破綻する国策プロジェクト、ツケは国民に

大晦日に「『合戦』ものなんか見てないだろうこんさんへ」と愛知の大先輩のMさんから送られてきた日経ビジネスの記事です。(↓)
一昨年(2018年)、Mさんに「リニア新幹線名古屋駅予定地の今を見ておきたい」とお願いすると緻密な下見をして案内をしてくれた。名古屋駅西は駅近くにもかかわらず住宅地があり、また、交通都市名古屋の名古屋駅の「食」を支える市場など、そして歴史ある椿神社一帯をJR東海の地上げがすすみ、あちこちに「JR東海用地」の縄張りがされていた。かつては河合塾を中心とした予備校長城が広がっていた場所は家電量販店に変わり、さらにリニア新幹線名古屋駅建設によって変貌しようとしている。
昨年も押し詰まって、IR疑獄が発覚し、国会議員が逮捕された。国会議員が、欲望の本性をむき出しにして、政治家がブローカーを直営している。
政治家にとって、10数兆円になるであろうリニア新幹線は巨大なご馳走に見えるだろう。すでに、リニア談合は明らかになったが、反省の様子は見られない。政治家の公私混同は、カレラの欲望のままにこの国全体を呑み込もうとしている。


「陸のコンコルド」、リニア新幹線の真実
9兆円をつぎ込む超高速列車の行く末
2019年8月30日:日経ビジネス

金田 信一郎他 日経ビジネス編集委員

9兆円を投じるリニア新幹線プロジェクトがついに離陸した。町をなぎ倒し、超高速列車はどこに向かうのか──。

日経ビジネス2018年8月20日号より転載  『日経ビジネス』、『日経ビジネスDigital』で公開しています。

(写真=Etienne DE MALGLAIVE/Getty Images)
 
リニア中央新幹線が走る各県に歓迎ムードが広がる中、1人、怒りが収まらない知事がいる。
 「静岡県の6人に1人が塗炭の苦しみを味わうことになる。それを黙って見過ごすわけにはいかない」
 静岡県知事の川勝平太は、そう東海旅客鉄道(JR東海)を批判する。
 当初、川勝は「リニア推進派」だった。国土審議会の委員を務め、JR東海系の雑誌でコラムを担当したこともある。静岡を通過すると知って、いち早く南アルプスに登って視察した。
 だが、計画が明らかになり、関係は暗転することになる。

リニアの線路で「座り込み」

 リニアは静岡県北部の山中を11kmにわたってトンネルで貫く。大井川の水源を横切るため、毎秒2トンの水量が減少するという。水道水として62万人が利用しているが、毎年のように水不足に悩まされ、昨年も渇水で90日近く取水制限をした。
 JR東海はトンネル内で出た湧き水を、導水路を掘削して大井川に戻し、減量分の6割強を回復させるという。
 「全量を戻してもらう。これは県民の生死に関わること」。そう言い切る川勝は、工事の着工を認めない。

「立派な会社だから、まさか着工を強行することはないだろう」と話す静岡県知事の川勝平太

 「もうルートを変えることも考えた方がいい。生態系の問題だから。水が止まったら、もう戻せません。そうなったら、おとなしい静岡の人たちがリニア新幹線の線路に座り込みますよ」
 ルートを変える──。リニアを知り抜いた川勝は、それが不可能に近いと分かって発言しているに違いない。2014年に品川~名古屋間を着工したが、27年の開通に向けてルート変更する余裕はない。
 時速500kmで東京~大阪間を1時間で走る。超高速ゆえに直線で走らなければ性能が発揮されない。今から障害物が見つかっても回避できない。
 もちろん、カネと時間があれば、路線変更が可能かもしれない。だが、リニア計画に余裕は残されていない。すでに契約を結んだ工事に、開業1年前に完成するものもある。まだ契約していない区間も半分ほど残っている。
 金銭面でも、止まって考える余裕がない。総工費9兆円で品川~新大阪を結ぶ計画だが、名古屋までに5兆5000億円が投じられる。工事のピークには年間のリニア投資額が6000億円になる見通しで、名古屋まで開通した27年、JR東海の借金は5兆円に達する。もし1年延びれば、千億円単位で総工費が膨らむ危険がある。当然、開業で得られるはずの収入も入ってこない。
 名古屋開通後、そのまま大阪への工事に突き進むことは財務的に難しい。そこで8年間はキャッシュフローを借金返済に充て、3兆円まで借金を減らし、再び大阪に向けて着工する。そのため、大阪開通は45年を計画する。ただ、後に解説するが、低金利の財政投融資で3兆円を調達できたため、最大で8年間の前倒しも視野に入れている。
 しかし、1つの疑問が湧く。リニアが品川~名古屋を40分で結んで、どれだけの人が利用するのか。現在、品川駅と名古屋駅で、地下深くにリニア駅の建設を進めている。
 「新大阪に行く人が、途中の名古屋で乗り換えるケースは少ないだろう」。JR東海の幹部もそう認める。



