木雄一郎代表と参加した立憲民主党の山尾志桜里衆院議員の答えは、「女性天皇を誕生させたい」。会場から唯一、拍手が起きた。
 男系男子の皇位継承を変えるのに必要なのは皇室典範改正で、憲法改正は関係ない。山尾氏に確かめると、「皇室典範は憲法体系の重要な柱の一つ。一体で考えるべきだ」という。
 確かに天皇は、憲法の統治機構で重要な地位を占める。首相と最高裁長官の任命、憲法改正や法律・政令・条約の公布、国会召集と衆議院解散、大臣や上級官吏の任免。男でも女でも、天皇がいなくなったら憲法体系の抜本改変は避けられない。
 ネット上で昨年、「愛子さまが天皇に、タレントの芦田愛菜が首相になる日」を描いた未来小説が話題を呼んだ。罪のない遊びだが、庶民の夢は侮りがたい。日本初の女性首相は案外、女性天皇誕生を待ってようやく実現するのかもしれない。
 自民党の甘利明税調会長が「男系中心に順位をつけ、最終的選択肢としては(母方が天皇の血筋の)女系も容認すべきだ」と発言し、後で釈明した。
 二階俊博幹事長も「男女平等、民主主義の社会を念頭に考えていけば、おのずから結論は出る」と女系容認を示唆した。
 与党重鎮の相次ぐ発信は、マスコミの思い込みに対する注意喚起だろう。8割が女性・女系天皇を認める世論を背に、自民党内の本音も実は容認論が大勢となっている。きっかけさえあれば今、実現する環境はある。むしろ、恐らく今しかない。
 外交も改憲も難渋し、安倍晋三首相は長期政権の実績作りに困っている。個人の信条はのみ込んで、国と歴史の大きな進路を考え大胆な決断を下すなら、改元と併せて歴史に名を刻む偉業となるのは間違いない。(第1土曜日掲載)

 編集委員兼論説委員。政治部、経済部、ジュネーブ特派員など。著書に「『平成の天皇』論」(講談社現代新書)ほか。



【東京2020】
旭日旗をめぐる問題
 なぜ禁止を求める声があるのか
2020年1月3日:BBC
競技場のスタンドで大観衆が一斉に旗を振りながら、選手に歓声を送る。
これは、スポーツの国際大会では当たり前の光景だ。

しかし、その旗が一部の国にとってあまりに忌まわしいもののため、大会での使用の禁止を求める運動が巻き起こった場合はどうか。
まさにその通りのことが、日本の旭日旗と2020年東京五輪をめぐり起きている。どこより強く旭日旗を問題視しているのは韓国で、ナチス・ドイツのカギ十字と比べる政治家さえいる。
今の日常生活でめったに使われない旭日旗をわざわざ掲げる人たちは、旧日本軍を美化し、その人権侵害の記録を修正しようとしている――と、旭日旗を問題視する側は批判する。
韓国は今年の夏季五輪での使用禁止を求めている。しかし、東京五輪・パラリンピック組織委員会は、旭日旗の競技会場への持ち込みを禁止しない方針だ。「旭日旗のデザインは日本国内で広く使用されており、政治的主張にはあたらない」というのがその理由という。

旭日旗とは

日本の国旗は日章旗、「白地に赤く日の丸染めて」だ。この使用に異議を唱える人は今いない。

旭日旗にも同じような赤い丸が使われるが、そこから太陽光を示す16本の赤い線が伸びている。
日章旗も旭日旗も、数百年前から使われている意匠だ。

日本では19世紀から、旭日旗が軍の旗として使われるようになった。そのため、大日本帝国が帝国主義的な拡大を続け、朝鮮や中国の一部を占領した際、軍が掲げていたのが旭日旗だった。
第2次世界大戦では海軍の旗となり、それを機に、毀誉褒貶(きよほうへん)の対象になった。戦争中にアジアの大部分を占領した旧日本軍は、現地住民に対して残虐行為を繰り広げたからだ。
現代では今も海上自衛隊の艦の旗で、陸上自衛隊は少し異なる意匠の旭日旗を使っている。

なぜ韓国は問題視するのか

日本は1905年の第2次日韓協約で韓国を事実上の保護国として占領し、その5年後の韓国併合で完全な植民地として統治下に置いた。
日本の韓国統治は経済的な搾取で、アジア各地での勢力拡大に伴い、数十万人を強制労働に徴用した。さらに、当時の残酷な帝国主義政府は第2次世界大戦の始まる前と戦時中、日本兵のための軍用売春宿を「慰安所」として設け、そこで多数の少女や若い女性を強制的に働かせた。
いわゆる「従軍慰安婦」と呼ばれるこの女性たちは、性的な奴隷として働かされた。韓国人の被害者のほか、旧日本軍は台湾や中国、フィリピンの女性たちもこうした慰安所に送り込んだ。
韓国では多くの人が、旭日旗を数々の戦争犯罪や抑圧行為と結び付けている。そして、日本で今もこの旗が使われているのは、日本政府が自らの暗い過去にきちんと向き合ってこなかったことの象徴だと見ている。
1945年4月に中国の「慰安所」で米海兵隊が発見した朝鮮人女性たち

米外交問題評議会の韓国研究者、エレン・スウィコード氏によると、「植民地統治時代に自分たちが犯した罪について、日本は責任を受け入れられない、あるいは受け入れようとしないと、韓国は様々な事例を挙げて不満を表明」しており、旭日旗はその様々な不満材料が「織り成す織物の1本の糸」なのだという。
韓国の外務省は、旭日旗を日本の「帝国主義と軍国主義」の象徴と呼んでいる。
韓国国会の文化体育観光委員会は昨年、「カギ十字がナチスのシンボルとして欧州の人に侵略の恐怖を思い起こさせるように」、旭日旗は「アジア人や韓国人にとって悪魔のシンボルに近い」のだと主張した。

中国からの抗議がないのは

日本による侵略の被害を受けたという歴史的経験をもってすれば、オリンピックで旭日旗が上がれば、中国も韓国と同じように反応するかもしれない。
1937年に中国の南京を占領した日本軍は、数カ月にわたり殺害と強姦と略奪を続け、日中戦争最悪の虐殺行為を繰り広げた。
中国側の推定によると、約30万人が殺害されたという。その多くは女性や子どもで、強姦された女性は約2万人に上るとされている。
しかし、今の中国政府は旭日旗について、ことさらに抗議をしていない。
理由は単純に政治的なものだと、米ジョン・ホプキンズ大学南京校のデイヴィッド・アラセ教授は話す。
中国メディアはいずれも国の統制下にある。そして、中国政府は目下のところ、日本との関係改善に努めている。それが理由だと教授は言う。その証拠に、習近平国家主席は今年春にも訪日し、天皇と会談する予定だ。
「だから、中国政府は旭日旗について騒ぎたてないし、それゆえに国民も旭日旗について激高するよう促されたりしないわけだ」と教授は話す。

ハーケンクロイツと比べられるのか?

