日本のダークサイドを表彰する“山口啓之”という人間

日本社会のメタファーとして、伊藤詩織さん事件はさまざまな意味を持っている。
海外メディアが大きく取り上げているのは、この事件が日本のダークサイドを表象しているからだ。
単なる「性的暴行事件」を超えて、この事件の基調にあるもの、山口啓之という人間そのものがあらわしている日本の闇…。見えている「闇」の解明はこれからだ。


熱血!与良政談
詩織さんが問うもの=与良正男
2019年12月25日:毎日新聞

 ジャーナリストの伊藤詩織氏が性的暴行を受けたと、元TBS記者の山口敬之氏を訴えていた損害賠償訴訟で、東京地裁が伊藤氏の主張を認める判決を出した。
 判決は「性犯罪の被害者を取り巻く法的、社会的状況を改善すべく、自らが体験した性的被害を公表する行為は、公共性、公益目的がある」とも認めた。伊藤氏が勇気をふり絞り日本社会に問いかけたからこその判決だったと思う。
 そんな中、ネットを見ていて驚いたのは、そもそもこの訴訟自体を知らなかった人が相当いたらしいということだ。でもそうかもしれない。毎日新聞など一部を除けば判決までマスコミはほとんど報じてこなかったのだから。
 ということは、ネットや右派雑誌で伊藤氏がセカンドレイプと言うべき異様な攻撃を受けてきた事実も知らない人が多いのだろう。
 「彼女にも落ち度があった」「売名行為だ」等々にとどまらない。ネット番組では伊藤氏をあざけり笑うようなものまであった。
 伊藤氏を攻撃したのは、自民党の杉田水脈衆院議員をはじめ、安倍晋三首相の応援団を自任する人々が大半だった点も指摘しておくべきだろう。これも首相の責任だと言うつもりはないが、こうした時代錯誤の言説が第2次安倍政権以降、大手を振って表舞台に登場してきたのは確かである。
 さて、これは世間にどれだけ知られているだろうか。私は山口氏と接点はなかったが、安倍首相に若い頃から食い込んでいた記者だったことは以前から知っている。
 振り返れば一昨年、「週刊新潮」がこの問題を初めて報じた際、疑惑の核心だったのが、なぜ準強姦(ごうかん)容疑で捜査していた所轄警察署の方針が土壇場で覆り、山口氏は逮捕されなかったのかだった。そこには山口氏が親しい首相官邸側の意向があったのか。あるいは警視庁幹部が忖度(そんたく)したのか――。
 山口氏は「誰にも何もお願いしていない」と話す一方、週刊新潮報道後、国会で山口氏との関係を聞かれた首相は、単なる取材者の一人だと説明し、(非情にも?)親密ではないことを強調して、早々に予防線を張っている。
 現時点で判断できる材料は私には乏しいが、これまた「不公正な政治」につながる重大な問題だ。決着をつけないといけない。この年末、また一つ、忘れてならない宿題が残った。(専門編集委員)