東海道新幹線も沈没する

 では、名古屋開通後に、工事をストップしての体力回復は可能なのか。
 実は10年、国土交通省の審議会でリニア計画の意見聴取に立った経済評論家の堺屋太一は、こう言っていた。
 「名古屋で乗り換えて大阪は非現実的です。東京~名古屋だけを造るのでは大赤字は確実。大阪まで一気に開通させる以外にない」と提言した。
 だが、JR東海や推進派は、「あの発言は、大阪まで早くやれ、という意見だった」として、2段階に分けた工事計画の危険性を顧みようとしない。
 さらに採算性を疑うのは、自ら「赤字事業」と認めた過去があるからだ。
 13年、記者会見で社長(当時)の山田佳臣が、リニア計画は「絶対にペイしない」と答えた。だが、JRの経営陣は、「本人の意図と違う」と主張する。
 「(リニア)単独のプロジェクトとして見たときには、5兆円のプロジェクトを回収するわけにはいかないですよと。やっぱり東海道新幹線と組み合わせて実現ができる」。副社長の宇野護はそう解説する。しかし、巨費を投じた超高速のサービスが赤字で、本当に全体の黒字化が達成できるのか。
 「東海道新幹線だって客のほとんどが(リニアに)奪われるから収益が下がる。リニアがペイしなければ、両方沈没するんじゃないの」。立憲民主党でリニア問題を担当する衆院議員の初鹿明博はそう指摘する。

「でっかいことはいいことだ」

 では、なぜ巨費を投じて、JR東海はリニアという危険な挑戦に出るのか。
 「東海道新幹線のバイパス」。経営陣から現場社員までそう答える。1987年に国鉄の分割民営化で東海道新幹線を軸としたJR東海が発足、その取締役に就任した葛西敬之(現名誉会長)がリニア担当となる。以降、一貫してこの考え方でリニア計画を推し進めてきた。
 当初は、64年にスタートした東海道新幹線が、半世紀近く大規模改修していないことから、リニアというバイパスを造れば、新幹線を止めて工事できると説明していた。
 ところが、JR東海の小牧研究施設で、土木担当者に聞くと、「今の修繕技術で、東海道新幹線は半永久的に使い続けられる」という。経営陣も「完全な取り換えはまずない」(宇野)と認める。5年ほど前に、その結論に行き着いたという。すでに大規模修繕工事を始めており、2022年度に終了する予定だ。では、なぜリニア計画をやめないのか。
 「1本の糸にぶら下がったクモじゃないけど、やっぱり2本あることの強み」(宇野)だという。災害時のライフラインとしての重要性を主張する。「地下は地震の揺れに強い」(宇野)
 だが、落とし穴もある。
 「南アルプスをトンネルで貫通するが、そこには中央構造線断層帯や多くの活断層が走っている。ここに時速500kmの列車を走らせるべきではない」。南アルプスの地形や地層を調べ続ける大鹿村中央構造線博物館学芸員の河本和朗は、そう警鐘を鳴らす。
 「そもそも、貨物列車がなくて、モノが運べないリニアは、災害時に役に立たない」。米アラバマ大学名誉教授の橋山禮治郎は、そう喝破する。
 「でっかいことはいいこと、速いことはいいこと、という発想は時代遅れ」
 橋山はかつて、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)で調査部長を務めた経歴を持ち、世界の巨大プロジェクトの失敗を調査研究してきた。
 「リニアはコンコルドと同じ」。コンコルドはスピードばかりを追求したが、コストが高く、騒音や排気ガスをまき散らした。赤字続きで技術改良もままならず、事故を起こして廃止された。
 ちなみに、リニアの開発を日本と競っていたドイツは、中国・上海でリニア鉄道を実現しながら、08年に国がリニア撤退を決めた。コストが予定額を大きく超えることが分かったからだ。