旭日旗が、ナチス・ドイツのシンボルだったハーケンクロイツ(カギ十字)と比べられるものなのか。賛成する意見もあれば、反対意見もある。
旭日旗は日本で数百年前から国を象徴する伝統的な意匠として使われてきた。宣伝や製品にも使われる。
対するドイツでカギ十字がシンボルとして使われたのは、ナチス政権下の時代のみだ。ドイツでは今では使用が禁止されており、今なおハーケンクロイツを使うのは過激主義の団体に限られる。

しかし、たとえ旭日旗の方がハーケンクロイツよりも歴史は古いとは言え、今の日本では「大日本帝国のもとで行われたとんでもない人権侵害を美化し、修正する以外の目的で旭日旗を使う人はいない」と、上智大学の中野晃一教授(政治学)は指摘する。
その上で中野教授は、ナチスのカギ十字よりも適切な比較対象として、アメリカの南部連合の旗を挙げる。19世紀の米南北戦争で、奴隷制度の継続を求める南部諸州が使った旗だ。
アメリカで南部連合旗は使用が禁止されていないし、今も南部の州では掲げられている。しかし、人種隔離や白人優越主義の象徴だと批判する人たちも大勢いる。

なぜ日本は禁止しないのか

韓国からの圧力はあるものの、日本は譲る姿勢を見せていない。
それどころか日本の外務省は、「今日でも、旭日旗の意匠は、大漁旗や出産、節句の祝いなど、日常生活の様々な場面で使われている」と解説している。外務省ホームページには、英語の解説ページもある。
外務省のホームページは、旭日旗が第2次世界大戦でどういう役割を果たしたかに触れることなく、「皆さん、ご承知のとおり、旭日旗のデザインはですね、大漁旗や出産、節句の祝い旗、あるいは海上自衛隊の艦船の旗、日本国内ではですね、広く使用されており、これが政治的主張だとか軍国主義の象徴だという指摘は全く当たらない」という菅義偉官房長官の説明を載せている。
確かに、日本のリベラルな朝日新聞の社旗は、旭日旗に似たデザインを使っている。
しかし、日本政府は旭日旗が海外でどう受け止められているか、よく承知している。そして韓国は、国際サッカー連盟(FIFA)が国際試合での旭日旗の使用を禁止したと主張している。

政治的な動きなのか

この旭日旗の問題は、韓国と日本の関係があらためて低調な状態にある最中で出来した。
昨年夏には、戦時中の徴用工訴訟をめぐる外交問題が、日韓両国の間の全面的な貿易紛争にまで発展した。
安倍晋三首相が何も対応しないのは、超保守層へのご機嫌取りだという意見もある。
「現在の日本政府は、極端な国家主義を容認しており、その表現を暗黙の内に支持している」と、米ハワイ大学のハリソン・キム准教授(歴史学)は言う。
とはいえ、日本が帝国主義時代の自分たちの残酷な過去にきちんと取り組むことができないのは、「日本だけの責任ではない」とキム教授は話す。
それはある意味で、冷戦時代のアメリカが日本を同盟国にしたことと関係しているのだと、キム教授は指摘する。
「そのおかげで、日本政府は戦後補償や賠償を通じて自分たちの過去と適切に向き合わずに済んだ」
その結果として、日本は「帝国主義時代の自分たちの犯罪」について、恒久的な形で「記録し謝罪」してこなかったというのが、教授の意見だ。
「法的にも、教育の上でも、そして文化的にも」
(英語記事 Tokyo 2020: Why some people want the rising sun flag banned)



野党はこの国の設計図を示せ
 安倍政権のおごりにストップを
2020年1月2日 :毎日新聞

輿石東氏=高橋恵子撮影

 2019年の流行語大賞はラグビー日本代表のテーマ「ONE TEAM」だった。どんな困難があっても心を合わせて前に向かって挑戦していくラグビーの精神が今の政治にも経済にも教育にも必要だと感じた。
 さらに19年「今年の漢字」は「令」。麗しいという意味合いを持つ言葉だそうだが、国民の生活はそうなっているだろうか。むしろ18年に続きベスト10に入った「災」という言葉の方が今の日本の環境を表している。地球温暖化による災害の巨大化で、私が子どもの頃には考えられない風雨が日本列島を襲うようになった。しかし、国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)で小泉進次郎環境相は「脱炭素」に答えを出せず日本は「化石賞」を受賞する不名誉にあずかった。

「桜」終始の野党に国民のいらだち

 一方でスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの地球温暖化対策を求める学校ストライキ「未来のための金曜日」が広がりを見せ、香港では民主化デモが起きた。しかし、日本の若者や学生が立ち上がる気配があまりない。これだけ地球温暖化や憲法の問題が出てきてもだ。
 その一因は野党が先の臨時国会で明けても暮れても「桜を見る会」の追及に終始したことにある。確かに許せることではないが、要は敵失だ。そんなことよりも有権者、国民には年金や医療、子どもの教育に対する不安があり、それに答えを見いだせていないことに対するいらだちと諦めがある。世界や地球がどう動いているかという視点で政治も動かなければならない。
 だからいろいろ問題はあっても安倍政権がピンチになって倒れるところまでは行かない。「1強けしからん」といっても、その裏側には野党の力不足がある。