詩織さん勝訴 「黒箱」の中が見えない
2019年12月24日:東京新聞

 性暴力被害を訴えたジャーナリストの伊藤詩織さんが民事訴訟で勝訴した。「#MeToo(ミートゥー)」の声が高まる契機にもなった事件だが、ブラックボックスの中はまだ見えない状況だ。
 勝訴の報は海外メディアでも大きく取り上げられた。米国のワシントン・ポストは「日本人女性の権利の勝利」と。CNNテレビも、英国のBBC放送なども一斉に報道した。台湾などでも同じだ。伊藤さんの著書「Black Box」は、中国では「黒箱」と題し出版、注目されている。
 海外メディアの主張はどれも正当なものだ。例えば日本では性暴力に遭っても警察に相談するケースは少ないとか、刑事罰を科す困難さを挙げて、日本の性犯罪に対する後進性を説いたりした。何より首相と親しい山口敬之(のりゆき)元TBS記者を訴えた裁判だったことに焦点を当てたりした。
 内閣府が昨年まとめた調査では、女性の十三人に一人は無理やりに性交をされた経験があった。だが、被害を受けた女性の約六割はどこにも相談していなかった事実も浮かんだ。伊藤さんが記者会見で「誰もが被害者になるリスクがある。声を上げられない人もいる。傍観者にならないことが大事」と語ったのも、そんな背景があるからだ。
 確かに性犯罪の現場は密室が多く、立証は困難だ。それでも判決は、性行為に合意がなかったことを認めた。飲食店からタクシー、さらにホテルでの原告と被告の状況を時系列で詳細に検討し、導いた事実認定である。ひどい酩酊(めいてい)状態だったのだ。
 刑事事件の準強姦(ごうかん)罪(現在は準強制性交罪)などでは暴行や脅迫などで抵抗が著しく困難な状態にあったことが要件となる。だが、今回の民事裁判での事実認定ならば、刑事上、なぜ東京地検は不起訴としたのか疑問視する専門家の意見もあった。
 「Black Box」には山口氏に逮捕状が発行されながら、警察上層部の判断で逮捕が取りやめになったと記されている。これこそ明らかにされねばならない最重要の問題ではないか。日本の刑事司法がこの事件を闇に葬ったことと同じだからだ。
 不正義に国家権力が絡んでいたら、もはや法治国家と呼べない。山口氏は「法に触れる行為は一切していない」と主張するが、真相は解明されねばならない。「黒箱」の中を開けるように…。


伊藤詩織さん勝訴<>性暴力問題 海外メディア指摘
日本の「後進性」あらわ
米紙「男性優位」 台湾紙「安倍御用記者」
2019年12月20日:東京新聞・こちら特報部

 性暴力の被害を訴えたジャーナリスト伊藤詩織さん(30)が民事訴訟で勝訴し、ニュースは世界に発信された。多くの海外メディアが日本の法制度や警察、検察の問題点を指摘。中には、被告側の元TBS記者山口敬之氏(53)と、安倍晋三首相の関係を取り沙汰する記事もあった。浮き彫りになった日本社会の問題点。伊藤さんの訴訟をきっかけに変わっていくのか。         (石井紀代美、佐藤直子)