年間4200億円のコスト

 翻って日本。
 1962年、国鉄時代からリニアの開発がスタートし、73年には全国新幹線鉄道整備法で開発すべき路線として決定される。国鉄の分割民営化後、JR東海と鉄道総合技術研究所が開発を引き継ぎ、山梨県に実験線を建設する。ところが、地方の整備新幹線が優先され、リニアは「夢」と消えようとしていた。
 そこに2007年、JR東海が「自己負担で建設する」とぶち上げる。
 09年、JR東海は調査報告書を国に提出する。そこには、驚愕の数字が並ぶ。リニアの維持運営費は年3080億円、設備更新費は年1210億円、合わせて年4290億円がかかっていく。
 だが、日本では高コストがさして問題にされなかった。10年、国交省の交通政策審議会に中央新幹線小委員会が設置され、委員長に東京大学大学院工学系研究科教授(当時)の家田仁が任命される。そして、翌11年、3・11の2カ月後、国は整備計画を決定する。
 リニアにGOサインを出した家田に聞いた。9兆円もかけて、世界をリードする交通システムになるのか。
 「なるかもしれないし、ならないかもしれない。東海道新幹線だって、最初は『世界の3バカ』と言われたわけでね。戦艦大和と万里の長城と。だから、分からないですわ」
 続いてバイパス論が展開されていく。
 「東海道新幹線を止めますなんて言ったら暴動が起きるわな。やっぱり一刻も早くリニアを造って、負荷を減らしていかないと。バックアップだから」
 収入が15%増えるというJR東海の予測や、経済効果が年8700億円という試算は実現するのか。
 「ぼくはそんなもの気にしてない。どうしても計算したいというからやったけど、真に受けていない」
 財投で3兆円も借りて、本当に返せるのか。大阪まで完成するのは、最短でも約20年後のことだ。
 「20年なんてあっという間ですよ。明日みたいなもの」

開発トップがダメ出し

 家田が「明日」という未来は、どのような世界なのか。
 炎天下の山梨県でリニア実験線に試乗した。JR大月駅からクルマで15分、JR東海の山梨実験センターから5両編成のリニアに乗り込んだ。
 運転開始から時速150kmまでは車輪で走行する。そこから車体が浮き上がり、騒音が少し静かになる。そして2分半で時速500kmに達する。その時、振動や騒音は少し大きいが、新幹線の車内とさほど差はない。周囲とも会話ができる。逆に、減速していくと、時速300km台は徐行運転しているように感じる。そして、時速150kmでガタンという振動とともに「着陸」する。
 わずか30分ほどの試乗だが、50年以上かけて開発を重ねてきた技術の完成度の高さは体感できる。ただ、車内は少し窮屈で、両側2席ずつの配列だが、座席の幅や前後のシート間隔も新幹線より狭い。それは、車両開発を主導した三菱重工業が、飛行機の構造を持ち込んだからだ。
 鉄道車両の断面は、通常は四角になるが、リニアは卵のような円形になっている。飛行機の胴体と同じで、車内空間は窓側にかけて狭くなっていく。開発当初は座席上に荷台が設置できず、騒音で隣の人の声が聞こえなかった。
 そこで、防音対策や、鉄道車両に近い形状への設計変更を重ね、新幹線に近い乗車感覚に仕上げてきた。
 だが、そんな短時間の試乗で「いける」と思い込むのは危険な素人考えだとJR東日本元会長の松田昌士は言う。国鉄時代からの経験を基にこう話す。
 「歴代のリニア開発のトップと付き合ってきたが、みんな『リニアはダメだ』って言うんだ。やろうと言うのは、みんな事務屋なんだよ」。高価なヘリウムを使い、大量の電力を消費する。トンネルを時速500kmで飛ばすと、ボルト一つ外れても大惨事になる。
 「俺はリニアは乗らない。だって、地下の深いところだから、死骸も出てこねえわな」(松田)
 品川~名古屋間は、路線の86%が地下を走行する。また、地上部分も騒音対策としてフードで覆われる場所が多くなると予想される。
 なぜ、これほどトンネルが多いのか。それは、2つの都市を直線で結ぼうとするため、南アルプスなどの山岳地帯をことごとく貫通していくためだ。
 もう一つの理由は、土地や建物の買収を回避できること。特に、都心部や名古屋地区は地下40m以深の「大深度地下」を通るため、法律によって公共利用と認められれば、補償する必要すらない。
 人知れず、地下を掘り進める計画を練ってきたJR東海。だが、ここにきて、その全貌が水面上に姿を現し始めると、大きな摩擦を生み出している。リニア計画の先行きには暗雲が垂れ込める。