野党合流には大義が必要

 野党が一つになろうという動きが出ているが、ここで気をつけなければならないことは、大義があるかどうかだ。それがなければ「また永田町の数合わせだ」「次の衆院選で生き残るために右往左往してるだけじゃないか」とみられる。それでは支持は上がらない。
 野党第1党の枝野幸男代表には、安倍政権と違う「こういう日本にしたい」という設計図を示してもらいたい。「政治は数」という面もあるので、一つに束ねることは必要だが、その上でしっかりとしたメッセージと「枝野幸男についてきてください」という力強いリーダーシップも必要だ。

示すべきメッセージとは

 まずは憲法改正は良くも悪くも次の衆院選の争点の一つになる。これをどう考えるのか答えを示さなければならない。そして、地球温暖化を巡るエネルギー政策、原発政策をどうするか。3点目は明日の不安への答えとして社会保障。最後に教育だ。この4点が安倍政権との違いを示す大義になるのではないか。
 それなのに、ただ消費税を何%にするという話ばかりが目立っている。消費税を上げてもいいという人もいれば、8%凍結、5%に減税、消費税自体だめだという人もいる。まず、社会保障制度はこうするという姿があって、若い世代につけを回さないためのやむを得ない措置として消費税の話が出てくるのではなかったか。
猪突猛進に歯止めはかかるか
 枝野代表が大事にする「立憲主義」という言葉は、憲法が権力を縛るということを示している。しかし、今の政府は閣議決定で何でもできるということを積み重ねている。14年には閣議決定で集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を行い、今度は閣議決定だけで自衛隊が中東に派遣される。権力は長くなると、おごり、横暴になり、腐敗する。「桜」にとらわれている間に、日米貿易協定もすんなり承認され、中東派遣の問題も明るみに出せなかった。こういったことを国会で真剣にチェックしてストップをかけるのが野党の役割じゃないのか。
 19年の亥(い)年は終わり、十二支の先頭である子(ね)年が始まった。安倍晋三首相の猪突(ちょとつ)猛進に歯止めをかけ、東京オリンピック・パラリンピックが真に平和の祭典になるような政治をやってもらいたい。開かれた新聞委員会 2020
座談会(その1) 混沌の世界、どう報道
2020年1月4日:毎日新聞

(奥列左から)吉永みち子氏、池上彰氏、荻上チキ氏、鈴木秀美氏=東京都千代田区で昨年12月14日
 東西冷戦の終結から30年が経過し、現行の日米安保条約の調印60年という節目の年を迎えました。米中の覇権争いが激化し、混沌(こんとん)とする国際情勢をどう報じていったらよいでしょうか。国内に目を向ければ、「桜を見る会」問題に象徴されるように長期政権の緩みが顕在化していく中で、報道機関のあるべき姿も改めて問われています。【司会は渋谷卓司・開かれた新聞委員会事務局長、写真は竹内紀臣】(座談会は昨年12月14日開催。紙面は東京本社最終版を基にしました)

国内の動き、フォローを

 澤田克己外信部長 冷戦後の世界がどう変わってきたのかという連載などに取り組んできました。たとえば危機的な状況にある気候変動に関して、世界がどういう方向に向かっているのか、日本はどう対応しようとしているのか、また日本が抱える課題などを報じてきました。国際報道とは言いつつ日本国内の動きも非常に大きな要素になります。パリ協定に絡む日本の石炭火力発電の問題は象徴的なケースです。
 塚田健太編集編成局次長 2020年は日米安保60年という節目の年です。安全保障環境は世界情勢が大きく変わる中、大きな転機を迎えています。中国がすべての面で急成長を遂げる中、自国第一主義に傾く米国が日本に安保関連の負担増を強く求めてきています。日米同盟を保ちながら環太平洋パートナーシップ協定(TPP)で中国に対峙(たいじ)していくという日本が描いていたシナリオは変わりつつあります。日本が米中にどう向きあって、東アジアなどの安定にどう関わっていくのかを問い直す時期にあると思います。米中の2大大国時代に安保体制、同盟関係について年間を通じて考えていく連載を展開していきます。
 吉永みち子委員 国際報道は、読者層をどう想定して記事を書くかにもよるが、普通の人が分かる報道を心がけるのであれば、ブレグジット=1=も説明する工夫が必要だ。国際報道では、ニュースが自分たちにどう影響するのか、どう考えたらいいのかの手がかりになるよう意識してほしい。中立をあまり意識すると、そのニュースをどう位置付けたり判断したりしたらよいのか分からなくなることもある。そうした場合、スタンスを明確にすると、分かりやすくなるケースもあるだろう。たとえば日韓関係でも望ましい姿を決めて、そうでない方向性の動きが出た時に私たちに及ぼす影響を解説したり、検証したりすると、もっと身近な問題としてとらえることができるのでは。
 澤田外信部長 国際情勢ではさまざまなことが錯綜(さくそう)し、スタンスを決めることが難しい現実もあります。地球温暖化の問題は、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書=2=などで科学的に証明されており、それをベースに報道しています。この問題はスタンスを決めやすいです。
 吉永委員 温暖化問題で二酸化炭素削減の話になれば、原発を含めたエネルギー問題は避けて通れない話だ。新聞社としての方針を決めて報じていけば分かりやすくなるのではないか。気候変動の問題はエネルギー政策と絡んでくるので、国際問題としてだけでなく、政治問題とも関連してくる。
 澤田外信部長 国際報道と言っても、国内情勢と無関係ではありません。国内の問題とも連動して取り組んでいっています。