厳しい質問が 山口氏に次々

 「安倍晋三首相らとこの問題について話し合ったことはこれまで一度もないのか」「あなたに逮捕状が執行されなかったのは、菅義偉官房長官に頼んだからではないのか」
 19日午後、東京都千代田区の日本外国特派員協会で、外国人記者の厳しい質問が壇上の山口氏に浴びせられた。山口氏は表情を崩さずに、「NO」を連発して否定した。
 山口氏は白いワイシャツ、薄いベージュのジャケット。ネクタイはしていなかった。広めの会議室の部屋には約130人の記者が集まった。政権に近いとされる山口氏を巡るトラブルだけに、海外メディアの関心の高さをうかがわせた。
 司会者が質問を促すと一斉に手が上がり、山口氏はメモを取ったり、腕組みをしたりしながら聞いた。答えようと、目線を上げると、シャッター音が一斉に鳴り、フラッシュがたかれた。緊張していたのか、山口氏は水の入った卓上のグラスに何度も手を伸ばした。
 伊藤さんと山口氏の問題は2015年4月に起きた。伊藤さんは就職先を紹介してもらおうとしていた時に「性的暴行を受けた」と訴えた。山口氏は暴行だったことを否定した。
 両者の主張が対立する中、警察、検察は立件を見送った。しかし、18日に言い渡された東京地裁の民事訴訟の判決は、伊藤さんに軍配を上げ、海外メディアも一斉に報じた。目立ったのは、性犯罪に対する日本の「後進性」を厳しく指摘する記事だ。
 米誌「ワシントン・ポスト」は「日本の時代遅れのレイプ法」「男性優位の保守派に運営される国」とし、この判決について「日本人女性の権利の勝利」と報じた。さらに日本のマスコミの問題も指摘。17年、伊藤さんが記者会見で被害を公表した際、「男性優位で体制寄りの日本のメディア」は、地検が不起訴にしたことを理由に伊藤さんを擁護しなかったと批判した。
 台湾の有力紙「自由時報」では見出しに「安倍御用記者」の文字が躍った。本文では、安倍晋三首相と昵懇な山口氏に、日本の「#MeToo運動」の代表的な人物の伊藤さんが勝訴したと記されていた。
 米CNNテレビは内閣府の調査を元に日本の性的暴行の報告率が低いことを指摘。日本人女性の13人に1人がレイプ被害を受けているのに、ごくわずかしか警察に相談せず、その背景には伝統的な「沈黙の文化」があると解説した。
 英BBC放送は、山口氏が刑事訴追されなかったことに触れつつ、日本の法律では検察が暴力や脅迫があったかどうかや、被害者が抵抗できない状況にあったかを証明しなければならないことに言及。刑事罰を科す難しさを強調していた。