(写真=Bloomberg/Getty Images)

現代の成田闘争へ

 JR橋本駅(神奈川県)から徒歩10分。5階建てビルのオーナーに、ワイシャツ姿の男が尋ねてきたのは昨年のことだった。
 相模原市役所のリニア事業対策課の職員だと名乗ると、こう切り出した。
 「このビルの下をリニアが走ることになりまして、ちょっとお尋ねしたいのですが」。橋本駅の地下にリニアの駅ができることは近所の話題になっていた。リニアは通過する各県に1駅ずつ中間駅を造る。人が増え、地価が上がると噂された。だが、自分の敷地の下を通るとは思ってもいなかった。
 だが驚くのは早かった。

役人をカネで味方にする

 「このビル、どのくらい杭を打ってますかね」
 オーナーは巨大地震にも耐えられるように、20m以上の杭を打った。業者から「200年もつ」と言われた。
 「詳しく調査させていただきたいのですが、恐らくリニアにぶつかります。取り壊していただくことになるので、立ち退きか、低層への建て替えをお願いします」
 突然のことに声が出ない。地元で育ち、50年以上ここで商売をしてきた。
 「おまえ、JRと市民と、どっちの味方なんだ」
 すると、こう返ってきた。
 「JR側の人間です」
 JR東海が背後でカネを払っている。なぜ、自分たちで説明に来ないのか。市役所の職員相手では、強く出るわけにもいかない。
 市民も分断された。立ち退きに反対する人もいる中で、早々に受諾する住民もいる。
 「地形が悪くて売りにくい物件なのに、急上昇している駅前物件と同じような評価額を提示されたらしい」。東橋本に住む60代の女性はそうつぶやいた。
 巨額のマネーで路線の住民を「買収」していく。しかも、交渉役は地元の自治体にカネを払って委託する。
 そんなJR東海だが、住民説明会だけは自らが説明に立つことになる。ところが、その会場では荒れた株主総会のような罵声が飛び交う。
 5月中旬、都内の区民プラザの壇上に6人の社員が登壇した。住民は1人につき質問3つまで。しかも、3問を続けて述べるよう迫られ、終わるとマイクを取り上げられる。すると、社員が「慎重に進めてまいります」「モニタリングします」などと具体性を欠く回答を続け、住民をいら立たせる。
 「おい、答えになってないじゃないか」「質問に1つずつ答えないと、対話にならない」とヤジや怒号が飛び交う。
 すると司会の若手社員が会場をにらみつけながら「ご静粛に」と大音量のマイクで繰り返す。最後は、「時間が過ぎている」として説明会を打ち切る。
 JR東海の用地取得の手法は、業界内でも異例だという。大手ゼネコン幹部は、山梨や北信越で長く道路やトンネルの工事現場に携わった。道路会社は用地取得に当たって、職員が地域に溶け込むため、酒を酌み交わしながら長期間かけて信頼関係を築いていく。
 一方、JR東海は自治体に交渉を任せ、最後は強制収用に踏み切る方針だ。
 「土地収用法の対象事業なので、そういうことを考える時期が来るかもしれない」(副社長の宇野)
 だが、大手ゼネコン幹部はその手法に危険を感じるという。「マスコミが殺到する」。反対住民を押し切り、国民を味方に付ける理念や目的があるのか。