 池上彰委員 気候変動に絡んでグレタ・トゥーンベリさん=スウェーデンの環境活動家=の行動に賛同して世界で400万人が抗議行動をした時に、報道を見ていると日本での参加者は非常に少ないように思えた。実際には小規模だが国内でもあったのに、メディアはあまり報じなかった。メディアの側の感度が鈍くなっているのではという気がしている。彼女に関しては、欧州や米国でも大きく報じられており、報道をきっかけに新たな動きも出ている。国際的な動きに絡んでの国内の動きの報じ方に問題があるのではないか。COP25(スペイン・マドリードで12月2~15日に開かれた国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議)で小泉進次郎環境相が内容のない演説をしたが、毎日新聞は環境省と経済産業省との折り合いが悪く、石炭火力をやめると言えないことを独自報道していた(12月8日朝刊1面)。そこまで報じたのであれば、両省の間でどんなやり取りが交わされたのか、そこに突っ込んだ記事も読みたいと思った。一方感心したのは、ケニアで進む中国による石炭火力発電の記事(12月3日朝刊1、3面の連載「気候変動と戦う」=小泉大士記者)、米ニューヨークで革命歌「インターナショナル」を歌う若者がいることを紹介した記事(12月1日朝刊1、3面の連載「ポスト『冷戦後』のかたち」=隅俊之記者)、旧ソ連・ウクライナで大陸間弾道ミサイル(ICBM)の処分が進まないという記事(12月2日朝刊1面の連載同=大前仁記者)だ。

「外国からの目」大事に

 荻上チキ委員 国際ニュースをさまざまな角度からまとめて書くことができる機関は新聞社以外にはない。国内でも海外でもいいが、研究者との共同作業で特定の観点から世界を比較していく、そうしたことを積み重ねていくことが重要だ。たとえばデモについて香港と日本を比較すれば、似たような点はあるが、道路の広さやデモに対する許可の仕組みでは異なることもあるだろう。デモの規模について若者のマインドの問題ととらえがちだが、実はインフラの問題が背景にある場合もある。社会運動という観点からだけでなく、道路工学の専門家との共同作業で、これまでとは異なる視点で問題をとらえることもできる。現場のルポを書き続けることも大事だが、問題点の整理が求められる時代なので、多様な分野の専門家と共同作業することで違いを比較するような記事も読まれるかもしれない。


 鈴木秀美委員 グローバル化した社会では、外国で起きたことが私たちの生活に直結してくると思うので、日本とどう関連してくるかを意識した記事を書いてほしい。そういう意味でも国際報道がますます重要度を増している。最近来日したドイツの外交官と話す機会があったが、欧州連合(EU)でも中国の欧州進出にどう対抗していくかが課題になっているようだ。EUは企業間の競争を大事にしており、独禁法で合併の規制をしている。このため、EU内では大企業間の合併ができない。中国企業が進出して合併できない企業に深入りして資本参加したり、買収したりということが起きて、独禁法でEU内での競争原理を守ろうとしたことによって中国側が有利になってしまっているようだ。米中の2大大国に、EUもあって、日本はどう立ち回っていくのかも報じていってもらえればと思う。
 デモ激化が伝えられる香港に対して中国が強硬姿勢を取っていることを、外国メディアが強く批判することで香港の民主体制を守れる。中国国内から情報が出にくくなっているので、国際報道である外国からの「目」がより大事になる。
 司会 年間企画で取り組む安全保障の話について要望はありますか。
 池上委員 安保の結果、こういうことが起きているという報道を望みたい。沖縄のほか岩国(山口県)や三沢(青森県)といった現場からの話や、私たちの暮らしに影響が出ているという「発見」にも期待したい。
 塚田編集編成局次長 横田空域=3=の問題もそうですが、かつて報じたことでもこの機会に改めて取り上げてみたいと思います。横田空域の話は身近なので読者に関心を持ってもらえるでしょう。暮らしに直結する話については意識して取り組んでいきます。
 吉永委員 安全保障については今までの延長線上で考えてしまうが、それで本当にいいのかということも知りたい。
 塚田編集編成局次長 ミサイル防衛システムを導入しても本当に防げるのかという話もあります。そこにお金を使っているために本当に必要なところが後回しになっている可能性もあるでしょう。そうしたことも意識して取材を進めていきます。

座談会出席者
池上彰委員 ジャーナリスト・東京工業大特命教授
荻上チキ委員 評論家・ラジオパーソナリティー
鈴木秀美委員 慶応大メディア・コミュニケーション研究所教授
吉永みち子委員 ノンフィクション作家

毎日新聞社側の主な出席者
 小松浩・主筆▽砂間裕之・編集編成局長▽塚田健太・編集編成局次長▽澤田克己・外信部長▽高塚保・政治部長▽斉藤信宏・統合デジタル取材センター長▽木戸哲・社会部長

 ■ことば
1 ブレグジット
 英国の欧州連合(EU)からの離脱。英国(Britain)と離脱(Exit)を合成してBrexit(ブレグジット)と呼ばれる。

 ■ことば
2 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書
 IPCCが地球温暖化の影響で早ければ2030年にも産業革命前からの平均気温上昇が1.5度に達し、サンゴの大部分が死滅するなど地球環境の急速な悪化を予測した18年10月の報告書。温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」で目標とした2度上昇に比べ、1.5度以下なら海面上昇のリスクにさらされる人々を1000万人ほど減らせるなどとしている。

 ■ことば
3 横田空域
 日米地位協定に基づく日米合同委員会の1975年の合意により、米軍横田基地の管制官が航空機の進入管制業務を行っている空域。東京、福島、栃木、群馬、埼玉、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡の1都9県の上空に広がる。民間機が入る場合は米軍の許可が必要で、各航空会社はこの空域を避ける形で航路を設定している。