国内の専門家疑念
「性被害に冷たい刑事司法」
不起訴は「国策のにおいも」
現場再現前近代的手法なお
「この判決で終わりではない」

訴訟では、伊藤さんが性行為に同意していたかどうかが争点になった。判決は「被告が酩酊状態にあり、意識のない原告に対して同意のないまま本件行為に及んだ。(同意があったとする山口氏の主張は)信用性に疑念がある」と。「同意なし」をはっきり認めた。
 判決から新たな疑問がわく。性暴力の問題に詳しい中野麻美弁護士は「伊藤さんが酩酊状態で意に反して加害に及ばれたことが明白なら、なぜ、この事件は準強姦事件として起訴されなかったのか、起訴すべきだった」と語る。
 裁判には大きく分けて民事と刑事があり、伊藤さんが勝ったのは民事訴訟だ。中野氏が指摘するのは刑事裁判。警察、検察が捜査し、検察が起訴することで法廷が開かれる。罪を立証するのは検察で、裁判所が罪の有無を判断する。中野氏は、この刑事で責任が問われなかったことに疑問を示したのだ。
 伊藤さんも刑事処分を求めていた。しかし、検察は「犯罪の疑いが十分でない」と起訴せず、検察の処分が妥当かどうか検討する検察審査会も「起訴しないことが相当」と退けた。同じ司法で、なぜ判断が食い違うのか。中野氏は「一般的に性被害を巡る日本の刑事司法は冷たい。立件に高い壁がある」と指摘する。
 理由は刑法の規定にある。17年の改正で罪名を変えた強制性交罪(旧強姦罪)、準強制性交罪は「同意なし」だけでは成立しない。被害者が抵抗できないほどの「暴行・脅迫」か、抵抗できない状態(抗拒不能)におかれていたなどの条件が必要だ。
 「検察官は被害者がウソをついていないか、証言は裁判に耐えられるのか厳しく見定める」(中野氏)そのために、心の傷をえぐるような話を何度も被害者にさせる。人形を使って事件を再現することもある。それで疑問が残れば起訴は見送られる。
 一方、民事は当事者同士の争い。相手よりきちんと主張できれば勝てる。だが、伊藤さんの事件は、こんな一般論だけで説明できないと感じている人がいる。
 「捜査関係者から、僕たちは逮捕したかったが、止められたと聞かされたことがある」。伊藤さんは勝訴後の記者会見でこう語った。自著「BlackBox 」では山口氏に逮捕状が発行されながら、警察上層部の判断で逮捕が取りやめになったことを記した。
 こんな経緯から政権に近い山口氏の立件に、圧力がかかったのではというのだ。真偽は分からない。中野氏は「伊藤さんの事件には“国策”のにおいもするが、刑事司法の当局に性犯罪は闇に葬れるんだと甘く見る向きがある。正義感が足りない」と言葉を選びつつ憤る。
 伊藤さんを支援するNPO「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長の伊藤和子弁護士は「伊藤さんの民事訴訟は多くの性被害者が苦しめられてきた問題をあらわにした。今回の判決が評価されるのは性被害者が理解されることの難しさの表れでもある」と述べる。
 被害者らは判決をどう見るか。7年前に勤務先の上司からレイプされ、民事訴訟で勝訴した元教師の大田恵子さん(32)は「記者会見を開いたり、手記を出したり、メディアの取材を受けたり発信を続けた。伊藤さんにはお疲れさまでしたと言いたい。伊藤さんは『この判決で終わりではない』と語っている。その通りだ。私も転職を失い、平穏に暮らせなくなった。それなのに性被害への賠償額が低すぎる」と話した。
 性被害者と支援者の団体「スプリング」の山本潤代代表は「判決は希望になる。伊藤さんの告発に裁判所は公益性があると認めた。それは性犯罪の被害者にとってこの社会に居場所があるということを意味する」と語り、涙ぐんだ。