「もしかしたら、成田闘争を超えるかもしれない」

あふれる残土、ドーム50個分

 山梨県南アルプス市宮沢地区。104世帯の小さな住宅地をリニアが縦断することが分かったのは4年ほど前のこと。自治会長の井上英磨は、JR東海の尊大な態度に反発し、「絶対に動かない」と突っぱねた。
 「ちょうどここをリニアが走る」。井上が両手を広げて示した場所には、地神が祭られていた。地区内の立ち退き対象は7世帯だが、残った人にも騒音や日陰の問題が起きる。宮沢地区は、自治会で「住民の総意として反対」と決議し、JR東海の地区説明会の開催を拒否している。
 山梨県では甲府盆地を横断するため、地上に高架を建設する区間が長い。そのため、住民との交渉は難航を極める。
 山梨県中央市の内田学も、4年前に自分の畑を通過することを知った。
 「もっと北を走ると思ってたのよ」
 そしてリニアのことを調べ始めた。技術者でもある内田は、大量の電力を使ってマイナス269度で超電導状態にすることや、その失敗によるクエンチ現象の事故を恐れた。
 「これは地球に挑戦状を突きつけるようなものだ」。そして、反対する人々を募り、畑の桑を1本1000円で売って名札を付ける「立木トラスト」を始めた。JR東海は、一人ひとりに同意を取らなければならない。その数、700人。
 「桑は神のように信仰されてきた。それを根こそぎ持っていけるのか」(内田)
 山梨県は1990年にリニア実験線の建設が始まってから、すでに四半世紀が過ぎている。その間に、地元の人々はリニア工事が引き起こす問題を間近で見てきた。
 慶応義塾大学名誉教授の川村晃生は、その歴史を追い続けてきた一人だ。
 「リニア実験線では、トンネルから出た500万m3もの残土の置き場に困った。今回は5680万m3もの残土が出るが、どこに処分するのか」。東京ドーム約50個分といわれる残土を置く場所がなければ、掘り進むことができず、リニア計画は頓挫する。
 実験線に近い笛吹市の2つの巨大な谷が、残土で平らになるほど埋められていた。「当時はアセスメントの概念がなかったから、こんなデタラメができた。今回は許されないだろう」
 川村が注目しているのは、南アルプストンネルの掘削工事が始まっている早川町だ。この町に行くには、門前町として有名な身延町から、山沿いの一本道を走るしかない。途中で残土を積んだ巨大トラックと何度もすれ違う。
 町内には、すでに河原や空き地に残土が積み上がっている。ゼネコン2社が、川沿いに残土を積み上げていた。一方は、12層にも積み上げるという。「予定より遅れたが、あと1カ月ぐらいで終わる」。作業員はそう苦笑いした。
 早川町から出るリニア工事の残土は326万m3で、「半分は置き場が決まっている」(副社長の宇野)。裏を返せば、まだ半分の残土の行き場がない。
 「知る限り、早川町にはもう、まとまった残土置き場がない。そうすると、一本道を通って、延々と違う町まで運んでいくことになる」(川村)
 なぜ、小さな早川町が、巨大工事を認めたのか。実は、昭和30年ごろ、ダム建設で町が潤った歴史がある。だが、工事の終了とともに町は寂れていった。
 今回、リニアに協力したことで、念願だった北東に抜ける道路が建設される。盛り土方式で造られ、残土の処分場も兼ねる。だからだろう、JR東海が建設費の60億円超を負担する。
 「まるで麻薬漬け。地域の自然がJR東海にしゃぶり尽くされている」。近隣の住民はそうため息をつく。