開かれた新聞委員会 2020
座談会(その2) 政権の緩み、「桜」が象徴
2020年1月4日:毎日新聞


配信の手法を多様に

 高塚保政治部長 参院選後の臨時国会を迎えるにあたり内閣改造が行われましたが、2閣僚の辞任、文部科学相の「身の丈発言」に伴う大学入試での英語の民間試験導入延期など長期政権に緩みが出ている中で「桜を見る会」の問題が噴き出しました。11月8日の参院予算委員会での共産党議員の質問で火がついたのですが、この質疑については翌日の朝刊記事でその面白さを伝えきれませんでした。
 司会 桜を見る会報道では、「デジタル毎日」上で、統合デジタル取材センターの記者が積極的に記事をネット配信しています。
 斉藤信宏統合デジタル取材センター長 問題の質疑についてはツイッターで11月8日当日の夜から騒ぎになっていました。ネット上でこれだけ話題になっているのでデジタル毎日で取り上げた方がよいと判断し、アップされた動画を見るなどして、9日の土曜日夜に記事(「税金の私物化では」と批判あふれる「桜を見る会」 何が問題か 国会質疑で分かったこと)をアップしました。それが反響を呼んで週明け以降に問題がどんどん大きくなっていきました。特徴的なのはツイッターから始まったこと、そして我々も背中を押されるように取材を進めていきました。デジタルは紙面と違い、文字数の制約がないので、野党ヒアリングや官房長官の会見などの詳報もアップしていき、多くの読者に読まれています。もう一つ特徴的だったのは、首相番や官房長官番といった記者の生の姿や現場での苦労などを報じた点で、そこにも注目が集まりました。政治部の若手記者は新聞業界初のユーチューバー=4=として、桜を見る会問題も動画サイトのユーチューブで配信しました。
 木戸哲社会部長 公文書管理に問題があるのは、この政権の特徴ですが、桜を見る会問題でも、記録を残す意識が全くないことが分かりました。「公文書クライシス」キャンペーン=5=でこれまでも公文書管理の問題を指摘してきていますが、引き続き取材を進めています。
 鈴木委員 11月19日朝刊5面の連載「最長政権」の2回目の記事で、財政赤字が増えていて「次に首相になる人は大変だ」と安倍晋三首相が側近議員に漏らした言葉で締めくくられていたが、財政赤字の深刻さをもっと取り上げてもいいのではと思った。桜を見る会の問題では、公選法違反には問いにくいと多くの専門家が指摘しているようだが、ドイツの憲法判例では選挙の始まる前に政府が国の予算を使って行った広報活動による選挙宣伝について憲法違反という判決が出ている。政党間では平等な競争が行われねばならないのに政府が巨額の公金を使って政党間の競争を侵害したという理由からだ。19年の桜を見る会は参院選の3カ月前であるし、地元の有権者を公金で呼ぶのは、野党側には不利であり、ドイツのように理論的に考えれば問題は大きいのではないか。
 高塚政治部長 桜を見る会は、政党というより安倍首相個人への利益誘導という面が強いと思います。官房長官もほかの国会議員もいますが、人数の規模が尋常ではありません。前夜祭も含めて問題点を今後も追及していきます。
 荻上委員 毎日新聞が11月20日夜に中国料理店で行われた安倍首相らと内閣記者会加盟の報道各社キャップとの懇談会を欠席したことが話題になった。欠席した理由を聞きたい。
 高塚政治部長 懇談会の開催は2日前に記者クラブに連絡がありました。懇談会は完全オフレコが条件です。懇談会での説明で少しでもメディアの追及が弱まればとの狙いがあったと思いますが、我々は説明を求めている立場なので出席することはできないと判断しました。
 荻上委員 背景を説明したり、記者の肉声で伝えたりする記事は読まれる。官邸での会見に担当とは別の記者が行った記事<「シナリオ」でもあるかのよう…首相会見に行ってきた>=12月10日アップ=が出ていたが、内情を明らかにするルポは読みものとしてニーズがある。永田町のメディアが普段何をしていて、そのメディアから見ても異常なことが続いていると伝えることはとても重要だ。ユーチューブを使ったニュース配信は影響力が大きい。新聞とデジタル、デジタルも文字だけではなくユーチューブなどの動画ではノウハウも違うので、新聞社がどのようにニュースを配信していくのか、さまざまなリサーチをしながら、失敗を恐れずに取り組んでほしい。
記者感覚、鈍っていないか
 池上委員 公文書の問題は、毎日新聞は民主主義の根幹だという姿勢でしっかり取り組んでいる。桜を見る会の問題で、警察や検察は動かないのかというのは読者に素朴な疑問としてあると思う。なぜ動かないのか、捜査しないのかという記事を書くことも警察や検察への圧力になるのではないか。
 木戸社会部長 分からないところがある段階で記事を書きにくいというのもありますが、読者が疑問に思うかもしれないので、どういうことが書けるのか考えてみます。
 荻上委員 共産党議員は当初から公選法違反ではなく、モラルハザードという文脈で質問していた。しかし、これが公選法違反にならないなら、立法しないとだめだという問題提起はありだろう。鈴木委員が示したように海外なら法律違反や憲法違反なのに、日本では問われないなら、国会で立法していくという考え方で、通常国会の宿題にしていくことも必要だと思う。
 吉永委員 桜を見る会での首相の言動からも、自分の選挙のために私物化しているのは明らかなのに、なぜ公選法違反に問われないのかと多くの人は思うだろう。安倍事務所の金なら違反だけど、税金ならOKというのは納得しづらい。法律の穴でもあるので考えていってよいテーマと思った。桜を見る会の招待枠の問題に関して、自民党の二階俊博幹事長が「あったって別にいいんじゃないですか。特別問題になることがありますか」と会見で語った時に記者が黙っていたのがニュースで流れていたが、情けなく思った。「問題だ」と返してほしかった。そもそも共産党は春から桜を見る会を問題視しているし、記者も会には招待されたり取材にいったりしているのに「おかしい」と感じなかったのか。記者のセンサー、感覚が鈍っていないだろうか。長期政権を生み出したのは国民ではあるが、センサーが鈍っているという点でメディアも助長した面はあるだろう。公文書管理、国会軽視、政治の私物化など、この政権の持つ問題点がすべて詰まっているのが桜を見る会だ。負の遺産を抱えたまま新しい政権ができても、政治への国民不信は深まるだけ。腹を据えて追及してほしい。


世界の断面図見せる 主筆・小松浩
 国際政治はどの時代も混迷し不透明ですが、2020年はかつてない分岐点になるかもしれないと思っています。秋に米大統領選でトランプ氏が再選されれば世界に与える影響は前回16年とは比較にならないでしょう。100年単位での国際秩序の大きな変革期になるかもしれません。足で書いたルポ、深層を探る連載や解説などを組み合わせ、ウェブも含めて報じていくことで世界の断面図を見せることができるのは新聞社しかないと考えています。新聞への信頼性が問われる中で、ジャーナリズムの復権がかかっているという問題意識で1年間、報道を続けていきます。