デスクメモ
 就職先を探しているとき、多くの若者は「内定をもらえるだろうか」と不安になる。何度も今後の検討を「お祈り」されると自分が否定されているように感じる。その不安定な心に付け込む採用側の人間が、どうやら少なからずいる。同意なしは論外。同意があったとしても許されない。   (裕)



フランス人記者が見た
伊藤詩織さん勝訴とこれからの戦い
2019年12月23日:ニューズウィーク
今月18日の判決後に支援者らに挨拶する伊藤詩織さん Tomohiro Sawada-Newsweek Japan

<ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんに性的暴行を受けたと訴えた民事裁判で勝訴。でも、フランス人女性記者から見れば「半勝利」だ>

ここ数年、フランスのラジオのニュース番組を聞いていると、必ず出てくるのが性犯罪事件の話だ。女性の立場が高いと思われるフランスでも、女性へのセクハラ、DV(ドメスティック・バイオレンス)、レイプの問題はまだ深刻だ。交際相手か夫に殺された女性は、なんと年間で130人に上る。ただ最近、#Metoo と他の運動のおかげで女性の声が大きくなった。彼女たちを中心とした活動のおかげで法律の面でもいろいろと変わり、明らかに状況は改善しつつある。
女性の声が大きくなったことがポイントだ。女性の声が大きくなったから、一部の男性も「俺の姿勢は大丈夫か」「女性はこんなに心的外傷(トラウマ)を受けるのか」と、自分の態度や言葉を反省するようになってきた。
では、日本はどうか。「いつか日本人女性の声が大きくなるか」と聞かれたら、たぶん最近までは、「ならない」と答えてしまっていた。泣き寝入りし、他人に迷惑をかけないように行動する女性が少なくないだろう。大きい声で「もうたくさんだ!」と声を上げる日本人女性はあまりいないだろう。ただ、これから変わるという期待が一段高くなったと思う。なぜなら、ある事例があったからだ。
ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性行為を強要されたとして損害賠償を求めた民事裁判で12月18日、東京地方裁判所は山口さんに330万円の賠償を命じる判決を言い渡した。正直に言えば、判決が出る前、私は伊藤さんが勝つことはあまり期待していなかった。中途半端な判決になるのではないかと恐れていた。
だから、東京地裁の前で突然、男性が「勝訴」と書いてある手持幡(てもちばた)を広げた際は戸惑った。山口さんも伊藤さんを訴えていたために、判決は同時に言い渡された。私は、山口さんの勝訴かもしれないと思い、慎重になった。でも5分後、伊藤さん本人が裁判所から出てきて、マスコミに自分たちが勝ったと報告したので、驚いたというか、ある程度ほっとした。
私は通信社の記者として、フランスのマスコミ向けに記事を書く。伊藤さんのことは以前にも書いた。1年半前に東京都内で伊藤さんに会い、コーヒーを飲みながら、彼女の話を3時間聞いた。彼女が執筆した『Black Box』も発売直後に読んだ。今年フランス語版も出たので、また読み直してみた。説明が足りない部分や通じないところがあるとは思ったが、伊藤さんは強い人だと確信した。また、今回の事件についてとてもショックを受けたのは、伊藤さんに対する一部の男性や女性からの批判だ。とてもひどかったし、全く許されないことだと思う。
今回の伊藤さんの勝訴は、もちろんトラウマや中傷を受けた彼女にとっては非常に重要なものであることは間違いない。ただ、100%満足出来る判決ではないと思う。「半勝利」だ。なぜなら、まだ解決されていない問題が多過ぎるからだ。
判決が出た直後、記事を書きながら、次々と疑問がわいてきた。例えば、なぜ突然、山口さんに対する逮捕状の取り消しがあったのか。警察の捜査中に何が起こったのか。
それに判決文には、こう書いてある――「原告は、将来は職務上の上司となる可能性のあった被告から、強度の酩酊状態にあり意識を失った状態で、避妊具を着けることなく性交渉をされたこと、意識を回復し拒絶した後も、被告に体を押さえ付けられて強引に性交渉を継続されそうになり、その際、ベッドに顔面が押し付けられる形となって呼吸が困難になるなどとして恐怖を感じたこと、これにより、原告が、現在まで、時折、フラッシュバックやパニックが生じる状態が継続していることが認められる」
民事裁判で「合意のない性行為」だったと認めているにもかかわらず、刑事事件で犯罪とされなかったのはなぜか。フランスなら、「合意のない性行為」をレイプと呼ぶ。レイプなら性犯罪であり、民事ではなく刑事事件として扱われる。まあ、フランスもレイプされた女性の扱いが良いと言えないけれど、日本よりはましだと思う。今の日本の法律は、極めてひどい暴力を伴った性行為でない限り、性犯罪として扱わない。だから、山口さんは本気で「法に触れる行為は一切していない」と強調したと思う。おそらく、本人にとってレイプというのは、もっともっと体に目立った傷がいっぱい残る暴力的な性行為なのだろう。
ここで分かるのは、国によって性犯罪の定義が違うことだ。日本での強姦または準強姦は、被害者がそれを立証するにはハードルが非常に高い。高過ぎるから女性が訴えたとしても、容疑者が起訴される可能性が低い。だから、これからも、合意しないまま性行為をされた多くの女性が告訴しないだろう。たとえ、これからたくさんの女性が伊藤さんと同様に民事裁判で数百万円の賠償を得たとしても、受けたトラウマや中傷が和らぐとは思わない。だから、半勝利だと思う。
これからの戦いは、やはり法律を変えることだ。性犯罪の定義を変えることだ。同時に、性犯罪を受けた女性と男性の話をきちんと聞いて、理解出来る警察官や医者を育成すること。将来的には、国際的に性犯罪の共有定義を定めることが望ましい。