リニア計画地にカフェ造り対抗

 その狡猾な手法は、沿線のあらゆる地域に見られる。
 相模原市の山間地、鳥屋。串川が流れ、サルや鹿が生息する地に、リニアの車両基地が建設されると報じられたのは2013年夏のことだった。
 「最初は、さして気にならなかった。だけど、翌年から説明会が始まって、これはおかしいと思い始めた」
 周辺に土地を持つ栗原晟は、関連資料の閲覧に出向き、その規模に驚愕した。幅350m、長さ2kmにわたる広大な基地だが、驚くべきは、高さが最大で30m近くもあることだった。小学校の体育館に覆いかぶさるように造られる。
 「まるで飛行場だ。残土処分との一石二鳥を狙ってるんじゃないか」
 栗原はリニア計画に疑念を抱き、同志を集めて、引き込み線がぶつかる土地を11人で共同登記する「土地トラスト」に打って出た。そこに集まって、デッキや布製の屋根を作っている。
 森カフェトラスト──。
 そう名付けた共同作業は、回を追うごとに人数が増えてきた。直近では、30人近くが集まったが、大学生など若者が目立つようになった。
 「木を伐採して眺望をよくし、音楽会などイベントを続けていく」(栗原)
 山梨側から入ったリニアは、南アルプスを抜けて、反対側の長野県大鹿村に出てくる。この地の少なからぬ住民が、災害の再来を恐れている。
 三六災害。昭和36年、集中豪雨が伊那谷を襲い、土砂崩れや地滑りが多発。中でも大鹿村の大西山の大崩壊は災害史に残る惨事で、42人が亡くなった。
 南アルプスは隆起が激しく、日ごろから山の崩落や土砂崩れが多発している。だから、トンネルの出口は危険を極める。すでに、リニア工事の影響で県道の土砂崩落事故も起きている。
 それでも、JR東海はカネにものをいわせて計画を推し進めていく。
 「グランドに残土を置かせてくれれば、体育施設を造る」。JR東海からそう提案され、予算が乏しい村議会は了承してしまう。残土で5mもかさ上げした上にテニス場や体育館が建設される。
 「見上げるテニス場っておかしい。代々、『リニアグランド』と揶揄される」。村議会議員の河本明代は顔が曇る。
 それでも村内で300万m3という残土は処分できず、運び出す道路のトンネル工事にJR東海は35億円を投じる。
 ダンプが行き交う村で、温泉宿「山塩館」を経営する平瀬定雄は、客の減少に悩まされている。「ダンプの通らない道はありませんか」。宿に着くなり、そう聞いてくる客が後をたたない。
 「村もJRに丸め込まれ、下請け会社と化している」。かつてはリニア絶対反対だったが、今では現実主義に転じた。
 「やるなら早くやれ」。そして、関連の消費や下請け工事も、少ないながら、搾り取らなければならない。
 「それこそ談合でもやらないと、こっちがすり切れていくだけだ」(平瀬)
 JR東海は、リニアの完成が遅れれば、収入のないまま巨額の投資を続けることになる。その焦りから、カネで解決しようとする。大井川の水量問題で静岡県だけが工事に入れない。そこでJR東海は静岡市と工事連携の合意を取り付けた。だが、その見返りに、地元住民が要望していた3.7kmのトンネルをJR東海が全額負担して建設する。その額は、140億円にも上る。
 しかし、県知事や市民団体から猛烈な批判を浴びると、市長は大井川の問題についての発言だけ撤回。結局、JR東海は、巨額のカネを突っ込みながらも、着工のめどが立たない。

談合が生まれる構図

 リニア談合も後から振り返れば、JR東海とゼネコンの力関係が逆転したポイントと位置づけられるかもしれない。
 14年、国からリニア工事の認可が出るころ、リニア談合と呼ばれる大手4社の会合が始まっている。当時は、東京オリンピックに向けた建設需要が予想されてはいたものの、「21世紀最大のプロジェクト」といわれるリニアを前に、「JR東海から仕事をもらう」というゼネコンの姿勢は変わりなかった。

昨年12月、リニア談合事件の捜査で、鹿島の本社を出る東京地検の車両(写真=朝日新聞社)

 1km200億円といわれるリニアの工事費だが、都心部のトンネルは400億~1000億円の物件もある。「リニアは公共工事よりも安い」(ゼネコン担当アナリスト)ことは業界の常識となっている。
 JR東海は発注に際して、施工者の技術力を評価する独自の「競争見積方式」を使っている。まず施工法や価格をゼネコンと交渉する。そして工区への技術提案などを聞いて1社に絞り込む。だが、価格交渉が不調に終われば、他のゼネコンに価格を提示させる。JR東海の立場が強ければ、「言い値」に従わなければならない方式と言える。
 だが、建設業界には「汗かきルール」が存在する。調査や設計、試算などに協力したゼネコンを優先するという暗黙のしきたりだ。
 「設計や技術開発などの協力をして、そのコストを工事価格に乗せなければ赤字になる。それを『高すぎる』と言って他の業者に値段を聞けば、汗をかいてない分、安くなるに決まっている」。中堅建設会社のトップはそう批判する。
 大成建設が、名古屋駅のリニア工事でJR東海の想定価格の3倍近い1800億円を提示した。昨年完成した駅直結の高層ビル「JRゲートタワー」を建設した際の赤字を回収するためとみられる。JR東海は清水建設と鹿島にも入札を要請するが、大成からの情報を基に、両社はさらに高い価格を出した。
 リニア談合事件では、発注者であるJR東海が高値を強要された「被害者」であるかに見られがちだ。しかし、この事件に、伝統的な談合の概念は通用しない。JR東海は民間会社なので、そもそも工事の発注方法に縛られない。ところが、独自の競争見積方式で、高水準な工事技術を求めながらも価格を抑えようとしてきた。しかも、その交渉過程が見えない。