「長期政権」問題提起を 編集編成局長・砂間裕之
 日米安保条約60年や今の世界情勢をどうすれば描けるのかを悩みながら取り組んでいます。日本が戦後平和を守ってきた、あるいは守られてきたのはなぜかということは国家の基軸でもあるので、さまざまな面から探っていきます。安倍長期政権に関しては、桜を見る会問題で、公職選挙法や政治資金規正法の抜け穴も明らかになりました。法律でどのようにカバーしていくべきなのかと問題提起する報道をしていきたいと思っています。新たな年になってもこの問題は終わっていないことを示せるようにしていきます。

開かれた新聞委員会
 2000年に発足した毎日新聞の第三者機関です。
 (1)報道された当事者からの人権侵害などの苦情に基づき、取材や報道内容、その後の対応をチェックし、見解を示し、読者に開示する(2)委員が報道に問題があると考えた場合、読者や当事者からの苦情の有無にかかわらず、意見を表明する(3)これからのメディアのあり方を展望しながらより良い報道を目指して提言する――の三つの役割を担っています。
 毎日新聞の記事だけでなく、毎日新聞ニュースサイトなどデジタル報道も対象です。
 報道による人権侵害の苦情や意見などは、各部門のほか開かれた新聞委員会事務局(ファクス03・3212・0825、メールhirakare@mainichi.co.jp)でも受け付けます。

 ■ことば
4 新聞業界初のユーチューブ記者による動画配信
 「ブンヤ健太の記者倶楽部」のタイトルで、政治部の宮原健太記者が昨年11月に始めた配信動画。これまで「新聞の読み方教えます」「桜を見る会 そのとき官邸では」「総理の発言チェック」などをアップしている。


安倍内閣8年目 緩まず課題の解決に道筋を
2020年1月4日:読売新聞

 ◆野党は政策論議に立ち返れ◆

 内政、外交とも課題は山積している。解決の処方箋を描き、着実に実行しなければならない。
 安倍首相は、政権復帰後、8年目に入った。通算の在職日数は憲政史上最長に達している。
 経済を安定させ、消費税率を2度引き上げた。安全保障関連法を成立させ、日米同盟を強固にした。こうした功績が「最長政権」を実現させたのだろう。
 自民党総裁としての任期は2021年9月までだ。政権の総仕上げを念頭に置き、緩むことなく、政策で結果を出すべきだ。
 ◆国会審議の劣化を憂う
 政府に緊張感をもたらすのは、健全な野党の存在である。
 昨今の国会審議の劣化は、目に余る。野党は、政府の不祥事の追及ばかりに執心し、首相や閣僚は型通りの答弁に終始する。政策論を展開する立法府本来の姿に立ち返らねばならない。
 旧民主党の流れをくむ立憲民主党と国民民主党は、合流に向けた協議を進める。「多弱」から脱し、「安倍1強」に対峙たいじする狙いだろう。だが、原発政策などで両党の隔たりは大きい。
 稚拙な行政運営を重ねて行き詰まった民主党政権の記憶は、なお色濃く残る。寄り合い所帯で、一体感を欠いたことも挫折の一因だった。野党勢力の結集が、かつての民主党の復活と受け止められれば、国民の支持は広がるまい。
 まずは、政権を担うにふさわしい党の体制を整え、重要政策への対案を地道に磨くことである。
 日本は、高齢化と少子化が急速に進んでいる。高齢者を現役世代が支える従来の仕組みでは早晩、行き詰まるだろう。
 若い世代は、老後に十分な社会保障を受けられるのか不安を抱いている。子育てしやすい環境整備への要望も強い。国民の声を吸い上げ、だれもが安心して暮らせる社会を作るのは政治の責任だ。
 ◆負担増の議論欠かせぬ
 多くの野党は昨夏の参院選で、消費税率の10%への引き上げに反対する一方、福祉施策の充実など、多額の財源を要する政策を並べた。これでは説得力を欠く。
 社会保障制度の持続性を高めるには、給付の抑制と、負担増を伴う改革が避けられない。消費税率の10%超の議論も必要となる。野党は厳しい現実を直視し、解決策を示さねばならない。
 外交も難しい局面が続く。
 トランプ米大統領は自国第一主義を掲げ、他国に譲歩を迫る。日本も例外ではない。
 今後、在日米軍の駐留経費に関する交渉が本格化する。トランプ氏は、日本に負担の増額を求めている。政府は、日本の負担割合は他の受け入れ国より高いことを丁寧に説明する必要がある。
 日米貿易協定では、環太平洋経済連携協定(TPP)の範囲内で米国産品の関税を引き下げた。政府は対米関係に配慮しつつ、TPPとの整合性を取った。
 野党は貿易協定について「日本が一方的に譲歩した」と批判した。ならば、トランプ政権とどう渡り合うか。批判ばかりでなく、自らの対処策を示すべきだろう。
 日中関係の節目となるのは、今春に予定される、中国の習近平国家主席の来日である。
 中国の公船は、沖縄県の尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返している。香港に対する強圧的な姿勢も看過できない。日本は懸念を伝え、自制を促すべきだ。
 日韓首脳会談は、対話の継続で一致したものの、「元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)」問題の解決は見通せない。
 日本企業に元徴用工への賠償を命じた韓国の司法判断は、日韓合意に反している。国際法違反の解消に韓国政府が動くことで、関係立て直しの機運が生まれよう。
 ◆憲法改正の機運高めよ
 安倍首相は、任期中の憲法改正を目指している。
 首相主導の改憲を危惧する一部野党の抵抗により、国会の憲法論議が停滞しているのは残念だ。
 国民の権利と義務、統治の仕組みなどを定めた国の最高法規である。国の針路を考えるとき、憲法は避けて通れない。
 通常国会では、憲法審査会をすみやかに開催し、憲法本体の議論を始めることが欠かせない。
 自民党は自衛隊の根拠規定を追加する9条改正など4項目の案をまとめている。どの条文をどう改正するか。各党が見解を持ち寄り、詰めた議論を行う必要がある。
 世論の理解を広げることも大切だ。自民党は憲法改正に関して各地で講演会などを重ねる。引き続き精力的に進めたい。