(社説)
伊藤氏の勝訴 社会の病理も問われた
2019年12月20日:朝日新聞

 ジャーナリストの伊藤詩織氏が元TBS記者山口敬之氏を訴えた裁判で、東京地裁は「酒を飲んで意識を失った伊藤氏に対し、合意のないまま性行為に及んだ」と認め、330万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
 山口氏は準強姦(ごうかん)容疑(当時)で告訴されたが、嫌疑不十分で不起訴となった。刑事事件では検察側に厳格な立証が求められるが、民事裁判では両者の言い分のどちらがより確からしいかが判断される。地裁は、合意があったとする山口氏の主張を、「重要部分が不合理に移り変わり、客観的な事情に合致しない点も複数ある」と退けた。
 山口氏は控訴を表明したが、判決後の記者会見で見過ごせない発言があった。自らが話を聞いたとする「本当の(性犯罪)被害者は会見で笑ったりしない」という女性の声を紹介し、身の潔白を訴えたのだ。
 苦しみを抱え込み、下を向いて生きていくのが被害者の正しい姿だ、と言うに等しい。こうしたゆがんだ認識が、過酷な傷を負いながらも生きていこうとする人々を、追い詰めてきたのではないか。
 勇気をふるって告発すると、「あなたにも落ち度があった」などと責められ、二重三重に傷つく。性暴力を受けた人は、その体験に加え、声を上げることの難しさにも苦しんできた。
 その呪縛を断ち切り、被害をなくしていこうという動きが、世界各地で広がる。代表が「#MeToo」運動だ。国内ではことし、性犯罪をめぐる無罪判決が相次いだことへの批判をきっかけに、泣き寝入りせず性暴力に抗議する「フラワーデモ」が始まり、いまも全国に波及し続けている。伊藤氏が氏名と顔を明らかにして行動したことが、多くの被害者の背中を押したのは間違いない。
 この間(かん)、伊藤氏にはネット上などで異常な攻撃が加えられた。政権寄りの論者らが、安倍首相を取材した著作のある山口氏の応援にまわり、右派系雑誌には、伊藤氏の人格をおとしめる記事が掲載された。
 これに対し判決は、「伊藤氏は性犯罪の被害者を取り巻く法的・社会的状況の改善につながると考え、自身の体験を明らかにした」と述べ、その行動には公益を図る目的があったと認めた。名誉毀損(きそん)だという山口氏の主張は退けられた。
 曲折を経ながらも性犯罪に向けられる目は厳しさを増している。罰則を強化する改正刑法がおととし成立し、さらなる見直しの議論が進む。相談・支援態勢も強化されてきている。この歩みをより確かなものにし、被害者の尊厳を守る。私たちの社会が背負う重要な課題である。



伊藤詩織さんに対する発言に、
杉田水脈議員「私の表現の拙さ」
伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから
性行為を強要されたとして訴えた裁判で、東京地裁は
山口さんに330万円の支払いを命じた。
「セカンドレイプでは」と問題視されている
杉田水脈議員の過去の発言について聞いた。
2019年12月20日:ハフィントンポスト
衆院議員の杉田水脈氏

ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性行為を強要されたとして損害賠償を求めた民事裁判で、東京地裁が12月18日、山口さんに330万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
ハフポスト日本版は12月20日、インタビュー取材を衆議院議員の杉田水脈氏に対して行った。
インタビューは「表現の自由」について聞くため、事前に申し込まれていたものだったが、前日には伊藤詩織さんが記者会見で、高裁でも勝訴した場合「セカンドレイプに当たるような中傷には法的措置を取る」と発言した。
前日の伊藤さんの発言を受けてハフポストも、この判決に関連した部分についても尋ねた。
山口さんを支援していた人々の中には、判決を受けて、山口さんを「擁護するのは難しい」「当面、(共演したことがある)番組出演は自粛する」とした人もいたが、杉田議員はインタビュー時点でまだ過去の発言について言及していなかった。
ハフポスト日本版の取材に対して、杉田議員は過去の発言について「彼女を貶める意図は全くなかった」と説明したが、謝罪などの意思表明はなかった。
(※「表現の自由」に関するインタビュー全編は、ハフポスト日本版で後日公開予定。)
ーー伊藤詩織さんに関するBBCの番組で、伊藤さんが「男性の前で記憶がなくなるまでお酒を飲んだ」ことが「女として落ち度がある」などと発言されていました。東京地裁での判決で、山口敬之さんの不法行為が認定された今、過去の杉田さんの発言について「セカンドレイプに当たるのでは」と問題視する声が上がっています。
まず前提として、当事者間での民事裁判であり、地裁での判決ということでもありますので(今後高裁などで裁判が続く見込みのため)、裁判そのものに関しては当事者でもない私が、お話しできる立場にはありません。また、今後も本件についてコメントをする予定はありません。
ただ、関連する私の過去の発言に関しての真意を問いたいということであれば、あの時の発言は(検察審査会で不起訴相当になったという)刑事事件としての手続きが終わった時期ということが判断材料になっていました。その刑事事件の手続きの中で認められたことを根拠に、発言をしました。今もし同じ質問をされたら、あのような話はしなかったと思います。
ーー裁判や捜査の結果にかかわらず、人を貶めるような発言は問題があるのでは。
私は、彼女を貶めるつもりは決してありませんでした。性暴力に関しても断じて許されないことであると思っています。
繰り返しになりますが、BBCでの発言は、刑事事件として検察審査会で不起訴相当になったという事実を前提として、一般論として、女性の男性との同室や飲酒に関する自己防衛の在り方について考えを述べたと記憶しています。
ーーセクハラや性暴力でもっとも悪いのは加害者側ではないでしょうか。「被害者側が自己防衛しなくてはいけない」とすれば、加害者の責任がなくなり、被害者に責任が押しつけられることになります。国会議員として取材で発言されてたということは、伊藤さんや一般の女性に対する強い抑圧になるのでは。
私の表現の拙さゆえに、結果的にそう受け止められる発言をしたことは事実ですので、真摯に受け止めています。
ただ、3時間近くのインタビューのなかで、文脈や時系列が入り交じり、問いに対する回答のみがあのような形で短く編集されてしまい、真意が伝わらなかったということは知って欲しいと思います。
ーーBBCで取り上げられたネット番組でも伊藤さんを揶揄して描いたことが推測できるようなイラストに対して、賛同しているかのように笑っている姿も放送されていました。
私が笑っていたのは、実はイラストの内容に対する賛同や揶揄ではないんです。その間に別の話が挟まっていたと記憶しています。しかし、BBCの番組では、そういう風に見えるような編集になってしまった。
この件が理由ではありませんが、真意が伝わらないメディア出演について、現在は控えるようにしています。
(※ネット番組の動画は現在見ることができない状態になっており、詳細な確認ができていない。)



セカンドレイプ賠償請求にビビる?
“アベ応援団”突然の沈黙
2019年12月21日:日刊ゲンダイ

 法的措置に戦々恐々なのか。ジャーナリストの伊藤詩織さん(30)が元TBS記者山口敬之氏(53)からのレイプ被害を東京地裁に訴えた損害賠償訴訟は詩織さん側の全面勝利。すると、山口氏を全面擁護し、詩織さん叩きに躍起になっていた連中が突然ダンマリを決め込み始めた。おやおや――。

 詩織さんは勝訴した翌日、外国特派員協会で会見。これまで受けてきた誹謗中傷やセカンドレイプに対して、「法的措置を考えている」と明言した。途端におとなしくなったのが、山口氏の主張を正当化してきた安倍首相のオトモダチの面々だ。メディアやネット上で山口氏を擁護してきたのに鳴りを潜め、判決以降は沈黙している。

 詩織さんを口撃してきた政治家の筆頭が、自民党の杉田水脈衆院議員(52)だ。「LGBTは生産性がない」との主張の論文を「新潮45」に寄稿して事実上の廃刊に追い込んだあの議員。落選中に政界出戻りのきっかけをつくったのは安倍首相で、杉田氏は安倍首相の子飼いのひとりでもある。

 杉田氏は、詩織さんと山口氏が民事訴訟で争っていた昨年6月、自身のツイッターに事件について〈被害者に全く落ち度がない強姦事件と同列に並べられていることに女性として怒りを感じます〉と投稿。この投稿はすでに削除されているが、判決後に再びネット上に拡散され、大炎上中だ。英BBCが制作した詩織さん事件に関するドキュメンタリーの中で「彼女の場合は明らかに、女としても落ち度がありますよね」とも発言。保守系のネット番組でも、同僚の長尾敬衆院議員(57)と共演し、「ああいう人(詩織さん)がいるおかげで、本当にひどいレイプ被害に遭っている人たちのことが、おろそかになってしまうんじゃないか」と言い放っていた。