「リニアはやりたくない」

 今後、未発注のリニア工事のコストは上昇カーブを描くのではないか。
「ゼネコン業界全体がバブル期を超える最高益をたたき出している。難工事の割に安価なリニア工事は正直、やりたくないだろう」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券シニアアナリストの水谷敏也)。人手不足もあって、生産能力の限界で工事を回している。今後、現場作業員を中心に賃上げは必須で、そのまま工事価格に跳ね返る。
だが、JR東海は早く工事契約を進めなければならない。リニア談合で国交省や東京都が大手ゼネコン4社を指名停止にしたが、JR東海はそうした処分を下していない。ゼネコンはその足元を見透かしている。
「(発注が)止まったらJR東海が困る? そうでしょうね」(清水建設副社長の東出公一郎)鹿島常務の勝見剛は、一般論としてこう語った。
「官工事は途中でコストが変わっても、その分を払ってくれる。民間の場合は渋るし、カネがないケースもある」
JR東海は名古屋開通の期限に追い立てられている。
昨年、三菱重工がリニアの車両製造から撤退したと報じられた。車両開発をリードしてきた会社に何があったのか。取材すると思いがけない答えが返ってきた。
いや、数年前に撤退しています。なぜ、昨年になって記事が出たのか分かりません」。撤退時期や理由を聞くと、「厳しい守秘義務契約になっていて、こちらからリニアの話は一切できない」と回答を断られた。

 JR東海に聞いた。
 「こちらの予算と懸け離れていた。2~3割というレベルではなくて、もう倍とか、交渉の余地がない数字でした」。JR東海のリニア開発本部長だった特別顧問の白國紀行は、そう破談の経緯を説明する。
 リニアに飛行機技術を持ち込み、時速500kmを実現させた立役者の撤退劇──。
 事情を知る関係者は重い口を開く。
 「先頭車両という困難なところだけを生産させられ、もうかる『どんがら(中間車両)』はやらせてもらえなかった」。先頭車両だけでは量産効果が出せなかったのか。そして残ったリニアL0系の生産実績があるのは、赤字の子会社、日本車輌製造だけになった。
 すべてを闇の中でひた隠しにしながら、リニア計画を推し進めるJR東海。そして、膨張するコストと矛盾は、制御不能な域に達しようとしている。
 だが、狡猾なJR東海は、まさかの時の「カネづる」を確保している。それは、国民を巻き込む巨大な仕掛けだった。


取材班が見たリニアの現場(長野・大鹿村)


リニア実験線


南アルプスのリニア工事現場から車で数分。土曜だが重機の音が響く、崩落事故も(長野・中川村)


リニアの姿は見えないが、一瞬で近づいて去る風切音で通過がわかる 
ここにリニアが(山梨・南アルプス市)

リニア建設に絡み新設されるトンネル。工事で山肌が崩れた予定地が頓挫(長野・松川町)


高架が建つ方向を示す自治会長の井上英麿 広がる残土場(山梨・早川町)


模型上の路線(長野・大鹿村)
「地盤が緩く、トンネルを掘るのは難しい」と話す中央構造線博物館の河本和朗


狭い生活道(長野・中川村) 大型車のすれ違いは困難。不安を漏らす住民もいた


覆われた残土(山梨・早川町) 雨などでの流出を防ぐため、シートが掛けられている


リニアが通る丘(山梨・富士川町) ベンチで弁当を食べる親子。「この景色が見られなくなる」と嘆く

行き交うダンプ(山梨・早川町) 運ばれた土砂で、残土の山はまた大きくなる


畑を所有する内田学。「絶対に売らない」と語気を強める


囲われた残土(長野・大鹿村)

作業用トンネル(長野・大鹿村) 近づくと、あわてて工事関係者がゲートを閉めた

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