【主張】東京五輪・パラ
感動と興奮の大会を残そう
 日本は開催国の責任果たせ
2020年1月4日:産経新聞

 例年になく胸が躍る。スポーツファンにとっては招致決定から7年近く待ち望んだ新年である。
 7月24日の夜、東京五輪は新国立競技場をメイン会場として開幕する。8月25日には、パラリンピックでも熱戦の号砲が鳴る。後世に長く語り継がれるような、感動と興奮に満ちた大会を、日本の総力を挙げて作り上げたい。
 ≪最高の「おもてなし」を≫
 大会組織委員会が掲げる3つの基本理念のうち、1つに「全員が自己ベスト」とある。日本代表選手が最高の競技成績を求められるのは言うまでもないが、組織委の公式サイトには、〈ボランティアを含むすべての日本人が、世界中の人々を最高の「おもてなし」で歓迎〉とも書かれている。
 私たちには、まだ熱気が冷めやらない成功体験がある。昨秋のラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会だ。どの会場も観衆が客席を埋め尽くし、熱狂的な声援で試合を盛り上げた。大会を総括した国際統括団体ワールドラグビー(WR)のビル・ボーモント会長からは「最も偉大なW杯として記憶に残る」と称賛された。
 今年の夏も、パラリンピックの閉幕まですべての会場を満場の観衆で埋め、アスリートを声のかぎり応援できれば理想的だ。一人一人が当事者としての意識を持ち、世界各地から訪れる人たちを歓待することも、誇るべき「自己ベスト」だろう。
 大会成功のカギは、国民が握っている。東京で開かれる五輪ではなく「日本の五輪」として、56年ぶりの夏季大会を迎えたい。
 各競技の代表選考レースも熱を帯びている。すでに代表入りを決めた選手がいる一方で、五輪への道が閉ざされた選手もいる。
 一握りの勝者の陰で、数多(あまた)の選手が悔し涙を流してきた事実も忘れたくない。
 今一度、思い出したい選手がいる。競泳女子のエースとして東京五輪での活躍が期待されながら、白血病で長期の入院生活を余儀なくされた池江璃花子だ。吐き気や倦怠(けんたい)感を伴う苦しい治療を経て、昨年12月中旬に退院した。
 池江は自身の公式サイトで「皆様からの励ましのメッセージを見て、早く戻りたいと強く思うことができました」と感謝の言葉をつづり、2024年パリ五輪への挑戦を誓っている。
 応援はときに、持てるもの以上の力をアスリートの中から引き出すことがある。その意味では、背中を押すファンもまた競技の主役といえるのではないか。
 ≪一体感再び味わいたい≫
 流行語となった「ONE TEAM」は、ラグビーW杯で初の8強入りを果たした日本代表フィフティーンの結束だけを指す言葉ではない。日本代表に思いを重ねて前進を続けたファンは、まぎれもなくチームの一員だった。
 東京五輪・パラリンピックでもう一度、その一体感を味わってみたい。
 日本オリンピック委員会(JOC)が掲げる「金メダル30個」の目標は、現時点ではかなり厳しいとみられている。昨年に行われた五輪実施競技の世界選手権では、日本勢の獲得した金メダル数は16個だった。野球のプレミア12での優勝を加えても17個で、各競技のさらなる奮起は欠かせない。
 メダル獲得が確実視される選手の陰に隠れてはいるが、もうひと伸びでメダル獲得や入賞できる可能性を秘めたアスリートも少なくない。観衆が送る大きな声援が、彼らの背中を表彰台へと押し上げられれば最高だ。
 大会の開催に伴う経費は、3兆円を超えるとの試算がある。東京が当初に掲げた「コンパクトな五輪」から実像は離れつつあるが、緊縮に固執するだけでは責任あるホスト国の姿勢とはいえまい。
 日本特有の暑さ対策、高度化するサイバーテロの脅威などに万全の準備を整え、選手や観客の安全を約束することが日本の責務だ。世界が注目している。日本の信用を世界に発信する上でも、必要な投資を惜しんではならない。
 競技力向上のための選手強化費は、来年度当初予算で101億円が盛り込まれた。スポーツ界は国民の手で支えられている。だからこそ、その代表である選手たちに国民は大きな期待をかける。
 日本勢の活躍は国民の誇りであることを選手は忘れないでほしい。わが国を挙げて一つのチームとなり、歴史を残そう。


