奇妙な「量子論」で、視野が広がる

グーグルが、ノイマン型コンピュータを超える、量子コンピュータの超越性を証明したと発表した。いくつかのメディアでも報じられたが、ボクにとっても驚きの量子コンピュータの誕生だ。東京新聞に開設があったので紹介したい。ボクは、30年程前から「量子力学」に興味があり、ブルーバックスレベルでお勉強をした。理論を理論的に理解できているわけではないが、ポイントは「かさねあわせ」「遠隔操作」「不確定性原理」「コーヒーレント・デコヒーレント」などがキーワードになる。ノイマン型のコンピュータと量子コンピュータとの違いは、前者がデジタル、後者はアナログとでもいうイメージか。
未だ、ハードがあっても、このコンピュータを動かすソフトがないという状態だ。しかし、ライト兄弟の初飛行から数十年後には飛行機は実用化され、旅客機が飛んだ。
量子コンピュータは生まれたばかりだが、20年もすれば、身近なものとなる…、と思う。


異次元の速さ 同時計算 ①非常識
2019年12月2日:東京新聞・未来を探る・量子コンピュータって何者

 10月、米グーグルの発表に世界が驚いた。スーパーコンピュータでも10000年かかる膨大な計算を、わずか3分ほどで終えるコンピュータをつくったという。この計算機は「量子コンピュータ」と呼ばれ、世界のIT企業が競って研究を進める。世の中が大きく変わるかもしれないという。どんな計算機なのか。
(永井理、三輪喜入)

 異次元の速さだ。グーグルの量子コンピュータは、最先端のスパコンで10000年かかる計算を200秒でこなしたという。「スパコンの延長上にあるのではなく、まったく別の計算機」。量子コンピュータ研究に20年以上かかわってきた細谷暁夫・東京工業大名誉教授は話す。
■違い
 量子コンピュータは、聖徳太子に似ている。伝説では10人の訴えを同時に聞いてすべてに答えたとされる。この計算機も同じだ。
 例えば数式に1から8まで8つの値を入れたとき、答えが、一番大きくなるのはどれか知りたいとしよう。
 普通のコンピュータは、1から8までの数を順に入れて一つづつ処理するしかない。つまり計算を8回する。スパコンは、計算を繰り返す速度を極限まで高めた装置だ。
 ところが量子コンピュータは違う。8つの計算を一度にすませてしまう。1から8までの数字を同時に受け入れて、同時に計算を進める。スパコンが計算を何度も繰り返す間に、一発で片付けるのだ。
■ミクロ
 聖徳太子でもないのに、なぜそんなことができるのか?専門家も「説明が一番難しい」と口をそろえる部分だ。
 普通の計算機は「ビット」というスイッチを順々に入れたり切ったりして計算を進める。そろばんの玉を順に上下させるようなものだ。このときスイッチの状態は「入」か「切」のどちらかしかない。
 ところが、量子コンピュータは「量子ビット」という妙なスイッチを使う。量子力学というミクロの世界の法則に従うので常識は通じない。「入」でもあり「切」でもある「重ね合わせ」という状態にできる。入と切どちらの可能性も持ったまま働くので、1から8まで、全ての場合が「重ね合わさった」まま計算が進めらられる。だから聖徳太子のように一度に多数の計算をできるのだ。
■探索
 量子ビットを1個増やすごとに、新たに「入」と「切」の二通りが加わるので、計算できる量は2倍に増える。10個で1000通り、50個で1120兆通り以上の計算が同時にできる計算だ。今のICの中には何億個ものスイッチが入っているのに比べ、わずかな数ですごい計算ができる。
 ただ8つの場合を同時に計算すると、8通りの答えが候補として出る。もし手当たり次第に一つ選べば正解の可能性は1/8.計算が早くても役立たない。高い確率でどう正解を取り出すかが量子コンピュータの研究課題でもある。聖徳太子にうまい情報を与えて、多くの訴えから、重要な課題を選び出せるようにするようなものだ。うまいプログラム法を探せば膨大な計算を進め、必要な答えを探す強力な計算機となる。

とにかくスパコン超え ②歴史的勝利
2019年12月16日:東京新聞・量子コンピュータって何者?

 スパコンで10000年かかるとい計算を、量子コンピュータを使い200秒で終えた―。米グーグルが10月に発表した論文に世界が衝撃を受けた。とてつもない計算能力でネットの暗号が解読されるのではないかとの懸念から一時は仮想通貨が下落した。量子コンピュータは本当にスパコンを超えたのか。グーグルの論文を審査した藤井啓佑・大阪大教授(36)に聞いた。              (永井理)