■「係争中の案件にコメントしない」と居直り

 詩織さんをおとしめていたにもかかわらず、判決については沈黙したまま。これまでの発言や判決への見解を事務所に問い合わせると、「民事で係争中の案件なので、第三者である杉田氏がコメントする予定はありません」と木で鼻をくくったような回答。詩織さんを一方的に批判しながら、都合が悪くなると頬かむりだ。

 セカンドレイプに加担した問題人物は、杉田氏だけではない。日本維新の会の足立康史衆院議員(54)や自民党の和田政宗参院議員(45)は17年10月、ネット配信番組で山口氏と共演。詩織さん事件の刑事裁判をめぐり、1カ月前に検察審査会が「不起訴相当」と議決したのを受けた山口氏の「おめでとう会」も兼ねた番組で盛大に乾杯し、大騒ぎ。「(事件を)知らない方がいたらネットなどで検索しないで」との山口氏の冗談に、2人ともニヤニヤしていたのだから呆れてしまう。

 足立氏は判決後、自身のツイッターに〈本判決を踏まえ、当面、同番組への出演は自粛することといたします〉などと投稿していたが、自粛の理由を事務所に尋ねても期日までに連絡ナシ。和田氏の事務所からも返答はなかった。

 形勢不利と見るや、知らぬ存ぜぬ。安倍首相の取り巻きにはホント、ロクな連中がいない。



(社説)男女の格差 不平等を拒む一歩を
2019年12月24日:朝日新聞

 政治での女性の存在感が着実に膨らんでいる。それが世界の流れだが、悲しい現実も知っておきたい。日本がずっと取り残されていることだ。
 著名な指導者らを招く会議の主催者として知られる世界経済フォーラムが、男女格差の報告書を毎年出している。最新版で日本は153カ国のうち、過去最低の121位だった。
 政治や経済、教育、健康のデータを総合したもので、国別の指数をみると、この1年で108もの国で格差が改善したが、日本は逆に悪化した。
 世界的な改善傾向について同団体は「女性の政治参画が著しく進んだ」と分析している。議会の議席や選挙での候補者の一定数を女性に割り当てる、クオータ制を導入した国は、今では120カ国を超す。
 今年は、欧州委員長や欧州中央銀行で初めて女性のトップが誕生した。北欧などでは女性の政治参加と管理職の比率が一緒に増える傾向があるという。
 労働市場にも波及すれば、男女の賃金格差を縮める効果も期待できる。政治分野を突破口にして企業などの幹部も増やそうと、世界は新たな目標を見据えているようだ。
 そんななかで、日本の「変わらなさ」は突出してみえる。
 とくに政治分野がひどい。衆院の女性議員は現在1割ほど。格差報告書で日本が悪化した主因は閣僚数の少なさで、今年1月時点では19人中1人だけ。経済でも女性管理職は世界水準をはるかに下回る。
 国会では昨年、選挙での候補者数をできる限り男女均等にするようめざす法律ができた。だが、今年の参院選で自民党が立てた女性候補は15%だった。安倍政権が掲げる「女性が輝く社会」の看板が空々しく響く。
 努力義務の法律だから守られないのならば、罰則を検討すべきだろう。多数の国がすでに先行しているクオータ制について、なぜ日本が導入しないのか、国際社会にも通じる理屈で説明できるだろうか。
 日本でも、平等を求めて行動する人は増えている。選挙での女性の立候補を促すために、学識者たちが政治家育成セミナーなども開いている。そうした試みはもっと支援されるべきだ。
 無関心やあきらめを脱するためにできることもある。候補者均等法を守らぬ政党には投票しない。女性を差別する企業や団体には「ノー」を示す。そんな行動が積み重なれば変化が生まれるのではないか。
 女性が軽んじられる社会は、弱者や少数派も差別する。誰もが暮らしやすい多様な社会をめざすためにも、不平等を受け入れない一歩を踏み出したい。

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