(社説)民主主義の分岐点
 ポスト「安倍政治」を見据え
2020年1月5日:朝日新聞

 長期政権のひずみが広がるのか、それとも、新たな一歩を踏み出せるのか。
 分岐点の1年である。
 第1次政権と合わせた通算在任日数が歴代最長となった安倍首相は、8月末まで政権を維持すれば、連続在任日数も佐藤栄作を抜き歴代最長となる。
 東京五輪の後は、自民党総裁任期が残り1年となる首相の後継に、政界の関心は一気に向かうことだろう。
 しかし、大切なことは、単に「ポスト安倍」に誰が就くかではない。「安倍政治」がもたらした惨状をどう修復するのか。その視点こそが基軸とならなければいけない。
 ■「仲間」と「敵」を分断
 昨春の「桜を見る会」の動画が、いまも首相官邸のホームページで公開されている。
 「皆さんとともに政権を奪還してから、7回目の桜を見る会となりました」
 首相はあいさつを、そう切り出した。野党に投票した人を含め、国民全体に責任を負う立場を忘れ、「仲間」しか眼中にないような発言は、はしなくも首相の政治観を露呈している。
 半年後、この会の招待客をめぐり、首相の私物化への批判が噴き出すことになるのも、当然の成り行きだ。
 表裏をなす光景が、昨夏の参院選の首相の遊説で見られた。首相を激励するプラカードを掲げた支持者らが周囲を固め、批判的な聴衆との間に「壁」をつくる。ヤジを飛ばした市民が警察に排除された会場もあった。
 森友・加計学園から桜を見る会まで、この政権で繰り返される諸問題に共通するのは、首相に近しい者が特別な便宜を受けたのではないかという構図である。一方で、首相は野党やその支持者など、考え方が異なる者への敵視を隠さない。
 分断をあおり仲間内の結束を固める政治を続けるのか、多様な国民を幅広く包摂する政治に転換するのかが問われている。
 ■憲法の理想から遠く
 「この憲法が制定せらるる以上は、立法府が国家政治の主体であって、行政府はその補助機関とならなければならぬ」
 「議会政治の父」と呼ばれた尾崎行雄は1946年8月、日本国憲法の衆院本会議での可決に際し、そう演説した。議会の力が弱かった戦前の反省を踏まえ、「国民総意の発現所たる議会」こそが政治の中心であるべきだと訴えたのだ。
 しかし、日本の政治の現状は、尾崎の理想とは全く逆である。「安倍1強」の下、与党は首相の意向につき従い、「多弱」の野党も力不足だった。先人が営々と積み上げてきた議会制民主主義は、安倍政権の7年で劣化を極めた。
 政治不信の深刻さを示すひとつのデータがある。「言論NPO」が昨年9月に実施した日本の民主主義に関する世論調査だ。政党や政治家に日本の課題解決は「期待できない」との回答が7割に達し、国会が「言論の府」に値するとの答えは9%と1割にも満たなかった。
 どうしたら国会が本来の役割を発揮できるのか。それは喫緊の最重要課題のひとつである。
 自民党は今年11月に結党65年を迎える。55年の発足時に定めた「党の性格」は、第1に「国民政党」を掲げ、「特定の階級、階層のみの利益を代表し、国内分裂を招く階級政党ではない」と宣言した。
 当時最大のライバルだった社会党を意識した自画像かもしれないが、自民党はその後長く、党内にさまざまな潮流を抱える政党であり続けた。歴史や社会、憲法に対する考え方も決して一色ではなかった。
 ■一色に染まった自民
 しかし、小選挙区制の導入後、党中央の統制が次第に強まり、こちらも安倍政権下で極まった観がある。党内のほぼすべての派閥が首相支持になびき、非主流派はあからさまに干される。活発な党内論議は失われ、自浄能力も期待できない。
 こんな自民党の姿でいいのか。党内で首相の後をうかがう者が問われるのはそこだ。
 野党の役割も重要である。先の臨時国会では、立憲民主党や国民民主党などが統一会派を組み、共産党とも連携して、桜を見る会の追及などで、それなりの成果を上げた。強い野党は政権に緊張感をもたらし、一定の歯止めをかける道も開ける。
 立憲・国民両党は次の総選挙をにらみ、合流に向けた協議を続けている。ただ、「元のさや」に収まるだけの数合わせでは、国民の期待を引き寄せることはできまい。自公政権では実現できぬ社会像を示し、政治に失望した人々をも振り向かせる力強いメッセージを発することができるか否かが鍵となろう。
 もちろん首相の党総裁任期はまだ1年9カ月ある。また、首相の手による年内の解散総選挙の可能性も否定できない。これからの日本政治が何をめざすのか。まれに見る長期政権の功罪と正面から向き合い、日本の民主主義を立て直す方途を探る1年としなければならない。


社説
[後退する民主政治]相互抑制の機能高めよ
2020年1月4日:沖縄タイムス

 世界の多くの国で民主主義が後退し、強権政治が台頭している。
 不平等の拡大、排外主義のまん延、フェイクニュースのはんらん、分断をあおる政治手法。欧米の自由民主主義(リベラル・デモクラシー)を掲げる国々も、将来展望が描けず混迷を深めている。
 日本はどうか。米英などに比べ安定しているように見えるが、憲政史上最長の政権の下で、議会制民主主義の空洞化は深刻だ。
 形式的に立法・行政・司法の三権分立が確立しているものの、運用実態を見ると、首相官邸に権力が集中し、三権相互のチェック・アンド・バランスが著しく失われてしまった。
 国政与党の自民党は安倍政権を擁護するだけで、かつての自民党のようなチェック機能を果たしていない。あの活力は一体どこに行ってしまったのか。
 官僚機構もわが身の安泰を優先し、官邸への忖度(そんたく)に明け暮れている。公文書を偽造したり、不都合な事実を隠蔽(いんぺい)するため廃棄したり、統計データを不正処理したり。政策エリートのモラル崩壊としかいいようがない。
 安倍政権はダメージ・コントロールが巧みだ。だが目立つのは、疑惑の議員をトカゲの尻尾切りのように早期に辞めさせ、問題になった施策事業を検証もなく取りやめるなど、「臭い物にフタ」をする手法である。
 一に情報開示、二に説明責任。それがきちんと守られなければ権力の専横を防ぐことはできない。
■    ■
 法は解釈され運用されることで効力を発揮する。法の条文を変えなくても、解釈の変更によって、実質的改正の効果を手に入れることができる。
 安倍政権は、解釈変更という手法を多用してきた。集団的自衛権の行使容認がそうだ。
 辺野古埋め立てについても、政府は県との調整を行わず、一方的な法解釈でコトを推し進めてきた。
 民主政治の変調は、地方自治体にも押し寄せている。
 宮古島市は、住民訴訟を起こした市民6人に対し、市の名誉を傷つけたとの理由で、損害賠償を求め提訴する議案を議会に提出した。
 石垣市議会では、自治基本条例を廃止する議案が十分な議論もないまま議会に提出された。
 宮古島市は批判を受けて議案を撤回、石垣市議会は廃止条例案を否決した。いずれも「権力の不当な圧力」だと強い批判を浴びた。
■    ■
 民主主義は「民意に基づく統治」であり、立憲主義は憲法によって権力を縛る考え方である。両者は必ずしも一致しない。
 両者のバランス上に成立する「立憲民主主義」をどうやってつくり直していくか。民主主義によって民主主義を死なせるようなことがあってはならない。
 「炭鉱のカナリア」のように変化を敏感に受け止め、警鐘を鳴らしていく作業が求められる。

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