 -この成果をどうとらえますか。本当にスパコンを超えたのでしょうか。
 大きな成果。だがビットコイン暴落は過剰反応です。量子コンピュータはまだ、因数分解や暗号解読のような役立つ問題を素早く解く段階にはありません。できるのは、まだ限られた計算だけ。
 -では、どんな計算をして性能を比べたのですか?
 サイコロを振るように無作為に数をはじき出す「ランダム量子回路サンプリング」という量子コンピュータの得意な計算があります。ランダム数が出るだけで、意味のある計算ではありません。スパコンにこの計算を真似させて、速さを比べたのです。
 -量子コンピュータの得意な計算をスパコンが真似たのですか?スパコンは不利ですね。そんな状況で勝って意味があるのですか?
 まず有利な状況でスパコンに勝つ。それができなければ役立つ問題でスパコンを超えることもあり得ません。グーグルはライト兄弟の初飛行に例えています。飛んだのは12秒で、役に立つ乗り物とは思えなかった。だが、振り返れば飛行機の可能性を示す歴史的な出来事だった。今回も、なんの役に立つか分からない計算ですが、歴史的な出来事といえるでしょう。
 -素朴な疑問ですが、量子コンピュータの計算は正しいのですか。スパコンで計算したら10000年かかりますよね。
 かかりますね。
 -検算できないじゃないですか。
 量子コンピュータの能力をわざと落として検算したのです。回路を半分だけ使ったり計算を省略して簡単にしたりすると能力が大きく落ち、スパコンでも数時間で検算できるようになります。その結果から、回路全体を使って全速で計算した場合も正しい答えが出ると結論されました。直接には検算していません。
 -量子コンピュータ開発をグーグルと競う米IBMが「スパコンで10000年かかるというのは間違い、2日半でできる」と反論しています。どちらが正しいのですか。
 どっちもです。IBMは、ハードディスクのような記憶装置を使えば2日半で計算できると言う。それは正しい。でも、あと少し量子コンピュータの能力が上がると、記憶装置が追いつかずIBMの方法は使えなくなる。だからグーグルは記憶装置を使わない方法で比べたのでしょう。
 -グーグル、IBM、マイクロソフト―。米国の独壇場に見えます。割り込む場所はありますか。
 量子コンピュータが役立つ計算機になるにはあと20年ほどかかる。まだスタートラインに立ったばかりですよ。日本でもいろいろプロジェクトが動き、若手の研究者が出てきた。新しいソフトや回路の設計手法も必要で、存在感を示すチャンスは大いにあります。どんどん先を見ていかないと駄目です。



うっかりすると大恐慌 ③暗号解読
2019年12月23日:東京新聞・量子コンピュータって何者?

 圧倒的な計算速度を誇る量子コンピュータ。性能が上がると、ネットで使われている暗号をたちまち破ってしまうという。対策はあるのか。暗号解読コンテストの世界記録を持つ暗号学者の高木剛・東京大教授に聞いた。                                 (三輪喜人)

 -量子コンピュータがスパコンを超えたと米グーグルが発表しました。
 量子コンピュータが得意な計算で勝ったという大きな成果です。この得意な計算の一つに暗号解読があるのですが、現時点ではまだ暗号を破る能力はありません。
 -安心しました。性能が上がったらどうなりますか。
 あり得ない話ですが、ある日とつぜん政府が「量子コンピュータに暗号が破られました」と発表したら、株価は大暴落して一気に大恐慌が起こるでしょう。
 -ええっ!
 デジタルデータの信頼が全て失われるからです。ネットショッピングでクレジットカードを使えるのは、通信内容が暗号化されて保証されているからです。もし暗号が破られると、パスワードが丸見えになり、偽造やなりすましが簡単にできます。メールやラインも誰から送られてきたかわからない。ネットバンキングもビットコインも信頼できない。不信が広がります。
 -今もパスワードが盗まれたりしてますよね。
 それは別な問題なんです。量子コンピュータができると、パスワードを含めて何から何まで読まれてしまうかもしれない。ネットの根幹にかかわる話です。
 -これまで安全だったのに。
 インターネット上の通信ではRSAという暗号が広く使われています。解読するのには、暗号のカギとなる大きな数を因数分解することが必要になります。巨大な数になるほど因数分解が難しく時間がかかる。今は617桁の数字を使っていて、最速スパコンでも1000万年以上かかり、事実上解読できません。
 しかし、量子コンピュータなら「ショアのプログラム」という巧妙な方法を使うことで、素早く因数分解ができると1994年に分かりました。当時は、実現する量子コンピュータがなかった。アプリはあるのに、スマホが遅くて動かないような状態だったのです。ところが量子コンピュータの開発が急激に進み、いよいよ心配するところまで来たのです。
 -まずいですね。
 そのため、量子コンピュータでも敗れない暗号方式が2016年から検討されています。米国が旗振り役で、世界の研究者からアイデアを募り、優れた方式を選定しているところです。今は審査の二段階で「格子暗号」や「多項式暗号」などという方式が候補として残っています。格子暗号は、空間中の最短距離を求める数学の問題を応用しており、解くのに時間がかかることが数学的に証明されています。
 ―いつごろまでに決まるのですか。
 23年ごろに、用途に合わせて複数の方式が採用され、31年から新しい暗号が使えるようになります。候補として残った方式は、暗号学者たちがいろんな方法で解読を試みて、欠点がないか調べています。

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